スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第17話 最終決戦、イヴルムート

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 それは、まるで地獄のようであった。
 美しい部屋の中で、俺は恐怖という概念を固めたような存在とに立ち向かっている。

 イヴルムートが五色の宝石を輝かせてから、どれだけの時間が経過したのかは分からない。

 一分? 十分? 一時間? 十時間?
 思い返せば一瞬のように短い気もするし、永遠のように長いような気もする。

 今自分でもなにをもってこのことを考えているのかすら分からなくなっている。そう思えてくるほど、イヴルムートは強い、強すぎた。

 右手にある赤の宝石を光らせば豪炎が。
 左手にある青の宝石を光らせば吹雪が。
 右足にある緑の宝石を光らせば暴風が。
 左足にある黄の宝石を光らせば砂嵐が。
 頭部にある白の宝石を光らせば極光が。

 距離をとれば俺が取得している魔法よりも遥かに強力な魔法が絶え間なく襲いかかってくる。

 だからといって距離を詰めれば、先ほどよりも俊敏さが増した動きで肉弾戦を仕掛けてくる。

 そしてそれらを防いだとしても、翼を羽ばたかせて空を舞い、かつてのバーニングモーラのように口から灼熱の炎だったり絶対零度の冷気だったりと、五種類の属性を利用したブレスで俺の命を狙ってくる。

 まさに暴力の具現化。最強の権化。
 こんな奴に、勝つことができるのか──そんな思考が産まれてくる。

 もしかして、俺がしてることは無駄ではないのか?

 ここで勝って、なにになる?
 こいつを倒して生還した先には、なにが待つ?
 アレクたちを見返す? いや、見返す必要なんてないし、もう関わることのない存在だ。

 分からない、分からない、分からない。
 いったいなにが俺を駆りたてる? いったいなにが俺の体の活力となっている?

 その時、俺はあの謎の声が聞こえたような気がした。

『──最上階で────待ってる──』

 ただの幻聴かもしれないし、記憶の中にあった音声が再生されただけなのかもしれない。

 だが、おかげで迷走していた思考をまともに取り戻すことができた。

 理由なんてどうでもいい。
 意味なんてどうでもいい。
 俺は、俺はこの謎の声の正体が知りたいからここにいる、立ち向かっている。

 ただ、それだけだって気付いた。
 そのときには既に、俺は一瞬だけ失っていた意識をなんとか取り戻すことができていた。

「──ハッ!?」

 ようやくして、俺は色鮮やかなステンドグラスが動いていることに気付く。

 いや、実際に動いているのは俺で、ステンドグラスは動いているように見えていただけである。

 そして、俺はそこでなぜ今このような状況になっているのかということに、やっと気付くことができた。

「(そうだ、俺はイヴルムートと戦っていて……それで──)」

 そうだ。俺はなんとかイヴルムートの魔法やブレスを潜り抜けたのだが、そのせいで床に発生した亀裂に足を取られてしまい、その隙を狙っていたイヴルムートに蹴り飛ばされてしまいそうになったのだ。

 そのため、俺は《錬成》を使用して蹴りの勢いを殺す壁を生成したが、それは呆気なく破壊される。

 そこから俺は咄嗟の判断で《氷の鎧》による強固な鎧を身に付けたのだが、イヴルムートの蹴りはその鎧をも破壊し、俺が今できる最強の防御をいとも容易く簡単に打ち砕いてくるのだ。

 幸い当たりどころがよかったおかげか、体への痛みはあまりない。

 だがこのまま距離を取られれば、また魔法の雨が降り注ぐことになる。

 もう、あんな地獄を味わうなんて懲り懲りだ。

「ふっ──!」

 そこで俺は《風属性魔法》のスキルレベルが二に上昇したことで取得した《ウィングボム》という魔法を自分の背中に面している床に放つことで、簡易的な風のクッションを生成する。

