魔界食肉日和

トネリコ

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22、絶滅危惧種

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 ぬーぬー

 変な鳴き声がした。

「あ? これどっかで聞いた気が…」
「トカゲどうしたー?」
「ワニ、これがどっから聞こえてるか分かるか?」
「おー」

 巨体ががっさごっそと茂みを探る。
 程なくしてワニに掴まれた手のひらサイズの変な茶色い毛玉が現れた。
 めっちゃガクブル怯えてる。

「変な生き物だなー、食っていいかー?」
「ワニ、変だったなら食うのやめとけよな。いや、つーかこれ…」

 思い出せそうで思い出せない。
 うおお、小骨が脳みそに刺さってるみたいでもぞもぞする。
 めっちゃ震える声でぬーぬー鳴くのを指で突ついていると、恐怖でか失神してしまった。
 普通魔界で失神したら即餌である。

 マンドラゴラみたいにカウンターがあるわけでもないとか、魔界の中でもこいつ最弱じゃね……

 と考えた所でふと過ぎった。

 は? 最弱?

 ぱっと魔界博物館で流した音声が頭に流れる。
 一致する。

「おいワニ!! そいつをそっと下ろせ、そっとだぞ、絶対握るなよ!!」
「トカゲ急にどうしたー?」
「そいつ絶滅危惧種のぬーぬーだぞ!! 雑魚さのあまり狩られすぎて絶賛絶滅危惧種なんだよ!! 失神させたのバレたら魔王様直属の生物保護官達にこっちが狩られる!!」

 な、なんちゅーとこに紛れてんだよぬーぬー

 茂み緑だから茶色のお前じゃ保護色も働かねーだろ!
 しかも攻撃方法も反撃方法もないのにぬーぬー鳴いて人集めてんじゃねーよ!
 だから絶滅仕掛けてんだろ! 頑張れよ! その声帯退化させろよ!

「おいワニ、何してんだ、さっさと逃がしてこっちも逃げよーぜ」
「いやトカゲよー、こいつ死んでるぞ」
「ぬーぬー!!!!」

 終わった…
 失神じゃなかった…
 こいつ恐怖で死にやがった
 なんて雑魚なんだ
 魔界最弱は伊達じゃねえってことか…… 
 
「てかどうすんだよ! くっ、仕方ねえ、ワニ此処は一蓮托生だ。そいつがバレねえ内に埋めるぞ」
「トカゲー、発信機的なもん見つけたぞ」
「クッソ!! 絶滅危惧種個体管理されてやがるクッソ!!」

 まずい、狩られる
 アリバイ探しとかされる
 拷問される

 どうする、よし、こうなったら頭悪そうな奴に罪を擦り付けよう

 決めて振り向いたら白い防護服を被った人型が立っていた。

 あ、これ魔界生物保護官やん
 オワタ

「個体番号四十二のぬーぬーの生態反応が消えたので確認しにきた」
「ハハハ、ぬーぬーって何ですか? そんな変な名前の生物いるんですか?」
「トカゲーこれ結局埋めるのかー? なら食っていいかー?」
「ワニクッソ!!!」

 おま、疑われんの絶賛お前なんだからな!! 
 なにぬーぬー摘まんじゃってんの!?
 注意逸らしてやってる間にそのバカ力でどっかブン投げとけよ!!
 相手は魔王様直属だぞ!?
 
「個体番号四十二のぬーぬーの生態反応を消したのはワニ、お前で合っているか?」
「おー」
「おいワニ!」

 呑気に返事してる。

 もうバカ!
 そりゃお前が多分に恐怖を与えたけどよ、こいつに勝っても魔王様に反逆したことになるんだからな!
 流石に魔王様と全軍相手じゃ負けるんだからもう少し緊張感を持ってだな!

 もう腹が立っているとザッと魔界生物保護官が動いた。
 ワニに1歩ずつ近付いていく。

 お、おい、やめ…

 何も出来ないままに咄嗟に声を出していると―――



「はあ、ワニなら怒れないな。次からは注意してくれ」
「おー悪いなー」



「は?」



 呑気に和やかな会話が始まった。

 は?
 魔界生物保護官?
 は?

