スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第0話 プロローグ

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『おめでとうございます。あなたが秩序の塔、最初の踏破者です』

 人に似通った声が響き、祝福の光が返り血で赤く染まった俺を照らす。

 俺はポッキリと折れた赤黒い刀身の剣を腰に携えた鞘に収め、遠くで転がっている巨大な黒い骸に目をやりながらも俺は立ち上がり、天井を仰ぎ見る。

 天井は赤や青、緑や黄といった美しいカラーバリエーションのステンドグラスによって覆い尽くされていて、謎の声に反応してキラキラと輝いていた。

「……最初の踏破者? それに、始まりの塔ではなく秩序の塔……か。それより、お前はいったい何者なんだ……?」

 天井を覆い尽くすステンドグラスに向けて問いかけをしても、あの謎の声はなにも答えてくれない。

 きっとこれは誰かのイタズラなのだろう。そう判断し、ため息を吐いた刹那、ステンドグラスの中央に穴が開きそこから一人の少女が俺の目の前に降りてくる。

 腰まで伸ばした銀色に輝く髪は光を透かし、色素の薄い白い肌と相まって芸術作品のような美しさが醸し出されていた。

 だがその少女は、手足が鎖によって繋がれていた。
 それだけならまだいい。それよりも異質なものが、背中から生えて伸びていた。

 人間の背中にはない、まるで鳥のような翼。
 しかもその翼は闇よりも深い漆黒色をしており、神秘さと同時にどこか異質さを漂わせていた。

『秩序の塔踏破報酬でございます。生かすも殺すも、あなたの思うまま。生殺与奪の権利は、あなたに──』

「お、おい! こいつはなんなんだ!? おい!?」

 いくら怒声を上げても、謎の声は息を引き取ったかのようにうんともすんとも言わなくなる。

 そして俺の前に降り立つ、鎖に繋がれた黒い翼を持つ少女──さながら、堕天使というべきか。

 その堕天使は鎖で繋がれていながらもゆっくりと瞼を見開き、まるで宝石のように輝いている藍色の瞳でこちらをジッと見つめていた。

 そう。これが俺と、謎めいた堕天使の少女との出会いであった──





    ──────





 ──この世の中には、"スキル"と呼ばれるものが存在する。

 人はそのスキルを駆使することによって、想像を絶する力を発揮できるようになる。

 例えば、《剣術》というスキル。
 これは習得することによって、剣を使った戦闘が得意になったり、剣を思うがままに扱えるようになったりする。

 他にも《鍛冶》や《調理》といったスキルもあるのだが、基本スキルというものは該当する行為を続けていれば習得できるというものなのである。

 またまた《剣術》の話になるのだが、一般常識でいうと剣での素振りを一万回以上続ければ、《剣術》のスキルを習得できるとかできないとか言われていたりする。

 難しい話なため結論から言うと、結局のところこの世はスキルが全てなのである。

 そんな中、俺──レイは、スキルが全ての世界だというのに一つもスキルを持ってない"無能力者"というレッテルを貼られていた。

 今は、子供だってスキルを一つは持ってる時代だ。それなのに、俺はもう21歳だというのにスキルを習得するどころか習得する予兆すら味わったことがなかった。

「……まったく、この世は残酷だよな」

 ぷちぷちと白い花が咲いた植物を採取しながら、俺は愚痴をこぼす。

 今俺がいる場所は"アーラス"という名の王国の近くにある、名もなき小さな森の中である。

 なぜこんな場所にいるかって?
 その理由は簡単だ。俺はアーラスにあるギルドの冒険者で、まともに受けれるクエストが植物採取くらいしかないためである。

 俺に力があれば、こんな蒸し暑くて虫が沢山生息している森になんてやってこない。

 だが悲しいかな。
 俺はスキルを持たない"無能力者"だから、こんな面倒な依頼でも受けないと稼ぐことができず、路頭に迷ってしまうからだ。

「(まぁ、ここは魔物が生息していないらしいから安全なんだけどな)」

 蒸し暑いことと虫がいることを除けば、この森は魔物が現れることはないので理想的な場所なのだ。

 群れを作って家畜を襲う《バウウルフ》や、小さな農村を襲う《ゴブリン》の姿もない。

 もし万が一にも魔物が現れたときには戦わないといけないのだが、俺の戦闘力はというとゴブリンを同時に二匹相手にしてギリギリというところだ。

 三匹を同時に相手したら確実に殺される。
 それくらい、スキルがないという代償は大きいのである。

 それならスキルがなくても努力すればいいだろ。という話になるが、スキルというものは努力の表れでもある。

 実際に俺も剣を一万回──いや、もう二万回くらい素振りしている。それなのに《剣術》のスキルを覚えないということは、つまりはそういうことだ。

「さて、目標の数は揃ったし、帰るか」

 腰にぶら下げた小さな鞄の中に束ねた植物をそっと収納し、俺はおもむろに立ち上がる。

 後ろを向けばアーラスを囲う立派な石造りの城壁があるのだが、それよりもさらに目を引くものがアーラスの中から天を貫くように突出していた。

 それは突如として天からこの世界に降り注いだ十本の塔のうちの一本──通称"始まりの塔"である。

 この始まりの塔は直径二十メートルほどなのだが、大きいものだと直径が百メートルを優に超えるものがあるのだとか。

 なぜこの塔が始まりの塔と呼ばれているのかは追々説明するとして、俺はどこまでも高く聳え立つ塔を前に、目を細めながらしばらく見上げていた。

「……いくら弱くてもスキルがあれば、俺もあの塔に挑めたのかな」

 始まりの塔だけでなく、この世界にある十本の塔はどうやら中がダンジョンになっているらしく、魔物が生息している迷路だったり、はたまた別世界のような世界が広がっているらしい。