 クッションといっても、実際はかなり強めに背中を殴られているような感じなのだが、そのおかげで俺は自分の体を宙に浮かび上がらせることに成功していた。

 一見自滅技にも見えるが、俺には幸いにも《風属性魔法耐性》があるため、少しの間背中がヒリヒリするだけで済んで終わる。

 そして上手く着地してから顔を上げれば、イヴルムートは笑みを浮かべながら右の手のひらにある赤い宝石を俺に見せつけ、不気味に輝かせている最中であった。

 あれは魔法の合図だ。
 そのため俺は目の前に五本のファイヤアローを生成し、一本に束ねてから手を回転させ、ファイヤアローにスピン回転を付与する。

 その後、俺はファイヤアローにあるスキルを施し、こちらへ向けて豪炎を放つイヴルムートの手のひらを狙って俺は全力でファイヤアローを放った。

 ゴウゴウと音を立てながらこちらに伸びてくる豪炎の中央に俺のファイヤアローが呑まれた瞬間、突如として豪炎は中央から切り裂かれ、炎が散り散りになっていく。

 そうさせているのは、俺が放ったファイヤアローである。

 だがそれだけでは終わらず、そのままファイヤアローは失速することなく豪炎を切り裂いていき、イヴルムートの右手のひらへ向けて真っ直ぐと飛来する。

 そして次の瞬間──俺が放ったファイヤアローは、なんとイヴルムートの右手のひらにあった赤い宝石を破壊したのである。

『ガルゥアァアァアァァァアアァアァアッ!?』

 するとその直後、イヴルムートは分かりやすく腕を引っ込めて絶叫を上げた。

 今までイヴルムートから聞こえていた声とは、また違ったトーンの声。

 その声をこうして耳にしたのは初めてだが、そこで俺は確信した。

 あの宝石になら……いや、あの宝石こそ、イヴルムートの弱点である──と。

「そうと決まれば、徹底するまで!」

 割れた宝石から豪炎を出そうとするイヴルムートだが、炎どころか火花すら散ることはない。

 おそらく、イヴルムートは自身の特性に気付いていないのだ。

 今までここにたどり着いた者が俺以外にいるのかは不明だが、イヴルムート──奴は、自分が絶対的な強者であると信じている。

 そして、こんな場所にいるからこそ、奴は弱点を攻撃されたことがない。つまり、奴は自分でも自分の特性に気付けずにここまで生きてきたのだ。

 さしずめ『宝石の色に対応した属性の攻撃を与えればダメージが入り、そして割れた宝石からは二度と魔法は放てない』だろうか。

 それが分かってしまえば、攻略は可能だ。
 そのため、俺はすぐさまステータス画面を開き、称号を《光鳥を討ちし者》から《氷狼を討ちし者》に変更し、未だに激痛に耐えながら今度は左手を向けてくるイヴルムートに対し、アイスアローを放った。

 そんな俺のアイスアローを迎撃するように、イヴルムートは左の手のひらから霰や雹が混じった冷気を発生させる。

 しかし俺のアイスアローはそんな冷気の中をものともせず突き進んでいき、今度は左の手のひらにある青い宝石を破壊することに成功した。

 なにが起きているのか分からないといった様子でイヴルムートは両手を握り締め、怒りをあらわにする。

 先ほど豪炎を切り裂いたファイヤアローも、吹雪をものともしなかったアイスアローも、これらは俺のスキルによって強化されたものであった。

「ははっ……防御以外の用途だってあるんだよ。この、《風の障壁》はな!」

 ストーヴァから取得した《風の障壁》。
 これは今まで防御面での活躍を見せてきたが、実際の効果は自分の周囲に風の障壁を纏わせるだけではない。

 本当は『自分の周囲だけでなく、触れた物や自分が作り出したものならなんでも《風の障壁》を付与することができる』というものであり、この効果を使いこなすストーヴァはかなりの強敵であった。

 かつてストーヴァは《風の障壁》を攻撃や防御をする際に使用してきたと前に話したと思うが、本当のところを言うと防御面で使われるよりも、攻撃面で使用された方が何倍も厳しかったのである。

 なんせ、なんでも切り裂く不可視の風を四方八方から飛ばしてくるのだ。

 そんなの対処法などないと思うが、俺は機転を利かせて《炎属性魔法》であるファイヤを生成し、炎の揺れによって風の流れを読んで接近していき、上手く懐に潜り込んでからストーヴァに致命傷を与えたのである。

 そして今俺は、そんなストーヴァの真似事をしている。

 ストーヴァの放つ《風の障壁》は、俺の魔法を何度も何度も切り裂いてきた。それを思い出して、俺は実行したのだ。

「どうやら、それは成功したようだな」

 早速俺は慣れた手つきで称号を《氷狼を討ちし者》から《風鼬を討ちし者》に変え、イヴルムートの左足に向けてかつてゴーレオーガ戦でも活躍したウィンドカッターの上位互換、エアロカッターを三発放つ。

