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44、禁書
しおりを挟むふんふんとワタが付いたハタキで禁書の埃を取ってやってると、もっと丁寧にやれと合唱の様に言われる。
こいつら本の分際でマジうぜぇ
鬱陶しいので更にぼこすかはたいてやった。
こちとらまだこの下の段も隣の棚もやらにゃあいかんのである。禁書如きがうっせえのだ
「んあ? この禁書初めてだな。いつの間に追加されたんだ?」
奥にどうやら無理やり引っ込められていたやつがあるので覗いてみる。
禁書どもがそんなのより俺を見ろ、私の声を聴け、世界をこの手にとうるさい
というか邪魔だ。特に最後の奴、お前で手に出来るのはあの世だけだろーが!
「んあー、っと、取れたか。新しいし、こりゃ最近作られた系だなぁ」
声も聞こえねぇ時点で意志もまだ薄弱だし、それほど年数も経ってなさそうである。
基本禁書は年数が経っているものほど命を刈り取ってる場合があり、効果や能力がえげつないものが多い。
その点これはいわば雑魚そうというわけである。
とはいえ禁書指定食らう時点でヤバい効果付きなのだろーが。
「最近っつーと、またあいつらが作ったのか? あいつら碌なもん作らねーしなぁ」
淡いピンクで可愛らしいといえば可愛らしい色合いだが、禁書を片手に置いてぽんぽん叩いて回想する。
マッドサイエンティスト、研究狂い、深淵家、あいつらを指す単語は幾つかあるが総じて魔界においてもマジキチガイ共の集まりということだけは確かである。
実際ワニに出会う前の放浪中に捕らえられてミンチにされたり耐久実験やら再生実験されたしなぁ…
あー、うん、精神やられるから思い出したくねぇな
二匹旅の時じゃなく一人だったのがよかったのか悪かったのか…
うん、よし忘れた
とりあえず、研究狂いどもは種族特性でただ一つの研究に全てを捧げる。倫理観、道徳観念くそくらえ。結果真実こそ全て、親も子も知人も他人も道端の雑草も自分の命さえ使うというつまりまぁイカレた野郎共である。
そもそもあいつらに雌雄や親子の概念とかあるか謎だしなぁ。姿形さえ大抵の奴が自己改造というか自分も研究実験に使ってるせいか千差万別だしな。
というわけで、そんなイカレた奴等の研究の結果がこちらの禁書である。というか、あいつ等が研究し尽したら大抵禁書指定になるのである。
例えば精神とは?という研究テーマに狂った奴がいたとしよう。というか過去に居た。そいつの研究実験で中位から下位魔族およそ一千魔が精神崩壊した。主に感染型の精神実験のせいだが、怒った時は?喜んだ時は?復讐に燃えた者の時は?効果は増量するのか?個体の能力値における効果の具合は―――というパターンがいくらあっても仕方ないものまで記録しようとしたからの結果である。
馬鹿だろと思うが、こいつらは真剣に淡々と結果を求めてやりやがるのである。マジ手に負えねぇ
結果は途中である種予想通り復讐されることで終わりを遂げたのだが、その途中までの結果をまとめたのがまぁ精神崩壊系呪文を纏めた禁書である。あ、さっきハタキで埃払ったやつな
研究を引き継ぐ奴も偶に居るんだが、基本未知のものを解き明かしたい系の奴等なので、今の所精神崩壊系の続刊は届いてない。誘惑系やら洗脳系などの派生は偶に届くが。
ちなみに、研究テーマは生まれ持ってある系と、これまた天啓の様に降ってくる系があるらしい。しらんがな、というかはた迷惑な…
まぁはた迷惑なことこの上ないが、こんな奴等でも役に立つことはある。損害割合とどっこいどっこいな気がするが、例えばこの精神崩壊系の禁書を敢えて人間界に放ったとしよう。というか、これまた過去に放った。昔の魔界は今よりも更に尖がってたのだ、うん
まぁ魔力や精神耐性の高い奴等でさえ死んだのである。雑魚人間達が生き残る筈もなく、精神崩壊感染型の禁書を当時うざったいくらい進軍してきてた国に放った所、四日で一国が滅んだ。
使い勝手が良かったので当時の魔王がついでにお隣の国にも投げようとしたところ、当時はまだ生きていた作成者の「あんまりサンプルの人間が減るのは困る」という作ったお前が言うな的発言で人間全滅は免れて禁書は回収されたが、つまりそんくらいヤバい代物ではある。
ちなみに作成者にとってもサンプル実験であったため、一応効果は一国のみに留まるよう結界は敷かれていたらしいが…、まぁどっちにしろ人間どんまいである。
さても、雑魚トカゲがよくそんな研究狂いから生きて逃げれたなぁという感じだが、まぁ単純に飽きられてポイされただけであった。
いや、嬉しいんだがな? 痛覚ないとはいえ嫌なもんは嫌だしな?
