スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第28話 因縁の対決

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 秩序の塔、三階層目。
 そこに俺が訪れた理由。それは、赤傘草を頭に生やすフラワーフロッピを求めて──ではなかった。

 いや、正確に言えば、もちろん赤傘草を採取するために訪れたというのもある。

 だが俺は、それ以上の目的があるからこそこの場に訪れたのだ。

「……よぉ、久しぶりだな」

『ガルルルル……!』

 今、俺の目の前にはある一匹の魔物がいる。
 その名は初心者殺し──いや、《鑑定眼》で調べた結果《デスライガー》という名前が判明したので、今後はデスライガーと呼ぶべきか。

「(いや、違うな)」

 過去に俺を絶望へと叩き込んだのは、デスライガーなんて名前じゃない。

 初心者殺し。
 それが、俺にとって因縁となっている魔物の名だ。

「今ここには俺とお前しかいない……存分に楽しもうぜ?」

『ガルァアァアァッ!!』

 俺からすれば因縁の相手だが、初心者殺しにとっては俺のことを見るのは初めてだと思うし、俺の言っていることなんて理解できないかもしれない。

 だがそれでも、一度恐怖を植え付けられた俺は、一瞬足りとも初心者殺しのことを忘れたことはなかった。

 どれだけスキルを手に入れ、力を付けようとも、必ず夢の中に姿を現す。

 なにもできない俺を、背中から食らってくる。
 そんな夢を、俺はもううんざりするほど見てきた。

 だから、これは復讐ではない。
 俺は、初心者殺しとの勝負に勝ち、証明をしなくてはならないのだ。

 もう、俺は初心者殺しなんかに負けるほど弱くはない──と。

「行くぞ……初心者殺しっ!」

『ガルァッ!!』

 俺が白い剣を抜くと同時に、初心者殺しはヨダレを撒き散らしながら吠え、地を蹴って全速力で突き進んでくる。

 そのまま、初心者殺しは勢いを殺さず跳躍する。
 その跳躍は自身を前に押し出すようなもので、加速した初心者殺しは俺へ目がけて腕を振り下ろしてくる。

 鋭く、触れてしまえば簡単に肉塊と化す恐ろしい一撃。

 だが、俺にはその一撃がハッキリと

「──っ」

『ガルゥアァ!?』

 風を切る初心者殺しの攻撃を俺は当たる寸前で躱し、通り過ぎていく腕を肘で強く突き、空中で初心者殺しの体勢を崩す。

 その後、俺は左手に燃え盛る真っ白な球体を生成し、初心者殺しの背中に押し付けた。

「吹き飛べっ!」

 俺が声を上げた直後、ボンッ! となにかが破裂した音と共に、眩い光が通路を包む。

 それからすぐに超高温の熱が初心者殺しを襲い、初心者殺しの体を白い炎が包んでいく。

『ガルァアァアァッ!?』

 痛みと熱さに苦しむ初心者殺しは、すぐさま俺から距離を取って自分の体を床や壁に擦り付け、炎を消化していた。

 一方の俺は、あれほどまでの距離で強烈な熱風を受けたというのに、左手に火傷などはこれっぽっちもできていなかった。

 それは、俺が両腕に付けている装備の効果であった。

「やはり、宝物庫にあった装備は有効活用するべきなんだな。あのときネアが言っていたことは正しかったってことか」

 今俺の両腕には、ヴェルタニアの宝物庫で発見した『氷炎の篭手』という手に装着するグローブのような武具が装備されていた。

 この篭手は右が深い青色を、左は鮮やかな朱色をしている篭手であり、かなり派手な装飾が施されていた。

 その効果は単純なもので、右腕を前に出せば《氷属性魔法》の効果を打ち消し、左腕を前に出せば《炎属性魔法》の効果を打ち消すというものであった。

 それだけでなく、それぞれの手で適した魔法を使うと威力が二倍になるなど、純粋に攻撃力と防御力を底上げする素晴らしい防具であるのだ。

 だがこの他にも、俺はとあるスキルを使用していた。

「次は……これだ!」

 俺は左手から炎の球体を生成した後、その球体へ目がけて《風属性魔法》のエアカッターを放つ。

 するとエアカッターは炎を切り裂く──ことはなく、むしろその炎を風で巻き上げ、風の刃が炎を纏って初心者殺しへと襲いかかっていた。

 普通なら、このような芸当は不可能である。
 だがそれを可能とさせるのは、とあるスキルのおかげであった。

「イヴルムート……お前のスキル、中々使い勝手がいいな」

 かつて秩序の塔三十階層目で戦った、イヴルムート・ネオから奪ったスキルの内の一つ。

 それは《魔法融合》という名のスペシャルスキルで、自分が取得している魔法を無制限に融合し、新たな魔法を使用できるようになるというものであった。

 先ほど初心者殺しの背中に押し付けた燃え盛る真っ白な球体も、《炎属性魔法》のスキルレベル二で習得できるファイヤボムと《光属性魔法》のフラッシュを融合したものである。

 こんな二つの簡単な魔法であれだけの威力を出せると考えればかなり素晴らしいスキルなのだが、単純に消費魔力が五倍になるという、破格な性能な分とんでもない量の魔力を吸われるスキルであった。

