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第五章 リリスの心
第五十二話 戦争の準備(メリナ視点)
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淡い黄色の壁紙に、毛足の長いモスグリーンの絨毯。真っ白な猫足のテーブルと、それに合わせた白い椅子が四脚。香り立つティーセットが置かれたワゴンが存在する、私が昔使っていた部屋。そこで、私は『絶対者』たるリリス嬢に後ろから見守られながら、目の前に座る良く似た二人の男性に声を発する。
『絶対者』にファム帝国へと送り届けてもらった私は、『絶対者』が居るうちに、レイリン王国で何が起こっているのか、現帝王である兄上と前帝王である父上に報告したのだ。
「ワシの大切な娘を、メリナを何だと思っているんだっ!」
「父上、どうか落ち着いて……」
テーブルを壊す勢いで叩く父上を前に、私はとりあえず制止の声を上げる。
「落ち着く? ふふふっ、メリナ。それは無理というものだよ? 僕のメリナに何てことを……レイリン王国、絶対に許さんっ」
「兄上までっ!?」
予想していたとはいえ、激昂する父上と兄上を前に、私はリリス嬢の前だというのにオロオロとしてしまう。
「父上っ! メリナが帰ったというのは本当ですか!」
と、そこに、私の二番目の兄上レイモンドがやってきて、場はさらなる混乱に包まれる。レイリン王国で何があったのかを余さず聞いてしまったレイ兄上も、類に漏れず、激昂し、今にも宣戦布告をしそうな雰囲気に陥ってしまったのだ。
「宣戦布告は、待った方が良いと思うが?」
と、それまで静観していた『絶対者』姿のリリス嬢の言葉に、父上達は、ようやく私以外の人物が居ることを思い出したようにそちらへと視線を向ける。
「確か、『絶対者』といったか。妹を長らく助けてくれたことには感謝する。謝礼も弾もう。しかし、これは国同士の問題。いくら高ランクとはいえ、一介の冒険者に口を挟ませるわけにはいかない」
許可なく発言をした無礼について咎めるつもりのなさそうな兄上の発言にホッとしていると、危険な発言をしたリリス嬢が私を見ていることに気づく。そこでようやく、口を挟める機会をリリス嬢に与えてもらったのだと理解し、私は会釈をしながら三人と向き合う。
「いいえ、兄上。私も『絶対者』の意見には賛成です」
「メリナ?」
私が声を上げたことで、兄上もようやく話に耳を傾けてくれる気になったらしい。ただし、それは帝王としてであって、その眼光は鋭い。
「メリナ、滅多なことを言うものじゃ「良い。言ってみろ」兄上……」
厳しい視線に気づいたレイ兄上が私を制止しようとしたものの、兄上の言葉で引き下がる。父上はといえば、そんな私達の様子を見て、静観するようだ。
「現在、レイリン王国を纏めるのは、自分の利益にしか興味のない国王です。そして、彼は近々、民衆を激怒させることとなるでしょう」
「その根拠は?」
そう言われて、私は、国王が罪を犯した弟を庇って、軽い処分で済まそうとしていることを詳細に話していく。罪状はもちろんのこと、それに対するギルド員達の対応に関してもだ。そして、私という抑止力がなくなった今、国王は確実に冒険者ギルドを敵に回すであろうことまで告げる。
「なるほど、冒険者ギルドに見限られれば、民衆が離れるのも時間の問題、か」
「民衆が少なくなったところを狙った方が、我が国の被害も少なくて済みますね」
兄上とレイ兄上の分析に、私は話を聞いてもらえたと安心する。
「では、間者を送ろう。どういうわけか、今はレイリン王国で転移防止結界がなくなっているらしいから、情報は取り放題だ」
「転移防止結界……」
そういえば、それは『絶対者』が張ったものだったはずだと思い、後ろを振り返ってみると、盛大に視線を逸らされる。その行動で、十中八九、『絶対者』の仕業だと確信する。
「その間に、どう攻めるのかの作戦立案を優先させておくとしよう」
「メリナは、この国でゆっくりすると良い。ついでに、そこの彼も雇えば良いんじゃないか?」
兄上の言葉は問題なく聞き流していたものの、レイ兄上の言葉はいただけない。
「申し訳ないが、私には大切な目的がある。だから、メリナ様にお仕えすることはできない」
そんなリリス嬢の言葉に、レイ兄上は食い下がったものの、リリス嬢は頑として首を縦に振らなかった。
しばらくすれば、レイ兄上も諦めて、リリス嬢に報酬を渡していた。
「では、私はこれで失礼する」
「っ、また会えますか?」
リリス嬢が退出する前にそう言えば、リリス嬢は前にもらったのと同じペンダントを渡してくる。
「使い方は以前と同じだ。何かあれば、呼ぶと良い」
あらかじめ用意していたであろうそれを目にして、私は随分と、リリス嬢に気遣われていたのだと気づく。
「えぇ、分かりました。今まで、ありがとうございます。『絶対者』」
この国ならば、危険に見舞われることなど早々ないだろう。だから、もしかしたら『絶対者』に、リリス嬢に会えるのは、これが最後かもしれない。
「……失礼する」
そうして、私は『絶対者』と別れた。
一週間以上も前のそのできごとを思い出していた私は、間者からの報告に、もう関係のない国だと分かっていながら頭を抱える。
レイリン王国国王は、弟を庇うだけでなく、『絶対者』を貶めたことで、冒険者ギルドと民衆を敵に回した。現在は、とんでもない勢いでで人口が流出しているらしい。
「まさか、戦いの前に民の受け入れの方に力を入れなければならなくなるとはな」
「申し訳ありません。兄上」
どこか楽しそうな様子の兄上にそう告げれば、機嫌の良さそうな声で『いいや』と返ってくる。
「ここまで愚かな相手となると、むしろ笑えてくるものだな。メリナを虚仮にした分、しっかりと償ってもらうことにしよう」
すでに、戦いの準備は整いつつある。もうしばらくすれば、レイリン王国は戦場となるだろう。
しかし、この時はまだ知らなかった。レイリン王国には、まだ大きな爆弾が残っているということを……。
『絶対者』にファム帝国へと送り届けてもらった私は、『絶対者』が居るうちに、レイリン王国で何が起こっているのか、現帝王である兄上と前帝王である父上に報告したのだ。
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「父上、どうか落ち着いて……」
テーブルを壊す勢いで叩く父上を前に、私はとりあえず制止の声を上げる。
「落ち着く? ふふふっ、メリナ。それは無理というものだよ? 僕のメリナに何てことを……レイリン王国、絶対に許さんっ」
「兄上までっ!?」
予想していたとはいえ、激昂する父上と兄上を前に、私はリリス嬢の前だというのにオロオロとしてしまう。
「父上っ! メリナが帰ったというのは本当ですか!」
と、そこに、私の二番目の兄上レイモンドがやってきて、場はさらなる混乱に包まれる。レイリン王国で何があったのかを余さず聞いてしまったレイ兄上も、類に漏れず、激昂し、今にも宣戦布告をしそうな雰囲気に陥ってしまったのだ。
「宣戦布告は、待った方が良いと思うが?」
と、それまで静観していた『絶対者』姿のリリス嬢の言葉に、父上達は、ようやく私以外の人物が居ることを思い出したようにそちらへと視線を向ける。
「確か、『絶対者』といったか。妹を長らく助けてくれたことには感謝する。謝礼も弾もう。しかし、これは国同士の問題。いくら高ランクとはいえ、一介の冒険者に口を挟ませるわけにはいかない」
許可なく発言をした無礼について咎めるつもりのなさそうな兄上の発言にホッとしていると、危険な発言をしたリリス嬢が私を見ていることに気づく。そこでようやく、口を挟める機会をリリス嬢に与えてもらったのだと理解し、私は会釈をしながら三人と向き合う。
「いいえ、兄上。私も『絶対者』の意見には賛成です」
「メリナ?」
私が声を上げたことで、兄上もようやく話に耳を傾けてくれる気になったらしい。ただし、それは帝王としてであって、その眼光は鋭い。
「メリナ、滅多なことを言うものじゃ「良い。言ってみろ」兄上……」
厳しい視線に気づいたレイ兄上が私を制止しようとしたものの、兄上の言葉で引き下がる。父上はといえば、そんな私達の様子を見て、静観するようだ。
「現在、レイリン王国を纏めるのは、自分の利益にしか興味のない国王です。そして、彼は近々、民衆を激怒させることとなるでしょう」
「その根拠は?」
そう言われて、私は、国王が罪を犯した弟を庇って、軽い処分で済まそうとしていることを詳細に話していく。罪状はもちろんのこと、それに対するギルド員達の対応に関してもだ。そして、私という抑止力がなくなった今、国王は確実に冒険者ギルドを敵に回すであろうことまで告げる。
「なるほど、冒険者ギルドに見限られれば、民衆が離れるのも時間の問題、か」
「民衆が少なくなったところを狙った方が、我が国の被害も少なくて済みますね」
兄上とレイ兄上の分析に、私は話を聞いてもらえたと安心する。
「では、間者を送ろう。どういうわけか、今はレイリン王国で転移防止結界がなくなっているらしいから、情報は取り放題だ」
「転移防止結界……」
そういえば、それは『絶対者』が張ったものだったはずだと思い、後ろを振り返ってみると、盛大に視線を逸らされる。その行動で、十中八九、『絶対者』の仕業だと確信する。
「その間に、どう攻めるのかの作戦立案を優先させておくとしよう」
「メリナは、この国でゆっくりすると良い。ついでに、そこの彼も雇えば良いんじゃないか?」
兄上の言葉は問題なく聞き流していたものの、レイ兄上の言葉はいただけない。
「申し訳ないが、私には大切な目的がある。だから、メリナ様にお仕えすることはできない」
そんなリリス嬢の言葉に、レイ兄上は食い下がったものの、リリス嬢は頑として首を縦に振らなかった。
しばらくすれば、レイ兄上も諦めて、リリス嬢に報酬を渡していた。
「では、私はこれで失礼する」
「っ、また会えますか?」
リリス嬢が退出する前にそう言えば、リリス嬢は前にもらったのと同じペンダントを渡してくる。
「使い方は以前と同じだ。何かあれば、呼ぶと良い」
あらかじめ用意していたであろうそれを目にして、私は随分と、リリス嬢に気遣われていたのだと気づく。
「えぇ、分かりました。今まで、ありがとうございます。『絶対者』」
この国ならば、危険に見舞われることなど早々ないだろう。だから、もしかしたら『絶対者』に、リリス嬢に会えるのは、これが最後かもしれない。
「……失礼する」
そうして、私は『絶対者』と別れた。
一週間以上も前のそのできごとを思い出していた私は、間者からの報告に、もう関係のない国だと分かっていながら頭を抱える。
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どこか楽しそうな様子の兄上にそう告げれば、機嫌の良さそうな声で『いいや』と返ってくる。
「ここまで愚かな相手となると、むしろ笑えてくるものだな。メリナを虚仮にした分、しっかりと償ってもらうことにしよう」
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