スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第26話 アクシデント

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 アリサが用意してくれた熱々のお茶を各々口にし、しばしの休憩となる。

 相変わらず、アリサのお茶は非常に美味しい。
 そういえば、過去に美味しいお茶を注げるようになるまでお茶を飲み続けたこともあった。

 あの頃から比べるとアリサも格段に成長しており、お茶の味だけでなく受付嬢としても立派に育っているため、内心嬉しく思う。

 アリサが注いでくれた熱々のお茶を、俺は少しずつ口に含むように喉を潤していくのだが、そんな俺の隣に座るネアは、熱々のお茶をグイッと一気に飲み干してしまっていた。

 だが熱くて舌が火傷したような素振りなどは見せず、ただ何事にも動じることはなく無表情を貫いていた。

 そんなネアを前に猫舌のフィリアは唖然としており、猫舌でないジークも湯呑みを手にしながら固まっていた。

 とまぁ、そのようなことがあり。
 数分間の休憩を終えたジークたちは、俺が話しだすのを今か今かと静かに待機していた。

「えーと……どこまで話しましたっけ?」

「そうだな。レイくんが実は《会得》というスキルを持っていて、初心者殺しから《鑑定眼》というスキルを取得したというところまでだったはずだ」

「分かりました。では……次に行きますね」

 俺がそう言うとジークやフィリア、アリサは話を聞く体勢になっており、俺は一度息を吐き出しつつも、先ほどの休憩時間でまとめていた話をすることにした。

「始まりの塔は全三十階層あると言いましたが、五階層毎にフレイムドモンキーやグレイシスウルフのような、他の魔物よりも卓逸した強さを誇る魔物が待ち構えています。そして、その階層より先に行くにはそこの階層の魔物が得意とする属性魔法を取得していることが条件となっています」

「なるほど……それで、十五階層目や二十階層目はなにがいたの?」

「十五階層目にはストーヴァという名の風を操る魔物が。二十階層目にはゴーレオーガという巨大なゴーレムの魔物が。二十五階層目には光を纏ったディアニティーという鳥の魔物がいました」

「……待ってくれ。それは理解した。だが、それならレイくんは最低でも四種類以上の魔法を使えるということにならないか?」

 そんなジークの発言に、魔法職であるフィリアがガタッと音を立てて立ち上がる。

 これでも、俺は魔法に関しての知識はある。
 魔法を扱うには魔法の仕組みを理解し、魔法を魔力で制御する必要性がある。

 だがまず第一に魔法を習得するには、《剣術》や《体術》などのスキルを習得するよりも、比べものにならないくらい多くの時間を必要とするのだ。

 魔法を学び、魔法を知ることでやっと取得できる魔法。

 いくら才能があっても一つの魔法を取得するには最低でも一年はかかると言われており、それ以降の魔法を取得するにはそれよりも時間がかかると言われている。

 だがフィリアは俺とそこまで年齢は変わらないはずなのに、四種類もの魔法を扱っている。

 そんなフィリアに、自分は既に五種類の魔法を扱えるようになったなんて、言えるはずがない。

 だからこそ、俺はそんなフィリアのために嘘をつくことにした。

「……少し話は変わりますが、俺の隣に座っているこいつの名前はネアと言います。ネアとの出会いは、始まりの塔に挑む前でした」

 そこで、俺は俯きながら三人にあることを伝えた。

 始まりの塔に挑む前、俺は暗い路地に連れ込まれたネアを助けたということ。

 そして、ネアは過去に悲惨な目にあって記憶を失っているということを。

 その後、ネアには魔法の才能があったと知り、行く宛もなかったため共に始まりの塔に挑んだということを。

 最後に、ネアがいなければ俺一人では絶対に始まりの塔を攻略することは不可能だったということを、俺は三人に伝えた。

 こうすることで、まずはネアとの出会いを偶然のように見せることができる。

 そしてそのネアがおかげで、本当は俺が《会得》の力で何種類もの魔法を取得しているのでは? という疑問を抱かれることがなくなる。

 ネアとの出会いは全部嘘になるが、記憶を失っているということは事実なので、ジークたちがネアに質問し、ネアがなにも答えなくても不自然ではない。

 とりあえず、こんなところかと俺が顔を上げると、ジークとフィリアは驚きはしつつも気まづいのか俺から目を逸らしており、一方のアリサは目を泳がせつつも、ネアに頭を下げていた。