「おいワニ、説明しろ」
「んー? いやー、よくこいつらには世話になってるぜー。飯とかもバランス良く食べろとかうるせーしなー。俺はトカゲだけでいいっつってんのによー。結婚するか?」
「それは断然拒否だが、は? 世話んなってんのか?」

 余計疑問符が飛んでいると、魔界生物保護官がぬーぬーを抱えて戻ってきた。
 茶色い毛玉はだらんと草臥れている。

「ワニは絶滅危惧種の中でも最上位だからな」

 がっはっはとワニが大口を開けて笑った。
 頭の中で ワニ > ぬーぬー の図式が形成される。

「おまっ、先にそれ言えよ!」
「トカゲに言ってなかったかー? 心配してくれたのかー、トカゲかわいいなー」
「このクソワニめ!」

 言った瞬間魔界生物保護官から殺気が飛んでくる。
 心身の健康を保つのも仕事らしい
 ガクブルっているとワニが歯を鳴らしたら殺気が止んだ。
 とはいえお前のせいだかんな
 ワニへの殺意は止まなかった。
 
 だがまあこれで何とか無事に済みそうである。
 白い防護服からばっさーと黒い悪魔的羽が生えて飛び立つのを眺めていると何か違和感を感じた。

 ん?

 あれ? ぬーぬー動いてね?

 既に豆粒ほどになっているが、確かにさっき動いていた気がするので慌てて隣のワニを揺する。

「お、おいワニ! ぬーぬー生きてんじゃねーか!」
「いやー確かに心臓は止まってたぞー? おー、でも確かに動いてんなー、めっちゃ撫でられてるぜー」
「なっ、まさか」

 そこでもしやと分かってしまった。
 魔界最弱のぬーぬーが獲得した生存戦略。
 ただその進化を心音を止めるほどの死んだフリに注ぎ込んだぬーぬー。
 そう

「あいつら魔界生物保護官をバックにつけやがったってことか」

 擬死と弱さを極めた最弱だが最強の生物―――つまりそれがぬーぬーということである。

 やはり魔界、最弱ですら最弱じゃなかったということを知った1日であった。
 あとワニはさっさと絶滅した方が世のため魔界のためだと思った。
 はいぶっしゃー













後書き





 龍族は個体数的に絶滅危惧種。しかも繁殖方法が特殊なので、そのために法律まである。前話で鳥が「無知は罪」と言っていたのもコレ。

 番相手(その時点で世界中で1番相性のいい相手)は本能で分かる。番相手は、結婚する前だと1番の相手が死んだ時点で変わる。結婚後は変更不可。結婚と書いてるが、正確には『血婚』。血同士を混ぜて同じ寿命になる。足して÷2。

 龍族は相手が番相手ならどんな種族相手でも寛容である。特に1番目のなら尚更。かつて雑草の妖精と血婚した者もいる。まぁこの夫婦は更に上位版の結婚なのでまた違うのであるがネタバレなので今はやめとこう。タグのけっこんはここら辺から付けてます(笑)

 というわけで龍族長と鰐族長からワニは生まれた。ちなみに1番目が好まれる理由の一つに”1番目の番相手から生まれてくる子は大抵親より強いから”が挙げられる。ワニは中でも倍くらい強かったバケモン級。

 生まれてくる子は龍族の血が強いのでハーフでなく龍族として生まれる。だから余計ワニって希少✩
平均だが、番が2番目以降であれば親以上の子は珍しく、良くて親と同等の能力。以降番の番目数が下がる度に強い子の確率と上限が下がる。能力値は3番目以降であれば、番でなく龍族同士で結婚した相手の方が強い子が生まれる確率がある。龍族の中にも微笑ましく言えば恋愛結婚推奨派と政略結婚推奨派があるようだ。(つまり強さ?知らね、出会えなきゃ血が途絶えるだけっしょー☆博打博打♫番大好きー派と、龍族が一番!強さと安定が好きーの保守派)

 さて、龍族の個体数維持のために簡単に言えば「番相手への求婚を邪魔しないように」という法律がある。ただし番相手の意思も大事なため、絶対結婚しろよ!とかではない。
 そんなんじゃ絶滅しちゃわねー?とか思うかもしれないが、龍族は長命であり、長い生の中で基本10匹くらいは産む。なので子供達は存分にその長い生を自分のおっもい愛情を注げる番ゲットに注ぐのである。

 ちなみにワニの場合、「かわいいなー」とおっもい龍族の愛欲が働いた瞬間、鰐族の食欲が絡んで食べちゃってるらしい。きゅん♡バクリ♡である。
 トカゲふぁいとー

次話「全力でほのぼの話にしようとしてみた」

 無血目指すよ?ホノボノダヨ、ウソジャナイヨー
 …アレ?
 ソウイエバ コノショウセツ ゼンワ ホノボノノ ツモリデ カイテタキガ(以降読めない



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