わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第三章 離れる時間

第三十三話 夢見る少女(ホーリー視点)

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「何で何で何で何で何でよっ!」


 簡素なベッドが置かれているだけの牢屋で、ヴィッツ家の男爵令嬢である私は、予定にない事態に癇癪を起こしていた。
 牢番の男は、そんな私に迷惑そうな顔を向けて、それでも沈黙を貫き通す。その態度が気に入らなくて、檻を蹴り飛ばしてみるものの、やはり沈黙しか返ってこない。


「そもそも、シェイラがエルヴィス様の婚約者ですらなかった時点で物語がズレていたんだわ」


 私には、日本という国で、女子中学生だった頃の記憶がある。そして、『夢と愛のラビリンスロード』という名前の乙女ゲームの記憶も。その乙女ゲームの世界は、まさに、今私が居る世界と同じもので、私は何と、そのゲームの主人公という立ち位置だった。
 人生勝ち組。ちゃんと乙女ゲームに則ってフラグを回収していけば、王子と結ばれてハッピーエンドとなる、はずだった。
 しかし、蓋を開けてみれば、悪役令嬢であるシェイラとリリスは全く私に突っかかってこないし、そもそもシェイラはエルヴィス様と婚約すらしていなかった。もしかしたら、バグが起こって、シェイラとリリスの立場が逆転しているだけかとも思ったものの、どうやらそれも違う。結局、彼女らが行うはずだった嫌がらせの数々は自作自演して、エルヴィス様の同情を引くことに成功はしたのだが……断罪の場で、なぜか、私は国王陛下から牢へ繋ぐことを言い渡されることになってしまった。


「絶対に、シェイラが転生者なのよっ。それで、私の邪魔をしたんだわっ」


 私は、何一つ悪いことはしていない。ただ、物語に沿って、ハッピーエンドを目指しただけなのだ。だから、悪いのは全て、自分の役割を放棄した悪役令嬢達だ。


(でも、残念ね。詰めが甘いわ。私は、夢を渡れるのよ?)


 距離の制限はあるものの、私は夢を渡って、相手の意識に働きかけることはできた。それによって、私は居場所が分かっているシェイラに対して、度々悪夢を見せ続けた。自分のせいで、大切なエルヴィス様が死んでしまう夢だ。これはきっと、エルヴィス様が好きなシェイラにはとんでもない悪夢となっていたことだろう。
 それと同時に、私はエルヴィス様とも接触を図っていた。夢の中で、エルヴィス様と話し合って、どうにかお互いの現状を打開しようと案を出し合ったのだ。その結果……。


(国王陛下暗殺計画)


 夢の中で、王宮の舞踏会ホールを模したその光景の中で、エルヴィス様は確かに、その言葉を口にした。


『父上は、私とホーリーの関係を認めるように仕向けていた癖に、それを忘れてしまうほど耄碌されてしまった。だから、私は、国が荒れる前に、父上に引導を渡そうと思う』


 そう告げたエルヴィス様は、どこか辛そうで、私はすぐにエルヴィス様に寄り添う。


『罪は私も背負います。その時が来たら、私にも協力させてください』


 ここまで物語が拗れた以上、国王陛下を暗殺でもしない限り、私のハッピーエンドは来ないものと思われた。そのために協力するのは、やぶさかではない。


『ホーリー、君は、何て……』


 その後のことは、夢の中とはいえ、激しい一夜だったとだけ言っておこう。瞬時に場面が変わり、エルヴィス様の私室となった夢の中で、ベッドの上で、あれこれ致したということだ。さすがに、それを詳しく思い出すのは恥ずかしい。


「計画が成功すれば……ふふ、ふふふふふっ」


 いきなり笑い出した私を前に、牢番は気味の悪い者を見る目になるが、知ったことではない。今頃、エルヴィス様はこっそりと毒薬を用意していることだろう。謹慎が延びたとは言っていたものの、今日はその謹慎が解ける日のはず。これで、ある程度自由に行動できるというものだ。


「早く、迎えに来てくれないかな?」


 牢屋の中は、何も暇を潰すものがなくて退屈だ。食事は元から美味しくないが、ここで出る食事はそれ以上に不味い。早く、こんなところから出て、暖かい食事とお風呂を堪能したいし、エルヴィス様と一緒に居たい。


(国王陛下を暗殺できれば、私は名実ともに、エルヴィス様のもの。そして、王妃になれる)


 王妃になれば、どんな贅沢だって許される。男爵家という生まれだったがために、我慢しなくてはならなかったことを、もう我慢する必要もなくなる。


(早く、早く……)


 その日を待ち焦がれる私は知らない。もはや、このレイリン王国はどうしようもないほどに腐敗しており、それを正すはずだった主人公である私は、嫌がらせの自作自演に気を取られるあまりにそれを見失ってしまっていたことを。腐りきったこの王国が、終わってしまうのも時間の問題といえるところまで来ていたことを。

 私は、牢屋の中で、ただひたすら、ハッピーエンドを夢見ていた。
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