Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、難事に巻き込まれる

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 冒険者と貿易の街、ケルア。
 そこは毎日がお祭りのように賑やかな街で、駆け出しの冒険者たちが多い街であった。

 一歩進めば鎧で身を固めた者が。また一歩進めば今度は巨大な剣を背負う者が居たりと、街中の至るところに冒険者の姿を見ることができたりする。

 そしてその冒険者の半数は外からやってくる商人から特別な素材を買ったり、冒険に必要な道具を揃えたりと、前いた街ではあまり見ることができない光景が目の前に広がっていた。

「おじさん、もうここで大丈夫だ。短い間だったけどお世話になった」

「こちらこそお世話になった。それにまた会えるさ。ほら、これを持っていけ」

 そう言って商人はレンに向かってなにかを指で弾き飛ばす。慌ててレンが落とさないようにそれを掴むと、そのなにかは1枚の銀貨であることが明らかになった。

「おじさん。これは……?」

「昨晩助けてくれたお礼だ。少ないけど持っていけ」

「いや、でも俺は乗せてもらうことを条件に護衛をしただけで……」

「……確かにそうだな。でもあれほどの腕前があるのに、わざわざ道行く商人にあそこまで必死に頼み込むのもおかしな話だ。あまり詮索はしないが、なにか問題でもあったんだろ? 金も無さそうだし、それで飯でも食うなりするんだな」

 あまりにもいい人過ぎて男なのに若干惚れてしまいそうになるくらいの男らしさである。

 レンの中ではその商人の男を「ただの商人」ではなく「聖人」という認識に変わり始めていた。

「……ありがとう、おじさん。あ、そうだ。俺の名前はレンって言うんだ。一応教えておくよ」

「ふむ、レンか。いい名前じゃないか。ワシはガルド、いい名前だろ? おっと、もうこんな時間か。じゃあワシは早速商売を始めるとするよ」

「あぁ、分かった。じゃあ、また会える日まで」

 別れの意味で小さく手を振るとガルドはそれに気付き、素直に手を振り返してくれる。そしてレンが背を向けると、ガルドは手綱を掴み直して馬を歩かせていた。

 出会いは一期一会とはよく言ったものだ。レンが振り返る頃には既にガルドは遠くまで馬車を走らせており、背中すら見えなくなっていた。

 それを見て若干の寂寥感を感じつつも、レンは昔の記憶を頼りにし、人混みをかき分けながら街の中央へと歩いていく。

「えーと、ギルドギルド──あった。懐かしいな、前より少しだけ綺麗になったか?」

 ケルアの正門から歩いて10分で到着する街の中央。そこには離れていても分かるほど賑やかで巨大なギルドが佇んでいた。

 そのギルドには《ケルア》と大きく文字が書かれていた。ギルドの名前というのは基本ギルドがある街や国の名前から取られることが多く、そんなギルドの冒険者になるということはこの街の看板を背負うという意味でもあるのだ。

