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第一章 認めたくないが、異世界です
7.ご主人さまよりも偉い奴隷
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私はその夜、ご主人さまたちの滞在しているらしい家で、欲望を満たした。
ぐるぐる鳴るお腹に、美少年――名前は月花というらしい――が、あわてたように簡単な食べ物を用意してくれた。
礼もそこそこに、私はかなりがっついたと思う。
なんといっても、久々の人間らしい食事だったのだ。
薄焼きのパンに、ひとかけらの干し肉と、イチジクのような果物。コップに注いでもらった水だって濁ってない。
奴隷小屋で与えられたものといえば、灰色のスープにわけのわからない屑となった肉片がいくつか浮かんだ一皿だけだ。
仮にも「商品」が倒れたら、豚男はどうするつもりだったのだろう。奴隷とはいえ、資本である。異世界で人権についてわめくわけではないけど、ぞんざいに扱って損をするのは結局豚男だよね。
そして欲求のひとつを満たした私は、もうひとつの欲求も満たしたということになる。
断りもなく、その場で気絶するように眠ったらしい。
※
目が覚めると、寝台にいた。
どうやら誰かが運んでくれたみたいだった。
この部屋には寝台は四つあったけど、ご主人さまたちはだれもいなかった。窓から差し込む光の強さで時間を予想する。まあ、七時くらいだろう。
ぼんやりしながらも、ゆっくり足を地面につけてみる。家といっても、日干しレンガの簡略式の建物が主流なので、床などない。
乾いた土の感触が、足の裏に伝わる。
この世界に来たときは小さな石のちくりとした感覚に苦しんだが、慣れた今は気持ちがいいくらいだ。
そんなことを考えながら、となりの部屋をのぞいてみる。
一軒家のリビングくらいの広さ。その中央、地面に広げられたじゅうたんの上で、世にも美しい男たちが雑魚寝をしていた。
「うわ……」
思わず息を漏らしてしまう。
ずっと汚れた女たちと、豚男しか目にしない生活だったのだ。国宝級のきらきらしさの男たちは、刺激が強すぎた。あおむけだったり、横向きだったり、かすかに息を吐いて上下するその胸のたくましさ。腕を折り曲げて枕にしているその腕の筋肉。閉じられたまぶたのつややかさ。長いまつげは女性のつけまつげより長くないだろうか。
こちらが気後れするほどである。
すると気配に気づいたのか、ユーリオットさんが首を起こした。
寝起きだからか、不機嫌そうに細められた瞳と目が合う。豊かな実りの、稲穂の色だ。
思わず見とれていると、そっぽを向かれた。
「おい、娘が起きた」
そう言って、ほかの人たちを起こしにかかった。
もぞもぞと、みんなが伸びをしながら身体を起こす。
「おはようございます」
とりあえずそう声をかければ、四人の動きは油の足りてないブリキ人形のように、ぎこちなくなった。
うん、とか、おはよう、とか、ぼそぼそと返してくれるが、目は誰とも合わない。
とりあえず気になったことを聞いてみた。
「あの、どうして私だけベッドで、みなさんは床で寝てたのですか?」
こっちは奴隷なのだ。謎すぎる。
誰でもいいから答えて、と四人を順番に眺める。
だって奴隷がベッドっておかしいでしょうよ。
答えてくれたのは、赤髪のナラ・ガルさんだ。
「女性だろう。あなたは」
なにそのレディーファースト。
「寝台、ほかにも三つあったのに。私が一緒の部屋だと、お気に触るとか?」
「ちがう」
あわてたように、月花が首を振る。
「ちがうんです。あなたがそばにいると思うと、とてもじゃないけど、寝られなくて」
くさいのか? 私は安眠を妨害するほどに、くさいのか?
確かに悪臭を放つ人物がいたら、眠れたものじゃないだろう。私だって、すさまじい臭いのあの盗賊たちに囲まれては、何匹羊を数えようと眠りは訪れない気はする。奴隷小屋では風呂はおろか水浴びすらもなく、今の私の不潔さったらすさまじいはずだし。
あわてて自分の腕とか肩のにおいをかいでみる。
それをみて、阿止里さんがおもむろに口を開いた。
「娘。ちがう。おまえが、おまえのような娘が近くにいると思うと、目など閉じられないのだ」
目を閉じられない?
