作者は異世界にて最強

さくら

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十話

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夜刀神はその頃
「完全に暇です。阿賀野さん、助けてください」
「いや黒鉄はどうしたのよ…。貴女のつがいでしょ?」
「違いますよ。あんな危ない能力…」
「まあ確かに『暴喰者グラトニー』は危険よね。私のこれよりはるかに凶悪だわ」
「そうじゃないんです…」
阿賀野の医務室に二人はいた。夜刀神の暇つぶしもあるが、椎名は基本的に舵を取らない
先行する矢矧の後ろからついていくという自動航行を行なっているのだ
「『暴喰者グラトニー』は一度だけ、大暴走してるんです…」
「…?そんなことあったかしら」
「元の世界にいるときにって聞きました。阿賀野さんもご存知かもしれませんが、《終焉の宴》のことです」
「…え?太平洋の海水が一瞬全くなくなったっていうあれのこと?」
「はい…。その時はマスターが気合でなんとかしたと仰っていますが、またああなったら…」
「終わるわね、この世界」
はい、と呟いて夜刀神は黙った
「心配すんな。俺はこっちにきてから能力を掌握してる。《終焉の宴》は引き起こさねぇよ」
「!?き、聞いていたんですか…?」
医務室のドアの外から黒鉄が話しかけた
「貴様に心配されてなるものか」
黒鉄は怒気を孕んだ声を残して気配を消した
足音から察するに、艦橋へと移動しているのだろう
現に、椎名が机に置いたモニターには、艦橋にて腕を組み、右舷方向を睨む黒鉄が見える
「そんな…つもりじゃ…」
「どうしたのよ。聞いていた話と違うわよ、夜刀神。貴女は強気なんじゃないの?」
「好きな人にああ言われて傷つかないと思いますか!?」
夜刀神の涙声が医務室に反響する
顔を伏せているため表情は見えないが、おそらく泣いているのだろう
何度も目元を、着ている着物で拭っている
「そうね。私が悪かったわ」
椎名は夜刀神を抱きしめ、頭を撫でた


その頃の水明と天羅は、通信にて会話をしていた
『寂しい』
「そんなこと僕に言われてもね…。紅零は?」
『通信に応答なし。無視されてる…』
天羅の落ち込んだ声に戸惑いを隠せない水明
いつもであれば、事情なんて御構い無しに紅零とイチャイチャするのだ
「恋人との通信を拒んでいるとはね…」
『…。なんとかして』
「なんという無茶振りを…。まあ、やってみるよ」
ため息をつきながら通信機器に手をつけるお人好し水明であった


その頃のクラスメイト’s
「けどよ!あいつが無意味にあんなことするか!?」
クラスメイトの一人が、委員長と言い争っている
そのクラスメイトの名前は月宮つきみや八城やしろ
能力「八岐大蛇」を持つ、凱亜の友人だ
凱亜が書くアナザーストーリーに出演しているため、そのときに考えた能力が身についたようだ
「どうあれ、異能持ちは裏切った。月宮以外は」
「…。そんなに異能が嫌いか」
「ああ。醜いオタク文化だ」
「そうかよ…。《天叢雲剣アメノムラクモ》」
八城の手に握られたのは、一振りの日本刀だ
それを、訓練場の中で振り下ろす
「……!?」
「どうだ?これが異能だ。魔王を倒しうる唯一無二の力だ。んでもって委員長、お前の敗因を教えてやるよ」
八城は跳び上がり、またも刀を振り抜いた
今度は殺意を乗せて、クラスメイトを巻き込むつもりで
「テメェは俺たちを怒らせた」
焦土と化した訓練場の真ん中で、委員長はエスクードを解除した
すんでのところで間に合ったものの、エスクードはボロボロになっていた
「この程度か…。勇者の力の前には、そんなの意味ない。俺が最強だ」
委員長は、すでに自分の力に溺れていた
そして彼含め、クラスメイトは誤認していた
先ほどの八城は、一切本気は出していない。一割の力をギリギリで凌いで喜んでいる
これが現状だ


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