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第三章 離れる時間
第二十九話 登城(シェイラ視点)
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全身が痛い。お父様からの暴力と、新たに雇ったという家庭教師の体罰で、私の体はボロボロだった。しかし、お姉様が受けた仕打ちを思えば、これくらい我慢できる。
今までは、お姉様の影に隠れることしかできなかったものの、お姉様が居なくなった今、私は立ち向かうことを覚えた。今日は登城して、エルヴィス王子と見合いを行うということだが、そんなもの、ぶち壊してしまうつもりだった。
(不敬だと罰せられても構わない。私は、お姉様を追放した愚かな王子なんて、絶対にごめんよっ)
馬車の振動すら体に響き、痛みを訴えてくる中、私は必死に意識を保つ。今日、何が起こっても対応できるように、目をギラギラとさせて、痛みをこらえ続ける。
(いざとなれば、私にはお姉様がついてる)
かつて、お姉様から『危険だと思った時に魔力を込めなさい。そうすれば、必ず助けが来るから』と言われて渡された小さなペンダントを、ドレスの上からギュッと握り締める。
その言葉が本当なのか分からないし、本当だったとしても、その助けが王家に逆らえるほどのものである確証はない。せいぜい、結界が発動するくらいなのではないだろうかとは思っている。それでも、心の拠り所があるという事実に、私は大きな不安に苛まれながらも、少しだけ安心する。
痛みに耐え続けていると、馬車が止まって、そこから降ろされる。これから、王子と対面するのだと思えば、震えてしまいそうだったが、私はもう一度、ペンダントを握り締めて前を向く。
「シェイラ様。本日は、エルヴィス様との面会の前に、王妃様が面会を望んでおられます。どうぞ、こちらへお越しください」
戦場へ踏み出す心地で王城に踏み入れた私を待っていたのは、一人の侍女の、そんな言葉だった。
(っ、王子の前に、王妃様?)
王妃様といえば、確かお姉様を嫌っていた人だ。だから、もしかしたら私に関しても何らかの嫌な感情を抱いていて、いちゃもんをつけられるのかもしれない。
胸の内の不安が増したことに気づかないふりをしながら、私は王妃様の元へ案内してもらう。すると、どうやら、私はどこかの客室に通されたようだった。
「ご機嫌よう。シェイラ嬢」
そして、予想とは異なり、穏やかな表情で出迎えられた私は、一瞬固まり、それでもすぐに挨拶を返す。
「本日は、お招きいただき、ありがとうございます」
「……堅苦しいのは抜きにしましょう。誰か、防音結界を」
「はっ」
痛みを堪えて一礼すれば、王妃様は何事かを考えた様子で、そんな命令を侍女へと送る。
(防音、結界……)
これで、私がどんなに泣いても騒いでも、助けが来ることはなくなった。このペンダント以外に、拠り所がなくなった。
青ざめた顔は、化粧でごまかせているのかどうか怪しいところではあったものの、私は勧められるままに席に着く。
「そうですね。まずは、私の愚息が、本当に申し訳ないことをしました。謝って済むことではないと分かっていますが、申し訳ありません」
ただ、予想とは異なる王妃様の言葉に、私は再び硬直してしまう。今回は、すぐに起動とはならず、数秒間、たっぷりと。
(……えっ……謝っ、た……?)
そして、しばらくすれば、王妃様に頭を下げさせたままだという事実に気づいて、私は大慌てで頭を上げてほしいと告げる。
「な、なぜ、王妃様が謝られるのですか?」
そして、つい、思っていたことをそのまま告げてしまう。王妃様は、お姉様を嫌っていたはずなのだから。
「私は、ずっとリリス嬢を見守ってきました。今回の件で、リリス嬢のことは心配ではありますが、自分でどこかへ逃げたということと、未だに国王陛下の追手が足取りすら掴めていないことから、恐らくは無事なのではないかと思えます」
そんな王妃様の言葉に、私は完全に混乱する。
(見守ってきた? えっ? 敵視していたのではなく? それに、お姉様は自分から逃げた? 国外追放ではなく? 国王陛下からの追手!?)
もう、何から突っ込んで良いのか分からない。
「順を追って説明したいところではありますが、このままではシェイラ嬢が危険です。早く、この城から逃げましょう」
「逃げる、ですか?」
何が危険なのかも、なぜ逃げなければならないのかも分からない。しかし、それでも分かることは、目の前の王妃様は真剣で、本当の意味で私を心配しているように見えるということ。
何と話せば良いのかを迷っていると、ふいに、外が騒がしくなる。
「メリナ様っ!」
と、そこに、護衛らしき男が王妃様の名前を呼びながら慌てた様子で入ってくる。
「っ、こんな時に刺客ですかっ!」
「刺客!?」
なぜ、王妃様が刺客に狙われているのか見当もつかない私は、思わず声を上げる。
「ぐあっ!」
と、そこへ、別の護衛らしき人が部屋の中へと吹き飛ばされてくる。
「っ!?」
こんな場面を前に、私は一気に恐怖に包まれる。
王妃様の残りの護衛二人と、侍女二人が現れた黒装束の刺客達五人と相対するものの、今の状況は絶望的だ。
「っ、『絶対者』、お願いしますっ」
王妃様が胸元を握り締めて誰かに願うのと同時に、私も胸元のペンダントに魔力を込めて、お姉様を思う。
(助けて、お姉様っ!)
