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第三章 離れる時間
第三十二話 ルティアスの帰還
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あの後、わたくし達は色々な話をした。シェイラがあのままだったら、媚薬を盛られたエルヴィス王子に襲われていたであろうことを聞いた時は、不敬とは思いながらも、国王陛下を殺してしまいたい気持ちにもなった。
今後のことも話し合った。とりあえず、王妃様に関しては母国であるファム帝国へ送ってほしいとのことだったため、明日にでも転移で送ろうとは思う。もちろん、侍女や護衛の人達も一緒にだ。
ただ、シェイラだけが問題だった。レイリン王国は絶対にあり得ないけれど、ファム帝国に送るのもレイリン王国にいちゃもんをつける材料とされてしまいかねないために難しい。もちろん、シェイラを隠し続ければそんなことにはならないけれど、それはそれでシェイラにとっては窮屈だろう。何より、何の伝もないレイリン王国の公爵令嬢であるシェイラが、ファム帝国に滞在し続けるためには、それ相応の理由が求められる。つまりは、シェイラは望まない縁談を強要される可能性があるということで、わたくしとしては、それは避けたかった。
「私、お姉様と一緒に居たいです」
「……ここは、魔の森ですわ。今は、まだ昼間で、わたくしも近くに居るから大丈夫なだけであって、夜になったら、この森の恐怖に耐えられるかどうか……」
「そのくらい、耐えてみせますっ!」
そう、威勢良く返事をしたは良いものの、急遽ベッドを買い足し、客間の二部屋を男女別に分けた部屋としてそれぞれにベッドを置いた日の夜。見事、全員が魔の森の魔物達が放つ殺気に怯えて、わたくしの元へとやってきた。
「ごめんなさい。無理です。お姉様」
翌日、わたくしは、目の下に濃い隈を作ったシェイラに、そう言われたのだった。
「分かっていますわ。とりあえず、早急にシェイラが住める場所を探しましょう」
昨日と今日とで、侍女の二人に料理を作ってもらったわたくしは、何だか久々な気がする塩味オンリーの食事を終えて、そろそろ王妃様をファム帝国に送り届けようかと腰を上げる。すると……。
『リリスさんっ!』
いつものように、日本語で叫ぶ彼の姿が窓の外に見えて、わたくしは、一気に外へと飛び出す。
『ルティアスっ、お帰りなさいっ!』
突然現れたルティアスに、リビングに集まっていた王妃様を含めた全員は、警戒をしていたけれど、わたくしが満面の笑顔でルティアスに駆け寄る様子を呆然と見つめることとなる。
そして、ルティアスの方はといえば、なぜかほんのり顔を赤くしている。しかし、ブンブンと首を振ったかと思えば、すぐに鋭い視線をログハウスの中に向ける。
『リリスさん、彼らは誰? それに、家が大きくなってる気がするんだけど?』
「お姉様が、笑った……? そ、それに、その、人は……いえ、人じゃなくて、魔族……?」
一気に二人からの質問を受けて、わたくしはどちらから応えようかと悩む。そして、シェイラの言葉に、一つだけ、気づくこともあった。
(そういえば、わたくし、表情を出していませんでしたわね)
レイリン王国でのわたくしは、『人形姫』と謳われるほどに表情を出さないことで有名だった。それが、ルティアスを……いえ、正確には、日本食を前にして、これだ。驚くのも無理はなかった。
「お姉様? もしかして、リリスさんの妹さん?」
「っ、言葉が、分かるんですかっ!」
ルティアスがレイリン王国語を話したのに驚いたのは、何もシェイラだけではない。わたくしも、内心では話せたのかと驚いている。
「まぁ、魔族なら、一通りの言語は習得してるよ。片翼がどこの国の人か分からないしね」
「『片翼』? いいえ、そんなことより、あなたはお姉様の何ですかっ!」
フーッ、と警戒するシェイラに、ルティアスはニコリと笑う。
(あっ、嫌な予感が……)
「僕は、リリスさんへの求婚者。ルティアス・バルトランだよ」
「っ、そんなの、認めませんわっ!」
フシャーッと威嚇するシェイラの様子に、わたくしは、何と声をかけるべきか悩む。
「お姉様は、私のものですっ!」
「僕は、リリスさんのことが愛しくて愛しくて仕方ないんだ。だから、いずれは僕のことを認めてもらいたいな」
「嫌ですっ!」
大型犬に突っかかる子猫を思わせるシェイラの姿に、わたくしは一人ほっこりしながら、それでも仲裁をすべく、間に入る。
「詳しい話は中でしましょう。それと、ルティアス。ちゃんと買ってきましたわね?」
「うんっ、もちろんっ! これで、リリスさんに美味しいご飯を作ってあげるからねっ!」
「……き、期待を裏切らないでくださいましね?」
途中までは普通に話せていたはずが、なぜか、ルティアスの笑みを見ていると、心臓がドキドキして、『楽しみにしている』の一言がちょっと違う形で言葉になってしまう。