 しかも中には貴重なお宝も眠っているらしいのだが、俺が拠点と置いているアーラスにある始まりの塔には、魔物はいるものの宝物が一切眠っていないらしい。

 そんな塔に危険を冒してまで入る必要はない。
 そのため、この始まりの塔にはアーラスのギルドにて冒険者に登録した新米冒険者がまず最初に訪れる、俗に言う修行場所のような存在なのだ。

 だからこそ「冒険者人生が始まる」という意味で始まりの塔と呼ぶらしいが、それ以前にこの塔がこの世界に降り立った一番最初の塔という意味合いもあるらしい。

「まっ、そんなこと俺には関係ないんだけどな……」

 強くなりたいのなら塔に入るのも有りだが、俺はもう自分の限界を知ってるし、そもそも宝物がない塔に入るだけ時間の無駄だろう。

 それに今頃、は俺を差し置いて別の依頼先へと赴いているはずだ。

「……俺にスキルがあればな」

 そんな風にネガティヴ思考になりながらも、俺は見慣れた景色かつ歩き慣れたけもの道を通ってアーラスへと向かうのであった。


    ──────


「はい、雪花草ゆきばなそう二十本の納品ですね。報酬の銀貨一枚ですが、間違いないですよね?」

「あぁ、いつもいつも悪いな」

「いえいえ、それはこちらのセリフです。レイさんはいつも誰も受けないような依頼を受けてくださっているので、私たちギルド側は非常に助かっているのですよ? それに、ギルドマスターもレイさんに感謝をしていましたし」

「そうか。では、今後ともよろしく頼むと伝えてくれるか?」

「はい。お任せください!」

 受付嬢に依頼用紙と雪花草、そして身分証明書であるギルドカードを渡した俺は、手短に手続きを済ませてもらい、ギルドカードと報酬である銀貨を一枚受け取って受付カウンターを後にする。

 今俺が手にしているギルドカードは、身分証明書だけでなくその者がどれだけギルドに貢献したかがランクとして記載されている。

 それをギルドランクというのだが、俺のギルドランクは下から数えて三番目のDランクだった。

 Dランクというランクは低くはないものの、だからといって高くもない。まさに普通のランクなのだが、そこに三年間冒険者として活動してきたという実績を入れたらどうなるか。

 三年あれば、才能がなくてもCランク。才能の塊だったらAランクにもなりえる年月であり、そう考えると俺のランクはかなり下であると言えるだろう。

 それも当然。
 なぜならば、俺は冒険者に登録してから植物の採取ばかりで、魔物を倒すような討伐依頼などの危険な依頼は一度も受けたことがないからだ。

「俺だってこんな地味な依頼じゃなくて、ドラゴンを倒したり街を救ったりしてみたいさ。だが、俺には無理だ」

 一枚の銀貨を指で弾き、俺はため息しながら銀貨をキャッチする。

 頭の中でグルグルと回るスキルという単語。
 もしスキルがあったら──なんて妄想を、何百回したのかはもう数えていない。

 だが俺ももう子供じゃない。
 三年も冒険者という世界で生きてきたからこそ、俺の価値の低さは自分がよく分かっている。

 しかし──

「おっ、あれって無能力者じゃねぇか?」

「ほんとだ! 確か、三年かけてDランクなんでしょ? しかも、受ける依頼は植物採取ばかり。私たちなんて、まだ二年も経ってないのにDランクなのにね」

「才能がない癖に無駄に足掻いてるんだよ。この世界は無能力者に生きづらいだろうな。だが、これが現実なんだよ」

「んね。そんなに植物を採取することが好きなら、さっさと冒険者なんか辞めて薬剤師なればいいのにね」

 二人組の若い冒険者が俺の悪口を堂々と言う。
 俺だって俺の弱さや非力さは認めているが、だからといって自分で思うのと他人に言われるのは別だ。

 俺だって人だ。腹も立つし、怒りを覚えることだってある。

 だがもう一度言おう。
 この世界はスキルが全ての世界だ。
 いくらここで俺が反発しても、スキルを持つ彼らの前では無力なのだ。

「(俺も、お前らみたいに魔物を倒して稼ぎたいさ。だが……)」

 それは無理だ。と、俺は心の中でそう呟いて騒がしいギルドをあとにする。

 そして俺はいつも泊まっている宿屋に向かい、腰にぶら下げている持っていてもあまり意味のない剣の手入れをしてから、英気を養うためにその日を終える。

 ちなみに俺が泊まっている宿の宿代は食事付きで一泊で銅貨六十枚なので、銅貨百枚の価値がある銀貨一枚ではたった一日しか泊まれないため、また明日も依頼を受けないといけないのだ。

 毎日毎日、三年間俺はこうやって食いっぱぐれないように生きてきた。それはこれからも変わるわけがなく、無能力者の俺はつまらない日々を過ごしていく。

 だが翌日には、そんな俺を絶望のドン底に落とす事件が起きたのだった──
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