完結■罪滅ぼしをエンジョイする陽キャ

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 昔昔あるところに甘ったれた子供がいました。

 子供には気弱過ぎて万年平社員の父親、パート先でいじめられている母親、生まれた時から病に罹り情緒不安定な姉がいました。
 子供は毎日落ち込む父を励まし、疲れた母の代わりに家事をし、泣き喚く姉をなだめていました。
 未成年の身には負担になるであろうその日々は、楽天的な子供にとってそれほど苦ではありませんでした。
 話しかけることも掃除も洗濯も料理も、楽しいと思えば遊びと変わりませんでした。

 ある日、夜中に発作を起こし苦しむ姉を、両親は病院に連れていくと言いました。あなたも一緒に来なさいと腕を引かれました。
 子供はどうして皆で行くのかも、姉が苦しんでいるのに何故両親はこんなに落ち着いているのかも分かりませんでした。
 ただ、皆が出かけるなら久し振りに誰にも邪魔されずテレビを観られると考えました。子供はアホだったのです。
 おれはお留守番してる! と頑なについてこようとしない子供に、両親は諦めたようでした。
 朝になっても戻ってこなかったけれど、姉の咳や泣き叫ぶ声も親の沈んだ顔も無い日は自由で心地良い程度にしか思っていません。

 三人は次の日になってもその次の日になっても、帰ってきませんでした。
 冷蔵庫の中のものにカビが生え始めた1週間後、三人は帰ってきました。
 ずた袋に詰め込まれ、一列に並んでいました。
 両親は姉を殺したあと、車中で自殺をしたそうです。
 子供はもしかしたら自分が探しに行けば、若しくはついて行けば止められたかもしれないと少しだけ思いましたが、そんな悠長に死者を悼む暇はすぐに無くなりました。
 親戚が誰も彼を引き取ろうとしなかったのです。
 結局はほぼ没交渉になっていた父方の祖父母に引き取られましたが、彼らは子供を空気のように扱いました。

 何となく窮屈さを感じていた子供は、家出して近所のホームレスの元に居座りました。
 子供が今の家族に嫌われてるっぽくて気まずいんだよー、とどこか他人事のように相談すると、そのホームレスは言いました。

 ──もしかしたら家族は君の存在に戸惑っているのかもね。
 ──君が家族を嫌いじゃないなら、思い切り良い子になってみるといい。
 ──何の落ち度もない可愛い無邪気な子供になって、罪悪感を抱かせなさい。

 身も蓋もないアドバイスでしたが、それなら自分にもできそうだと子供は納得しました。
 家に帰って家出を謝罪した子供は、嫌われているのかと不安で怖くなって家出してしまった、もうこんなことしない、ごめんなさいと頭を下げました。
 不安も恐怖も特に感じていなかったけれど、そんなことを正直に言えば台無しになることはわかっていました。
 居心地が悪そうに目をそらす祖父母に笑顔を向け、毎日感謝を示し、積極的にお手伝いをし、嬉しかったことを言葉に乗せ、二人の好きなところを伝えました。
 子供が小学校を卒業する頃、祖父母が泣いて謝ってきました。
 今までごめんなさい、どうしていいか分からなかったと、二人で子供を抱き締めました。
 どうしていいか分かるまでが長すぎるとドストレートに言ってしまい少し微妙な空気になりましたが、ともあれ、前向きなことをしているだけで子供の環境は改善されたのです。

 こうして無駄に前向きな生き物が爆誕したのでした。



 さてその前向きな生き物は、後ろ向きな男から手当を受けていた。
 奈留なるくんは泣き止みはしたものの、目を真っ赤に腫らせ鼻をズビズビすすりながらおれの顔面についた怪我を一つ一つ丁寧に消毒して、大袈裟なガーゼで飾り付けている。
 やたら距離が近い。逆に手当しづらいんじゃねえのそれ。
 と離れようとしても、奈留くんに距離を詰められてしまい、今や部屋の隅っこに追いやられている状況である。
 踏まれて腫れた左手の甲に顔を顰め、「これはどうしていいんだ……もうとにかく明日ちゃんと病院で診てもらおう」と言いタンスから何かを取り出した。着替えだ。

「何だこれ」
「泊まっていって。風呂行くよ」

 奈留くんはおれのワキ下に両手を差し込み立たせた。おれはされるがままだ。
 おれを支えながら階段を降り、風呂場に辿り着くなり服を脱がせてくる。要介護である。
 同じく服を脱ぐ奈留くんに「一緒に入るんだ?」と聞くと「その手で顔濡らさずに髪洗えるわけ?」と怒られた。1日くらい洗わなくていいかなーと思ってたなんて口が裂けても言えない。

「殴られる他に何かされた?」

 腹の青痣に気付いたらしい奈留くんが幽霊にでも出くわしたのかと思うほど恐怖に駆られた表情で聞いてくる。
 これ言っていいんだろうか。より凹みそうだけど。
 一瞬迷ったが、言わない方が面倒になりそうだから素直に白状した。

「ちんこの写真撮られたけど身分証持ってないからセーフだった!」
「は、……はあ!?」

 奈留くんは顔を真っ青にして固まっている。
 おれはまあ不良のやりそうなことだしと理解してたけど、奈留くんには馴染みのない文化だろうから怖かろうなあ。
 としみじみしてたら、おれの身体を回転させて洗面台に手をつかせ尻を掴んでくる奈留くんに咄嗟に反応できなかった。

「えっ何奈留くん」
「……か、確認……確認させて……」

 何を? と思う間もなく、尻肉を左右に引っ張ってそこを覗き込んだ奈留くんは悲鳴のような声を上げた。

「ちょっと腫れてる……!!」
「あ確認ってそういう!?」

 おれが性的ないたずらもされてると思ったのか!
 流石のおっさん共にも好みはあるだろ、それ以前にそんな発想が出ないと思うんだけど。
 どうやら腫れてるらしいおれの尻に絶望している奈留くんに慌てて弁明をする。

「いやその何、あの腫れてるのはおっさん無関係っていうか、自分で触ったっていうか」
「……………………え、」
「えーとですね、一応彼氏なんでですねえ、何が起きてもいいようにお家行く時は掃除してたと言いますか」
「…………は、え、は?」
「だから奈留くんが心配するような事はなんにも、」

 洗面所を見つめたまま間抜けな真実を語ったおれは、覆い被さる大きな影に二の句が告げなくなった。
 影の主は右手でおれの右手を掴み、左手は尻にセクハラをかましたまま、何とも形容しがたい顔でこちらを見ている。
 なんだその顔。感情が全くわからん。

「……な、奈留くん?」
「……いつも弄ってたの? 俺に手を出されるつもりで?」
「そん、なつもりじゃなかったけど」
「毎度毎度顔色悪かったのも腹綺麗にしてたから?」
「そ、そういうことになりますね!」
「……何その……どう、何……嘘でしょ……馬鹿じゃないの……」
「うわっ、ちょえ、待っ、」

 ちょっと尻の穴に指突っ込むのやめてくれませんかね。
 何度か声をかけても、もう奈留くんには何も聞こえていないみたいで、ぶつぶつと独り言を呟いている。
 奈留くん、何か変なスイッチ入ってない!?




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