 そんな赤褐色のギルドの入口へ向かい、少し錆び付いた両開きの扉を押して開く。

 すると外にいるときよりも賑やかな──いや、騒がしいと表現した方がいいだろう。そんな熱狂がギルドの中から溢れかえっていた。

「うん。やっぱりギルドってのはどこも変わらないんだな。うるさくて、騒がしい。でもそれがいい」

 1人でギルドに入るのは何年ぶりだろうか。いつもはギリュウの背中について行き、クエストを決めたり食事をとっていたのでとても新鮮な気分である。

 とりあえずレンは入口の正面にあるクエストを受注したり依頼したりするクエストカウンターへ歩いていく。

「どこも並んでるなぁ…………ん? なんであそこのカウンターだけ誰も並んでないんだ?」

 レンが5つあるカウンターを右から左へと見流していると、1番左の誰一人として並んでいないカウンターを発見する。

 受付嬢がいないのかと思えば普通に立っていた。それにかなりの美人だ。レンは疑問に思いつつも、迷わずそのカウンターで冒険者登録をすることにした。

「あの、すいません。ここで冒険者登録をしたいんだが」

「…………えっ? あ、冒険者登録ですか?」

「……? そうですけど、なにか不満でも?」

「い、いえいえ! そうではなくてですね。いや、なんでもないです。申し訳ございません」

 若干濁された気もするが、とりあえず今は速やかに冒険者登録を済ませるのが先決である。

 なのでレンは登録料として先ほどガルドから貰った銀貨をポケットから取り出し、美人の受付嬢に手渡ししようとする。

 すると急に後ろから強い力で肩を掴まれてしまい、つい銀貨を床に落としてしまった。

 軽い苛立ちを覚えたレンは小さく舌打ちしながらその銀貨を拾い、首を捻って肩を掴んでくる者の顔を確認する。

 そこにはレンよりも身長が高く、全身筋肉質の男が額に青筋を浮かべ、今にも殴りかかってきそうな距離でレンを睨みつけていた。

「あ? 誰だお前。悪いけど邪魔しないでくれないか?」

「邪魔しないでくれないかだって? なに言ってんだ。邪魔以前にルールを破ったのはお前だろ? ふざけてるのか?」

 こいつはいきなりなに言い出すんだ。もし俺がこいつの前に割り込みしたなら分かるが、別に並んでいたわけでもない。怒られる筋合いなんてないはずだ。

 それなのになぜそんなに敵意を剥き出しにしているのだろうか。さすがにガンを飛ばした覚えもないので、これに限っては自分はなにも悪くないと胸を張って言えるだろう。

「これから俺は冒険者登録をする。すぐ終わるから後ろで並んで待ってろ」

「ギャハハ! 冒険者登録ぅ? はぁ、困るなぁ。いくら新人だからって、ギルド内のルールくらい守ってくれなきゃ!」

 いきなり腹を抱えて笑い出したと思えば、一瞬で愉快な形相が卑劣なものに変わり、レンの顔面目掛けて巨大な拳が風を切りながら襲いかかる。

 だがレンはその拳を片手で受け止める。そしてレンは目の前の男がどうしようもないであることをその1発で覚ったのであった。

「あのなぁ。俺がなにをしたのかは知らないけど、そんなに敵意を剥き出しにして今から殴りますよって雰囲気を出してたらバカでも殴られるって理解するぞ?」

「なっ!? こ、こいつ! 離しやがれ!」

 まさか自分より小さい男に渾身の1発を止められるとは思わなかったのだろう。喧嘩を売った男は怒り、手を引き戻そうとするがレンに掴まれているせいでその場で踠くことしかできなかった。

 いくらレンがスキル開花前の準備期間中で身体能力が大幅に下がっていようと、見え見えのパンチを受け止めるなんて造作でもないのである。

「お、お前! 俺にこんなことしていいと思ってるのか!? もしここで離さなかったらここでお前を──」

「おい、ディグル。またお前は騒動を起こしているのか?」

「うるせぇ! 部外者は黙って──って、ギ、ギルドマスター!?」

 急に目の前の男、ディグルの後ろから痩せ細った男がやって来たかと思えば、途端にディグルはしおらしくなり、額に冷や汗を浮かべ始める。

 その男は無精髭を生やし、軽装であったが胸元にはギルドの責任者──つまりギルドマスターの証と呼ばれる金色の刺繍がこれでもかとその存在感を全面に放っていた。

「おいディグル。これで何回目だ? いい加減お前を注意するのは疲れてきたんだが」

「で、でもよ! この新人がこのギルドのルールを守らなかったから……」

「それはお前らが勝手に決めたローカルルールだろ? ワタシはそのルールに賛同なんてしていない。むしろ撤廃すべきだと思っている。これを話すのも何度目か忘れたくらいだ」

「ぐっ……」

 この分が悪い中で、ディグルがギルドマスターと呼ばれる男を言い負かすことは不可能だろう。それに会話の内容からして、どうやらこのディグルという男は以前に何度も同じようなことをしているらしい。

 いい加減苛立ちを隠せないのか、ディグルは大きく舌打ちをしながら毒を吐き、力を抜いたレンから腕を引き、ギルドの奥へと戻っていく。

 そしてその場に残されたギルドマスターは先ほどとは打って変わって気さくな表情になり、レンの前に自分の右手を差し出した。

「いや、申し訳ない。うちの者が失礼な真似をしてしまって。怪我はないかな?」

「あぁ、ギルドマスターさんのおかげで怪我はひとつもありませんよ」

「そうかな? もしワタシがあそこで止めなくても、キミはディグルに圧勝したと私は思うのだが」 

「……それは、どうでしょう。やってみないと分からないことは肯定しかねますね」

 差し出された右手に対しレンも右手を差し出し、握手を交わす。ギルドマスターと呼ばれる男の手は細々としているものの、手を握る力は異常なほど強かった。

 長年の経験から、直感だがレンはこのギルドマスターが只者ではないことを瞬時に察し、社交用の笑顔を取り繕うことにした。

 その理由としてギルドのトップであるギルドマスターに悪い印象を与えたくなかったこともあるが、第一に本能が目の前の人物を危険だと暗示してきたからであった。

「ははは、キミは面白いね。そうだ、お詫びも兼ねてワタシの部屋で少し話そうじゃないか。ティエリナ、任せてもいいかな?」

「あ、はいっ! 私にお任せ下さい、ギルドマスター!」

 ギルドマスターがティエリナと呼ぶと、先ほどレンが話しかけた美人の受付嬢が満面の笑みで了承し、クエストカウンターを潜り抜けてレンの隣へとやってくる。

「よろしくお願いしますね、新人さん!」

「あぁ、これから長い間よろしく。ティエリナさん」

 決して八方美人ではない心からの笑顔に若干たじろぎながらも、なんとか平静を装うことに成功する。

 もしかしたら、ここのギルドの冒険者はティエリナに好意を抱いてるからディグルのような短気で喧嘩っ早い男が喧嘩を売ってきたのではないだろうか。

 だとしたら初日からとんでもないことをしてしまった。決して悪目立ちせず、平和な日常を過ごそうとしていたのにまさか取り返しのつかないくらい面倒なことに巻き込まれたのかもしれない。

 そんなことを考え、ため息を吐いていると心配そうにティエリナが顔を覗き込んでくる。

 そんな可愛らしい動作に目を奪われつつも、レンはギルドマスターに連れられてギルドの三階にある来客室へと案内された。
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