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第六章 復讐
第六十七話 戦争(エルヴィス視点)
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『絶対者』への発言を撤回したことで収まっていた民の流出は、何者かが流したリリスとの婚約破棄の真相が伝わるにつれて、また、始まっていた。それに気づけなかった私は、後に、愚王として名を残すこととなる。
父上が死に、ようやく私の天下が回ってきたと喜んでいられたのは、たったの一日だけだった。
「ほ、報告します! ファム帝国より、宣戦布告がおこなわれました!」
「何だと!?」
まだ座りなれない玉座に腰掛け、謁見を行っていた私は、突如もたらされた兵士からのその報に目を剥く。
「開戦は三日後。降伏するなら今のうちだと申しております」
「っ、誰が降伏などするものかっ! 兵を集めろっ! 迎え撃つぞ!」
そう声を荒げると、兵士は敬礼を返して退出していく。
(くそっ、なぜ、父上が亡くなったばかりの今、来るんだ! それに、ファム帝国といえば、母上の母国だぞ!?)
なぜ、ファム帝国から宣戦布告されたのかも分からない私は、いきなり戦争になりそうなこの状況に顔には出さないながらも混乱する。
まさか、母上がこの国で虐げられてきたことがファム帝国に伝わり、そのせいで宣戦布告を受けているなど夢にも思わず、私は早々に謁見を切り上げて兵団長の元へと向かう。
(? 何だ? やけに兵の数が少ないような……?)
民の流出なんて全く知らない私は、徴兵されているはずの兵の数があまりに少ないことに違和感を覚える。レイリン王国の軍部は、上層部は貴族で固めているものの、実際に戦いに出すのは平民だ。そして、五十年近く平和な世が続いたため、今、戦争を知る者はそう多くはない。
「ドルトン、なぜ、こんなにも兵が少ない?」
ようやく見つけた兵団長、ドルトンの姿に、私は真っ先にその質問をする。
「それは……」
「民がどんどんこの国から逃げてるんっすよ。この国には未来がないってね」
言い淀むドルトンの背後から顔を出した男は、どこか私をにらむような目付きでそう応える。
「誰だ?」
「これはこれは、自己紹介が遅れました。私は、この兵団の副団長、バリス・リガートと申しやす」
随分と無礼な物言いのこの男は、どうやらリガート伯爵家の息子らしい。しかし、にらまれる覚えのない私は、そんなバリスの言葉にムッとする。
「バリス、控えろ」
「嫌っすねぇ。団長だって、何でこんなことになってるのかくらい分かってんでしょ?」
唸るようにバリスを止めるドルトンに、バリスはジロリとドルトンをにらむ。
「……陛下、一つだけ、聞きたいことがございます。どうか、お許しいただけませんか?」
わけが分からないながらも、私はドルトンの言葉に許可を出す。本音を言えば、バリスのような男はさっさと不敬罪で牢に入れてしまいたいところではあったものの、この兵士の数を見れば、一人でも戦力は多い方が良いことくらい分かる。とりあえずは我慢してやって、今はドルトンの話を聞くのが優先だった。
「話してみろ」
「はっ。それでは……なぜ、陛下はリリス嬢との婚約を破棄なさったのでしょうか?」
てっきり、兵が少ない理由に関しての何かを問われるものだと思っていたら、全く関係のなさそうなリリスの話が出てきて拍子抜けする。
「あの女は、ホーリーを虐げた。王妃には相応しくないだろう」
「……さよう、ですか」
その時、ギリッと何かが軋むような音が聞こえた気がしたが、私は気にせず話を続ける。
「それで? どれだけ兵は集まりそうなんだ? それによって、今後が決まるのだろう?」
一応、家庭教師からは戦争時には、まず、兵の数の把握に務めるよう教えてもらっている。だから、私は当然の問いかけをしたのだが……ドルトンの私を見る目は冷めきっていた。
「恐らく、一人も集まりますまい。むしろ、これからどんどん数を減らしていくことでしょう」
「何だと?」
意味の分からないドルトンの言葉に、私はどういうことかを尋ねようとして、次の言葉に激昂することとなる。
「このままでは勝ち目はありますまい。降伏を、おすすめします」
「っ、バカな! 戦わずして降伏などあり得ない! ドルトン、お前は兵団長からの降格処分を言い渡す!」
「……御意」
感情のままに叫び、罰を与えた私は、今度こそ話の通じる相手をと思い、ドルトンの息子、ロッシュを呼び出す。
「お任せください。俺が、何としてもファム帝国の進行を防いでみせます!」
私は、気づかなかった。ドルトンは、この国を見限ったのだと。そして、開戦する頃には、ドルトンは兵団長ではなくなったことを理由に兵士を辞め、貴族としての爵位すら返上し、出奔してしまうなど、思いもしなかった。
開戦した直後、ガランとした街をファム帝国の騎士達は駆け抜け、ロッシュ以外ほとんど残っていない兵士達はその勢いに逃げ出し、事実上、無血の状態で、私の元まで騎士達が来るなど、予想もしていなかった。
私を含め、この国に残っていた貴族は全て捕らえられ、国は完全に占領されてしまう。ホーリーとも離ればなれになり、無事かどうかの確認すらできない。
『たった一日の愚王』。それが、後世へと語り継がれる、私の名だった。
父上が死に、ようやく私の天下が回ってきたと喜んでいられたのは、たったの一日だけだった。
「ほ、報告します! ファム帝国より、宣戦布告がおこなわれました!」
「何だと!?」
まだ座りなれない玉座に腰掛け、謁見を行っていた私は、突如もたらされた兵士からのその報に目を剥く。
「開戦は三日後。降伏するなら今のうちだと申しております」
「っ、誰が降伏などするものかっ! 兵を集めろっ! 迎え撃つぞ!」
そう声を荒げると、兵士は敬礼を返して退出していく。
(くそっ、なぜ、父上が亡くなったばかりの今、来るんだ! それに、ファム帝国といえば、母上の母国だぞ!?)
