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第四章 竜騎士編
第115話 幕間 ゼービア奮戦
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王国軍近衛騎士団長ゼービア・シュバインベルクは西部の要衝ゲルニア要塞でオークの大軍を迎え撃つことにした。
ゲルニア要塞は周囲を険しい山岳地帯に囲まれた天然の地形を利用した巨大な要塞で、西部から王国中央部に攻め込む際は必ずここを突破しなくてはならない。
ゲルニア要塞は王国の最終防衛線と言える。
ゼービアは既に壊滅状態だった西部防衛軍を纏め上げ、王国近衛騎士団と共に、ゲルニア要塞に籠城することにした。
集まった兵士は1万にやっと届く程度だった。
ゲルニア要塞の西部側には、5万のオークが犇めき合っている。
昼夜を問わず、守備兵の放つ矢と、オークの投石が空を埋め尽くしている。
更に、オークは堅牢なゲルニア要塞を破ろうと、大岩で門を叩いていた。
そんな原始的な攻撃で、重厚な鉄製の門を破れるものではないが、オークの人間を超える膂力で叩かれた門は、ガンガンと盛大な音を立て、要塞全体に響き渡った。
その音を聞く度に、守備兵の士気は下がっていった。
ゼービアは士気を維持するために、何度か精鋭である王国近衛を率いて野戦に打って出た。
余力のあるうちに、少しでもオークの数を減らす目的もあった。
しかし、近衛の消耗率が3割を超えたところで、それもできなくなった。
討ち取れたオークは1万もいかないだろう。
今はただ籠城戦を続けるしかなかった。
とはいえ、補給線はしっかり確保できているし、王都では着々と援軍の準備が進められているはずだ。
今はゲルニア砦に陣を構えて4日目。
このまま時間が立てば、戦局は王国側に有利になるはずだった。
その時までは。
「……なんだアレは」
要塞最上階の指揮所にいたゼービアは窓から遠方に目を凝らす。
そこには数体の巨人がいた。
巨人の足元にいるオークの3倍程の大きさだった。
「あれはトロルでございますな……」
青ざめた側近の一人がそんな事を教えてくれる。
トロル。
ゼービアはその名前を聞いたことがあった。
魔族領の奥地に生息すると言われる醜悪な巨人だ。
王国への侵攻に参戦したという事例はなかった。
数体のトロルは、皆巨大な鉄球で武装していた。
鎖のついたオークと同じくらいの大きさの鉄球だった。
それを見たゼービアは背筋が凍りつくのを感じだ。
あれは攻城兵器になりうる。
「あのトロル共に集中して火矢を射掛けなさい! 絶対に要塞に近づけるな!」
ゲルニア要塞に迫るトロルに一斉に火矢が命中していく。
殆どのトロルが炎上して崩れ落ちていった。
しかし、一体のトロルが炎上しながらも、狂ったように要塞に向かって走る。
トロルは息絶える寸前だったが、最後の力を振り絞って、鉄球を振り回す。
そして、トロルが力尽きて倒れた時、鉄球はトロルの手を放れ、ゲルニア要塞の外壁に衝突した。
粉塵が舞う中、トロルの放った鉄球は外壁に穴を開けていた。
穴からオークが次々に雪崩込んでくる。
もはや籠城は不可能だった。
要塞内部のあちこちで守備兵のあげる悲鳴が聞こえる。
オークはこの要塞にいる人間を皆殺しにするつもりのようだ。
王国を蹂躙する手始めとして。
オークに投降は無意味だ。
嬲られるだけだろう。
後は逃げるしか無いのだが。
「すまない。私には撤退を命じることはできない。皆にはここで私と死ぬまで戦ってもらう」
ゼービアの悲壮な表情に、その場にいる全員が頷く。
逃げたところで、王国が消滅してしまっては結果は同じなのだ。
そのことは誰もが理解していた。
ゼービアは剣を抜くと、側近を率いて指揮所を後にした。
要塞の中庭に向かう。
途中、何度かすれ違ったオークは一刀の下に切り捨てた。
中庭は壮絶な光景が広がっていた。
王国軍の兵士たちがオークに惨殺されている。
オーク達は弄ぶように兵士たちを殺していく。
要塞内部の侵入を許した兵士たちの士気は低く、ほとんど抵抗できずに殺されていった。
苦悶の表情を浮かべて死に絶えていく兵士たちと、それを嘲るオーク共。
