わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第五章 リリスの心

第五十一話 ルティアスとの対談(シェイラ視点)

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 お姉様との話を終えて、そのままお姉様は帰ってしまわれるのかと思っていたら、どうやら一泊してくれるとのこと。その日は、大喜びでお姉様についていることになった。
 そして翌日。私の目の前には今、ルティアスが居た。


「……」

「……」


 私に話があると言ったルティアスは、昨日、お姉様と話した部屋で、今度は侍女のベラをつけている状態で向かい合って座っていた。


「その、リリスさんのことなんだけど」

「お姉様が、何か?」


 もちろん、この男の用件がお姉様に関することだということは分かっていた。しかし、やはり納得はできない。なぜ、こんな男にお姉様が惹かれているのか。お姉様ならば、もっと良い相手がいるのではないかとつい思ってしまう。
 熱いお茶が目の前に出されたものの、それに見向きもせず、私はルティアスを睨み付ける。


「その前に、自己紹介をしておこうか。結局、まともに話せていた記憶がないし」

「えぇ、そうですね」


 警戒をしながらも、とりあえずルティアスの言葉には同意する。敵の情報は、できる限り得ていた方が良い。


「僕は、ヴァイラン魔国の三魔将の一人、ルティアス・バルトラン。リリスさんは、僕にとっての片翼で、かけがえのない人なんだ」

「シェイラ・シャルティー。シャルティー公爵家の次女です。リリスお姉様とは腹違いの妹で、私にとってのお姉様は何よりも大切な人です」


 自己紹介と言いながら、結局お姉様をどれだけ思っているのかの主張をしてしまうところは、もう仕方がないだろう。ルティアスにとっては、お姉様との仲を認めてもらいたい相手。私にとっては、お姉様を盗られたくない相手なのだから。


「三魔将というのは、具体的にどのような地位なのですか?」

「うん、三魔将は、魔王直属の部隊の長のことで、近衛兵長みたいなものかな? ただ、それが三に割れているというだけで」

「では、収入はそれなりにあるのですね?」

「うん、そもそも、家は貴族のものだから、リリスさんに苦労をかけることはないよ」

「貴族……貴族としての地位はいかほどのものでしょうか?」

「……多分、そっちで言う伯爵家くらいになるかな。僕達のところでは、下級、中級、上級と貴族階級が分かれていて、その中級が僕の家の地位だから」

「では、家族構成はどうなっていますか?」

「父と母、兄が一人と姉が一人だよ」


 なかば尋問のようになりつつあるものの、私はとにかく収集できるだけの情報を得ていく。今のところ、アルムから聞いていたルティアスの情報との齟齬はない。


「家族の中で問題を抱えている方はいらっしゃいますか?」

「うーん……特には思い浮かばないかな?」

「片翼とは、本当に失えば狂ってしまうほどの存在なのですか?」

「うん、そうだよ。魔王様方は、幼少の頃から精神を鍛えているおかげで、片翼を失うことになっても狂ったりはしないけど、大抵の場合、片翼を失った魔族は狂うし、復讐する相手がいるのであれば、どんな手段を用いてでも成し遂げようとするよ。……僕も、リリスさんを失うのは耐えられない」


 アルムから片翼について聞いた時は、まさかそこまでではないだろうと思っていたものの、実際にルティアスの目に狂気が宿る瞬間を見てしまえば、けっして大袈裟な表現ではなかったのだと気づかされることになる。ただ、それを認めるということは、お姉様がそれだけ想われていることも認めるということで、何とも苦しい。


「それで、リリスさんのことなんだけど……リリスさんの、他の家族はどうしてる、のかな?」


 一通りの質問を終えたところ、今度はルティアスから質問が来る。そして、その質問のおかげで、私は、ルティアスがまだ、お姉様の事情を全く知らないのだと気づく。


「お姉様は、何も言いませんか?」

「うん、何も、言ってはくれない」


 そう答えるルティアスは、どこか寂しそうに目を伏せる。


(お姉様が言わないことを私が言うべきではない、でしょうね)


 お姉様は、身内の恥を隠したいのかもしれない。いや、それ以前に、そもそも自分のことを話すという発想すらないのかもしれない。それを思えば、私はお姉様に任せるという方法を取らざるを得ない。


「お姉様が言わないことを、私が言うわけにはいきません。ただ……一つだけ教えて差し上げます。お姉様は色々なことがあって傷ついています。その傷を癒さない限り、ルティアス自身に目が向くとは思えません」


 事実、お姉様は自分の気持ちの自覚すらできていなかった。あの聡明なお姉様が、あんなに簡単なことを自覚できないというのは、恐らく、家で虐げられ、社交界で除け者にされ、信じられるものが自分の力のみといった環境に身を置き続けてきたせいなのだろう。だから、ルティアスがお姉様の傷を癒すことができた暁には、二人のことを認めてあげても構わないと思ってしまう。


「……分かった。僕は僕で、情報収集をすることにするよ」


 お姉様に関する私の発言で、何を思ったのか、ルティアスは覚悟を決めたような目になる。


「そうなさいませ。私は、お姉様の許可がない限り、何一つ教えませんから」

「うん、ありがとう。シェイラさん」

「礼は不要です」


 温くなったお茶を飲みながら、私はルティアスから目を逸らすのだった。
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