「ご、ごめんなさい! 私、ネアさんにそんなことがあったなんて知らずに、さっきはしつこく質問しちゃって……」

『…………大丈夫。私は、気にしてない』

「で、でも……」

「まぁ、ネアがそう言ってるんだからいいんじゃないか? ネアも、そこまで気にしてない様子だしな」

 これは大半が嘘なので、アリサがそこまで自分を責める必要はない。

 むしろ自分を責めるのは俺の方で、事情があるにせよアリサだけでなくジークやフィリアにもまた嘘をついてしまったので、心が痛くて仕方がなかった。

 そんな中、ネアは視線を俺に向けてくる。
 その視線には『これでいいんだよね?』という言葉込められており、俺はそんなネアを前にゆっくりと首肯した。

 するとネアはまた視線をよく分からない場所へと移し、まるで魂が抜けたかのようになにも喋らずただ座っていた。

「……まぁ、話は逸れましたが。記憶がないせいでネアは自分がどんなスキルを使えるかはあまり分かっていないらしく、今判明した魔法は風と土と光の三種類でした」

「なるほどなぁ……つまり、近接職のレイくんと魔法職のネアちゃんが上手く噛み合って、ストーヴァやゴーレオーガ、そしてディアニティーという名の聞いたことのない魔物を討伐できた──というわけだな」

「私もやっと理解したわ。もしレイくんが炎や氷だけじゃなくて風や土や光の魔法まで使えたとしたら、私はレイくんに嫉妬しちゃっていたもの。まぁ、ネアちゃんみたいに可愛くて若い女の子が既に三種類の魔法を使えるというのも少し納得がいかないけど……世界は広いって実感したわ」

 本当に、《殺奪》のことを明かさなくてよかったと思う。

 ジークとフィリアのことだ。
 きっと癇癪を起こすようなことはないと思うが、それでも苦労してやっと取得することができるスキルを、俺は「魔物を討伐するだけでその魔物が取得していたスキルを得ることができる」なんて聞いたら、どんな反応をするだろうか。

 まず、驚くだろう。
 そして今度は俺のスキルの数に驚いて、スキルレベルの高さに絶句するはずだ。

 まぁ、結論から言って、ろくな結果にならないのは確かである。

「それで……始まりの塔の三十階層目にはどんな魔物が待っていたんだ?」

 ここに来て、やっと究極の質問が飛んでくる。
 だがこの質問も、俺はある結論に至って誤魔化すことにした。

「三十階層目には、なんと宝がありました。始まりの塔には道中に他の塔と違って宝物が一つもないという欠点がありましたが、実は最上階である三十階層目がすべて宝物庫となっていたわけです」

「そ、それは本当か!? もしかして、この見たことのない石も……」

「それは『音消しの白石』という、その石が置かれた場所から半径三メートル以内の音が、範囲外からは一切聞こえなくなるという道具です。あと、この剣も宝物庫で発見したものです」

「これって……もしかしてAランク指定のホーリーナイトって魔物が使用している剣じゃない!? こんな素晴らしい武器もあるなんて……まさに、宝の山だったわけね……」

 ホーリーナイトから奪った剣をフィリアに渡すと、近接職でないフィリアですらその希少価値が分かるのか、驚きを隠さずマジマジとその剣を見つめていた。

 やはり、俺がホーリーナイトを倒したことは言わなくて正解だったようだ。

 それに三十階層目が宝物庫だったと説明すれば、イヴルムートとかいうジークやフィリアでも下手したら命を落としかねない魔物の説明をしなくてもいいし、ヴェルタニアの存在やネアとの出会いもさりげなく隠すことができる。

