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第三章 離れる時間
第二十五話 ギルドの混乱(とあるギルド員視点)
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その日も、普段と全く代わり映えのしない朝だった。
無精髭を生やして、生活のためにギルドへと足を運ぶ。依頼書は先着順でなくなっていくため、基本的には朝、依頼の確認をしに行くのが冒険者としての鉄則というものだ。
ギギギッと音を立てるがたついた扉をどうにか開けると、そこにはそれなりの人数の男どもが集まって、依頼書の確認をしていた。
……一部、朝から酒を呷っている奴らが居るのは、見ないふりだ。
照明魔法が魔石の節約だとかなんとかで少ないギルドは、薄暗く、雰囲気そのものもあまりよろしくはない。
このギルドは、国王陛下の弟君であらせられる、ダルタス・レイリンがギルド長を勤めている。ただ、彼は後ろ暗い噂が絶えず、王家の厄介者として厄介払いされた先が、このギルドだったなんて話まである。
実際、王家の人間がギルド長になるなど、これまで聞いたこともなかった。
(噂では、『黒き牙城』ってパーティーをギルド長が殺したんじゃないかってのもあったな……)
あくまで、噂は噂。本当のところは分からないものの、それが本当なんじゃないかと思っているのは、きっと俺以外にも多い。後は、『氷の射手』や『炎の聖者』、『酒器を交わした同胞』なんていう個人やパーティーなんかの失踪や殺害の話も、ギルド長が関わってるなんて噂がある。正直、こんなギルドに居たくはないが、王都のギルドはここだけだ。他に流れることもできない。
(証拠があがれば、ギルド長の糾弾も可能だろうに……)
証拠さえあれば、いかに王族とはいえ、罰せられるはずだ。しかし、その証拠を探っていた者達は軒並み帰らぬ人となっている。今さら、勇気を持って糾弾しようなんて奴は居ないだろう。
依頼書を確認して、どれが受けられそうか悩んでいると、ふいに、何か大きな魔力を感じる。
「っ?」
「な、何だぁ?」
ザワザワとざわめきながらも、いつもの習性で冒険者達は各々自分の得物に手をかける。すると……。
《おはよう。諸君。私は『絶対者』だ。この度、私はギルド長の横暴に愛想を尽かせたので、別の国へと旅立たせてもらう》
『絶対者』といえば、今をときめくSランク冒険者。彼の体捌きは、レッドグリズリーを一瞬で沈め、武器を持たせれば、ドラゴンですら数分で殺してしまうという、とんでもない強者だ。王族からの覚えもめでたく、主に王妃様からの依頼を良くこなしていると聞く。
ここに居る冒険者達にとって、彼は憧れの人だった。
伝音魔法と拡声魔法を組み合わせたであろう演説に、俺達はしばらく呆然として、すぐに、ギルド長のせいで『絶対者』がこのギルドを去ったのだという事実に絶望する。すると、『絶対者』の声はそのまま続いた。
《あぁ、ちなみに、ギルド長の横暴というのは、私が正体を隠したままであることにいちゃもんをつけて、何度も無茶な依頼を振ってきたというものだ。もしかしたら、諸君にも覚えがあるかもしれないな。他にも、私に向けて刺客を放ってきたこともあったぞ? まぁ、全て返り討ちにしたがな。諸君も、気をつけた方が良い。奴は、自分が気に入らないというだけで、他の冒険者にも手を出していたようだからな。『黒き牙城』や『氷の射手』なんかはその被害者だ、とでも言えば分かるか?》
やはり、噂は本当だった。『絶対者』の言葉で、俺達はそれを確信する。
ギルド内は騒然とし、『ギルド長を呼んでこいっ』だとか、『引きずり出せっ』なんて言葉がチラホラと聞こえ始める。
《証拠は、ギルド長室、向かって左奥の角にある本棚の後ろに、隠し金庫がある。そこに、全ての暗殺の依頼書が揃っている。私はそれを確認するまでしかできなかったが、良ければ、諸君がギルド長の断罪を行ってくれると嬉しい》
続いて、金庫の番号が教えられ、二階のギルド長室では怒号と悲鳴が響き渡る。
《では、諸君の健闘を祈る》
そんな言葉に、このギルドの面々の心は一致したように思う。『全力で、事をなす』と。
伝音魔法が切れたのを確認すると、俺と同じように一階で様子を伺っていた冒険者達は、一斉に二階へと押し寄せる。
「この野郎っ! てめぇのせいでっ、クロトさんはっ、クロトさんはっ!」
「ぷげっ、げふぅっ」
「アシュリー様を貶めたのも、絶対にあんたでしょうっ! ちくしょうがっ!」
「ごぁあっ」
「うおぉぉおっ! やはり、『絶対者』は偉大だぁっ!」
「がひゅ、や、やめ、ごっ」
「証拠の書類っ! あったぞ!」
「がごっ、おぼっ」
「よしっ、絶対にこいつには罪を償わせるぞっ!」
「ぴぎぃっ」
ドスドスと蹴ったり殴ったりでリンチ状態になっているのは、デップリと太ったギルド長。短く生えた金髪は、誰かに引っ張られたのか無惨に抜けて辺りに散らばっている。
ただ、リンチに遭っているのは何もギルド長だけではない。ギルド長に雇われたと言われる傭兵達も、多少は抵抗したようではあったものの、数の暴力に勝てず、今は蹲って暴力に耐えている状態だ。
この傭兵達にも、かなり後ろ暗い噂はあったことだし、証拠の資料を見れば、彼らが殺害した冒険者もかなり居たらしく、こうなるのは当然の流れと言えた。
一通り、それぞれが気のすむまで殴ったり蹴ったりを繰り返し、後から合流してきた冒険者にも事情を話し、一緒になってリンチした。何度も気絶するギルド長に、闇属性の回復魔法が使える奴に激痛を伴う回復魔法をかけてもらって、何度も何度もサンドバッグにし続けて……日が暮れる頃、ようやくやってきた憲兵達に彼らを引き渡す。
「こ、これは……」
「冒険者を食い物にして、殺してきた罪人だ。こうなるのは当然だろう」
冒険者には、とある条件下において報復行為が許されている。相手が冒険者に対しての殺人、強姦などを行った場合、その確たる証拠がある時に限り、殺害、及び、強姦された冒険者を慕う冒険者は報復行為をしても良いというものだ。
疑惑はあっても、証拠がなかったため、今まで動けなかったが、証拠があると分かればこっちのものだ。なまじ、殺されたり強姦された冒険者達は、誰も彼も人気の冒険者達であったため、彼らを慕う者は多く、報復行為も長く続いた。最後の方は、もう拷問になっていたように思う。
そんな状態で、穴という穴から色々なものを垂れ流した薄汚いギルド長、及び、傭兵達を引き渡した俺達は、久々に、お互いの肩を組んで笑い合うのだった。
無精髭を生やして、生活のためにギルドへと足を運ぶ。依頼書は先着順でなくなっていくため、基本的には朝、依頼の確認をしに行くのが冒険者としての鉄則というものだ。
ギギギッと音を立てるがたついた扉をどうにか開けると、そこにはそれなりの人数の男どもが集まって、依頼書の確認をしていた。
……一部、朝から酒を呷っている奴らが居るのは、見ないふりだ。
照明魔法が魔石の節約だとかなんとかで少ないギルドは、薄暗く、雰囲気そのものもあまりよろしくはない。
このギルドは、国王陛下の弟君であらせられる、ダルタス・レイリンがギルド長を勤めている。ただ、彼は後ろ暗い噂が絶えず、王家の厄介者として厄介払いされた先が、このギルドだったなんて話まである。
実際、王家の人間がギルド長になるなど、これまで聞いたこともなかった。
(噂では、『黒き牙城』ってパーティーをギルド長が殺したんじゃないかってのもあったな……)
あくまで、噂は噂。本当のところは分からないものの、それが本当なんじゃないかと思っているのは、きっと俺以外にも多い。後は、『氷の射手』や『炎の聖者』、『酒器を交わした同胞』なんていう個人やパーティーなんかの失踪や殺害の話も、ギルド長が関わってるなんて噂がある。正直、こんなギルドに居たくはないが、王都のギルドはここだけだ。他に流れることもできない。
(証拠があがれば、ギルド長の糾弾も可能だろうに……)
証拠さえあれば、いかに王族とはいえ、罰せられるはずだ。しかし、その証拠を探っていた者達は軒並み帰らぬ人となっている。今さら、勇気を持って糾弾しようなんて奴は居ないだろう。
依頼書を確認して、どれが受けられそうか悩んでいると、ふいに、何か大きな魔力を感じる。
「っ?」
「な、何だぁ?」
ザワザワとざわめきながらも、いつもの習性で冒険者達は各々自分の得物に手をかける。すると……。
《おはよう。諸君。私は『絶対者』だ。この度、私はギルド長の横暴に愛想を尽かせたので、別の国へと旅立たせてもらう》
『絶対者』といえば、今をときめくSランク冒険者。彼の体捌きは、レッドグリズリーを一瞬で沈め、武器を持たせれば、ドラゴンですら数分で殺してしまうという、とんでもない強者だ。王族からの覚えもめでたく、主に王妃様からの依頼を良くこなしていると聞く。
ここに居る冒険者達にとって、彼は憧れの人だった。
伝音魔法と拡声魔法を組み合わせたであろう演説に、俺達はしばらく呆然として、すぐに、ギルド長のせいで『絶対者』がこのギルドを去ったのだという事実に絶望する。すると、『絶対者』の声はそのまま続いた。
《あぁ、ちなみに、ギルド長の横暴というのは、私が正体を隠したままであることにいちゃもんをつけて、何度も無茶な依頼を振ってきたというものだ。もしかしたら、諸君にも覚えがあるかもしれないな。他にも、私に向けて刺客を放ってきたこともあったぞ? まぁ、全て返り討ちにしたがな。諸君も、気をつけた方が良い。奴は、自分が気に入らないというだけで、他の冒険者にも手を出していたようだからな。『黒き牙城』や『氷の射手』なんかはその被害者だ、とでも言えば分かるか?》
やはり、噂は本当だった。『絶対者』の言葉で、俺達はそれを確信する。
ギルド内は騒然とし、『ギルド長を呼んでこいっ』だとか、『引きずり出せっ』なんて言葉がチラホラと聞こえ始める。
《証拠は、ギルド長室、向かって左奥の角にある本棚の後ろに、隠し金庫がある。そこに、全ての暗殺の依頼書が揃っている。私はそれを確認するまでしかできなかったが、良ければ、諸君がギルド長の断罪を行ってくれると嬉しい》
続いて、金庫の番号が教えられ、二階のギルド長室では怒号と悲鳴が響き渡る。
《では、諸君の健闘を祈る》
そんな言葉に、このギルドの面々の心は一致したように思う。『全力で、事をなす』と。
伝音魔法が切れたのを確認すると、俺と同じように一階で様子を伺っていた冒険者達は、一斉に二階へと押し寄せる。
「この野郎っ! てめぇのせいでっ、クロトさんはっ、クロトさんはっ!」
「ぷげっ、げふぅっ」
「アシュリー様を貶めたのも、絶対にあんたでしょうっ! ちくしょうがっ!」
「ごぁあっ」
「うおぉぉおっ! やはり、『絶対者』は偉大だぁっ!」
「がひゅ、や、やめ、ごっ」
「証拠の書類っ! あったぞ!」
「がごっ、おぼっ」
「よしっ、絶対にこいつには罪を償わせるぞっ!」
「ぴぎぃっ」
ドスドスと蹴ったり殴ったりでリンチ状態になっているのは、デップリと太ったギルド長。短く生えた金髪は、誰かに引っ張られたのか無惨に抜けて辺りに散らばっている。
ただ、リンチに遭っているのは何もギルド長だけではない。ギルド長に雇われたと言われる傭兵達も、多少は抵抗したようではあったものの、数の暴力に勝てず、今は蹲って暴力に耐えている状態だ。
この傭兵達にも、かなり後ろ暗い噂はあったことだし、証拠の資料を見れば、彼らが殺害した冒険者もかなり居たらしく、こうなるのは当然の流れと言えた。
一通り、それぞれが気のすむまで殴ったり蹴ったりを繰り返し、後から合流してきた冒険者にも事情を話し、一緒になってリンチした。何度も気絶するギルド長に、闇属性の回復魔法が使える奴に激痛を伴う回復魔法をかけてもらって、何度も何度もサンドバッグにし続けて……日が暮れる頃、ようやくやってきた憲兵達に彼らを引き渡す。
「こ、これは……」
「冒険者を食い物にして、殺してきた罪人だ。こうなるのは当然だろう」
冒険者には、とある条件下において報復行為が許されている。相手が冒険者に対しての殺人、強姦などを行った場合、その確たる証拠がある時に限り、殺害、及び、強姦された冒険者を慕う冒険者は報復行為をしても良いというものだ。
疑惑はあっても、証拠がなかったため、今まで動けなかったが、証拠があると分かればこっちのものだ。なまじ、殺されたり強姦された冒険者達は、誰も彼も人気の冒険者達であったため、彼らを慕う者は多く、報復行為も長く続いた。最後の方は、もう拷問になっていたように思う。
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