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45、発情期一:墓穴を掘ったトカゲさん
しおりを挟む「…、で、好奇心に負けて禁書を開いたと」
「いや、あんな無題で効力も弱そうなやつとか開けてみたくなんねぇ?」
「で、案の定呪いに掛かったと」
「うぐ。そうは言うがな宰相、別に生きながら腐ってもなけりゃあ精神崩壊もしてねぇぞ?」
宰相のあほを見る視線にムカついたので、ぱたぱたと体を叩いて健康をアピールする。
何だ宰相、奥さんにやるプレゼントの相談もう乗ってやらんぞ
というか、どうせ禁書の中身みたいにしょっぼい呪いなんだろ?もったいぶらずに早く教えて解いてくれよなー
「頭イタイ。はぁ、お前が禁書の書庫番を任されてるのはその鈍さも理由だったな」
「さっきから言いようがひでえ! そんなに言うならさっさと解除してくれよ宰相!」
「先に言う。無理だ」
「はー? かよわいトカゲ虐めて楽しいのかよさいしょー、ほら、早く早く」
「む、り、だ」
「……マジで?」
「そんなつまらん嘘を吐いてどうする。わざわざ貴重な時間を割いてやってるんだぞ」
えぇええええ
宰相は頭痛そうにこめかみに手を当ててるが、頭痛いのはこっちである。
マジかよ、禁書の内容ほぼ全部覚えてる宰相が解けないとかもう誰も解けねぇじゃねぇか……
絶望のあまり膝をついていると、上から声が降ってきた。
見下ろされる苛立ちも湧かない程度にはへこみ中である。
「ま、まぁ解除方法は既に分かっているからそんな落ち込むな」
「やっぱ虐めてたんじゃねーかこんにゃろー! 許さん!」
「メェっ、角を掴むな揺さぶるな! 教えてやらんぞこのあほ娘め!」
うっせえ虐める宰相が悪いんじゃ!
解除方法があると分かった途端元気が出たので、ケロリと立ち直って宰相を揺さぶっていると、息を乱した宰相がようやく吐いた。いや、ゲロりじゃねーぞ
「メエイ!! だから、呪いの効果は”強制発情”だから、発情相手と交雑するか体液接種で徐々に解除できるんだっての!! この無礼娘メ!」
「――きょうせいはつじょう? いっぱつこうざつか、たいえきせっしゅ?」
「そうだ。遠い目をしても現実は此処だぞ」
「……」
「空耳でもないぞ」
うぇい、ウェイトウェイトウェイト、ちょ、ちょい待ち
落ち着いて宰相の言葉をもう一回整理する。
一応もう一回宰相に視線で聞く。
幻聴だよな?
首を振られた。
絶望しそうだ。
「え、えーっと、落ち着こうか宰相くん」
「お前が落ち着け。ククッ、いつになく動揺してるなぁ、こりゃ愉快だ」
「クッソ他人事だと思いやがってぇ。最近アイドルの鹿子さんにハマってることマジで奥さんにリークしてやるッ」
「な、何故それをッ!?」
宰相も穏やかめとはいえ魔族らしく他人事に楽しみを見出しやがったので、こちらも魔族らしくやりかえすまでである。
ああ?謝ってももう心に決めてるぞああん?
嫌ならさっさと解決策をその人間界から恐れられてる(笑)の智嚢使って出しやがれやおらあ!
宰相と会う時用に一応用意していた清純派アイドル鹿子さんのブロマイドで、ぺちぺちと宰相のほっぺを叩いていると段々落ち着いてきた不思議である。
まぁ魔族だから仕方ねーな
「くっ、普段からあほの癖に小賢しさだけは回りやがって」
「それだけで生き抜いてきたからな!」
「えばるな」
頭を叩かれて地面とキスしつつ、地面から宰相を見上げると横長の瞳孔が細まった。
大人しく聞く態勢になる。
敢えて茶番に付き合ってくれるあたり、魔界の中でもやはりかなり穏やかだとは思う。
「お前が開いた禁書は昔有名な禁書事件を起こした奴がおまけで作ったやつでな。魔族集団精神崩壊事件知ってるか?」
「…げ、何か最近回想した覚えが。それって精神崩壊本出した研究狂いですか」
「ほう、一応書庫番なだけはあるな。そうだ」
「うげげぇ」
スライムになりたい。
やばい、既にろくでもない臭いしかしねぇ。というか既に製本者死んでるし
というか、あの薄ピンク禁書騙しやがったな!禁書の中でも古参クラスじゃねぇかよッ
「じゃあそこら辺の説明は省くか。サンプルが減り過ぎるのも困るからと、おまけの研究で作ったらしくてな。呪いを掛けた奴が潜伏期間中に出会った存在の中で、最も細胞相性のいい奴へと強制的に発情させるんだ」
「うげ、なんちゅうはた迷惑な代物を…。んあ、でも正直それだけじゃ禁書指定には甘くねーか? 正直掛かった方は凶悪だとは思うが、最初から分かってんなら部屋から一歩も出ずに潜伏期間乗り過ごせばよさそうだしよ」
「まぁな。だが製本者を思い出せ、それだけで済むと思うか? 簡単に言えば呪いが精神に干渉してきて、潜伏期間終期だとふらふらと外に出かけたくなる」
「…雄漁りをしたくなると」
「呪いの対象者、そして発情相手は揺り籠から墓場前まで」
「…つまり見境なし」
「そしていざ潜伏期間が終了すると、強制的に一気に発情期に入る」
「赤子でも?」
「と、記録にある」
「クソじゃねーか!!」
「だから言ったろう」
呆れた視線が刺さるが、こちとらスライムを通り越して大地になりたい気分である。
マジで研究狂いども絶滅すればいいのに
あ、でもそしたら魔界生物保護管が動くのか
もうやだぐすん
「続けるぞ」
「うい」
「発情相手との交雑か体液接種で解除と言っただろう?」
「宰相それ以外の方法はねーのな?」
「ああ、製本者が死んでるから本人の解除も不可だな。主研究ならまだ解除方法も一緒に載ってる場合もあるが、生憎とこちらは遊び用だからなぁ」
「…うい」
「もし発情期が来て耐えたとする」
「まぁそりゃ幾ら魔界とはいえ少しは躊躇するしな」
「すると、日を追うごとにエスカレートする」
「――んあ?つまり?」
「ん? そういえばお前はまだ発情期が来たことなかったんだったか?」
「宰相デリカシーがないぞ。まぁその通りだがな。ハーフだから成人してんのか分かんねぇのもあるが、多分最初らへんの成長不良のせいだとは思ってるな」
「そうか…、ならお前にとっても酷なことになるな…。はぁ、隠しても仕方ない。蜥蜴族と人族の発情期内容は同族に聞くか調べろ。どっちの性質が出るかも分からんしな。で、呪いの主目的はサンプルの増大、つまり繁殖だ」
「はあ」
「だから目的達成かそれに近付くまで呪いは強まる。耐えれば耐える程脳や精神は侵食され、簡単に言うと色狂いになる」
「うえええ」
「日中発情相手のことを考え、襲うことばっか考え、それ以外のことが出来なくなってくる」
「日常生活に支障出まくりじゃねーか。クッソなんつーもんを置き土産にしやがったんだ!」
「以上だ。俺に出来ることは言った。後は頑張れ」
「おいいい、ひでぇ! 冷てぇ! かよわいトカゲが困ってんだから助けろよ!」
颯爽と去ろうとする宰相のマントを全力で掴む。
こいつ本気で去ろうとしやがった! 鬼か!! 鬼山羊か!!
「離せ! まだ仕事があるんだぞ! 後はもう発情相手がまともな奴であることを祈れ! 運がよかったら食い殺されないだろうし、やられるだけだろうし、まともな奴なら血肉とかの体液接種だけで徐々に解除できるかもしれん! (――まぁどうせ相手はあいつだとは思うが」
「うええ、どれも嫌だぁぁ。宰相このまま発情相手になってくれぇ、それでさっくりとちょっとだけ山羊ステーキをくれぇ」
「それが人に頼む態度と内容か!? どうせ仕事中も出会いはあるし、自分から相手を探し始めるんだから諦めろ。元は自分の好奇心が原因なんだから諦めも肝心だぞ」
「うがぁぁ、仕事休んで引きこもってやるぅぅぅ」
じたばたと暴れていると宰相に蹄で踏んづけられた。
ぐえ
ひでぇ、乙女になんちゅうことをしやがる白髪山羊め
と思ったら流石に引き留め過ぎたのか、宰相の身体から真っ黒い魔力が零れ始めていた。
うえ、やり過ぎた。でも嫌なもんは嫌だぁ
「は、な、せ」
「…ぅぅ、」
はぁとでっかいため息が降ってくる。
何故か頭を撫でられた。
大人しく撫でられながら宰相の蹄を見ていた。
「まぁお前も年齢で言えば孫みたいなもんだしな。初めてで怖いのも分かる」
「…」
「これをやろう。精神耐性値が少しは上がるだろう。気休めかもしれんが身に付けておけ」
握っていたマントを外された代わりに、白いミサンガが渡される。宰相の毛で織られてるのだろうか?ご利益がありそうであるし、何よりこれが引き時であろう。
大人しくぼそぼそとお礼を言った。
「ありがと。…代わりに奥さんにチクらないでいてやるよ」
「むしろ渡すまでバラす気だったのか!?」
怒る宰相の愚痴を右から左に流しつつ、恐る恐るミサンガを身に付けるのだった。
あー、やばい引きこもりてぇなぁ
後書き
残念、そうは問屋がおろさねぇぜ←
筆が乗ったので今の内にガリガリ。でも今日の仕事はトカゲの恨みが乗ったのか死寝そうだ!←
そうなんです、地味にトカゲは初発情期なのでやっぱりそういう意味でも恐怖感を持ってる模様。次からはワニさんも登場します~☆
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