作者は異世界にて最強

さくら

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九話

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その頃、暁凱亜と黒桜時雨は
車椅子にのった凱亜が、ゆっくりと廊下を進んでいく
得た能力は「召喚」だけではなく、『支配者ドミネーター』もだった
召喚だけしても、使役できなければ意味は無い
つまりは使役用の能力が『支配者ドミネーター』なのだ
それを使い、今はクラスメイトを支配している
凱亜が久遠を襲うようにした訳では無い。ただ凱亜自身を認識させないための支配だ
「全く、騒動を起こしてくれたものだね。俺とてもう少し待ってから騒ぎを起こそうとしていたのだが...」
時雨の部屋の前で一度『支配者ドミネーター』を解除し、戸を叩く
中から時雨が顔を覗かせた
白銀の髪を胸ほどまで垂らしたまま、時雨は左右を気にして凱亜を部屋に招き入れた
「どうやら、先に動かれたみたいだね」
「うむ。『桜花幻想チェリーブロッサムファンタジー』で見ていたが、完璧な冤罪だったぞ」
時雨は男勝りな口調で言い、紅茶を出した
凱亜がそれを啜り、時雨も一口飲んだあたりで凱亜が話を切り出した
「ついては、俺たちも動こうと思うのだがどうだろう?」
「ふむ、それも手だな。久遠と、阿賀野以下四名について行くのか?」
「いや、俺たちは俺たちで別のルートを行こうと考えているよ」
「その心は?」
時雨は白いワンピースの下に隠してあった短刀を服から出した
それもまた時雨が考案したもので、信託から出たものだ
名を、時雨桜。桜の木を持ち手にした仕込み刀のようなものだ
「もし久遠たちが魔王と手を組むなら、俺たちが行ったら勇者側が勝つことはありえないからね。第三勢力になるのさ」
「ふむ。つまり、第三勢力になるようなら...」
「ああ。魔王と手を組む」
凱亜は電動の車椅子を動かし、窓が見える位置に移動した
見ると、四隻の軍艦が空を飛びながら移動している
魔王がいると言われる場所に進路を取り始めたことで、凱亜と時雨は顔を見合わせて頷いた
「さて、俺たちも動こう」
「私たちの戦争を始めるとするか」
凱亜は『支配者ドミネーター』を再展開し、自分と時雨が国の外に出るまで認識されないようにした


その頃、久遠は
「......」
甲板に座り、ずっと空を眺めている
ときおり艦首に立ち、真っ直ぐ前を見ている
「どうしたんでしょうか、主様...」
「不明。ずっと向こうを見てる」
「私聞いてきますね...」
艦橋から見守っていた雪音と桜音を邪魔そうに見ながら、紅零は矢矧の制御を行っていた
「天羅、そっちどうだ」
『ん...敵影、なし...』
「水明、椎名」
『こっちも問題ないね』
『右に同じよ』
「ならいい」
紅零はソナーを使いながら、零式艦上観測機を飛ばし、周囲の探査を行っていた
水明、椎名、天羅もまた、観測機を飛ばして敵の接近を検知しようとしている
「......久遠の悩み、か...」
紅零は計器類に手を向けながら、艦首の久遠を眺めた


「主様...?」
「ん?ああ、雪音か...どしたの?」
「いえ、なんか...ずっと空を見てるので...」
「ああ...。向こうの世界に置いてきた妹と親友とその妹が心配でね」
久遠はそう言いながら歩き出し、雪音の手を引いて屋内へと入った
そして自室として紅零にあてがわれた部屋に雪音を連れ込む
「彼女さんではないんですか...?」
「この性格だからできてないな、そういえば。気にしなかったけど」
ちなみに黒鉄と夜刀神は阿賀野の中にいる
久遠と雪音、桜音は矢矧だ
「主様は私に何も話してくださいませんよね…まだ信用されていないのですか?」
「そうじゃない…けど」
「けど、なんですか?」
雪音はベッド横になっていた久遠が逃げられないように、上から覆いかぶさった
久遠は後ずさりしながら座ったものの、壁まで追い込まれてしまう
あれだけ戦える久遠も、女子には弱い。経験が足りなすぎるのだ
「主様は私を見てくれていますか?」
「見てるよ!わ、私の従者だし!?」
弁明の好機と見た久遠が、雪音の問いに全力で肯定の意を返す
黒鉄は絶壁といったが、雪音は着痩せするらしく、服の隙間からチラつく谷間に、久遠ですら目を吸われる
(完全に劣勢なんだけど!?こんなことある!?)
久遠はこっそり『創作者シナリオライターを起動し、離脱を試みたが、雪音に消去された
「ダメですよ、主様。私に「雪のように全てを消去する」能力を付与したことをお忘れですか?」
(設計コンセプトが戦闘寄りだからね!可愛いから忘れそうになるけども!)
逆に桜音はどちらかといえば日常寄りで、家事に特化している。それでもあの委員長には手加減をする余裕はあったようだが
「逃げたいんですか…?私が嫌ですか…?」
「いや、その…私に女性免疫がないから…」
顔が横を向き始めていたが、雪音が両手で雪音を見るように戻した
「ちゃんと見てください。私を。従者としての私じゃなくて、あなた様を大好きな“雪音”をちゃんと見てください」
雪音は戸惑う久遠を無視して、久遠の唇に自分のそれを重ねた

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