三段壁

涼風の扇風機

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三段壁

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私は、帰郷をして来たんです。
帰郷と言っても、父方の曾祖母の家に、帰ったんです。
曾祖母の家は、和歌山県のとある田舎にあるんです。その家は、田舎中の田舎で、コンビニエンスストアやスウパアも近くには無いんです。
山に囲まれて、家よりも田畑の方が多く、夜になれば、蛙の声や蟋蟀の羽根を擦る音、緑の葉がカサカサと揺れる音が聞こえてくるんです。
ですが、その音が、とても落ち着いて、安眠できるのです。私はその、静かそうで少し煩い真っ暗な田舎だと、悔いなく死ぬ事が出来る程、その場所を愛しているんです。
私は曾祖母の家に着くまで、昔沢山お世話になった近所の叔父さんや、ゲコゲコと田んぼの傍で鳴く、蛙と触れ合ったりして、懐かしい気持ちになりました。
そして、曾祖母の家に着くと、昔と変わらない優しい顔で私を迎え入れてくれました。曾祖母の家は、曾祖母が作った可愛らしい人間や、私の父達の家族写真、曾祖父の仏壇がありました。
家の中は、懐かしい独特の匂いがあり、とても、とても気分が上がりました。
そこからは、とても広い曾祖母の家の庭の掃除や、晩御飯の買い出しをしたり、曾祖母とも沢山お話をしました。
夕方になると、私は少し散歩をしに外へ出ました。湿った土の匂いは、とても好きです。
少し散歩して、昔と変わらない空気を存分に味わえたら、家に帰りました。
そうすれば、懐かしい、非常に美味しい曾祖母の料理の匂いがしてきました。
その日は、その後午後十一時頃には就寝しました。


次の日の朝、私は早起きなので、午前五時に起床しました。
曾祖母はまだ寝ていたので、置手紙にメッセエジを残し、家のドアにガチャリと鍵を掛け、外に出ました。
実は、というか、隠してはいませんでしたが、先程私の曾祖母の家は、和歌山県のとある田舎、と記しましたが、とても有名な崖の近くにあるのです。
三段壁、という崖をご存知ですか?そこは自殺の名所で有名な崖で、ドラマでもよく使われているんですよ。
そこの近く、否、少し遠いですが、歩けば行ける距離なんです。
そこの崖に座り、足をプラプラとしながら、海の空気を吸うのが好きなんです。最近は、自殺願望者かと思われ、心配されるので、辞めましたけどね。
ですが、近くには行こうと思ったので、その三段壁の近くに行きました。そこは、海の匂いがして、朝早くだからとても涼しくて、気持ちがいいです。
歩いていると、やっぱり、崖まで来てしまいました。
そうです、思い出しました、ここで自殺した人の大抵は、死体が見つかっていないそうなんです。
私の望んでいた場所、その物なんですよ。
流石に毎年は行けないので、四年ぶりに此処へ来ましたが、変わっていませんね。少しだけ、少しだけ座っていようと、昔と同じように崖の上に座り、足を下に降ろしました。
ここから飛び降りる、なんてことは、私のような意気地無しでは出来ないんですけれどもね。
矢張り、大好きな此処で死ぬるとは、とても、よいですね。
そうは思っても、私は家族や友人に、遺書も書いていなければ、これまでの感謝の言葉もまだ伝えておりませぬ。
だから、命を落とす、いいえ、この表現の方が良いでしょうか、身を落とすのは、まだ早いかと思い、今は座るだけにしておきました。
また、いつか、此処へ帰って来れますように、そう、願いました。
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