 そしてなにより、どうせジークとフィリアだけでは十階層目以降には絶対に挑むことはできない。

 つまり、どれだけ嘘をついても嘘を嘘であると見抜かれることはないため、どんな嘘をついても誰からも咎められないから楽──というのが、本音であった。

「もしかして、そのレイさんが装備しているその黒いローブも……」

「ん? あぁ。これは『破邪のローブ』という装備でな? まぁ、とりあえず色々と特殊能力があるローブだ。ほら、見てみるか?」

「あ、ありがとうございま──!?」

 そこで俺はアリサに『破邪のローブ』を見せるためさり気なくローブを脱いだのだが、その瞬間アリサが口元に手を当て、瞳孔を大きく開かせていた。

 それもそのはず。
 俺も今の今まで忘れていたのだが、今俺の上半身には自分でもつい目を逸らしてしまうほどの火傷が全体的に広がっており、その下にはさらに痛々しい傷跡がいくつも残っているのだ。

 さすがに俺はすぐに隠したのだが、既にアリサだけでなくジークやフィリアにも見られてしまっていた。

 そのため、隠す必要がなくなった俺はすべてをさらけ出すようにローブを脱ぐのだが、それを見たアリサを首を横に振りながら涙を浮かべており、フィリアは下唇を噛んでなにを口にすればいいのかと分からないといった様子で黙っていた。

 そして、ジークがいきなりバンッ! と手で強く机を叩きつけたと思えば、机に頭を擦り付けながら土下座のような体勢になっており、俺に向けてこれでもかと頭を下げていた。

「す、すまない! レイくんがそんな傷を負っているというのに、俺はレイくんに強く絡んだり長々と質問してしまった! 痛くて苦しいはずなのに、今すぐにでも休みたいはずなのに、俺はレイくんに無理を……!」

「い、いやいや! そんな頭を下げないでください! 確かに見た目はあれですが、これくらいなんとも──」

「レイくん。いくら私たちでも、それは嘘だって分かるわ。私やジークだってそんな傷を負ったことないし、そんな傷を負って生きている人を見たことがないわ……」

「レイさん……そんな体をしていたのに、アレクさんを……?」

 このような反応になるとは分かってはいたが、実際ここまで心配されると困ってしまう。

 確かに今でも全身をナイフで隈無く突き刺されているような痛みはあるが、別にだからといって死ぬわけでもないし、秩序の塔最上階にあるヴェルタニアの部屋で目覚めたときの方が何倍も痛かった。

 まぁ、少し前の俺なら泣き叫ぶほど痛みに苦しんでいたと思う。

 だが俺は、ここに来るまで数々の修羅場を乗り越えて来た。

 何度も死ぬレベルの傷を負い、何度も頭がおかしくなるくらいの痛みに涙を流したせいか、正直慣れたまである。

 ゴーレオーガがスキルではなく特性で自然再生能力があるように、俺にもスキルではなく特性として《痛覚軽減》みたいな能力が目覚めたのかもしれない。

 そう思えるほど、今の俺には余裕があった。

「(まぁ、それでも他人の傷は見るだけでもキツイもんな……さすがに、こんな傷を負ってるやつを見てなんとも思わない方が、異常かもな)」

 俺はチラッとネアを横目見るが、ネアはネアで別になにも感じないわけではなく、ただ恐怖などの感情が記憶と共に失われているように思えるため、仕方がないだろうと目をつぶった。

「さすがに見てられないわ……レイくん、今から緊急治療よ。私に任せて!」

「…………え?」

 突然名乗りを上げたフィリアによって、俺はフィリアが取得している《回復魔法》による治療を、急遽この場で受けることになる。

 その間、ジークはただひたすら俺を心配そうに見つめており、アリサは俺の体を拭くためのタオルや、冷たくて綺麗な水などを用意してくれた。

 そこで俺は、実は周りから愛されているということを知り、泣きそうになってしまったのはここだけの秘密である──
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