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終
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鈴は走って家へと向かった。
着いたときの時間はぴったりで、ランドセルを背負ったままウサギが現れるのを待っていた。
ここは住宅街だが、朝方や夕方過ぎにならないと人通りが少ない。
だからこそ、家の周りをうろうろしても人の眼を気にしなくて済む。
ミィを待っていると、目の前に一匹のウサギが現れた。
「ミィ、ちゃん?」
歩いている姿は普通だが、どこか様子がおかしい。
生きていた時と特に変わったところはないが、言葉にすると何か嫌な予感がした。
そしてその嫌な予感は当たった。
ウサギは鈴に向かって飛びかかってきたのだ。
「キャッ!」
鈴は後ろへと下がり、転んだため当たることはなかった。
だが、倒れてしまったため、また飛びかかってきた場合はうまく避けれそうにもなかった。
もちろんウサギはそんなことはお構いなしに、また飛びかかって来る。
鈴は目を閉じた。
だがウサギが鈴に当たることはなかった。
「さきほどぶりじゃな」
「猫…又?」
「わっちもいるでありんすよ」
目を開けるとそこには猫又と妖狐がいたのだ。
妖狐は倒れ込んだ鈴の膝の上に、そして猫又はというとウサギを捕らえるように踏みつぶしていた。
なんと猫又は先ほど見ていたサイズとは全然違い、普通の猫と比較できないほど大きくなっていたのだ。
サイズ的には軽トラと同じぐらい大きい。
「ううん、気のせい。猫又はもっと可愛かったもん」
「可愛くなくて悪かったのう!でも、これが本当の姿じゃ」
「わっちもそうでありんす。元の姿でいると、今は不便でありんすから」
「大変そうだね…」
未だに信じられないが、確かにそのまま大きくなったような見た目だった。
「でもどうやって来たの?あとをついて来たの?」
「そのお守りじゃ。鈴が危ないときにいつでも飛べるように一誠が一晩でつくっておいたのじゃ」
「これを…一日で……」
改めてお守りを見直した。
そのお守りは、とてにも一日で出来た代物には思えないほどの出来である。
そんな中、猫又の足元にいるウサギは、今もなお逃げようともがいている。
「こりゃ、大人しくせい!」
「ミィちゃん!!」
「安心するでありんす。この子、いやこやつはミィとやらではないでありんすよ。猫又」
妖狐は鈴の上から飛び降りると、猫又と同じぐらいの大きさへと変わる。
そして片足をウサギの頭の上に足を置いた。
足を離すと、ウサギの頭の上には一枚の札が貼ってある。
「それは?」
「簡単に言うと、悪しき者を取り除く札でありんす。妖力という力というのを使うから、この姿ではないと効果を発揮しないという不便な方法でありんすが」
札を張ると、さらに暴れ始めた。
それだけではなく、ウサギの形は崩れ始めたのだ。
これは鈴には見せるには酷だと思い、すかさず猫又が妖狐と鈴の間に割り込んだ。
抑える必要はもうなくなったため、すぐさま動いたのだ。
案の定、鈴は怯えた表情をしている。
猫又は安心させるように鈴に体を寄せた。
「大丈夫じゃ。あれは本当にミィではない」
「じゃあ…あれは何なの…?」
「…人は同じ人を殺す者もいる。つまりは同じようなのが妖怪にもいるのじゃ」
猫又は妖狐のほうを見、うなづくと鈴から離れた。
妖狐の姿が見えると、足元にはウサギ、いやミィがいた。
「ミィちゃん!!」
「消えかけていた意思にわっちが力を分けてあげたでありんす。でも、やはり長くは持たないでありんすよ」
鈴はミィに近寄り、すぐさま抱きかかえた。
ミィは抱きかかえられると、開いていた目をゆっくり閉じ始めた。
ゆっくり、ゆっくりと動き、顎の下を鈴へとこすりつけた。
「これ、よくミィちゃんが私にしてくれた…」
「それはウサギの愛情表現のひとつだよ」
後から駆けつけてきた一誠の姿があった。
猫又と妖狐に向かい、遅れたと言って鈴とミィへと近づいた。
「これは“好き”という表現なんだ」
「ミィちゃん…。死んじゃってもまだ好きでいてくれたんだね」
鈴が泣き始めたと同時にミィが少しずつ薄くなり始めた。
もう力が残っていなく、消え始めたのだ。
「最期まで一緒にいてあげて。それがミィちゃんのためだろうから」
「うん…」
最期の最後まで鈴は抱き続け、ミィは消えるまでこすり続けていた。
*
翌日の夕方、鈴は学校から帰ると母親に呼び出された。
「鈴ー!お手紙が来てるわよー!」
「お手紙?はーい!」
渡された封筒には鈴の名前が書かれており、後ろには一誠の名前が書かれていた。
その横にはかわいらしい足跡が2つある。
手紙は封筒の中に入っていたため、封筒ごと持って部屋へと戻った。
部屋へと戻り手紙を取り出すと、手紙には綺麗な字でこう書かれていた。
『鈴ちゃんへ
これを見ているということはもう大丈夫なのかな?