捕まったのは研究テーマが「再生」のやつだったので、まぁ三、四ヶ月くらい色々ごりごりされてデータをとられた後、哀れまだ腕サイズの伝説のフェニックスの雛を研究水槽の中から見かけた翌朝には外の世界へポイされていた。
最近放置プレイが増えたなーと思っていたとはいえ、もう少し労わって欲しい気もしたが、勿論そそくさと退散した形である。
いやでも改めて考えてみてもせめて服は欲しかったな…。スライムに溶かされる前の魔物の死体から毛皮を運良くはぎ取って着れたとはいえ、数日は全裸旅したし腐臭は臭いし、そもそも下着付けずだしな…
まぁ頭イカれ野郎共に言っても仕方ないんだろうけどよ…
あ、やべ目から汗が…
こう思い返すと、よくその時に命を落とさず、しかもワニに拾われて今みたいに衣食住安定出来てるなぁと感慨深い気もする。いや、今も結構な頻度で喰われてるので危険度は減ってねぇが
さてオチだが、風の噂で何処からともなく飛翔してきたフェニックスに屋敷丸ごと燃やされた奴が居たらしい。フェニックスは魔界でも聖炎を使う種族なので、魂ごと燃やされた奴はもう二度と復活出来ないだろう。再生がテーマだった癖にざまーみろである。
おっと、考え事をしていたら大分掃除も終わったようだ。
こんなというとアレだが、雑魚の癖に禁書の管理を任されてるのは、捕らえられてた時に禁書系の魔力に馴染みがあって耐性が他の奴等よりも付いたからである。魔生何があるかわからんもんだ。
勿論耐性が付いてるだけなのでガッツリやられたらヤられるが。
ちなみに、他にも人族の血混じりだからというのもある。そこらへんの説明は長くなるので省こう。
さてと、
ひと段落したので、いそいそと梯子を片付けて先程から持っている淡いピンクの禁書を膝の上に置いて座る。
危険な代物? 分かっちゃいるけどこういうのは好奇心がなー
大抵それで痛い目見てるのだが、タイトルの無い禁書は珍しいので余計に気になるのである。まあ付いててもあいつ等タイトルに興味もセンスもねーから、「精神崩壊本」やら「無詠唱解体本」とかだが。
「一ページだけならいいだろ」
何だかんだ魔族らしくスリルと好奇心に負けて恐る恐る表紙をめくる。
さすがに緊張で手が震えた。
ならやんなよという話だが、城に来てからのある意味呑気な日々に、時々こういうスパイスを加えたくなるのである。
ぺろりと乾燥していた唇を舐めつつ、表紙を捲れば、目次の手前だったのか白紙だった。背後の棚からの地味に煩い俺を開けよーという嫉妬混じりのラブコールを華麗に無視しつつ、白紙のページに拍子抜けして次のページもめくる。
…、白紙だった
一応もう1ページめくる。
…、白紙だった
あまりの事態に禁書を持つ手が震える。
なんだと、まさかこんだけ期待させといて全部白紙とかじゃないよな?そんなつまらんことなんてないよな?
暫し一考
「ええいっ、パラパラしてやるわ!」
ぶーぶーと上の段からもブーイングが聞こえるが、無視してパラパラと親指を滑らす。
結果は―――
「……全部白紙じゃねーかよ! 期待を返せこんにゃろー!」
ばーんと地面に投げつければ、上下左右前面背面の禁書から滅茶苦茶笑われた。こいつらマジで後で燃やしてやろうか
バウンドした禁書は何故かすっぽりと棚に収まる。そんなところもムカつく気がするのだが自分だけだろうか? この恨みは後で宰相で発散させてやろう
片付ける手間が省けたのだと思うことにしてこれ幸いとそのまま踵を返す。
「くっそー、後でぜってー宰相に禁書と間違えんなよって文句言ってやるっ」
肩を怒らせて去るトカゲ。
ざわざわと禁書達はさざめき合う。
ケタケタ、カチャカチャと鍵を鳴らして禁書達は哂い合った。
どうやらトカゲは淡いピンクの禁書がトカゲなら絶対手に取らなさそうな鮮やかな蛍光ピンク色になっていったことに最後まで気付きはしなかったようだ。
からからケラケラと禁書達は嗤い合う。
そして案の定宰相から全力でこいつバカだという視線を受けて、後ほどやらかしたとトカゲ自身でも思う事態に陥ったのである。
まぁとりあえずがんばれ?トカゲ
次回お待たせしました☆【発情期】予定 お楽しみに☆
後書き
後書き何を書こうかな?←
禁書と言いつつ、大部分はマジキチ達の説明になっちった(笑)
ちな、研究狂いには有名処だと「言語鬼集家」や「生物鬼集家」もおり、こやつらの場合は魔界辞書や魔界大図鑑を発刊するなど運よくいい方に作用している。(なお裏で―――
禁書にまで侮られているトカゲ
禁書にもそれぞれ意志があり、開いてくれないトカゲに恨みがましい声をあげるものから、好奇心に駆られてよく痛い目に合ってるトカゲを見て楽しむものもおり千差万別
ただ何だかんだトカゲも生きているので今の所いい距離感のようだ。
さて、次回「発情期」である。迷った末トカゲさんに白羽の矢が←
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