ゼービアは怒りに任せて歯を噛み締めた。
「よくも、私の部下を!!!」
ゼービアの剣が一閃する。
王国軍の兵士の亡骸を弄んでいたオークの体が斜めにずれ落ちる。
同胞を殺られたオーク達がいきり立つ。
「私を甘く見ないことだ、オーク共。この命、尽きるまでに貴様らを全員道連れにしてくれる!」
そして、ゼービアの死闘が始まった。
ゼービアは流れるような動きで、オークを切り捨てていく。
そんなゼービアを見て、絶望の縁に沈んでいた兵士たちに士気が蘇る。
ゼービアの側近達も手練に相応しい活躍を見せ、要塞内部に剣撃の音が鳴り響いた。
籠城が破られ、敗戦必死の王国軍が、一時オークを押し返す場面もあった。
しかし、そんな王国軍の奮戦も長くは続かなかった。
数が圧倒的に違うのだ。
倒しても倒しても、新たなオークが次々に要塞に侵入してくる。
王国軍の兵士は、一人、また一人と斃れていった。
手練だったゼービアの側近の一人がオークの棍棒によって頭部を陥没させられた。
既に何体ものオークを屠っていたゼービアにも疲労の色が見え始めた。
毎日のように修練で振るっていた剣が重く感じる。
滝のような汗が全身を濡らす。
それでも、次々に現れる体力全開のオーク達の相手をしなくてはならない。
今はオーク相手に完全に優位になっているゼービアにも体力の限界はやってくる。
それは時間の問題だった。
体力以外にもゼービアの体の動きを鈍らせるものがあった。
恐怖だ。
王国最強の剣士と讃えられているが、ゼービアはまだ若干20歳だった。
そして、これが初陣だった。
いくらオークを斬り伏せても、濃厚な敗戦の気配がゼービアを蝕む。
不覚にもゼービアの目に熱いものが浮かんでくる。
このまま歳相応の娘のように、全てを投げ捨てて泣き出したかった。
しかし、それは自身の死を意味する。
結局、ゼービアは向かってくるオークを切り伏せるしかできなかった。
己の命が尽きるまで。
――このまま死ぬのは嫌だ。
オークの醜悪な顔を両断する。
――誰でもいい。
足に違和感を感じた。
見れば倒したはずのオークが足甲に噛み付いている。
――誰か私を助けてよっ!
足元のオークに剣を突きおろしながら、ゼービアは心の中で悲鳴を上げた。
その時、要塞全体に巨大な影が落ちた。
ゲルニア要塞は周囲を険しい山岳地帯に囲まれた天然の地形を利用した巨大な要塞で、西部から王国中央部に攻め込む際は必ずここを突破しなくてはならない。
ゲルニア要塞は王国の最終防衛線と言える。
ゼービアは既に壊滅状態だった西部防衛軍を纏め上げ、王国近衛騎士団と共に、ゲルニア要塞に籠城することにした。
集まった兵士は1万にやっと届く程度だった。
ゲルニア要塞の西部側には、5万のオークが犇めき合っている。
昼夜を問わず、守備兵の放つ矢と、オークの投石が空を埋め尽くしている。
更に、オークは堅牢なゲルニア要塞を破ろうと、大岩で門を叩いていた。
そんな原始的な攻撃で、重厚な鉄製の門を破れるものではないが、オークの人間を超える膂力で叩かれた門は、ガンガンと盛大な音を立て、要塞全体に響き渡った。
その音を聞く度に、守備兵の士気は下がっていった。
ゼービアは士気を維持するために、何度か精鋭である王国近衛を率いて野戦に打って出た。
余力のあるうちに、少しでもオークの数を減らす目的もあった。
しかし、近衛の消耗率が3割を超えたところで、それもできなくなった。
討ち取れたオークは1万もいかないだろう。
今はただ籠城戦を続けるしかなかった。
とはいえ、補給線はしっかり確保できているし、王都では着々と援軍の準備が進められているはずだ。
今はゲルニア砦に陣を構えて4日目。
このまま時間が立てば、戦局は王国側に有利になるはずだった。
その時までは。
「……なんだアレは」
要塞最上階の指揮所にいたゼービアは窓から遠方に目を凝らす。
そこには数体の巨人がいた。
巨人の足元にいるオークの3倍程の大きさだった。
「あれはトロルでございますな……」
青ざめた側近の一人がそんな事を教えてくれる。
トロル。
ゼービアはその名前を聞いたことがあった。
魔族領の奥地に生息すると言われる醜悪な巨人だ。