なぜ、ファム帝国から宣戦布告されたのかも分からない私は、いきなり戦争になりそうなこの状況に顔には出さないながらも混乱する。
まさか、母上がこの国で虐げられてきたことがファム帝国に伝わり、そのせいで宣戦布告を受けているなど夢にも思わず、私は早々に謁見を切り上げて兵団長の元へと向かう。
(? 何だ? やけに兵の数が少ないような……?)
民の流出なんて全く知らない私は、徴兵されているはずの兵の数があまりに少ないことに違和感を覚える。レイリン王国の軍部は、上層部は貴族で固めているものの、実際に戦いに出すのは平民だ。そして、五十年近く平和な世が続いたため、今、戦争を知る者はそう多くはない。
「ドルトン、なぜ、こんなにも兵が少ない?」
ようやく見つけた兵団長、ドルトンの姿に、私は真っ先にその質問をする。
「それは……」
「民がどんどんこの国から逃げてるんっすよ。この国には未来がないってね」
言い淀むドルトンの背後から顔を出した男は、どこか私をにらむような目付きでそう応える。
「誰だ?」
「これはこれは、自己紹介が遅れました。私は、この兵団の副団長、バリス・リガートと申しやす」
随分と無礼な物言いのこの男は、どうやらリガート伯爵家の息子らしい。しかし、にらまれる覚えのない私は、そんなバリスの言葉にムッとする。
「バリス、控えろ」
「嫌っすねぇ。団長だって、何でこんなことになってるのかくらい分かってんでしょ?」
唸るようにバリスを止めるドルトンに、バリスはジロリとドルトンをにらむ。
「……陛下、一つだけ、聞きたいことがございます。どうか、お許しいただけませんか?」
わけが分からないながらも、私はドルトンの言葉に許可を出す。本音を言えば、バリスのような男はさっさと不敬罪で牢に入れてしまいたいところではあったものの、この兵士の数を見れば、一人でも戦力は多い方が良いことくらい分かる。とりあえずは我慢してやって、今はドルトンの話を聞くのが優先だった。
「話してみろ」
「はっ。それでは……なぜ、陛下はリリス嬢との婚約を破棄なさったのでしょうか?」
てっきり、兵が少ない理由に関しての何かを問われるものだと思っていたら、全く関係のなさそうなリリスの話が出てきて拍子抜けする。
「あの女は、ホーリーを虐げた。王妃には相応しくないだろう」
「……さよう、ですか」
その時、ギリッと何かが軋むような音が聞こえた気がしたが、私は気にせず話を続ける。
「それで? どれだけ兵は集まりそうなんだ? それによって、今後が決まるのだろう?」
一応、家庭教師からは戦争時には、まず、兵の数の把握に務めるよう教えてもらっている。だから、私は当然の問いかけをしたのだが……ドルトンの私を見る目は冷めきっていた。
「恐らく、一人も集まりますまい。むしろ、これからどんどん数を減らしていくことでしょう」
「何だと?」
意味の分からないドルトンの言葉に、私はどういうことかを尋ねようとして、次の言葉に激昂することとなる。
「このままでは勝ち目はありますまい。降伏を、おすすめします」
「っ、バカな! 戦わずして降伏などあり得ない! ドルトン、お前は兵団長からの降格処分を言い渡す!」
「……御意」
感情のままに叫び、罰を与えた私は、今度こそ話の通じる相手をと思い、ドルトンの息子、ロッシュを呼び出す。
「お任せください。俺が、何としてもファム帝国の進行を防いでみせます!」
私は、気づかなかった。ドルトンは、この国を見限ったのだと。そして、開戦する頃には、ドルトンは兵団長ではなくなったことを理由に兵士を辞め、貴族としての爵位すら返上し、出奔してしまうなど、思いもしなかった。
開戦した直後、ガランとした街をファム帝国の騎士達は駆け抜け、ロッシュ以外ほとんど残っていない兵士達はその勢いに逃げ出し、事実上、無血の状態で、私の元まで騎士達が来るなど、予想もしていなかった。
私を含め、この国に残っていた貴族は全て捕らえられ、国は完全に占領されてしまう。ホーリーとも離ればなれになり、無事かどうかの確認すらできない。
『たった一日の愚王』。それが、後世へと語り継がれる、私の名だった。
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