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第12話
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思うことはいろいろあったけれど、その後はいつもの明るく無邪気な奈加に戻り、僕たちは余すことなく水族館を満喫した。深海ゾーンや太平洋ゾーン、クラゲゾーンなど、いくつかの展示コーナーを見て周り、ダイオウグソクムシとのふれあい体験やイルカショーなんかを経て館内を一蹴した後、僕たちは出口付近のメインショップに立ち寄った。そこで奈加はストラップ型のクラゲマスコットを、僕はポストカードのセットを購入して、少し惜しむようにゆっくりと新江ノ島水族館を後にした。
そんな新江ノ島水族館からの帰り道。夕焼けに染まる歩道橋の上で、奈加は欄干に手を掛けながら水平線に沈みゆく夕日を眺めて僕に言った。
「さっきのこと、出来れば忘れてね」
歩道橋の下を走り抜ける自動車の走行音が、足の裏を通して伝わってくる。
あんなにも青かった空は、今では夕日によって淡いピンク色に染まり、時折吹く少し冷たい風が遠くから潮の香りを運んできては去っていく。
僕は、夕焼け色に染まる彼女の横顔をじっと見つめながら言葉を返す。
「うん。忘れるよ」
どう考えても、しばらくは頭の中に残りそうだった。だけど、彼女がそう望むのなら仕方がない。精一杯、忘れる努力をしよう。そして、この旅が終わったら、彼女と過ごした数日の思い出も全て、忘れることにしよう。
僕は少し安堵したように見える彼女の表情を目に焼き付けながら、心の中でそんなこと呟く。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
それから僕たちは近くのファミレスで夕食を済ませ、寄り道をしないでそのままホテルへ帰った。それぞれ軽くシャワーを浴びて、就寝の準備をする。
正直、奈加が昨日みたいなことをしてこないか少し心配していたけれど、意外なほど何もなく、僕たちは静かにそれぞれのベッドに入った。
そうして枕元に手を伸ばし、ベッド横のスタンドライトのみを残して部屋の照明を落とす。カーテンの隙間からは、134号線を走る自動車の明かりが微かに漏れていた。
夜特有の静寂が、僕たちの周りをゆっくりと満たしていく。
「——ねぇ……」
すぐ隣のベッドから、奈加の声が聴こえる。
「……なに?」
僕は彼女に背を向けながら、小さく返す。
「……明日で、最後だね」
「うん」
「……いい、一日にしようね」
「うん」
「……おやすみ」
僕は瞼を閉じながら、彼女だけに聴こえるようにそっと呟く。
「おやすみ」
こうして夜は更けていき、僕らは静かな眠りに就く。
——そして、長いようで短く感じた僕の……いや、〝僕たち〟の鎌倉旅行は、鎌倉の海を照らす朝焼けと共に、最後の一日を迎えた。
そんな新江ノ島水族館からの帰り道。夕焼けに染まる歩道橋の上で、奈加は欄干に手を掛けながら水平線に沈みゆく夕日を眺めて僕に言った。
「さっきのこと、出来れば忘れてね」
歩道橋の下を走り抜ける自動車の走行音が、足の裏を通して伝わってくる。
あんなにも青かった空は、今では夕日によって淡いピンク色に染まり、時折吹く少し冷たい風が遠くから潮の香りを運んできては去っていく。
僕は、夕焼け色に染まる彼女の横顔をじっと見つめながら言葉を返す。
「うん。忘れるよ」
どう考えても、しばらくは頭の中に残りそうだった。だけど、彼女がそう望むのなら仕方がない。精一杯、忘れる努力をしよう。そして、この旅が終わったら、彼女と過ごした数日の思い出も全て、忘れることにしよう。
僕は少し安堵したように見える彼女の表情を目に焼き付けながら、心の中でそんなこと呟く。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
それから僕たちは近くのファミレスで夕食を済ませ、寄り道をしないでそのままホテルへ帰った。それぞれ軽くシャワーを浴びて、就寝の準備をする。
正直、奈加が昨日みたいなことをしてこないか少し心配していたけれど、意外なほど何もなく、僕たちは静かにそれぞれのベッドに入った。
そうして枕元に手を伸ばし、ベッド横のスタンドライトのみを残して部屋の照明を落とす。カーテンの隙間からは、134号線を走る自動車の明かりが微かに漏れていた。
夜特有の静寂が、僕たちの周りをゆっくりと満たしていく。
「——ねぇ……」
すぐ隣のベッドから、奈加の声が聴こえる。
「……なに?」
僕は彼女に背を向けながら、小さく返す。
「……明日で、最後だね」
「うん」
「……いい、一日にしようね」
「うん」
「……おやすみ」
僕は瞼を閉じながら、彼女だけに聴こえるようにそっと呟く。
「おやすみ」
こうして夜は更けていき、僕らは静かな眠りに就く。
——そして、長いようで短く感じた僕の……いや、〝僕たち〟の鎌倉旅行は、鎌倉の海を照らす朝焼けと共に、最後の一日を迎えた。
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