あんなことがあったから心配だけど、立ち直れていると信じているよ。
ミィちゃんのことがあったから僕たちともう関わらないと思ったんだけど、君の目だとまた困ったことが起きるかもしれない。
そんな時はまた猫狐探偵事務所へ来てください』
手紙は昔の文のように折りたたみ式に書かれていたため、開きながら読むようになっている。
ここで終わったと思ったが、まだ一折り残っていた。
『追伸 用がなくてもまた来てもいいよ。猫又も妖狐も会いたがっているからね。
それと言い忘れていたんだけど、お守りは持っていて大丈夫だよ。もう呼び出しはできないけど、お守りにはなると思うから』
手紙はここで終わっていた。
さらに翌日、鈴は学校へ行くために靴を履いているときだ。
「あら鈴。そんなお守り持っていたかしら?」
「うん!大切なお守りなんだよ!」
鈴のランドセルにはウサギのストラップと一緒にお守りがぶら下がっていた。
「それと今日ちょっとだけ遅くなる!」
「いいけど、夕方までには帰ってくるのよ」
「うん!行ってきまーす!!」
今日もまた、鈴の一日が始まる。
着いたときの時間はぴったりで、ランドセルを背負ったままウサギが現れるのを待っていた。
ここは住宅街だが、朝方や夕方過ぎにならないと人通りが少ない。
だからこそ、家の周りをうろうろしても人の眼を気にしなくて済む。
ミィを待っていると、目の前に一匹のウサギが現れた。
「ミィ、ちゃん?」
歩いている姿は普通だが、どこか様子がおかしい。
生きていた時と特に変わったところはないが、言葉にすると何か嫌な予感がした。
そしてその嫌な予感は当たった。
ウサギは鈴に向かって飛びかかってきたのだ。
「キャッ!」
鈴は後ろへと下がり、転んだため当たることはなかった。
だが、倒れてしまったため、また飛びかかってきた場合はうまく避けれそうにもなかった。
もちろんウサギはそんなことはお構いなしに、また飛びかかって来る。
鈴は目を閉じた。
だがウサギが鈴に当たることはなかった。
「さきほどぶりじゃな」
「猫…又?」
「わっちもいるでありんすよ」
目を開けるとそこには猫又と妖狐がいたのだ。
妖狐は倒れ込んだ鈴の膝の上に、そして猫又はというとウサギを捕らえるように踏みつぶしていた。
なんと猫又は先ほど見ていたサイズとは全然違い、普通の猫と比較できないほど大きくなっていたのだ。
サイズ的には軽トラと同じぐらい大きい。
「ううん、気のせい。猫又はもっと可愛かったもん」
「可愛くなくて悪かったのう!でも、これが本当の姿じゃ」
「わっちもそうでありんす。元の姿でいると、今は不便でありんすから」
「大変そうだね…」
未だに信じられないが、確かにそのまま大きくなったような見た目だった。
「でもどうやって来たの?あとをついて来たの?」
「そのお守りじゃ。鈴が危ないときにいつでも飛べるように一誠が一晩でつくっておいたのじゃ」
「これを…一日で……」
改めてお守りを見直した。
そのお守りは、とてにも一日で出来た代物には思えないほどの出来である。
そんな中、猫又の足元にいるウサギは、今もなお逃げようともがいている。
「こりゃ、大人しくせい!」
「ミィちゃん!!」
「安心するでありんす。この子、いやこやつはミィとやらではないでありんすよ。猫又」
妖狐は鈴の上から飛び降りると、猫又と同じぐらいの大きさへと変わる。
そして片足をウサギの頭の上に足を置いた。
足を離すと、ウサギの頭の上には一枚の札が貼ってある。
「それは?」
