作者は異世界にて最強

さくら

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十一話

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その頃、元の世界では
莉琉りる、どうした」
「…なんだ、兄さんか。最近久遠との連絡が取れないのよ」
「逆にこの家で俺以外がいたら問題だろ…」
「たまに兄さんを訊ねて桜花インファがくるわ。しょうさま~ってね」
とある家のリビングに、この兄妹はいた
自宅のリビングだが、親はいない
二人の親は海外赴任中だ。中国にて会社の事業を展開すべく尽力していることだろう
桜花というのは、父親が手配した二人のボディガードだ
両親は共に別々の会社で専務をしているため、身代金目的の誘拐が起きることを懸念したのだ
「久遠か。そういや、俺も舞莉と連絡取れてねぇんだよな」
「舞莉なら学校に来てるわ。この世の終わりみたいな顔してるけど」
久遠あいつ死んだんじゃねぇの?」
「割とありえるから困るわ」
久遠の幼馴染である翔と莉琉は、久遠の家とは家族ぐるみの付き合いだ
それもそのはず、久遠たちの父親は翔の母親が勤務する会社の社長で、久遠たちの母親は翔たちの父親が勤務する会社の社長だからだ
そのため、この四人は誘拐される危険はいつもある
「…久しぶりに異能でも使うか…?」
「…そうね。それが確実だわ」
翔と莉琉は、ポケットに入れておいた鍵の束を取り出した
その中から一本、異様な雰囲気を持つ鍵を束から外した
「舞莉も呼ぶか?」
「呼ばない。あの子は巻き込めないもの。これは、神楽坂家の戦いよ」
莉琉は腕時計の側面にある鍵穴に鍵を差し込んだ
翔は取り出した端末に差し込む
「行くぞ、莉琉。久遠を探しに」
「ええ。どこであろうと迎えに行くわ」
「「解錠アンロック」」
鍵がひとりでに回り、溢れ出る光が二人を覆い隠した


久遠の妹、舞莉は
「お兄様につけたGPSの反応が途絶えてから三日、ですか…」
これまた誰もいない家にて、夕食を食べ終えたところだった
今まで久遠が座っていた場所には、誰もいない
二人ではそうでもない広大な家も、一人では異様に寂しく感じた
「お兄様…」
手に持っているのは、翔たちが持っていたのと同じ鍵だ
その鍵が繋がっているキーリングには、南京錠が付いている
南京錠の鍵を南京錠でつかえなくしてあるのだった
「私と翔、莉琉が異世界転移したのが二年前…私は当時十四歳でしたね…」
実はこの三人、今久遠がいる世界に行ったことがあるのだ
当時の魔王を三人で殺し、元の世界へと帰ってきた
翔の異能で時間遡行して転移した瞬間に戻っているため、今の舞莉は戸籍での年齢より一歳年上だ
だから久遠は三人が異世界転移したことを知らない
「まさかお兄様も転移を…?あれは向こうの運営がこちらの世界に干渉してきて行う強制召喚ですし、可能性はなきにしもあらずですね」
舞莉は久遠の部屋にあるペンチを持ってきて、南京錠付キーリングを挟んだ
「またこれを使うことを許して…あの頃の私…!」
キーリングが切断され、鍵がひとりでに動いて南京錠の鍵穴に差さった
舞莉は久遠がよく着ていたパーカーを二枚持ってきて一枚を着た
もう一枚は久遠のために持っていこうと考えて、小脇に抱える
「行きます。天撃!」
舞莉の右手に集まった光が空間に亀裂を加えた
そして亀裂が穴になり、舞莉は手を伸ばして亀裂を掴んだ
「…待っていてください、お兄様…!」
翔、莉琉、舞莉
三人は久遠の痕跡を見つけ、異世界へと戻った
久遠はそのことを知らない。知ることなど不可能だ


翌日朝、矢矧内部の久遠用寝室
「雪音…?」
「…あ、おはようございます主様」
二人は服を着ていない。なにがあったかは想像にお任せしよう
雪音は満足げに体を伸ばした
伸ばした体から布団がずり落ち、油断していた久遠の目に雪音の肢体を映し出した
「ちょ、雪音!隠して!お願いだから!」
「…?主様、昨晩はあんなに見てくださったじゃないですか」
「ま、まあそうだけど…。けどほら…雪音は可愛い女の子なんだから、油断したらダメだと思う」
「大丈夫ですよ。油断するのは主様と二人きりの時だけです」
そう言ってクスリと笑った雪音は、久遠に抱きついた
柔らかい感覚が久遠に伝わってくる
「この余韻に浸れるのもあと数分ですかー…」
「桜音が様子を見に来るだろうしね」
雪音は久遠を強く抱きしめてからベッドを降り、服を着た
久遠も服を着て、夜刀神に思念を送る
(夜刀神、そっちはどう?)
『……」
(夜刀神?)
『…あ、マスター…。異変ありません…』
(…そ。りょーかい)
それだけ会話して思念を飛ばすのをやめた久遠は、雪音を見ると同時に目をそらす
(ま、まだ着替え終わってなかった…!)
雪音は久遠に背を向けて着替えていたために久遠が見たなんてことには気づかなかっただろう
もっとも、気づいていたとしても問題にしないだろうが…
(全裸より下着の方が興奮する…この理論に間違いはないね…)
雪音は服を着ながら考え事をしていた
(これで主様は私だけを見てくれるのでしょうか…?桜音も夜刀神も可愛くて、天羅さんも阿賀野さんも可愛いのに…)
(少なくとも今だけは…雪音と一緒にいるときだけは目を離せない。なんなんだろうな、これ…)
雪音の心配は一切の杞憂だが、本人にそんなことがわかるはずもない
そんな時
『敵襲だ。久遠、艦橋に来い』
「…!了解!いくよ、雪音!」
「はい!」
二人は赤色灯が回転しながら光る廊下を走り抜けていった
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