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会計事務所の設立

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お茶会から数日後、私の元にハミルトン伯爵夫人から手紙が届きました。

「会計に明るいというウィリアムに、一度面会したい」という内容でした。

私たちは驚き、伯爵家に失礼がないよう、急いで訪問の準備をしました。

「私が余計なことを言ったせいで、あなたに迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい」

「貴族の対応はなれているので心配しなくて大丈夫ですよ。むしろ、チャンスかもしれませんね」

ウィリアムに慌てた様子はありませんでした。

私は彼が頼りになることを心底信じていましたが、緊張のあまり前日はよく眠れませんでした。

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伯爵邸訪問の当日。

「お二人とも、よく来てくれた。」

伯爵夫妻は、二人が到着するとすぐに迎え入れ、温かく出迎えてくださいました。

ウィリアムはご夫妻にに一礼し丁寧に挨拶しました。
「初めてお目にかかります。ウィリアムと申します。お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。」

私もウィリアムに続き、深く礼をしました。
伯爵も夫人も、身分をわきまえ礼儀正しい振る舞いをするウィリアムに好印象を持ったようで、私は少し胸をなでおろしました。

書斎に案内される

「伯爵夫人様、私が余計なことを言って、お手数をおかけしてしまいましたことを、お詫び申し上げます。」

「何も心配することはありません。あなたの言葉は非常に参考になりましたよ。」

夫人は優しく微笑みながら返してくださいました。

ハミルトン伯爵がウィリアムに声をかけます。

「さて、君は財務に詳しいと聞いたのだが。あまり有名ではない地方貢献税を知っている者がいたとは感心してね。私も地方貢献税のことは知っていたのだが、手続きが煩雑で申請を諦めていたのだよ。」

ウィリアムは、ハミルトン伯爵の言葉に応えてました。

「それならばお手伝いできるかと思います。一度申請を代行した経験がございまして。初回のみ、慈善事業団体の登録など手続きに煩雑な部分はありますが、一度やってしまえば次の年からは書類の提出だけで済むはずです。」

「なんと。それは助かる。ご教示願えないだろうか。」

「もちろんです。手続きの仕方や必要な書類など、できる限り詳しく説明させていただきます。」

ハミルトン伯爵は、ウィリアムの提案にとても喜んでいらいらっしゃいました。

ウィリアムは元執事だけあって身なりやマナーも完璧で、貴重な実務経験もあり、ハミルトン伯爵夫妻に好印象を与えたようでした。

私とハミルトン伯爵夫人は、夫たちが仕事を終えるまで、お茶を飲みながら待つことになりました。

楽しい雑談の途中、突然、ハミルトン伯爵夫人がに尋ねました。

「セシリア、あなたと夫のウィリアムはどのような経緯でセントリー領へいらしたの?」

私はマクマレー領での出来事を包み隠さず話しました。

伯爵夫人は聞き終えると、「どうりで。」と深く納得したようでした。

私はその言葉の意味がまだよくわかりませんでした。

「マクマレー領は今、治安の悪化や領主様のご子息の失踪で大混乱に陥っているそうよ。」

伯爵夫人が告げます。アーサー様が夜逃げをした、という噂はどうやら本当だったようです。

ローズはどうなったのでしょう。しばらくの間、私は何も言うことができませんでした。

ちょうどその時、夫たちの仕事の話は一段落したようで、二人が私たちの元へ戻ってきました。

伯爵様は非常に満足そうな表情を浮かべていらっしゃいました。

「とても有意義な話を聞くことができた。実際に書類のひな型まで作ってもらったよ」

私はウィリアムの仕事が伯爵にとって役立ったことを知り、大変光栄に思いました。

帰り際、ウィリアムは、謝礼を受け取ることを断り、こう言いました。

「もし私の情報がお役に立ち、地方貢献税の申請が通りましたら、伯爵様ともう一度お話をさせていただけないでしょうか」

私は、ウィリアムの先を見据えた行動に感心しました。

彼はただ謝礼を求めるのではなく、自分の能力を試したかったのだと思います。

そしてしばらくして、ハミルトン伯爵家から正式な招待状が届きました。

ウィリアムの仕事が認められたのです。


そして、二回目の面会でもウィリアムは伯爵に財務会計の提案をし、ハミルトン伯爵家から正式に会計顧問の依頼を取り付けました。

現在、ウィリアムは、ハミルトン伯爵家とのつながりをきっかけに、会計事務所を設立し、順調に業績を伸ばしています。

「ウィリアムの努力が報われ、認められて嬉しいわ。あなたと結婚できて本当に幸せ。」

私のお腹の中には新しい命が宿っていて、家庭教師のお仕事は少しの間お休みです。

「私を引き立てチャンスをくれたのはあなたです。あなたがいるから頑張れる。愛していますよ、セシリア」

ウィリアムの思わぬ告白に、私は驚き、恥ずかしさで顔を赤くしました。

しかし、私自身も彼を愛していることはとっくに自覚していました。

「私も、愛してるわ。」

小さな声でつぶやいた私をグッと引き寄せて、ウィリアムは私に口づけたのでした。
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