そしてその直後、その場に、黒いフードを被った何者かが忽然と現れたのだった。
今までは、お姉様の影に隠れることしかできなかったものの、お姉様が居なくなった今、私は立ち向かうことを覚えた。今日は登城して、エルヴィス王子と見合いを行うということだが、そんなもの、ぶち壊してしまうつもりだった。
(不敬だと罰せられても構わない。私は、お姉様を追放した愚かな王子なんて、絶対にごめんよっ)
馬車の振動すら体に響き、痛みを訴えてくる中、私は必死に意識を保つ。今日、何が起こっても対応できるように、目をギラギラとさせて、痛みをこらえ続ける。
(いざとなれば、私にはお姉様がついてる)
かつて、お姉様から『危険だと思った時に魔力を込めなさい。そうすれば、必ず助けが来るから』と言われて渡された小さなペンダントを、ドレスの上からギュッと握り締める。
その言葉が本当なのか分からないし、本当だったとしても、その助けが王家に逆らえるほどのものである確証はない。せいぜい、結界が発動するくらいなのではないだろうかとは思っている。それでも、心の拠り所があるという事実に、私は大きな不安に苛まれながらも、少しだけ安心する。
痛みに耐え続けていると、馬車が止まって、そこから降ろされる。これから、王子と対面するのだと思えば、震えてしまいそうだったが、私はもう一度、ペンダントを握り締めて前を向く。
「シェイラ様。本日は、エルヴィス様との面会の前に、王妃様が面会を望んでおられます。どうぞ、こちらへお越しください」
戦場へ踏み出す心地で王城に踏み入れた私を待っていたのは、一人の侍女の、そんな言葉だった。
(っ、王子の前に、王妃様?)
王妃様といえば、確かお姉様を嫌っていた人だ。だから、もしかしたら私に関しても何らかの嫌な感情を抱いていて、いちゃもんをつけられるのかもしれない。
胸の内の不安が増したことに気づかないふりをしながら、私は王妃様の元へ案内してもらう。すると、どうやら、私はどこかの客室に通されたようだった。
「ご機嫌よう。シェイラ嬢」
そして、予想とは異なり、穏やかな表情で出迎えられた私は、一瞬固まり、それでもすぐに挨拶を返す。
「本日は、お招きいただき、ありがとうございます」
「……堅苦しいのは抜きにしましょう。誰か、防音結界を」
「はっ」
痛みを堪えて一礼すれば、王妃様は何事かを考えた様子で、そんな命令を侍女へと送る。
(防音、結界……)
これで、私がどんなに泣いても騒いでも、助けが来ることはなくなった。このペンダント以外に、拠り所がなくなった。
青ざめた顔は、化粧でごまかせているのかどうか怪しいところではあったものの、私は勧められるままに席に着く。
「そうですね。まずは、私の愚息が、本当に申し訳ないことをしました。謝って済むことではないと分かっていますが、申し訳ありません」
ただ、予想とは異なる王妃様の言葉に、私は再び硬直してしまう。今回は、すぐに起動とはならず、数秒間、たっぷりと。
(……えっ……謝っ、た……?)
そして、しばらくすれば、王妃様に頭を下げさせたままだという事実に気づいて、私は大慌てで頭を上げてほしいと告げる。
「な、なぜ、王妃様が謝られるのですか?」
そして、つい、思っていたことをそのまま告げてしまう。王妃様は、お姉様を嫌っていたはずなのだから。
「私は、ずっとリリス嬢を見守ってきました。今回の件で、リリス嬢のことは心配ではありますが、自分でどこかへ逃げたということと、未だに国王陛下の追手が足取りすら掴めていないことから、恐らくは無事なのではないかと思えます」
そんな王妃様の言葉に、私は完全に混乱する。
(見守ってきた? えっ? 敵視していたのではなく? それに、お姉様は自分から逃げた? 国外追放ではなく? 国王陛下からの追手!?)
もう、何から突っ込んで良いのか分からない。
「順を追って説明したいところではありますが、このままではシェイラ嬢が危険です。早く、この城から逃げましょう」
「逃げる、ですか?」
何が危険なのかも、なぜ逃げなければならないのかも分からない。しかし、それでも分かることは、目の前の王妃様は真剣で、本当の意味で私を心配しているように見えるということ。
何と話せば良いのかを迷っていると、ふいに、外が騒がしくなる。
「メリナ様っ!」
と、そこに、護衛らしき男が王妃様の名前を呼びながら慌てた様子で入ってくる。
「っ、こんな時に刺客ですかっ!」
「刺客!?」
なぜ、王妃様が刺客に狙われているのか見当もつかない私は、思わず声を上げる。
「ぐあっ!」
と、そこへ、別の護衛らしき人が部屋の中へと吹き飛ばされてくる。
「っ!?」
こんな場面を前に、私は一気に恐怖に包まれる。
王妃様の残りの護衛二人と、侍女二人が現れた黒装束の刺客達五人と相対するものの、今の状況は絶望的だ。
「っ、『絶対者』、お願いしますっ」
王妃様が胸元を握り締めて誰かに願うのと同時に、私も胸元のペンダントに魔力を込めて、お姉様を思う。
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そしてその直後、その場に、黒いフードを被った何者かが忽然と現れたのだった。
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