魔界食肉日和

トネリコ

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29、魔女

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「トカゲー、一生金に困らねーぜー、結婚しようやー」
「却下。つか新パターンきたな。ワニに入れ知恵してんのは誰だ?」

 胡乱な目で眺めていると何処からともなくひゅーーんという音が聞こえる。
 というか段々近付いてくる。
 なんだ?と音源を探してきょろきょろしているとワニに担がれた。
 ぐえっ
 歯がガッチん上下とぶつかって思わず涙目になっていると、その1秒後先ほどまで立っていた場所が爆発した。

 はい!?

「なんだよ! 隕石か!?」
「おー、何か魔女っぽいなー」
「着地下手糞か!」

 隕石の如く降ってきたせいで砂埃が舞い上がっている。どんな自己演出登場シーンだ。事故だろ
 げっほげっほとむせていると、クレーターからひょっこりと人影が現れた。
 魔女め!抗議してやる!

「おい魔女! 着地はもう少し考えろよ!」
「あいやーすんません。どうにも苦手で」
「あ? 男か?」

 最初は意気込んで近付いたものの、段々と見上げる大きさであると分かりびびる。
 お、おいタッパでかくね?
 魔女の衣装着てるけど種族間違えてね?。
 黒ローブがはち切れそうな程胸板も二の腕もパンパンである。
 箒がハタキの様だ。

「これでも魔女族ですよ、しかもエース」
「どれも嘘くせえな、それ盗んだとかじゃねえよな」

 何故か照れ笑いで頭を掻いている。砂ぼこりが髪から落ちてるぞ。
 魔女族の報復っつーとヤバイから嘘吐き回ってると悲惨だぞ?
 いや、一応魔女族にも男が生まれるとは聞いてるけどよ、レア中のレアだしな
 それにこんな着地下手の癖にエースはねえわ

「あいや手厳しい」

 ぺしりと業とらしく額を叩く様は全然強そうに見えない。
 タッパはあるが見掛け倒しっぽそうだとちょっと強気になる。
 魔女族はその強大な魔力と陰険さが売りだが、こいつはむしろ人が好さそうだ。
 ワニと並ぶと野獣とクマといった感じだ。ワニが野獣な。

「っつーか通行証ないなら不法侵入になるぞ。今ならゴーレムに説明して時間稼いでやっからさっさとにげろよ」
「トカゲ甘いなー」
「ああ、今日は商売に来てまして、ほら通行証もこの通り」

 ふむ、確かに魔王城発行の通行証である。
 どうやら信じがたいが魔女族というのも本当だったようだ。
 通行証は身元が確かじゃねーと発行されねえしな
 エースは流石にホラだろうが、それにしても驚きである。

「はー、男の魔女族の実物見んのは初めてだわ。商売ってお前さんの髪とかか?」
「まさか。それも効力上昇のために入れてるやつもありますが、基本単体では売ってないですよ。物珍しいだけで他の魔女族の効力と変わりはないですし」
「そういうもんか。まあ魔界では物珍しさも売りになるだろーけどよ」

 命も狙われるがな
 実験させろとか何とかさ、時々あるのである。
 この魔女が流離ってるのもそれが理由かもなあ。ワニのこと知らねーってことは案外若いかもだし
 まあでも生き残ってるし通行証もあるし、この魔女から商品買うのも値段によっちゃあアリだろ

「なー魔女、どんなん売ってんだ? あんま金ねーけどいいのあんなら買うぜ?」
「あいや本当ですか! ではこんなのはどうでしょう」

 ばっさとハタキが振られる。
 四角い風呂敷が地面へと広げられ、そこに種々の呪物や小物がぱっと並べられた。

 おおー、魔法っぽい
 これとか可愛いな
 マイナーなぬーぬーぐるみやハチストラップまである。

 おー、金運アップや恋愛運アップなんかのおまじないが付いたのも目移りすんなー
 力のある魔女族が作ったのは、そこらのパチもんと違って本当にその運気を上げてくれるのだ。
 勿論値段は少し張るし、ゆうて気持ち程度の微々たるものだが。
 同じ様に覗いているワニに水を向ける。

「ワニはあんまこういうの興味ねーか?」
「そうだなー、トカゲが欲しいなら全部買うぜー?」
「んー、友人にあげる用だし別にいいわ。なー魔女、おまじない程度のじゃなくて攻撃魔法とか防御魔法が使えるようになるのないか? 素早さアップでもいい」

 モノによっては分割払いでも買うぞ私は!
 目指せハッピーライフ!