「夢ではないか。消えてしまいやしないか。ずっと、見ていたくなってしまうから」
だっておまえは、と、ため息をついて阿止里さんは私を見た。
「――私たちにとっては、女神のようなものだから」
奴隷から女神へ下克上。いったいぜんたい、なんのことやら。
どうでもいいけど、拓斗に会いたい。
ぐるぐる鳴るお腹に、美少年――名前は月花というらしい――が、あわてたように簡単な食べ物を用意してくれた。
礼もそこそこに、私はかなりがっついたと思う。
なんといっても、久々の人間らしい食事だったのだ。
薄焼きのパンに、ひとかけらの干し肉と、イチジクのような果物。コップに注いでもらった水だって濁ってない。
奴隷小屋で与えられたものといえば、灰色のスープにわけのわからない屑となった肉片がいくつか浮かんだ一皿だけだ。
仮にも「商品」が倒れたら、豚男はどうするつもりだったのだろう。奴隷とはいえ、資本である。異世界で人権についてわめくわけではないけど、ぞんざいに扱って損をするのは結局豚男だよね。
そして欲求のひとつを満たした私は、もうひとつの欲求も満たしたということになる。
断りもなく、その場で気絶するように眠ったらしい。
※
目が覚めると、寝台にいた。
どうやら誰かが運んでくれたみたいだった。
この部屋には寝台は四つあったけど、ご主人さまたちはだれもいなかった。窓から差し込む光の強さで時間を予想する。まあ、七時くらいだろう。
ぼんやりしながらも、ゆっくり足を地面につけてみる。家といっても、日干しレンガの簡略式の建物が主流なので、床などない。
乾いた土の感触が、足の裏に伝わる。
この世界に来たときは小さな石のちくりとした感覚に苦しんだが、慣れた今は気持ちがいいくらいだ。
そんなことを考えながら、となりの部屋をのぞいてみる。
一軒家のリビングくらいの広さ。その中央、地面に広げられたじゅうたんの上で、世にも美しい男たちが雑魚寝をしていた。
「うわ……」
思わず息を漏らしてしまう。
ずっと汚れた女たちと、豚男しか目にしない生活だったのだ。国宝級のきらきらしさの男たちは、刺激が強すぎた。あおむけだったり、横向きだったり、かすかに息を吐いて上下するその胸のたくましさ。腕を折り曲げて枕にしているその腕の筋肉。閉じられたまぶたのつややかさ。長いまつげは女性のつけまつげより長くないだろうか。
こちらが気後れするほどである。
すると気配に気づいたのか、ユーリオットさんが首を起こした。
寝起きだからか、不機嫌そうに細められた瞳と目が合う。豊かな実りの、稲穂の色だ。
思わず見とれていると、そっぽを向かれた。
「おい、娘が起きた」
そう言って、ほかの人たちを起こしにかかった。
もぞもぞと、みんなが伸びをしながら身体を起こす。
「おはようございます」
とりあえずそう声をかければ、四人の動きは油の足りてないブリキ人形のように、ぎこちなくなった。
うん、とか、おはよう、とか、ぼそぼそと返してくれるが、目は誰とも合わない。
とりあえず気になったことを聞いてみた。
「あの、どうして私だけベッドで、みなさんは床で寝てたのですか?」
こっちは奴隷なのだ。謎すぎる。
誰でもいいから答えて、と四人を順番に眺める。
だって奴隷がベッドっておかしいでしょうよ。
答えてくれたのは、赤髪のナラ・ガルさんだ。
「女性だろう。あなたは」
なにそのレディーファースト。
「寝台、ほかにも三つあったのに。私が一緒の部屋だと、お気に触るとか?」
「ちがう」
あわてたように、月花が首を振る。
「ちがうんです。あなたがそばにいると思うと、とてもじゃないけど、寝られなくて」
くさいのか? 私は安眠を妨害するほどに、くさいのか?
確かに悪臭を放つ人物がいたら、眠れたものじゃないだろう。私だって、すさまじい臭いのあの盗賊たちに囲まれては、何匹羊を数えようと眠りは訪れない気はする。奴隷小屋では風呂はおろか水浴びすらもなく、今の私の不潔さったらすさまじいはずだし。
あわてて自分の腕とか肩のにおいをかいでみる。
それをみて、阿止里さんがおもむろに口を開いた。
「娘。ちがう。おまえが、おまえのような娘が近くにいると思うと、目など閉じられないのだ」
目を閉じられない?
「夢ではないか。消えてしまいやしないか。ずっと、見ていたくなってしまうから」
だっておまえは、と、ため息をついて阿止里さんは私を見た。
「――私たちにとっては、女神のようなものだから」
奴隷から女神へ下克上。いったいぜんたい、なんのことやら。
どうでもいいけど、拓斗に会いたい。
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