完結■罪滅ぼしをエンジョイする陽キャ

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 奈留なるくんは明日の弁当を持ってくるのも許してくれた。許したっていうかまあ無言OKだった。いつもの。
 中々カップルらしい昼休みを全う出来て手応えを噛み締めるおれを教室で迎えたのは目玉ひん剥いた吾妻あづまだった。

「朝のドッキリじゃなかったんだ……!?」

 ドッキリだと思われてたようだ。
 一緒に戻ってきた奈留くんは死ぬほど嫌そうな顔しながら自分の席に戻っていく。罰ゲームのメンツに吾妻が入っていたことを理解したんだろう。おれの贖罪プロセスは一進一退、まだまだ序盤だ。

「ドッキリじゃねえですう」
「なん……えっなんでそんな事になったの……?」
「なんでっておれが告白したからじゃん」
「それはそうだけどそうじゃない……」

 吾妻は首を捻りながら大困惑している。うんうん、おれも昨日そんな感じだったぞ。思い知れ。

「ガチなら木ノ重このえが変にテンション上げてるから他に言いふらさないよう注意しといた方がいいかもね」

 神妙そうに告げる吾妻に、今朝の木ノ重を思い出す。そういやとんでもねえはしゃぎようだったな。全員彼女居たことなかったおれらにとって前人未到のエリアなのだ、浮かれてるんだろうなあ。

「言いふらしそうなん……」
「わかんないけど木ノ重ならやりそう」
「あー……気をつける。吾妻も言っといてくれる? 奈留くんに迷惑かけたくねえわ」
「……本当に付き合ってんだ……」
「何回目よその確認」

 木ノ重は普段通りなら今体育館で遊んでる。バスケットコートはクラスごとに日替わりで使用していいローカルルールがある。今日はうちの組だ。
 教室にはにれも見当たらなかった。あいつも一緒に行ったのだろうか。無駄に汗かくの嫌いなくせに珍しい。

「楡もバスケ?」
「いや、一人でどっか行ったけど。今日のわたるなんか機嫌悪いんだよ……」
「そうなん?」

 おれは今朝の楡を思い出す。いつもの軽い悪口とは違うどこか嫌悪を纏った嘲りを呟いた楡。
 奴の機嫌が悪いなら多分あれが原因だ。ただ理由が分からない。
 おれだけ抜け駆けみたいに春が来て腹が立ってる?
 男同士で交際することに拒否感がある?
 思い付く限りの理由は、「いやお前が罰ゲームの内容も告白対象も選んだんだろうが」で一蹴できる。
 学年上がってから知り合った木ノ重や吾妻と違って、楡は中学からの友達だ。あいつが何考えてるかは他の奴より多少詳しいと自負してたけど。

「取り憑く奴が居ないから子泣きできなくて拗ねてんのかもね」
「妖怪じゃん」

 まあ楡のことは二人に機嫌取ってもらおう。おれの放課後は忙しいんだ。



 授業と掃除が終わってさっさと帰ろうとする奈留くんに小走りでついて行く。
 奈留くんは相変わらず不愉快げな顔をしてるものの、特に拒絶の言葉は出なかった。昼の件で更に好感度下がってるんだろうな。
 奈留くんは靴の履き方が雑だ。踵を持ったりしない。背が高いからしゃがむの面倒なのかも。
 隣で歩くと俺の目線は大体奈留くんの肩あたりだ。3cmくらいわけろ。

「そういやアニメ観たよ」
「…………」
「今四話~。あのポニテの子意味深なことばっか言うの超気になるんだけど主人公の知り合いなん?」
「黙って六話まで観て」
「は、はい」

 教えて貰ったアニメ──バトスカと略すらしい──は、個性的な羽がなんか不思議な力で生えてくる幼い感じの絵の女の子たちが、でかい刀や銃火器を持ってグニャグニャしたクリーチャーみたいな敵と戦う話だった。
 羽生やしといて武器は魔法じゃねえのかよと思いはしたが、観始めてみると存外熱血バトルアニメだったのだ。
 アニメなんて小学生の頃に観たでかいロボットが合体したり変形したりするやつ以来だったが、幼い頃観たあれらと変わらない努力や友情、たまに垣間見える戦争の悲しい描写なんかはドラマティックで、ついつい2時間もスマホをガン見してしまった。

「あのツンデレ? のおねーさんいつ出るのかなー」
「もうすぐ出る」
「マジか楽しみ。武器何だろ、戦闘格好良いなアレ」
「監督がロボと美少女マニアで自らキャラデザもしてる、かけてる情熱が違うわけ」
「きゃらでざ」
「…………これだからウェイ系は……」

 おれの知識が足りなくて、折角奈留くんがいつもより長く話してくれるのに途切れてしまうのが悔しい。
 アニメ用語は流石に勉強してこなかったんだよな。
 こういうのってどこで学べばいいんだ? 奈留くんに訊きまくるのも迷惑だろうし。

「……キモいって思ってるんだろどうせ」
「…………はえ?」

 黙り込んだおれを見て勘違いしたのか、途端に奈留くんの声に怒気が乗る。

「好きな物があるだけなのに、早口でキモいとかオタク引くとか、そうやって馬鹿にするんだろ」
「え、してないよ、そういう悪口言われた事あんの?」
「……アンタが俺に合わせてるのは媚売る為でしょ」
「売れてる感じしないけどね」

 おれの返事に更に顔を歪める奈留くん。仲良くなりたくて観始めたのは本当だからな。媚って言われたらその通りなんだろう。

「おれ趣味無いんだ」
「………………? 何、」
「うちは貧乏だから趣味に使う金ねえし、むしろ無くてラッキーって思ってたけど」
「…………」
「奈留くんが話すの見てると、最初からおれも同じの好きだったら良かったのにって、ちょっとだけ羨ましくなるよ」

 俯いた奈留くんの表情は見えない。すぐ怒らせちゃうな。
 楽しいって思って欲しかったんだけどな。

「……俺の好きな物ダシにされるのムカつく」
「ダシて」
「俺にへつらう為の打算なら観ないで」
「いや今止めたらポニテ何だったんだよってなるだろ!」

 思わず声を荒らげて身を乗り出してしまった。あっぶねえ許可なく肩掴むとこだった。
 奈留くんは目を丸くしておれを見ている。今日初めて目が合った。

「あと宇宙人みたいなやつが何で攻めてきてんのかわからんままになるじゃん、気になって眠れんくなったらどうしてくれんだよ!」
「……気になってるの」
「気になるだろあんなん! 幼馴染の奴らが匂わせてた過去のナンチャラ事件もまだ知らねえし!」
「…………そう」

 ………………あ、
 今、奈留くん、笑った。
 口の端だけ、ほんの少し、ほんの少し持ち上がった。

「全話観たら教えて」
「……お、オッケー! わかった!」

 やばいな、罪滅ぼしのはずなのに、楽しくて仕方ない。
 昨日よりゆっくりになった奈留くんの歩幅に合わせて、アニメの用語やバトスカの裏話を教えて貰いながら、二回目のデートも満喫したのだった。





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