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悪役令嬢の侍女に転生したので、私の魔法で断罪は阻止します!…唯一使えるハクション魔法で断罪阻止できるの?
しおりを挟む私、子爵令嬢セシリア・モンテーニュは、来年から魔法学園学園に通われる侯爵令嬢アンジェリーヌ・ヴィルヌーヴ様の侍女として、学園に同行する。
そして、今日はアンジェリーヌ様にご挨拶に伺う日だった。
アンジェリーヌ様にお目にかかった瞬間、私の頭の中に軽やかなBGMと明るい声が聞こえた。
「華やかな学園で、スイーツと恋愛の両方を味わう贅沢な時間を。」
「贅沢な学園生活を味わいつつ、美味しいスイーツとイケメン貴族たちとの甘い恋愛を楽しめる!」
「『恋するスイーツパラダイス』で自分だけのおとぎ話を紡いでみませんか?」
私は、自分が前世でプレイしていた乙女ゲーム『恋するスイーツパラダイス』の世界に転生したことを思い出した。
アンジェリーヌ様は魔法の才能にあふれた超優秀な美少女。
第三王子アルベール・ロシェール様の婚約者であり、エリートだけが入学できる魔法学園に首席で入学する。
このゲームは『恋するスイーツパラダイス』というだけあって、食べ物がたくさん出てくるので、給仕する人物が必要だったのだろう。
学園には、私のような入学試験に落ちた人間が、侍女として学園に同行できるシステムがある。
その日、私は混乱して挨拶もままならなかった。
私はただの落ちこぼれ同行者でもあるのに、アンジェリーヌ様は私に対して敬意を払って接してくださり、「いっしょに頑張りましょう」と暖かい声をかけてくださった。
私はなんとかご挨拶を終え、帰宅してすぐに、自室に戻って状況を整理した。
ゲームでは学園内のカフェで働くパティシエであるアイリ・フォンテーヌが、王子や宰相の息子、護衛騎士や学園の教師など貴族の攻略対象者たちと恋をする。
そして、アンジェリーヌ様は第三王子ルートに進んだ場合、悪役令嬢となる。
アイリに嫌がらせをする役回りだが、今日会った限りでは、アンジェリーヌ様はそんな方には見えなかった。
私は学園に同行し、アンジェリーヌ様を注視し、場合によっては、アンジェリーヌ様の断罪を阻止する。
しかし、私には問題があった。
唯一使えるのが「人にくしゃみをさせる」という固有魔法だけ、ということだ。
幼い頃にこの魔法が使えることに気がついたが、あまりにショボくて恥ずかしかったため親にも言っていない。
実際、魔力検査にもひっかからないほど微弱な力だ。
これで断罪阻止などできるのだろうか。うーん。
*************
それから数か月後、私はアンジェリーヌ様に同行し魔法学園へ入学した。
そしてわかったことは、「アンジェリーヌ様めっちゃ良い子!!!」。
ご自身の才能にあぐらをかかず毎日予習復習は欠かさないし、使用人の私たちにまで気遣いをして下さる。
まさしく理想の上司。
例えアイリが第三王子と接近しようと、嫌がらせをするような性格ではない。
私はアンジェリーヌ様を全力でお守りすることを誓った。
だが、私のようなモブにできることは限られる。「やってない」を証明するのは難しいのだ。
そこで、日付と時間などを事細かに書いた業務日誌を残し、これを基にした報告書を自主的に侯爵家へ送ることにした。原本は自分で保管しておく。
いざというとき、アリバイになることを願って。
また、「スイーツは太る」ことをアンジェリーヌ様に伝え、カフェのパティシエであるアイリとの接点を極力減らした。
私が太ることを脅しすぎたせいか、アンジェリーヌ様は運動のために乗馬部に入られた。
交友関係が広がったとおっしゃっていたので、まぁそれは良しとしよう。
しかし、私の思いとは裏腹に、物語はシナリオ通り進んでいく。
アイリはパティシエながら、貴族令息たちや第三王子との距離を縮めていっていた。
アイリが実は駆け落ちした公爵令嬢の娘で会ったことも判明した。
「アンジェリーヌ様がアイリに嫉妬している」との噂がどこからともなく聞こえてくるのだった。
一方、私は最後の手段を準備すべく、ひとりでとある魔法の練習に励むのだった。
といっても、使える魔法はハクション魔法だけなんだけど。
************
魔法学園も終盤。卒業パーティである。いよいよ運命の時がやってきた。
アンジェリーヌ様は成績をキープし、首席卒業。
第三王子から卒業パーティのエスコートをすっぽかされたにも関わらず、ダメージはなさそう。
なぜって?アンジェリーヌ様は乗馬部にすっかりなじみ、卒業パーティも乗馬部の皆さんとわいわい楽しく過ごしていたからである。
そこへ第三王子がアイリをエスコートしてパーティ会場へやってきた。
「おい!アンジェリーヌ・ヴィルヌーヴはいるか?」
あーこれは婚約破棄パターンだわ。
「こちらにおります。」アンジェリーヌ様がスッと前に出る。
「アンジェリーヌ、貴様は私と仲の良いアイリに嫉妬して、アイリを虐めいていたそうだな?」
「身に覚えがございません」
そりゃそうだ。アンジェリーヌ様はそんなことしない。
「アイリが言うのだから間違いない。証拠もある。」
アイリと仲の良い攻略対象者たちが証言するらしい。身内の証言を鵜呑みにしたのか、王子様よ!?
「そんな意地の悪い女との婚姻など考えられん。よって、貴様との婚約は…」
私は最後の手段を使うことにした。ゆけっ、私の唯一の魔法!
「婚約は…は…はき…は、き…はっきしゅーーん!」
第三王子は見事なまでに特大のくしゃみをした。私の魔法は成功したのだ。
私は魔法学園で侍女としてアンジェリーヌ様にお仕えする合間に、このハクション魔法を極めた。
今やくしゃみの大きさや威力、連続する回数までも自由自在だ。
現に王子も大きなくしゃみを何回も連発している。
カッコつけた婚約破棄のシーンにくしゃみ連発。王子様の残念な姿に、場の空気が緩むのを感じた。
「あの…」
王子のくしゃみが落ち着くのを見計らって声をあげたのは、なんと乗馬部の生徒だった。
「アンジェリーヌ様は乗馬部の朝・昼・放課後練習にすべて欠かさず出席されていました。アイリさんと接する機会もほとんどないように思われます。」
「乗馬部に参加していなかったのは、試験前のみです。試験前はずっと図書館で勉強していらしてたので、お姿は皆見ているかと思います。」
別の生徒も同調する。もはやこれは、乗馬部の絆の物語じゃないか。
「婚約破棄は承りました。アイリさんたちが嘘をついているとは思いません。ですがもう一度調べ直しをお願いいたします」
アンジェリーヌ様は冷静な声で告げると、王子たちの前から下がっていった。
結局私の業務日誌の出番はなかったけれど、アンジェリーヌ様が断罪されなくて良かった。
ご自分で築いてこられた人間関係が功を奏したのだから、アンジェリーヌ様は立派だよね。
結局、断罪は王子のハクションでなぁなぁになり、パーティはなんとなく続けられた。
王子は陰で「婚約ハクション王子」なんて不名誉なあだ名で呼ばれているらしい。
************
私はアンジェリーヌ様に従って、騒ぎの後すぐに場を辞そうとした。
そこへ、王子の護衛騎士レオン・ヴァンス様がやってきてアンジェリーヌ様に声をかけた。
「ヴィルヌーヴ嬢、失礼いたします。先ほどは大変でしたね。王子を止められず申し訳ありませんでした。」
お?これはアンジェリーヌ様の新たな恋のフラグ?
「先ほどの件について詳しくお伺いしたいのですが。ヴィルヌーヴ嬢はすぐにでもご帰宅され、ご家族とこの件を相談なさった方が良い。そこで、こちらの侍女殿をお借りできればと思うのですが…」
え?私?
「セシリア、かまわないかしら?あなたなら私のこと、よくわかってくれているし安心なのだけど。」
アンジェリーヌ様の言葉に、私は一も二もなくうなずいた。
ええ、アンジェリーヌ様のためならば、喋り倒して冤罪を晴らして見せますとも。
アンジェリーヌ様を馬車まで送ると、私はレオン様の後に続いた。
「おい、お前。」
人気のない王宮の渡り廊下まで来ると、レオン様の口調が変わった。
「くしゃみの黒幕はお前か?」
ば、ばれてるーーーー。
私の焦った気持ちが顔に出てしまっていたらしい。
やっぱりな、とレオン様がニヤリ笑った。
「ほんのわずかだが、お前から魔力の気配がした。恐らく誰にも気がつかれないほど微弱で無害な魔力だ。
だが、アンジェリーヌのキャラクターが原作とかなり違っていたからな。
アンジェリーヌ本人、もしくはその近くに何者かがいると踏んで断罪劇を注視していたら、ビンゴだった。」
「な、なんのことでございましょう…」
「とぼけるな。プレイしたんだろう?『恋するスイーツパラダイス』。俺は開発者担当者だ。
アンジェリーヌが断罪されようがかまわなかったが、まさかくしゃみで断罪を止めるとはな。お前に興味が出た。」
まさかの…レオン様が転生者で、しかもゲームの開発者だったとは。
レオン様は何が嬉しいのか、機嫌よくしゃべり続ける。
「ちなみに、続編では婚約したアイリと王子を、小姑な王女が邪魔する話だぞ。
次はお前を王女付きの侍女に推薦しとくからな。また楽しませてくれよ。」
「ちょ、ちょっとまってくださーい!私、続編なんて知りませんから!」
私は慌ててレオン様にすがりつく。
「あ、やっぱり転生者じゃねーか。」
声をあげて笑うレオン様。
これから本当に事情聴取はするらしい。私は大人しくレオン様について歩くのだった。
その後、私がアンジェリーヌ様と乗馬部のモブ君との恋を応援するために奔走したり、王女様の侍女となって再び断罪を阻止しようとするのは、また別のお話。
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