51 / 60
第四章
⑶ 対岸の火事
しおりを挟む
川路利良大警視によって鹿児島に送り込まれた警察官中原尚雄以下二十四人は、若手士族に捕まり、拷問の末、西郷隆盛暗殺計画を自白させられる。本当に暗殺計画があったのかは謎だが、それをきっかけに、戦争は始まってしまった。
川路利良は陸軍少将に就任し、九州で兵を率いて西郷軍と戦っている。
戦況は新聞によって逐一庶民に対しても報告されている。当初は徴兵で集められた平民が戦いに不慣れなこともあり、政府軍が苦戦を強いられたが、現在は巻き返しているようだ。
現時点では、兵力で上回る政府軍が優勢のようだが、旧土佐藩などが西郷に呼応し、明治政府に反旗を翻せば、まだどうなるかわからない。
藤田五郎も警視隊として従軍。新聞に載る程の活躍をしていた。
そんな中、巷では一つの噂が流れていた。西郷軍が、軍艦で東京を直接攻めてくるという噂だ。
その噂のなせる業なのか。鹿児島の兵器工場から没収された二十八センチ榴弾砲が、東京へと移され、東京湾へと配備されることとなった。
西郷軍に軍艦はないはずだし、政府軍の軍艦を強奪するのも至難の業だ。東京に直接攻め入るなんて不可能に近い。それでも、海の守りを固めてしまう程、西郷隆盛には、大いなる威光が残っているのだ。
跳は配達中に買った新聞を読み終え、鞄にしまう。仕事の続きをしようと歩き出すと、制服姿の石走に出くわした。
石走が九州での戦争に従軍していないことは知っていた。最初聞いた時、跳は随分と意外に思ったものだった。石走に声がかからないわけがないはずだから、自ら辞退したということになる。妻と子を従軍しない理由とする石走でもないだろう。
「かつての同胞を斬りたくなかったのか?」
跳が軽妙な口調で声をかけると、石走は何も言わずにらみつけてきた。
理由がどうあれ戦争にいかなければ、腰抜けとみなされ、警察の中での立場は弱くなりそうだ。そのことで忸怩たる思いに苛まれているのだろうか。
そのまま何も言わずに石走は去っていった。
石走を見送りながら、もう一組戦争にいかなかった者がいたことを跳は思い出していた。
石走だけではなく、葛淵親子も九州の戦争にはいかなかったのだ。
葛淵は西郷のことを崇拝しているので、自ら参戦を断ったのか、寝返ることを怖れた政府から外されたのかわからないが、東京に残っている。
息子の葛淵武次郎は父親の妾が営む神楽坂の料亭「美紗門」で、部下も交えて夜な夜などんちゃん騒ぎを繰り広げていると聞く。軍人なのに戦闘には参加出来ず、敬愛する西郷は危機に陥っている。鬱屈する思いがあるのもわかるが、評判は下がる一方だ。
川路利良は陸軍少将に就任し、九州で兵を率いて西郷軍と戦っている。
戦況は新聞によって逐一庶民に対しても報告されている。当初は徴兵で集められた平民が戦いに不慣れなこともあり、政府軍が苦戦を強いられたが、現在は巻き返しているようだ。
現時点では、兵力で上回る政府軍が優勢のようだが、旧土佐藩などが西郷に呼応し、明治政府に反旗を翻せば、まだどうなるかわからない。
藤田五郎も警視隊として従軍。新聞に載る程の活躍をしていた。
そんな中、巷では一つの噂が流れていた。西郷軍が、軍艦で東京を直接攻めてくるという噂だ。
その噂のなせる業なのか。鹿児島の兵器工場から没収された二十八センチ榴弾砲が、東京へと移され、東京湾へと配備されることとなった。
西郷軍に軍艦はないはずだし、政府軍の軍艦を強奪するのも至難の業だ。東京に直接攻め入るなんて不可能に近い。それでも、海の守りを固めてしまう程、西郷隆盛には、大いなる威光が残っているのだ。
跳は配達中に買った新聞を読み終え、鞄にしまう。仕事の続きをしようと歩き出すと、制服姿の石走に出くわした。
石走が九州での戦争に従軍していないことは知っていた。最初聞いた時、跳は随分と意外に思ったものだった。石走に声がかからないわけがないはずだから、自ら辞退したということになる。妻と子を従軍しない理由とする石走でもないだろう。
「かつての同胞を斬りたくなかったのか?」
跳が軽妙な口調で声をかけると、石走は何も言わずにらみつけてきた。
理由がどうあれ戦争にいかなければ、腰抜けとみなされ、警察の中での立場は弱くなりそうだ。そのことで忸怩たる思いに苛まれているのだろうか。
そのまま何も言わずに石走は去っていった。
石走を見送りながら、もう一組戦争にいかなかった者がいたことを跳は思い出していた。
石走だけではなく、葛淵親子も九州の戦争にはいかなかったのだ。
葛淵は西郷のことを崇拝しているので、自ら参戦を断ったのか、寝返ることを怖れた政府から外されたのかわからないが、東京に残っている。
息子の葛淵武次郎は父親の妾が営む神楽坂の料亭「美紗門」で、部下も交えて夜な夜などんちゃん騒ぎを繰り広げていると聞く。軍人なのに戦闘には参加出来ず、敬愛する西郷は危機に陥っている。鬱屈する思いがあるのもわかるが、評判は下がる一方だ。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる