わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第三章 離れる時間

第三十話 刺客とリリス

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 トンテンカン、トンテンカンと家の増築を始めて二日。明日には、ルティアスも戻ってくるかもしれないと思いながらも、何となく興が乗ったわたくしは、必要なさそうな客室まで増築して、ベッドも二つプラスした。
 もしかしたら、この時すでに、その事態を予感していたのかもしれない。


「ふぅ、思ったよりも早く完成しそうですわ」


 ルティアスの部屋は、もうほぼ完成で、後は発注をかけた家具を待つのみ。客室の方は、ルティアスの部屋とはまた別の方角に作って、ベッドだけは運び込んでいる。
 ……実は、このベッドのシーツの柄が可愛くて、思わず衝動買いしてしまったのが、そもそもの客室増築の真相だったりもするのだけれど、もしかしたら妹のシェイラを招くことくらいはあるかもしれないので、しっかりと造っていく。


「後は窓ガラスという名の鋼スライムのスライムゼリーを固めたものを嵌めて、いくつか買っておいた観葉植物も置きましょうか。あぁ、床にワックスも塗らなければなりませんわね」


 ちなみに、床に塗るワックスは、キャンドルドールと呼ばれる魔物の体液(?)を加工したものだ。キャンドルドールは主に、廃屋に住み着く幼い少女の姿を模した人形のような魔物だ。キャンドルというだけあって、その体は蝋のような成分でできているらしい……と、いうか、キャンドルドールの体液は、蝋燭の原料でもある。その表情は常に歪な笑顔をたたえ、人によってはキャンドルドールに会った後は悪夢を見ることもあるという。
 そんなキャンドルドールは、なぜか廃屋に集い、一定の数が集まれば発火する。魔物としてはそこまで強くはないものの、その発火によって大火事になることは多い。だから、冒険者ギルドには、廃屋を見廻る依頼なんてものもあったりする。

 確か、ワックスは倉庫に保管してあるはずだと腰を上げると、ふいに、二つの魔力ををほぼ同時に感知する。


「これはっ!」


 わたくしは急いでローブを羽織ってフードを被ると、その二人、王妃様とシェイラが同じ場所にいることを確認し、何が起こっているのか分からないままに転移した。








 王妃様付きの護衛が一人、腹部から血を流して倒れ、残りの二人の護衛が王妃様とシェイラの前に出て剣を構えている。王妃様付きの侍女二人も、短剣を片手に、真剣な表情で立っていた。それは、黒装束の刺客達に対して。そして、突如現れた『絶対者』としてのわたくしの姿に、彼らは大きく目を見開くと、希望の光をその目に宿す。


「さて、少々眠ってもらおうか? 何、王妃様から命じられなければ、永遠の眠りにはならないだろうさ」


 どうにも、この黒装束の刺客達は、王妃様を狙っているのではないかと思われる。そして、シェイラはタイミング悪く、王妃様と一緒に居るところを襲われたといったところか。
 声を中性的なものに変えたわたくしは、そう状況を分析して、転移で自分の愛剣を取り寄せる。


(王妃様には、そこまで思い入れがあるわけではありませんが、シェイラまで殺そうとしていることは許せませんわね)


 王妃様は、『絶対者』としてのわたくしとは度々交流があり、ある程度の好感を抱いてもらっていることは知っている。そして、わたくしとしても大口の顧客だったため、念のためにわたくしを呼び出せるペンダントを渡しておいたのだ。日々、刺客に悩まされる王妃様が、ピンチに陥った時、助けに入れるように。
 そして、シェイラはもちろん、可愛い妹だから、という理由で渡していた。『これを使えば助けが来る』という曖昧な表現で渡したものの、シェイラはとても喜んでくれて、それから度々、お土産を買ってくるようになった。

 わたくしという新たな敵に、刺客達は一瞬の動揺も見せずに、すぐにわたくしへと毒を塗っているであろう短剣を、針を、魔法を、向けてくる。


「《風の守りよ》」


 彼らはきっと、一流の暗殺者だ。しかし、相手が悪過ぎた。何せ、わたくしは、暗殺者ギルドにおいてブラックリスト入りしているであろうというほどに、多くの暗殺者を屠ってきたのだから。
 攻撃の全てを、風の結界で防いだわたくしは、一気に二人の暗殺者を斬りつける。彼らが倒れる間に、風魔法で攻撃してきた暗殺者が居たが、幸いにもその先には誰も居なかったため、軽く首を捻ってかわすと、雷魔法を唱える。


「《微弱なる雷よ》」


 効果はスタンガンとさほど変わらないそれを、残りの三人に向ければ、一人にはかわされたものの、残り二人には直撃し、ビクンッと体を震わせた直後、そのまま倒れてしまう。
 最後の一人は、変則的な動きで針を飛ばしてきたものの、それらは全て剣で弾き、その間にもう一度、スタンガンもどきの魔法を使用する。今度は連続で二つほど放ったおかげか、刺客はそれを避けきれず、やはりビクンッと体を震わせて倒れ伏す。これで、掃除は完了した。


「『絶対者』」
「お姉様」


 刺客達を完全に無力化し、魔法で縛り上げ、怪我を負った護衛の手当てをしていると、王妃様とシェイラから同時に声がかかる。王妃様は問題ないが、シェイラの発言は、この場では大問題だった。


「はっ? リリス嬢? いえ、そんなわけはありません」

「いいえ、体格といい雰囲気といい、匂いといい、お姉様で間違いないですっ!」

(ナニで判断してくれてますのっ! この子はっ!)


 体格なんて、このローブ姿で判断できるものではない。雰囲気なんて、声も口調もガラッと変えているはずだ。匂いは……怖いから、突っ込みたくない。


「本当に、リリス嬢、なのですか?」


 さすがに動揺が隠せず固まったわたくしに、王妃様は恐る恐るといった様子で問いかける。


「……それより、安全な場所に移動することを勧める」

「あっ、それなら、私をお姉様の家に連れていってください」

「それは良いですね。では、私と、ここに居る護衛達と侍女達を連れて、そこに連れていっていただけますか?」

(しまった。否定すれば良かったんですわ)


 否定をしなかったことで、王妃様に確信を持たれてしまったらしいわたくしは、諦めて王妃様やシェイラ達を魔の森のログハウスへ、現在、増築中のその場所へと転移するのだった。
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