 隣のワニは呑気にこれトカゲに合うんじゃねー?と勝手に我が頭にシカ角を装着させている。
 シカ角に似合うもクソもあるのか。そしてそれは褒め言葉なのか
 つか地味に重い
 ワニのツボがよく分からん

「そうですねー、こんなのは如何ですか?」

 友人や自分用のを選んでお金を払い、待っているとどーんと出されたのは銀製ナックル。
 私の手ぐらいの大きさだがら装着できるが、別段効力を持っているようには見えない。
 吸血鬼用か?うーん

「弱そうだな」
「意外と凄いんですよ、これを装着しまして、お客さん手を出してもらえます? 今から実演致しますんで」
「俺かー?」

 ワニが手を出して構えた
 えータッパあるけど人型の魔女だろ。どうなるんだ?燃やすのか? 
 見ているとナックルを装着した魔女がワニへ向けててくてく歩き、何も力入れてない感じでぽこんと殴った。

 ワニが壁の方まで吹っ飛び、次いで壁が崩れる音がした。

「はあ!?」
「はいー、少ない魔力でもこのナックルが乗算で衝撃へと変換して高めてくれます。お値段なんと百魔円~」
「買った!」

 凄いものを見た。
 あのワニが吹っ飛ぶとかどんだけである。
 やべえ、トカゲ物理無双できる時代が!!

 きらきらと魔女とナックル様を眺めているとドスンとワニが隣に降り立った。
 呑気に尻尾で砂埃を払っている。
 一応無傷の様だ。
 まあ吹っ飛ばせるだけでも百魔円の価値はある。

「おーびくったわー、トカゲそれ買うんかー?」
「ふっふっふ止めても無駄だぞワニよ」

 高笑いして早速魔女へ分割百回払いを拝み頼みに行こうとしていると、申し訳なさそうな顔をした魔女がこちらへやってきた。
 嫌な予感がする。

「あいやーすんません」

 見せられたのはさっきまでのきらきらが失せ、くすんでひび割れたナックル様(お亡くなり)

「おいワニ! ナックル様に何してくれてんだ!」
「いや、いつもはつまんねーから切ってんだけど咄嗟に反魔法アンチマジックが働いちまってよー」
「クッソ、龍族の種族魔法クッソ!!!」
「お客様は龍族入りでしたかー、これは此方のミスでしたな。まだまだ見る目も技術も足りなかったようで」

 何故かやる気が増した顔になった魔女。
 これはもう一回修行してきますねと風呂敷が畳まれる。

 え、おいちょっと待て、もうちょい見せてくれ!
 さっき龍殺しとかの文字見えたぞ!!

 慌てて呼び止めるが、ハタキに乗った魔女は「では!」と言って思いっきり地面を蹴った。
 クレーターonクレーターが出来上がる。

 あー、私のドラゴンバスターが……
 というかあれ絶対魔力じゃなくて脚力で飛び上がってるよ……
 着地下手なのも箒の大きさが合ってないからだろーよ……

 悄然とツッコんでいるとワニにナックル様(お亡くなり)を渡された。

「トカゲいるかー?」
「いらねーよばーか!」

 うう、百魔円無駄にならなかったと思おう。
 悔しいからワニの前に赤いリボンを見せる。

「これワニへのプレゼント用だったけど絶対やんねー!」
「! トカゲ欲しい! それくれ!!」

 びったんびったん尻尾が振られる。

 ふはは、ばかめ! 本当は自分の衣装を直す用リボンだよ!
 くっくっく。悔しいから敢えて焦らして辱めてやる!

「えーどうしよっっかなー」
「トカゲ頼む!」
「仕方ねーなあ、じゃあワニ後ろ向け」
「おー!!」
「おい尻尾の動き止め―いてっ、止めろばか!」
「捕まえとくわ」

 びったーんと尻尾に顔面をはたかれる。何だ、天罰とでも言うつもりか。

 凶器なんだからマジやめろ
 うげ、鼻血がすびずびする

 意識を無意識が凌駕するのか、結局ワニは振り向いてがっしり自分の尻尾の根元を押さえた。
 んで私はその先っちょに赤いリボンを巻こうとしてしゃがんでいる。
 うん、なんともマヌケな感じだ。
 まあいい少しの辛抱だ。

 解けない様にしつつキュッキュと固くリボン結びにする。

「おっしできた」
「トカゲ大事にするなー!」
「おー、しろしろ」

 ゴツイワニに巻かれた可愛い赤いちょうちょ結び。

 やっばい既にもう腹捻れそう。
 ワニはふんふんと限りなく上機嫌に尻尾を振っている。
 その度にリボンもひらひらり。
 ぶっはと笑いながら仕事に行くと言ってお互いに別れる。

 これでナックル様も成仏すっだろ
 笑われるがよいワニよ!
 ふっはっは!



 その後、予想以上にワニがリボンを予想以上に大事にし過ぎて結局迷惑を被るトカゲであった。










後書き
 


ふんふーん、次話は赤いリボンで決定っすね~(笑)
よっ、トカゲも魔性の女~←

◆魔女◆
詳しくは登場人物紹介3でするかも?
まだ若い
けどガチエース級の腕
魔女族の中で男児として産まれた超レアっ子
魔女族の中には男嫌いも多い
またショタコンもいた
ひねくれずに育ったのが奇跡
あらゆることから身を守るためマッソーに鍛えられた
あと親がマッソー好きだった
魔女族の集落は結構特殊なのでこれまた紹介3にてするかも
最近観察眼鍛えと強力な呪物作りに燃えてるらしい

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