王国への侵攻に参戦したという事例はなかった。
数体のトロルは、皆巨大な鉄球で武装していた。
鎖のついたオークと同じくらいの大きさの鉄球だった。
それを見たゼービアは背筋が凍りつくのを感じだ。
あれは攻城兵器になりうる。
「あのトロル共に集中して火矢を射掛けなさい! 絶対に要塞に近づけるな!」
ゲルニア要塞に迫るトロルに一斉に火矢が命中していく。
殆どのトロルが炎上して崩れ落ちていった。
しかし、一体のトロルが炎上しながらも、狂ったように要塞に向かって走る。
トロルは息絶える寸前だったが、最後の力を振り絞って、鉄球を振り回す。
そして、トロルが力尽きて倒れた時、鉄球はトロルの手を放れ、ゲルニア要塞の外壁に衝突した。
粉塵が舞う中、トロルの放った鉄球は外壁に穴を開けていた。
穴からオークが次々に雪崩込んでくる。
もはや籠城は不可能だった。
要塞内部のあちこちで守備兵のあげる悲鳴が聞こえる。
オークはこの要塞にいる人間を皆殺しにするつもりのようだ。
王国を蹂躙する手始めとして。
オークに投降は無意味だ。
嬲られるだけだろう。
後は逃げるしか無いのだが。
「すまない。私には撤退を命じることはできない。皆にはここで私と死ぬまで戦ってもらう」
ゼービアの悲壮な表情に、その場にいる全員が頷く。
逃げたところで、王国が消滅してしまっては結果は同じなのだ。
そのことは誰もが理解していた。
ゼービアは剣を抜くと、側近を率いて指揮所を後にした。
要塞の中庭に向かう。
途中、何度かすれ違ったオークは一刀の下に切り捨てた。
中庭は壮絶な光景が広がっていた。
王国軍の兵士たちがオークに惨殺されている。
オーク達は弄ぶように兵士たちを殺していく。
要塞内部の侵入を許した兵士たちの士気は低く、ほとんど抵抗できずに殺されていった。
苦悶の表情を浮かべて死に絶えていく兵士たちと、それを嘲るオーク共。
ゼービアは怒りに任せて歯を噛み締めた。
「よくも、私の部下を!!!」
ゼービアの剣が一閃する。
王国軍の兵士の亡骸を弄んでいたオークの体が斜めにずれ落ちる。
同胞を殺られたオーク達がいきり立つ。
「私を甘く見ないことだ、オーク共。この命、尽きるまでに貴様らを全員道連れにしてくれる!」
そして、ゼービアの死闘が始まった。
ゼービアは流れるような動きで、オークを切り捨てていく。
そんなゼービアを見て、絶望の縁に沈んでいた兵士たちに士気が蘇る。
ゼービアの側近達も手練に相応しい活躍を見せ、要塞内部に剣撃の音が鳴り響いた。
籠城が破られ、敗戦必死の王国軍が、一時オークを押し返す場面もあった。
しかし、そんな王国軍の奮戦も長くは続かなかった。
数が圧倒的に違うのだ。
倒しても倒しても、新たなオークが次々に要塞に侵入してくる。
王国軍の兵士は、一人、また一人と斃れていった。
手練だったゼービアの側近の一人がオークの棍棒によって頭部を陥没させられた。
既に何体ものオークを屠っていたゼービアにも疲労の色が見え始めた。
毎日のように修練で振るっていた剣が重く感じる。
滝のような汗が全身を濡らす。
それでも、次々に現れる体力全開のオーク達の相手をしなくてはならない。
今はオーク相手に完全に優位になっているゼービアにも体力の限界はやってくる。
それは時間の問題だった。
体力以外にもゼービアの体の動きを鈍らせるものがあった。
恐怖だ。
王国最強の剣士と讃えられているが、ゼービアはまだ若干20歳だった。
そして、これが初陣だった。
いくらオークを斬り伏せても、濃厚な敗戦の気配がゼービアを蝕む。
不覚にもゼービアの目に熱いものが浮かんでくる。
このまま歳相応の娘のように、全てを投げ捨てて泣き出したかった。
しかし、それは自身の死を意味する。
結局、ゼービアは向かってくるオークを切り伏せるしかできなかった。
己の命が尽きるまで。
――このまま死ぬのは嫌だ。
オークの醜悪な顔を両断する。
――誰でもいい。
足に違和感を感じた。
見れば倒したはずのオークが足甲に噛み付いている。
――誰か私を助けてよっ!
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