スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八

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始まりの塔編

第29話 慕われる存在

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 息を絶った初心者殺しの頭から剣を引き抜き、刀身に付着した血液を軽く振り払ってから、俺は先ほど不幸にも初心者殺しに狙われてしまった三人の冒険者の元へと歩み寄る。

 まずは、初心者殺しによって床に押さえつけられていた少年の様態を見る。

 どうやらあまりの恐怖に気を失ってしまったらしく、頬を軽くぺちぺちと叩いても反応はなかった。

 そのため、とりあえず俺はその少年の後ろにて力なく倒れている二人の少女の元へと向かい、同じく頬を叩いて様態を確認することにした。

「……うぅ……うーん…………?」

「…………こ、ここは……?」

 すると予想外にも、二人の少女はすぐに目を覚まし、目を擦りながらゆっくりと体を起こしていた。

 だが二人とも初心者殺しと遭遇したせいで怪我を負ってしまったのか、一人は腰を、もう一人は腹部を痛そうに摩っていた。

「おい、大丈夫か? もし体が痛むなら……これを使ってくれ」

「あ、ありがとうございますわ──って、あ、あなたはいったい……?」

「安心してくれ。俺は悪いやつじゃない。いや、この言い方だと怪しく思うよな。まぁ、とりあえず今は患部を冷やすことが先決だ。二人とも、血は出ていないか?」

「う、うん……そ、そういえば、あの化け物は……?」

「あぁ。あいつならさっき俺が倒したから、安心してくれ」

 俺がそう言うと、二人の少女は顔を見合わせながら驚きの声を上げていた。

 だがそのせいで怪我に響いたのか、各々痛そうに怪我をした箇所を手で押さえながら目を細めていたので、俺は秩序の塔に訪れる前にネアの《ゲート》から出してもらった『魔法の袋』から、二枚のタオルを取り出した。

 そのタオルを《氷属性魔法》で凍らせれば、簡易的ではあるものの氷嚢が完成する。

 そんな簡易的な氷嚢を少女たちに差し出すと、二人とも恐る恐る受け取りながらも、氷嚢となったタオルを服の下に入れ、少し痛そうな顔を浮かべつつも患部に氷嚢を押し当てていた。

「そ、そういえば……リ、リクは……?」

「……リク? あぁ、そいつなら……今そこで寝ている。安心しろ、別に死んだわけじゃない。今は気を失っているだけだ」

「それならいいのですが……その、あなたが私たちを助けてくれたのですよね?」

「それはそうだが、元はと言えば俺が奴を逃してしまったことが問題なんだ。下手に巻き込んでしまい、申し訳なかった」

 俺が頭を下げようとするのだが、少女たちによって全力で止められる。

 助けてくれたのに、頭を下げられたら困ります。と言われてしまい、俺も少女たちを困らせたいわけではないので、口で軽く謝罪してから、おもむろに立ち上がって未だに気絶しているリクという名の少年の元へと向かう。

 そしてもう一度頬をぺちぺちと叩くと、今度は先ほどと違ってゆっくりと瞼を上げてくれたので、ホッと一安心であった。

「……あ、あれ……? オレは、確か──っ!? ユ、ユイ!? ミーナ!?」

「落ち着け。えーと……ユイとミーナ? は、怪我はしたものの命に別状はない」

「え、えと……お兄さんは……確か、さっきの……」

「あぁ。さっきお前に逃げてくれって言われた男だ。もう安心してくれ、奴はもう俺の手でトドメを刺した」

 俺の言葉に信じられないといった様子で目を見開くリクだが、すぐに俺の後ろに広がる光景を見て納得したのか、強ばっていた肩からは力が抜けて大きくため息を吐いていた。

「それより、お前たちは冒険者に成り立てなんだろ? それなのに、どうしてこんな危険な場所にいるんだ?」

「え……? 冒険者に登録したとき、この始まりの塔に挑戦するのが、ギルドのルールであると先輩方から聞いたのですが……」

 この塔の恐ろしさを知らないリクがそう言うので、俺は額に手を当ててついため息を吐いてしまった。

 確かにここは初心者にとって都合のいい練習場所かもしれない。

 だがそれでも危険はあるし、初心者殺しのような危険な魔物だって出没するのだ。

 それは、アーラスの冒険者なら誰しもが理解しているはずだ。

 それなのにこの塔を勧めるなんて、遠回しに「お前、死んでこいよ」と言うのも同然であった。

「……確かにギルドの奴らはここに挑めと言ったかもしれない。それでも、この塔にはさっきの魔物みたいに危険な魔物だって生息している。お前たちは、こんな場所で命を落としたいのか?」

「そ、それは嫌ですけど……」

「アーラスの外に出ると名もなき森が広がっている。そこに生息しているバウウルフを狩った方が安全だし、なにより今後の為にもなる。ここにはもう来てはいけない。分かったか?」