「簡単に言うと、悪しき者を取り除く札でありんす。妖力という力というのを使うから、この姿ではないと効果を発揮しないという不便な方法でありんすが」
札を張ると、さらに暴れ始めた。
それだけではなく、ウサギの形は崩れ始めたのだ。
これは鈴には見せるには酷だと思い、すかさず猫又が妖狐と鈴の間に割り込んだ。
抑える必要はもうなくなったため、すぐさま動いたのだ。
案の定、鈴は怯えた表情をしている。
猫又は安心させるように鈴に体を寄せた。
「大丈夫じゃ。あれは本当にミィではない」
「じゃあ…あれは何なの…?」
「…人は同じ人を殺す者もいる。つまりは同じようなのが妖怪にもいるのじゃ」
猫又は妖狐のほうを見、うなづくと鈴から離れた。
妖狐の姿が見えると、足元にはウサギ、いやミィがいた。
「ミィちゃん!!」
「消えかけていた意思にわっちが力を分けてあげたでありんす。でも、やはり長くは持たないでありんすよ」
鈴はミィに近寄り、すぐさま抱きかかえた。
ミィは抱きかかえられると、開いていた目をゆっくり閉じ始めた。
ゆっくり、ゆっくりと動き、顎の下を鈴へとこすりつけた。
「これ、よくミィちゃんが私にしてくれた…」
「それはウサギの愛情表現のひとつだよ」
後から駆けつけてきた一誠の姿があった。
猫又と妖狐に向かい、遅れたと言って鈴とミィへと近づいた。
「これは“好き”という表現なんだ」
「ミィちゃん…。死んじゃってもまだ好きでいてくれたんだね」
鈴が泣き始めたと同時にミィが少しずつ薄くなり始めた。
もう力が残っていなく、消え始めたのだ。
「最期まで一緒にいてあげて。それがミィちゃんのためだろうから」
「うん…」
最期の最後まで鈴は抱き続け、ミィは消えるまでこすり続けていた。
*
翌日の夕方、鈴は学校から帰ると母親に呼び出された。
「鈴ー!お手紙が来てるわよー!」
「お手紙?はーい!」
渡された封筒には鈴の名前が書かれており、後ろには一誠の名前が書かれていた。
その横にはかわいらしい足跡が2つある。
手紙は封筒の中に入っていたため、封筒ごと持って部屋へと戻った。
部屋へと戻り手紙を取り出すと、手紙には綺麗な字でこう書かれていた。
『鈴ちゃんへ
これを見ているということはもう大丈夫なのかな?
あんなことがあったから心配だけど、立ち直れていると信じているよ。
ミィちゃんのことがあったから僕たちともう関わらないと思ったんだけど、君の目だとまた困ったことが起きるかもしれない。
そんな時はまた猫狐探偵事務所へ来てください』
手紙は昔の文のように折りたたみ式に書かれていたため、開きながら読むようになっている。
ここで終わったと思ったが、まだ一折り残っていた。
『追伸 用がなくてもまた来てもいいよ。猫又も妖狐も会いたがっているからね。
それと言い忘れていたんだけど、お守りは持っていて大丈夫だよ。もう呼び出しはできないけど、お守りにはなると思うから』
手紙はここで終わっていた。
さらに翌日、鈴は学校へ行くために靴を履いているときだ。
「あら鈴。そんなお守り持っていたかしら?」
「うん!大切なお守りなんだよ!」
鈴のランドセルにはウサギのストラップと一緒にお守りがぶら下がっていた。
「それと今日ちょっとだけ遅くなる!」
「いいけど、夕方までには帰ってくるのよ」
「うん!行ってきまーす!!」
今日もまた、鈴の一日が始まる。
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