 速度と避けづらさが自慢の《風属性魔法》だが、殺傷能力は低い。

 だがその火力不足も、《風の障壁》を纏わせることで解決するのだ。

 魔法を切り裂き、それでいて着弾と同時に追加攻撃を与える《風の障壁》が付与されたエアロカッターを、激痛に苦しんでいるイヴルムートに躱すことはできない。

 そのままエアロカッターはイヴルムートの右足にある緑の宝石へと命中し、たった二発のエアロカッターによって破壊された緑の宝石の欠片は、呆気なく宙を散っていた。

 そして最後の一発による追撃は──ない。
 三発放ったエアロカッターの内、最後のエアロカッターはイヴルムートの立っている床に向けて放っていたのだ。

 その間に俺は称号を《風鼬を討ちし者》から《岩砕を討ちし者》に変え、次の準備に取り掛かった。

「──ロックウォール!」

 距離が遠くなればなるほど魔法の生成は難しくなるが、不可能というわけではない。

 そのため俺は《岩属性魔法》であるロックウォールという魔法を使用し、イヴルムートの足元に小さな岩の壁を生成する。

 だが、その岩の壁はただの壁ではない。
 その岩の壁──ロックウォールは、俺の魔力によって生成された物質だ。つまり、それは《錬成》の対象になる。

 そう、俺が生成したロックウォールは長方形の壁ではなく、まるで槍の先端部分のような形をした三角錐の壁──壁と聞かれれば壁ではないのだが、性質上は俺の《錬成》の効果を受けたロックウォールであるため、これは壁である。

 だが、生成するだけでは意味がない。
 そこで、先ほど俺がイヴルムートの立っている床に目がけて放ったエアロカッターが活きてくるのだ。

「錬成ッ!」

 俺の《錬成》という声に合わせて、鋭く尖ったロックウォールが生成された床が突出し、大きく怯んでいるイヴルムートの左足目がけてロックウォールの先端が押し出されていく。

 しかも、そのロックウォールは回転している。
 それは、俺が黒と金でできた豪華な床の柱を、捻りながら伸ばしているからだ。

 《錬成》は、一度動かした物質を再度動かすためにはしばらくの間待たなければならない。

 しかしだからといって《錬成》によって伸ばした柱は《土属性魔法》ではないため宝石を破壊できないかもしれないし、表面積が広いロックウォールではダメージは与えにくい。

 そもそもロックウォールは防御用の魔法なため、それを攻撃に活用するためには尖らせ、鋭利にする必要がある。

 だがそこで一度《錬成》の効果を使用してしまうため、すぐには攻撃に転じることができなくなってしまう。

 そもそも距離が遠いので、正確に当たらないかもしれない。

 だからこそ、俺はあえて床で攻撃せず、床を攻撃に使うための土台として利用したのである。

 《錬成》は、発想によって様々な用途に使える。
 柱を作ったり、壁を作ったりなど──だからこそ、俺はあえてロックウォールと床の二種類を利用することで、一瞬で《錬成》を二回使用できるようにしたのである。

 その結果は、俺が望む通りになった。

『グァルアァァァアアァァアァアッ──!?』

 ついにイヴルムートは断末魔の叫びのような絶叫をあげ、そのまま力なく背中から倒れ込んでしまう。

 その時点で俺は足元を《錬成》させてイヴルムートへと接近し、そこから柱を天井目がけて突出させることで自分を押し飛ばし、今はイヴルムートの上空をとっていた。

 既に俺は《岩砕を討ちし者》の称号を《光鳥を討ちし者》に変えてある。

 だが、《光属性魔法》は少し他の魔法と違う。
 俺が使える《光属性魔法》は三つで、一つ目は暗闇を照らすライト。そして二つ目は眩い光を放つフラッシュである。

 そもそも《光属性魔法》はあまり攻撃に特化していない魔法なため、イヴルムートも額から眩い光を放って俺から視界を奪うことしかしてこなかった。

 しかしそんな《光属性魔法》も、攻撃の手段がないわけではない。

 それは自分が持つ道具に光を宿らせ、簡易的な照明を作ることができる《エンチャント:ライト》という魔法で、魔法の中では珍しいスキルレベル一から使える対象物に属性を付与できる魔法であった。

 他の魔法のようにライトアローやライトボールがない中、どうやってイヴルムートの額にある白の宝石を破壊するのか──そう考えたとき、俺は一つの結論にたどり着いていた。

「他の宝石を破壊し、生まれた隙を直接叩けばいいっ!」

 俺はホーリーナイトから奪った聖なる光が宿る白い剣を抜き、剣に《エンチャント:ライト》を使用して光の属性を付与する。

 これは偶然なのか必然なのか。
 なんとホーリーナイトから奪ったこの白い剣は、光属性の攻撃力を強化する効果を持つのだ。

 最初《鑑定眼》で知ったときはどう活用すればいいのかと悩まされたが、今ここで理解した。

 この剣の使いどころは、今この瞬間であると。

「トドメだ──イヴルムートッ!」

 《腕力》や《剣術》、《刺突》などの効果が存分に乗った俺の突きが、イヴルムートの額に正面からぶつかり合う。

 さすがに額にある宝石なだけあって他の宝石よりも硬かったが、俺は弾かれてしまわないように両手で柄を掴み、宝石に剣を沈めるように全体重を剣にかける。

 そして、次の瞬間──俺の目の前に、白い宝石の欠片が散った。
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