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第一章 認めたくないが、異世界です

2.砂の町・ククルージャ

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 どのようにして私がこの異世界にきたのかは割愛しよう。面白みも盛り上がりもない話と思われる。
 簡単にお伝えするなら、夜に寝て、目が覚めたら池のほとりにいた、ということである。

 池といってもどぶのように濁った小池で、沼といってもいいかもしれなかった。
 夕暮れなのか夜明けなのかわからない明るさだった。それでも肌にまとわり付く湿気はどちらかというと朝露にも思えた。あとからそれが正解だとわかったけど、だからといってどうでもいい。
 とにかくあたりは明らかに水分が足りてないような乾いた痩せた土地。
 ぺんぺん草みたいなものが、まばらにこそこそ生えているだけ。

 見渡しても人工的なものは見えない。砂漠のオアシス(というか汚い沼)に、ぽつんといる。
 茫然自失、現状も把握できない状況。夢と疑うこともなく、ただぼうっとしていた。
 そこに追い討ちをかけるように通りがかったのは、見るからに荒くれもの、という盗賊集団だった。
 
 ただの集団ではない。
 目を疑うような選りすぐりの醜い男たちばかりだ。 
 しかも彼らの話す言葉はまったくわからない。うにゃうにゃと暴れるうなぎの踊りのような言葉に聞こえる。

 そして私も一応、女だ。
 さすがに暴力を振るわれるか、犯されるかと思った。
 でもこの信じがたいほどの醜男集団、私を取り囲んで上から下まで、じとりと眺め回したあと――
哀れむように鼻で笑った。
 たとえるなら、「クラスのイケてる男子が、カースト下位の女子を馬鹿にする」ような印象を、私は受けた。

 そして、当然のように縛り上げられ、拉致され、街につれて来られ、売られ、気づく。

 吐き気を催すような、(私の中の)ブサイクたちは、(この世界の)超絶美男美女たちだということに。

 つまりこうだ。アラビアン風な砂埃舞うこの城塞都市を、私をひきずる男たちが歩く。
 するとだ。街にいる男も女も、この盗賊たちの男ぶりにうっとりと見とれているのだ。
 そして街の女たちにいたっては、よく観察すれば、(私の世界で)ブサイクになるために化粧までしている。
 ちょっと補足すると、化粧したり顔を出しているのは、わりととうが立った女たちばかりだということ。おそらくだけど若い女性は、すっぽりと目のところだけ開いた布をかぶって顔を見せない。そういう宗教なのだろうか。

 なんにしろ、ブスになるための化粧だ。
 そしてどうやら、肥溜めのようなにおいの香水まで露店では売られている。ひきずられながらその店の前を通ったときは、くらりとした。

 私を捕らえた男たちの外見について、念のためにお伝えしよう。
 その、なるべく客観的に。
 まず体格は、背の低い太っちょばかり。たぶん稽古をさぼりまくったお相撲さんでも、こうはなるまい、というたるみっぷり。
 お顔は、じゃがいもに小さなお目目がついてるよ! というのが一番ちかい。
 見ようによってはかわいいかもしれないが、鼻や口など、その他のパーツは以上に大きく、歪んでいる。
 その上、福笑いをしたあとのようにバランス悪く顔に収まっているので、美醜にそうこだわりのない私でも見ていて気分が悪くなる。
 極めつけはその体臭だ。
 みなさんは小学生のころ、下水処理場に社会見学に行ったことがあるだろうか?
 みなまでいうな。その「香り」を、数倍に凝縮したようなやつである。
 私が嘔吐しないのって、すごいかも。

 そういう男たちだ。

 そういう男たちが、大勢の人間からほれぼれと尊敬と憧憬とエロスをたたえた目で見られているのだ。

 世界は広い。異世界ってすごい。


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