66 / 78
第六章 復讐
第六十六話 一時の幸せ(エルヴィス視点)
しおりを挟む
父上が病に倒れたこと、今日から自分が父の代わりに政治を取り仕切ること、かつて、父上が『絶対者』を生死にかかわらず捕縛するよう告げた内容を撤回し、『絶対者』に父上の病気を治してほしいことを国民の前で告げてから、一月が経った。
ホーリーを牢屋から出し、妃として迎え入れることを貴族達の前で発表してからも一月だ。今は、私の取り巻きであり、学園時代のホーリーの友人でもあった宰相子息と兵団長子息、ジスト公爵家子息とともに、体調を崩したホーリーを見舞いに行っていた。
「ホーリー、大丈夫か?」
「エルヴィス様、に、リオン様、ロッシュ様、ダルト様?」
そうそうたる顔ぶれを前に、ホーリーはその愛らしい顔を困惑に歪ませたが、すぐに『大丈夫です』と答えてくれる。
「そろそろ医師が来る。何かほしいものはないか?」
「いえ、その……今は、匂いで気分が悪くなるみたいで、あまりほしいものはないです」
その答えに、花束を持ってきていた宰相子息、リオンと兵団長子息、ロッシュが眉をハの字にする。
「そうでしたか。では、香りの強い花もダメですね」
「えっと、すみません」
「果物を持ってきたんだが……無理か?」
「果物なら、食べられそうです」
落ち込むリオンと顔を輝かせるロッシュ。
「僕は、可愛いぬいぐるみを持ってきました。これなら、大丈夫ですよね?」
「はい、ありがとうございます」
ただ、最初に受け取った贈り物は、ダルトの持ってきたクマのぬいぐるみだった。ぬいぐるみはそこそこ大きく、ホーリーが抱き締められるほどもある。
「失礼します。医師の方がいらっしゃいました」
「通せ」
まだ、ろくに話してもいなかったが、まずはホーリーの状態を診てもらうことが優先だ。医師がホーリーにいくつか質問をしている間、私達は全員がやきもきする。
「ふぅむ、なるほど」
「ホーリーは、大丈夫なのか?」
そう問いかけてみれば、医師はホーリーが苦しんでいるというのに笑顔を見せる。
「おめでとうございます。妊娠ですよ」
「っ!?」
その言葉に、私は思わず呆然とする。
「おめでとうございます。エルヴィス様」
「おめでとうございますっ」
「おめでとうございます」
リオン、ロッシュ、ダルトから祝いの言葉をもらって、私は初めて、その事実を理解し始める。
「エルヴィス様?」
「あぁ、私達の子だ。良かった。良くやった。ホーリー」
「はいっ。男の子ですかね? それとも、女の子?」
「どちらにしても、可愛い子供であることに間違いない」
喜びに溢れていた私は、直後慌ただしい廊下を誰かが駆ける音に振り向くことになる。
「国王陛下の容態が悪化しました! どうぞ、こちらへっ!」
そこに来ていたのは、宰相。そして、報告された言葉は、待ちに待った父上の容態悪化の報告。一月もの間、父上は夢でうなされながら、毎日をどうにか生き長らえてきたものの、とうとう、その日がやってきたらしい。長くはないと宣告されておきながら、ここまで待たされたことにはヒヤヒヤしたものの、『絶対者』なる冒険者が見つかることもなく、全てが終わろうとしている。
「分かった。すぐに向かう」
父上が死ねば、正真正銘、私は国王となり、この国で思う存分ホーリーを愛せる。税もさらに重くすることが可能となるし、そうなれば、もっと贅沢ができる。
ホーリーや他の面々にはこの場に残って休んでおくように告げて、私は早足で父上の元へと向かう。
「父上の状態は?」
ホーリーを診たのとは別の医師が父上の側に控える中、私はまず、それを問いかける。
「呼吸が乱れておいでです。最近は食も細く、体力もない状態でしたので……今夜辺りには……」
「そうか……」
夢でも見ているのか、父上は寝言で『レイア』という名前を何度も呼ぶ。
(確か、リリスの実の母親だったか?)
彼女と父上の関係は知らない。しかし、もしかしたら、二人に何かしらの関係があったからこそ、私はリリスの婚約者にされたのかもしれなかった。
(忌々しい。しかし、リリスはさすがにどこかでのたれ死んだのだろうな。ここまで報告が来ないとなれば、そうでなければおかしい)
自分の婚約者として、まるで相応しくなかったリリスを思い出し、私は顔を歪める。と、それを宰相は、苦しむ父上の様子を見てのものだと思ったらしく、この部屋から離れる提案をしてくる。
「いや、このままここに居る」
そうして私は、父上が息を引き取るその時まで、ずっと傍らで待ち続けた。ようやく、私の時代が来るのだと心を浮き立たせながら待って、その瞬間がやってきた時には、頬が緩みそうになるのを抑える必要があるほどだった。
こうして、私は、名実ともにレイリン王国国王となり……後に、愚王として名を馳せることとなる。
ホーリーを牢屋から出し、妃として迎え入れることを貴族達の前で発表してからも一月だ。今は、私の取り巻きであり、学園時代のホーリーの友人でもあった宰相子息と兵団長子息、ジスト公爵家子息とともに、体調を崩したホーリーを見舞いに行っていた。
「ホーリー、大丈夫か?」
「エルヴィス様、に、リオン様、ロッシュ様、ダルト様?」
そうそうたる顔ぶれを前に、ホーリーはその愛らしい顔を困惑に歪ませたが、すぐに『大丈夫です』と答えてくれる。
「そろそろ医師が来る。何かほしいものはないか?」
「いえ、その……今は、匂いで気分が悪くなるみたいで、あまりほしいものはないです」
その答えに、花束を持ってきていた宰相子息、リオンと兵団長子息、ロッシュが眉をハの字にする。
「そうでしたか。では、香りの強い花もダメですね」
「えっと、すみません」
「果物を持ってきたんだが……無理か?」
「果物なら、食べられそうです」
落ち込むリオンと顔を輝かせるロッシュ。
「僕は、可愛いぬいぐるみを持ってきました。これなら、大丈夫ですよね?」
「はい、ありがとうございます」
ただ、最初に受け取った贈り物は、ダルトの持ってきたクマのぬいぐるみだった。ぬいぐるみはそこそこ大きく、ホーリーが抱き締められるほどもある。
「失礼します。医師の方がいらっしゃいました」
「通せ」
まだ、ろくに話してもいなかったが、まずはホーリーの状態を診てもらうことが優先だ。医師がホーリーにいくつか質問をしている間、私達は全員がやきもきする。
「ふぅむ、なるほど」
「ホーリーは、大丈夫なのか?」
そう問いかけてみれば、医師はホーリーが苦しんでいるというのに笑顔を見せる。
「おめでとうございます。妊娠ですよ」
「っ!?」
その言葉に、私は思わず呆然とする。
「おめでとうございます。エルヴィス様」
「おめでとうございますっ」
「おめでとうございます」
リオン、ロッシュ、ダルトから祝いの言葉をもらって、私は初めて、その事実を理解し始める。
「エルヴィス様?」
「あぁ、私達の子だ。良かった。良くやった。ホーリー」
「はいっ。男の子ですかね? それとも、女の子?」
「どちらにしても、可愛い子供であることに間違いない」
喜びに溢れていた私は、直後慌ただしい廊下を誰かが駆ける音に振り向くことになる。
「国王陛下の容態が悪化しました! どうぞ、こちらへっ!」
そこに来ていたのは、宰相。そして、報告された言葉は、待ちに待った父上の容態悪化の報告。一月もの間、父上は夢でうなされながら、毎日をどうにか生き長らえてきたものの、とうとう、その日がやってきたらしい。長くはないと宣告されておきながら、ここまで待たされたことにはヒヤヒヤしたものの、『絶対者』なる冒険者が見つかることもなく、全てが終わろうとしている。
「分かった。すぐに向かう」
父上が死ねば、正真正銘、私は国王となり、この国で思う存分ホーリーを愛せる。税もさらに重くすることが可能となるし、そうなれば、もっと贅沢ができる。
ホーリーや他の面々にはこの場に残って休んでおくように告げて、私は早足で父上の元へと向かう。
「父上の状態は?」
ホーリーを診たのとは別の医師が父上の側に控える中、私はまず、それを問いかける。
「呼吸が乱れておいでです。最近は食も細く、体力もない状態でしたので……今夜辺りには……」
「そうか……」
夢でも見ているのか、父上は寝言で『レイア』という名前を何度も呼ぶ。
(確か、リリスの実の母親だったか?)
彼女と父上の関係は知らない。しかし、もしかしたら、二人に何かしらの関係があったからこそ、私はリリスの婚約者にされたのかもしれなかった。
(忌々しい。しかし、リリスはさすがにどこかでのたれ死んだのだろうな。ここまで報告が来ないとなれば、そうでなければおかしい)
自分の婚約者として、まるで相応しくなかったリリスを思い出し、私は顔を歪める。と、それを宰相は、苦しむ父上の様子を見てのものだと思ったらしく、この部屋から離れる提案をしてくる。
「いや、このままここに居る」
そうして私は、父上が息を引き取るその時まで、ずっと傍らで待ち続けた。ようやく、私の時代が来るのだと心を浮き立たせながら待って、その瞬間がやってきた時には、頬が緩みそうになるのを抑える必要があるほどだった。
こうして、私は、名実ともにレイリン王国国王となり……後に、愚王として名を馳せることとなる。
44
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
本編完結済み。
続きのお話を、掲載中です。
続きのお話も、完結しました。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる