わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第六章 復讐

第六十五話 罪悪感

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 わたくしは、確かに虐げられてきた。言葉で、視線で、暴力で。
 気にしていないつもりで、実際に何ともない状態で振る舞ってきた。だから、ルティアスが復讐をしたいと言い出した時も、何のことか分からないほどだったのだ。


(ですが、ルティアスに許可を出したことは、後悔しませんわ)


 わたくしの話を真剣に聞いて、わたくしのために憤って、わたくしのために復讐したいと言ったルティアス。
 わたくしが感じることのできなかった感情を、代わりに吐き出すルティアスに、わたくしは、両親に関してだけは、シェイラの許可も取ることを条件に許可を出した。彼らはわたくしの両親でもあり、シェイラの両親でもあるのだから、それは当然のことだった。


「シェイラさんから許可を取ってきたよ。リリス」


 何度呼ばれてもむず痒いルティアスからの『リリス』の一言。
 ドラグニル竜国へ転移して、魔王城と見まごう竜珠殿に住むシェイラの元を訪ねたわたくしとルティアスだったが、ルティアスは、あっさりシェイラから許可をもぎ取ってきた。
 その後は、ルティアスから具体的な復讐方法を教えてもらい、その進捗も逐一報告してもらうこととなった。


(ルティアスのお兄さんが、主人公の能力の強化版だったのには驚きましたわね)


 ルティアスの兄、ラディスの能力は、顔を知っている相手の夢の中であれば、どんなに離れていても訪れることができる上、その夢の記憶を残すかどうかの選択もできるという。夢を操るのはもちろん、相手を強制的に夢の中へ引きずり込むことも可能だというから、どちらかというと凶悪な能力ではないかと思える。弱点がないわけではないらしいけれど、それに関しては今のところ知らない。


「リリス、今日は、リリスの父親に、借用書のサインをさせることに成功したよ」

「リリス、今日は、義母親が家を出て実家に戻ったみたいだよ」

「リリス、今日は、借金取りが父親のところに訪れたみたいだよ」

「リリス、今日は、義母親が贅沢三昧を始めたみたいだよ」


 日々の報告を聞けば、復讐が順調なことは良く分かった。どこか心苦しさを感じないわけではなかったものの、同時にあまりの呆気なさに呆然としてしまう気持ちの方が強かった。わたくしが、必死になって保ってきた家の環境が、ちょっとルティアスが手を加えるだけで、どんどん最悪な方向へと進み出す様子は、不思議にも思えた。


「ル、ルティは、わたくしのために行動していて、苦しくはありませんの?」


 一月前、わたくしが挙動不審になった頃から、とことん甘いルティアスに、わたくしはそっと心苦しさの源に関して問いかけてみた。昨日は抱き締められてはぐらかされてしまったものの、今日はしっかりと問い詰めておくつもりだ。

 わたくしの問いかけに、ルティアスは『ルティ』と呼ばれたことに機嫌を良くして応える。


「リリスは心配し過ぎだよ。僕なら何ともないから」


 ルティアスは、きっと魔将の一人でありながら、暗殺を生業としている魔族だろう。実際に、それらしいことも聞いているため、まず間違いない。けれど、だからといって、人を貶めることに罪悪感を抱かずにいられるかどうかは別問題だと思うのだ。


「本当に、大丈夫ですの? 無理は、していません?」


 いつもなら、『心配なんてしていませんわっ』くらいのことを言えるわたくしも、今はルティアスのことが気がかりでそんな気にもなれない。


「……こっちにおいで、リリス」


 わたくしの真剣な様子に気づいたルティアスは、ソファーの隣の席をポンポンと叩く。おずおずとそこに腰かけると、ルティアスはわたくしの目をしっかりと見つめながら話し始める。


「僕はね、リリスが大好きで、愛しくて、愛していて、もう、気持ちが制御できないほどなんだ」


 そして始まった、ルティアスの口説きに、わたくしは思わず反論しかけて、次の言葉で黙り込む。


「だから、リリスを傷つけた奴らが許せない」


 そう言ったルティアスの目は真剣で、わたくしは思わず息を呑む。


「非情だと思われるかもしれないけど、僕は、この復讐に何一つ、心苦しさなんて感じていないんだ。むしろ、どうしたらリリスを苦しめた奴らをより苦しめられるか考えるのは楽しいくらいだよ」


 くらい炎がルティアスの目の奥に見えて、わたくしは戸惑いながらルティアスの言葉を待つ。


「こんな男でごめんね。でも、僕は、どうしてもリリスが大切だから、リリスが苦しんだ以上に、奴らが苦しめば良いと思ってしまうんだ」


 ふっと、表情を緩めたルティアスに、わたくしも奇妙な緊張感が解けるのを感じる。


「ごめんね。リリスが復讐してほしくないと言うのなら止めるけど、そうじゃないなら、復讐させてほしい。すでに、彼らは自滅しかけているけど、それに手を加えるくらいのことはさせてほしい。リリス、愛してるよ」


 昨日と同じように腕の中に閉じ込められたわたくしは、愛の言葉に戸惑いながら、何と返せば良いのか分からず黙り込んでしまう。


(ルティアスが復讐したいのは、わたくしが大切だから……?)


 確かに、言葉を繋ぎ合わせればその結論になったはずなのだけれど、今まで面と向かって言われなかったわたくしは、何となくそれを信じられないでいたらしい。心にのしかかっていた重りがふっとなくなったような感覚に見舞われながら、わたくしはルティアスの腕の中でじっとする。


「リリス、ごめん。でも、嫌いにならないで」


 捨てられた子犬のように情けない声を出すルティアスに、わたくしは、気づけばその白い角が生えた頭を優しく撫でていた。


「嫌いになんて、なりませんわ。ありがとうございます。ルティ」

(だって、とっくにわたくしは、ルティアスに恋しているのですから)


 ルティアスはビクッと固まった後、力を込めて抱き締めてきて、わたくしの耳元で、小さく『ありがとう』と告げるのだった。
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