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第六章 復讐
第六十二話 悪夢(アドス視点)
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「おいっ、出てこい! 今日こそ耳を揃えて金を返せっ!」
「っ、うるさい! 儂はシャルティー公爵だぞっ! 下民が話しかけて良い存在じゃないっ」
「へっ、何が公爵だ! テメェなんか、ただの借金野郎だ! 良いから、さっさと返しやがれっ」
扉をぶち破らんばかりの勢いの借金取りに、儂はようやく治った体の痛みに安心する暇もなく、玄関扉を前に怒鳴り声を上げる。
「そんなものは知らん! さっさと失せろ!」
「はぁっ? テメェが借りたんだろうがっ! 六千万の借用書の写しはそっちにあるはずだぞ? あぁっ? 何なら出るとこ出てやろうか?」
「知らんっ! 失せろ! さもなくば殺すぞっ!」
「はっ、やれるもんならやってみろってんだ! 明日までに返ってこなけりゃ、押収させてもらうからなっ!」
『殺す』という脅しが効いたのか、去っていく借金取りに、儂はようやく息を吐く。現在、シャルティー公爵家は、身に覚えのない借金で危機に瀕していた。いや、確かに借用書はあるのだが、そんなもの、我が家においては大したことのないもの、のはずだった。
「なぜ、金がない?」
シェイラが去ってから一月。シャルティー公爵家の財産は、底をついていた。あれだけ潤沢にあった財産が、今は欠片も残っていないのだ。資金を得るべく、税の引き上げを指示しようにも、それを届ける使用人も居ない。ここのところは外食続きで、家で料理人の料理を食べることもなくなっていた。
『金のなる公爵家』。それが、シャルティー公爵家の別名で、実際、金は使いきれないというほどに溢れ出るものだった。何が原因でそうなったのかは、きっとリリス辺りが知っているのだろうが、今、そのリリスはここには居ない。結論として、原因は不明だった。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
シェイラが、嫉妬したリリスによって拐われて、王家と縁続きになることが叶わないどころか、いつの間にか財産が目減りし、借金取りに追われる事態にまでなっている。そして、それを見て、妻のニナは実家へと戻ってしまった。ここのところ、不運の連続ばかりで、さすがに儂も疲れてきていた。しかし、眠るわけにもいかない。
「おのれ、誰が儂に呪いをかけた?」
現在、儂は呪いと思われるものによって、満足に眠ることもできていなかった。毎日夢に見るのは、暴力と暴言の嵐。嘲笑と蔑みの影。魔物に襲われる恐怖。それと、何か言いたげに儂を見つめ続ける幼いリリス。それらが、毎日の夢の中で、とてもリアルに映し出されていた。
「儂は、公爵だぞっ!」
その地位は、リリスの母親から奪い取ったものであるにもかかわらず、儂は声高に叫ぶ。
「呪いをかけた者なぞ、殺してくれるっ」
呪いを解くには、解呪を専門とした者に金を払って頼むしかない。しかし、今、この公爵家には金がない。
しかも、儂には街の中を歩くような経験はほとんどないため、解呪を頼みに行くのも困難だ。せいぜいが、視察という名の豪遊や、有名店での食事のために街へ行ったことがある程度で、解呪を専門とする者とはどこに行けば会えるのかすら知らないのだ。
「あの使用人どもめっ。儂に使ってもらった恩も忘れて出ていきおってっ!」
腹が立って仕方ない儂は、手近にあった壺を壁に投げつける。それが、どれだけ価値のあるものかも知らず、とにかく当たり散らすことしかできない。
幼い頃から、領地経営の勉強などほとんどしてこなかった。結婚してからはリリスの母親任せ。母親が死んでからは、使用人任せ。途中からは、リリスに任せてきたために、何をどうすれば良いのかなど、全く分からない。分かるのは、書類にサインすることが仕事の一環だということくらいだ。そして、その書類も、どこから送られてくるのかすら、知らなかった。
閉ざされた公爵家は現在、受け取り手の居ない書類が溜まりに溜まっており、領地経営はどんどん破綻していた。領民もそれを感じ取って逃げ出す者が多く、今やこのシャルティー公爵家の領地はガラガラだ。
そんな現状に気づきもせず、儂は一通り壊せるものを壊して鬱憤を晴らしていく。
「はぁっ、はぁっ……」
寝不足の体に疲れが溜まれば、必然的に猛烈な眠気が襲い来る。
「ぐ……ぅ……」
あまりの眠気に膝をつけば、視界がグニャリと歪む。
「儂、は……」
そうして眠りに落ちた儂は、再び、辛い悪夢にうなされて、恐怖に飛び起きることとなるのだった。
「っ、うるさい! 儂はシャルティー公爵だぞっ! 下民が話しかけて良い存在じゃないっ」
「へっ、何が公爵だ! テメェなんか、ただの借金野郎だ! 良いから、さっさと返しやがれっ」
扉をぶち破らんばかりの勢いの借金取りに、儂はようやく治った体の痛みに安心する暇もなく、玄関扉を前に怒鳴り声を上げる。
「そんなものは知らん! さっさと失せろ!」
「はぁっ? テメェが借りたんだろうがっ! 六千万の借用書の写しはそっちにあるはずだぞ? あぁっ? 何なら出るとこ出てやろうか?」
「知らんっ! 失せろ! さもなくば殺すぞっ!」
「はっ、やれるもんならやってみろってんだ! 明日までに返ってこなけりゃ、押収させてもらうからなっ!」
『殺す』という脅しが効いたのか、去っていく借金取りに、儂はようやく息を吐く。現在、シャルティー公爵家は、身に覚えのない借金で危機に瀕していた。いや、確かに借用書はあるのだが、そんなもの、我が家においては大したことのないもの、のはずだった。
「なぜ、金がない?」
シェイラが去ってから一月。シャルティー公爵家の財産は、底をついていた。あれだけ潤沢にあった財産が、今は欠片も残っていないのだ。資金を得るべく、税の引き上げを指示しようにも、それを届ける使用人も居ない。ここのところは外食続きで、家で料理人の料理を食べることもなくなっていた。
『金のなる公爵家』。それが、シャルティー公爵家の別名で、実際、金は使いきれないというほどに溢れ出るものだった。何が原因でそうなったのかは、きっとリリス辺りが知っているのだろうが、今、そのリリスはここには居ない。結論として、原因は不明だった。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
シェイラが、嫉妬したリリスによって拐われて、王家と縁続きになることが叶わないどころか、いつの間にか財産が目減りし、借金取りに追われる事態にまでなっている。そして、それを見て、妻のニナは実家へと戻ってしまった。ここのところ、不運の連続ばかりで、さすがに儂も疲れてきていた。しかし、眠るわけにもいかない。
「おのれ、誰が儂に呪いをかけた?」
現在、儂は呪いと思われるものによって、満足に眠ることもできていなかった。毎日夢に見るのは、暴力と暴言の嵐。嘲笑と蔑みの影。魔物に襲われる恐怖。それと、何か言いたげに儂を見つめ続ける幼いリリス。それらが、毎日の夢の中で、とてもリアルに映し出されていた。
「儂は、公爵だぞっ!」
その地位は、リリスの母親から奪い取ったものであるにもかかわらず、儂は声高に叫ぶ。
「呪いをかけた者なぞ、殺してくれるっ」
呪いを解くには、解呪を専門とした者に金を払って頼むしかない。しかし、今、この公爵家には金がない。
しかも、儂には街の中を歩くような経験はほとんどないため、解呪を頼みに行くのも困難だ。せいぜいが、視察という名の豪遊や、有名店での食事のために街へ行ったことがある程度で、解呪を専門とする者とはどこに行けば会えるのかすら知らないのだ。
「あの使用人どもめっ。儂に使ってもらった恩も忘れて出ていきおってっ!」
腹が立って仕方ない儂は、手近にあった壺を壁に投げつける。それが、どれだけ価値のあるものかも知らず、とにかく当たり散らすことしかできない。
幼い頃から、領地経営の勉強などほとんどしてこなかった。結婚してからはリリスの母親任せ。母親が死んでからは、使用人任せ。途中からは、リリスに任せてきたために、何をどうすれば良いのかなど、全く分からない。分かるのは、書類にサインすることが仕事の一環だということくらいだ。そして、その書類も、どこから送られてくるのかすら、知らなかった。
閉ざされた公爵家は現在、受け取り手の居ない書類が溜まりに溜まっており、領地経営はどんどん破綻していた。領民もそれを感じ取って逃げ出す者が多く、今やこのシャルティー公爵家の領地はガラガラだ。
そんな現状に気づきもせず、儂は一通り壊せるものを壊して鬱憤を晴らしていく。
「はぁっ、はぁっ……」
寝不足の体に疲れが溜まれば、必然的に猛烈な眠気が襲い来る。
「ぐ……ぅ……」
あまりの眠気に膝をつけば、視界がグニャリと歪む。
「儂、は……」
そうして眠りに落ちた儂は、再び、辛い悪夢にうなされて、恐怖に飛び起きることとなるのだった。
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