「うん、楽しみにしててね」
「お姉様が……私のお姉様が……」
側で、何やらシェイラが絶望の表情を浮かべていたものの、その原因が分からないわたくしは、とりあえずログハウスの中に戻るのだった。
今後のことも話し合った。とりあえず、王妃様に関しては母国であるファム帝国へ送ってほしいとのことだったため、明日にでも転移で送ろうとは思う。もちろん、侍女や護衛の人達も一緒にだ。
ただ、シェイラだけが問題だった。レイリン王国は絶対にあり得ないけれど、ファム帝国に送るのもレイリン王国にいちゃもんをつける材料とされてしまいかねないために難しい。もちろん、シェイラを隠し続ければそんなことにはならないけれど、それはそれでシェイラにとっては窮屈だろう。何より、何の伝もないレイリン王国の公爵令嬢であるシェイラが、ファム帝国に滞在し続けるためには、それ相応の理由が求められる。つまりは、シェイラは望まない縁談を強要される可能性があるということで、わたくしとしては、それは避けたかった。
「私、お姉様と一緒に居たいです」
「……ここは、魔の森ですわ。今は、まだ昼間で、わたくしも近くに居るから大丈夫なだけであって、夜になったら、この森の恐怖に耐えられるかどうか……」
「そのくらい、耐えてみせますっ!」
そう、威勢良く返事をしたは良いものの、急遽ベッドを買い足し、客間の二部屋を男女別に分けた部屋としてそれぞれにベッドを置いた日の夜。見事、全員が魔の森の魔物達が放つ殺気に怯えて、わたくしの元へとやってきた。
「ごめんなさい。無理です。お姉様」
翌日、わたくしは、目の下に濃い隈を作ったシェイラに、そう言われたのだった。
「分かっていますわ。とりあえず、早急にシェイラが住める場所を探しましょう」
昨日と今日とで、侍女の二人に料理を作ってもらったわたくしは、何だか久々な気がする塩味オンリーの食事を終えて、そろそろ王妃様をファム帝国に送り届けようかと腰を上げる。すると……。
『リリスさんっ!』
いつものように、日本語で叫ぶ彼の姿が窓の外に見えて、わたくしは、一気に外へと飛び出す。
『ルティアスっ、お帰りなさいっ!』
突然現れたルティアスに、リビングに集まっていた王妃様を含めた全員は、警戒をしていたけれど、わたくしが満面の笑顔でルティアスに駆け寄る様子を呆然と見つめることとなる。
そして、ルティアスの方はといえば、なぜかほんのり顔を赤くしている。しかし、ブンブンと首を振ったかと思えば、すぐに鋭い視線をログハウスの中に向ける。
『リリスさん、彼らは誰? それに、家が大きくなってる気がするんだけど?』
「お姉様が、笑った……? そ、それに、その、人は……いえ、人じゃなくて、魔族……?」
一気に二人からの質問を受けて、わたくしはどちらから応えようかと悩む。そして、シェイラの言葉に、一つだけ、気づくこともあった。
(そういえば、わたくし、表情を出していませんでしたわね)
レイリン王国でのわたくしは、『人形姫』と謳われるほどに表情を出さないことで有名だった。それが、ルティアスを……いえ、正確には、日本食を前にして、これだ。驚くのも無理はなかった。
「お姉様? もしかして、リリスさんの妹さん?」
「っ、言葉が、分かるんですかっ!」
ルティアスがレイリン王国語を話したのに驚いたのは、何もシェイラだけではない。わたくしも、内心では話せたのかと驚いている。
「まぁ、魔族なら、一通りの言語は習得してるよ。片翼がどこの国の人か分からないしね」
「『片翼』? いいえ、そんなことより、あなたはお姉様の何ですかっ!」
フーッ、と警戒するシェイラに、ルティアスはニコリと笑う。
(あっ、嫌な予感が……)
「僕は、リリスさんへの求婚者。ルティアス・バルトランだよ」
「っ、そんなの、認めませんわっ!」
フシャーッと威嚇するシェイラの様子に、わたくしは、何と声をかけるべきか悩む。
「お姉様は、私のものですっ!」
「僕は、リリスさんのことが愛しくて愛しくて仕方ないんだ。だから、いずれは僕のことを認めてもらいたいな」
「嫌ですっ!」
大型犬に突っかかる子猫を思わせるシェイラの姿に、わたくしは一人ほっこりしながら、それでも仲裁をすべく、間に入る。
「詳しい話は中でしましょう。それと、ルティアス。ちゃんと買ってきましたわね?」
「うんっ、もちろんっ! これで、リリスさんに美味しいご飯を作ってあげるからねっ!」
「……き、期待を裏切らないでくださいましね?」
途中までは普通に話せていたはずが、なぜか、ルティアスの笑みを見ていると、心臓がドキドキして、『楽しみにしている』の一言がちょっと違う形で言葉になってしまう。
「うん、楽しみにしててね」
「お姉様が……私のお姉様が……」
側で、何やらシェイラが絶望の表情を浮かべていたものの、その原因が分からないわたくしは、とりあえずログハウスの中に戻るのだった。
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