「ですが、五階層目の魔物を討伐すれば、すぐに一人前の冒険者になるってギルドの人たちは言ってたましたわ」

 腹部を怪我した少女──ミーナは、突然そんなことを言いだす。

 いったい、彼らは冒険者になりたての彼らになにを期待しているのだろうか。

 バーニグモーラなんて、生半可な力では絶対に太刀打ちできない相手だ。

 一応俺はバーニグモーラに勝つことはできたが、あれは本当にまぐれみたいなものだし、あのときと同じ条件で戦えと言われたら、俺は全力で拒否をする自信だってある。

 どうやら、俺が思っている以上にギルドの連中の頭の中は腐っているようであった。

「……お前たちは、ある意味ラッキーなのかもな」

「さ、さっきの化け物に襲われたことがラッキーだと言いたいんですか……?」

「あぁ。もし奴に襲われていなければ、お前らは五階層目に挑んでいただろ? そしたら、今頃お前たちはまとめてあの世行きだったぞ?」

「……っ! そ、そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃないですか!」

「それはリクの言う通りだ。だが、お前たちは五階層目の魔物についてなにか情報を知っているのか? 弱点は? 特性は? 攻撃パターンは? 知らなくても勝てるかもしれないが、五階層目にいる奴は情報無しで勝てるほど、優しくはない」

 俺は乱れたローブを着直しつつも、床に置いておいた剣を手に取り、立ち上がる。

 そして俺のことを見上げてくるリクとミーナ、そしてユイの三人組に背中を向け、亡骸となった初心者殺しの元へと歩き出した。

「お前たちが今後どうするかは自由だが、俺は忠告したぞ。もし自分たちの腕に自信があるなら、挑んでもいい。そしてもし倒すことができたのなら、俺のことを好きなだけ馬鹿にしてもいい。だが、死んだらそこで終わりだ。それだけは理解しておくんだな」

 俺はまだこの塔の恐ろしさを知らないリクたち三人組に釘を何度も刺しつつも、俺は初心者殺しの尻尾を大雑把に刈り取ってからその場を後にする。

 お節介と思われてもいい。
 お小言がうるさい奴だと思われてもいい。
 だがこの塔の恐ろしさを最も理解しているのは、誰でもない、俺である。

「(彼らが愚かでないなら、今すぐにでもギルドに戻るはずだ。だが、もし愚かなら──)」

 俺は曲がり角に曲がる前に後ろを確認し、三人組の様子を伺う。

 するとその三人組は、各々武器を取って立ち上がっており、俺に背を向けて通路を進んでいた。

「(……ま、初対面の男の話に耳を貸すはずないか)」

 俺はリクたちを憐れむような目で見送りながらも、帰り道で頭に赤傘草を生やしているフラワーフロッピを五匹討伐し、見事に赤傘草を五本回収することができていた。

 その赤傘草を『魔法の袋』に放り込んだ俺は、もうどこに行ったのか分からなくなってしまった彼らのために、一度合掌をしつつも秩序の塔を後にした。 

「……やっぱり、太陽って眩しいんだな」

 数時間ぶりに外に出たことにより、太陽がより眩しく感じてしまい、俺は空を見上げながらも手を目の上に当てて日陰を作る。

 そしてさっさとギルドへ戻ろうと足を動かそうとした刹那──

「──あ、あの!」

 突然、俺を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。

 いったい何者だと後ろを振り返ると、そこには先ほど俺が助けたリクやミーナ、そしてユイの姿があった。

「あれ……てっきり五階層目に向かったと思ったのだが……もしかして、あれから引き返したのか?」

「いえ。ギルドの職員の人が、始まりの塔の四階層目には外に出ることができる帰還用の魔法陣があると教えてくれたので、そっちから帰った方が早いかな……と」

「あぁー……そういえば、四階層目にも帰還用の魔法陣はあったな。それで、五階層目には挑まなかったのか?」

「はい。命の恩人であるお兄さんの忠告を聞かないほど、オレたちはバカじゃないです。それよりも……先ほどはありがとうございました!」

 リクを筆頭に、後ろで控えていたミーナとユイまでもが俺に深々と頭を下げてくる。

 初心者殺しから助けてくれたこと。
 そして右も左も分からない自分たちに、厳しくも色々と教えてくれたことなど、俺は感謝されてしまっていた。

「……頭を上げてくれ。俺は別に特別なことなんてしてないさ。冒険者として、当たり前のことをしただけだ」

「ですが、オレたちにとってお兄さんは命の恩人……まさに、ヒーローみたいな存在なんです! よろしければ、名前を教えてくれませんか?」

「わ、私も知りたいですわ!」

「……ユイも、お兄さんの名前が気になります」

 あまり名前は名乗りたくないのだが、三人にここまでお願いされれば、無下にすることはできない。

 だからこそ、俺は下手に隠すようなことはなく、真っ直ぐと俺の名前をリクたちに教えることにした。

「俺は──レイだ。呼び方は、好きにしてくれ」

 そう言うと、すぐにリクたちは「レイさん、本当にありがとうございました!」とまたまた頭を深々と下げてくる。

 前言撤回。
 どうやら彼らは愚か者などではなく、礼儀正しく純粋で、冒険者に憧れを抱いているただの少年少女であると、俺は理解した。

 そんな彼は、まるで昔の冒険者に夢を見ていた俺のようであり、どこか懐かしさを俺は感じていた。

 そして最後に俺はリクたち全員と握手を交わした後、俺は用事があると言ってリクたちと別れ、一足先にネアやアリサの待つギルドへと帰ることにした。
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