 しかし、俺にとって五倍になった消費魔力など、痛くも痒くもなかった。

「やはり塔の王というだけあって、も素晴らしい効果だな」

 炎の刃を食らってうずくまる初心者殺しを前に、俺はふっと笑みを浮かべる。

 そう、俺にはイヴルムート・ネオを倒したことで得た《称号》があるのだ。

 それは『五色竜ごしょくりゅうを討ちし者』という称号で、なんと称号効果は『炎・氷・風・土・光属性魔法を使用するときの消費魔力が五分の一になり、威力が五倍になる。その代わり、他の魔法を使用するときの威力は五分の一になり、消費魔力が五倍になる』という、今の俺が最も適している称号であった。

 この称号があればもう他の称号なんていらないのではないか? と思うかもしれないが、その通りである。

 まさに今まで手にしてきた称号の上位互換とも呼べる性能であり、『厄獣を討ちし者』以外の称号は完全に空気になってしまうほど、この称号の効果は目を見張るものであった。

『ガルゥアァ! ガルァアァアァッ!!』

 そんな俺に対し、激昴した初心者殺しがあの手この手を使って俺を殺すために襲いかかってくるが、悲しいかな、俺にはその攻撃のすべてが遅く見えてしまっている。

 だからこそ、俺は腕を大きく振り下ろして隙を見せる初心者殺しの胴体に、渾身の突きをお見舞してやった。

『ガルァッ!?』

 それには初心者殺しも悲鳴を上げられずにはいられなかったのか、胴体に剣が刺さっているのにも拘わらず体を捻って俺の腕を蹴り、俺から大きく距離を取ってから苦しそうに呻き声を上げていた。

 初心者殺しの腹部から、ドロっとした血液がこぼれ落ちる。

 すると初心者殺しはなにを思ったのか──突然俺に背を向け、どこかへ走り出してしまった。

「なっ……!?」

 まさか逃げられるとは思ってもみなかったので、俺は一瞬呆気に取られた後、すぐに初心者殺しが逃げ込んだ曲がり角へ向かって走りだす。

 するとその直後、人間の悲鳴らしき声が聞こえたので、俺は小さく舌打ちしながら初心者殺しの残した血の道をたどって行く。

 すると、そこには倒れ込んで動かなくなった二人の少女と、今にも鉤爪で切り裂かれそうな一人の少年の姿があった。

『ガルルル……?』

「……下衆な魔物だな」

 少しばかり知能があるとは思ってはいたが、まさかこうして人質を取るなんて予想外であった。

 おそらく初心者殺しに突き飛ばされたであろう二人の少女は、まだ生きているはずだ。

 だがそれよりも、首元に鉤爪を当てられたまま床に押さえつけられている少年は今にも首を刈り取られてしまいそうで、言葉で表すならまさに絶体絶命であった。

「に、逃げてください! オレたちのことはいいんで、早く!」

 きっとまだ冒険者になりたてなのだろう。
 それだというのに、少年は俺に逃げるよう促してくる。

 だがそれでもやはり恐怖は隠せておらず、遠目から見ても分かるほど体を震わせており、顔を引き攣らせながら目をギュッとつぶっていた。

「(初心者殺し……今まさに、初心者殺しの手によって若い冒険者の命が刈り取られてしまいそうになっている)」

 俺は一度初心者殺しを強く睨みつけてから、手にしていた武器を捨てて床に手を置く。

 するとそんな俺の様子を見ていた初心者殺しは下卑た笑みを浮かべ、少年を解放して俺の元へゆっくりと歩み寄ってくる。

 その表情は、さながら『逆らったお前が悪いんだよ』と言いたげであり、ニヤリと笑いながら腕を振り上げていた。

 だが俺はそんな初心者殺しを見上げ、フッと鼻で笑ってやった。

「やっぱり、お前はただの獣なんだな」

 初心者殺しが人の言葉を理解しているのかは不明だが、それでも明らかに苛立ちをあらわにした初心者殺しは、俺を叩き潰すため容赦なく腕を振り下ろしてくる。

 だがその刹那──初心者殺しの体は真横から勢いよく押し潰され、断末魔を上げる暇もなくただの肉塊へと姿を変えていた。

「まさか、こんなことになるなんて思わなかっただろ?」

 俺は武器を捨てて床に手をついたが、それは別に降伏をしたわけではない。

 それはあのスキルを、《錬成》を発動させるための前準備であった。

 俺から初心者殺しまでの距離は十メートル以上あるため《錬成》の範囲外なのだが、初心者殺しは背中を向けたりすると襲いかかってくるため、このように無防備を晒せば近付いてくると、俺は確信していた。

 あとは初心者殺しが油断した瞬間、左右にある壁から直径五メートルの柱を突出させ、初心者殺しを押し潰すだけの簡単な作業であった。

『グギャ……ガルルル…………』

「……これでまだ生きてるのか。即死級の攻撃を受けても、一度だけ復活できる特性は強力だが、この場面ではただ自分を苦しめるだけだな」

 今俺を見上げる初心者殺しの目には、既に光は宿っていなかった。

 そもそも押し潰されたことで骨や臓器はすべて砕けたと思うので、もう動くことなど不可能なのだ。

 ネアのような異常なまでの再生能力でも、これほどまでの傷を治すには時間はかかるだろう。

 なら、俺はこの戦いにさっさと終止符を打ってあげるのが、初心者殺しのためであり俺のためでもあった。

「……俺は確かにお前を恨んでいるが、お前のおかげで俺はここまで強くなれた。俺は、お前に感謝をしてるんだ」

『ガルルル……ッ!』

「だから──ありがとうな」

 最後に感謝を伝え、俺は初心者殺しの頭を剣で貫く。

 それにより初心者殺しはピクリとも動かなくなり、戦闘が終わりを迎える。

 俺の、初心者殺しとの因縁は、ここで幕を下ろしたのであった。
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