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48、発情期三:吸血鬼とあとそれと?
しおりを挟むドサ…と重たい物体が床に落ちる音がする。というか我が観賞用癒しの金髪ボインちゃんが床にくず折れた音であった。目が暗闇に慣れてきたお陰か、見たくもないのに目に入るんだよおい
クッソもう手籠めにしやがってからに…!
というかうわ、あれ絶対たんこぶ出来た音だぞ
ひょいっとその上を乗り越えて身軽にこちらに来る吸血鬼。いや、くーんーなー
「おい、支えてやれよ。めっちゃ痛そうな音だぞ」
「もうお互いの用事は終わったし、トカゲのが面白そうな事態になってるしー?」
「クズめ!」
お前のごはんの用事は終わっただろーがよ、金髪ボインちゃんの方は明らか途中で眠らせただろ
この女の敵め!マジもげろ、くず折れるならお前の下が折れろ…!と怨念を込めつつ吸血鬼からずりずりと避けているとひょいっと顔を覗き込まれた。赤目が愉快気に爛々と光っている。そうして上から下までとっくりと観察した吸血鬼は一つ頷いた。
「ふーん? なるほど、トカゲ呪われちゃってんねー」
「分かんのか!?」
「まぁ精神作用系なら種族柄お得意分野だしね~」
言われてみれば確かにそうである。それにクズだけど何だかんだこいつもエリートだしな。クズだけど。今では気持ちよさそうに床で寝ている金髪ボインちゃんを見れば説得力もいや増すというものだ。
「んー、構成的に発情…? へぇ、トカゲどんなエロエロになんの?」
「なってたまるか!! くっそうどいつもこいつも他人事だと思いやがってぇ」
これ着ない?と、急に何処からともなく取り出した黒革ビキニを押し付けてくる吸血鬼をひたすらぶん殴ろうとしては避けられて空ぶっていると、急に吸血鬼が片手を上げた。胡坐を掻いて宙に浮いている。どこの仙人だ。
とりあえず黒革ビキニは諦めて仕舞ったようである。煩悩塗れじゃねーか
なんだ降参か?許してやらんからそこに直れや
右腕を回して準備運動していると、「トカゲしつもーん」と呼ばれる。
仕方なしに吸血鬼を指差してやった。くっ、これも幼稚園の引率バイトの習慣が…
「…、はい、吸血鬼くん」
「トカゲって血的にハーフでしょ? どっちのでエロくなんの?」
「この脳内桃色野郎め、やっぱ一発じゃなく十発――」
「ちょ、ふつーに知的好奇心だって!! これでも心配してやってんのにー」
これでにやにや哂ってたら速攻殴っていたがどうやら本当に少しは心配してくれてたみたいなので、若干不満に思いつつも殴るのは保留にしといてやることにした。なお保留である。どうせダメージ0どころか当たらないとか考えちゃいけねぇ、女にはやらなきゃいけねぇ時もあるのだ
不貞腐れつつ答えてやる。
「知らね。こちとら初めてだし、どっちも書物でしか知らねーしよ」
「血から処女は知ってたけど、トカゲどっちの集落とも暮らしてないんだ?」
「おい大事な個人情報! ま、その通りだよ。っつーわけでよく女を食ってるお前の方が知ってんじゃね?」
吸血鬼は血から個人情報を読み取れるとはいえ、ガッツリ言われるとそりゃ引くもんである。プライバシーの文字よ…
普通なら集落で生活する中で知識や慣習を身に付けるだろうし、親から学ぶものもあるだろうが、通常の人族や蜥蜴族と違い完全はぐれ魔族だったためこちとら伝統知識0なのだ。
「食ってるとは心外だなぁ。お互い合意の上なのに。んー、人族は特別発情期に必要なものはないって聞いたけど、確か蜥蜴族はあったよーな」
「お前のは最後は騙くらかして一方的にはいさよならだろ。んえ、そうなのか!?」
初耳初情報である。マジか
驚いて吸血鬼に詰め寄っていると、にんまりと吸血鬼が笑った。
「知りたい?」
「そりゃ勿論!」
「じゃあ対価は?」
「おい採んのかよ!! セコいぞ!!」
「なんとでも」
ぐぬぬぬ、今日は何でこんな二択ばっかなのだ。その牙折ってやりてぇ
吸血鬼は嬉し気である。
「まーだー?」と急かす吸血鬼に悔し紛れに、い―ッと歯を見せつつ腕を捲る。
ひと思いにやりやがれやちくしょう
「はずれー。首で」
「欲張んなばーか」
「手首だと間違えて動脈いっちゃうかも?」
「そんな下手くそなら首だと余計に危ねぇな?」
「トカゲのけちー」
「セコい吸血鬼に言われたくねぇ」
ぶーたれる吸血鬼と約束の交渉を終わらせると、そっと左腕を取られた。トカゲよりも頭二つ分も高いので、手首だけ軽く持ち上げられる。
ひんやりとした滑らかな指先が誘うように肘からつぅ……と腕を撫でるが、なんてことはない、噛みやすい静脈の位置を探してるだけである。
そんなことより腕を持ち上げとくのも地味に変な筋肉を使うのでしんどいのだ。さっさとしてくれ
「いくよ?」
「はいはい、さっさとしてくれ」
「情緒がないなぁ。久しぶりだから味わいたいのに」
「採血に情緒もクソもあるかっつーの」
「んじゃ遠慮なく」
ゆっくりと吸血鬼の白磁の肌が近付く。金糸が顔の前をふわふわと揺れる。静脈の位置を探る様に想像よりも紅く、細長い舌が手首を舐めあげた。一度確かめるかのように舐めた吸血鬼は、何故か一度舌先を戻して上目遣いで見て来た。
なんだ?魅了して多めに貰おうったってそうはいかねぇぞ?
「濡れたとこがスースーするから早くしろよ」
「むー、おねだり形式の方が燃えるんだけどな~」
「今からお顔を殴らせて欲しいな吸血鬼さま?」
右腕を回しながらお望み通りおねだり形式で笑顔で言ってやったら、くくっと笑われた。
意味分からん、やっぱ変態クズの考えは謎である
「くはっ、やっぱトカゲいいねぇ。あれで慣れすぎちゃってんだね。よく俺にその態度出来るよ」
「それこそ知ったことか」
言葉の裏の雑魚の癖に格上の俺に~というのにイラついて顔を背けていると、手首に衝撃がきた。痛みはないとはいえ、やはり咄嗟に体がびくつく。内心嫌に思いつつ自分の手首を見ると、まるで獣が獲物に食らいつくかの様に牙を突き立て血を啜る吸血鬼がいた。というか実際そうだしな
うへ、肉や骨が見えねえあたりワニよりは上手いと思った自分がやべぇ
無意識なのか、手首を強く握られる。傷口から滲み出た血液が口内を通る粘液音が響く。
吸血鬼が美味そうに目を細めた。舌で舐め上げた唇に、トカゲの真っ赤な口紅が付く。はぁと吐いた生温い吐息が手首に掛かり、思わず拳骨を見舞いたくなった。
なんかやっぱ大人しく餌扱いされるのはムカつくわー
せめて精神的にいびってやると、吸血鬼を見下ろす。
「よお吸血鬼、食べる時に音を出すのはマナー違反じゃなかったか?」
「―ん。へぇ、トカゲよく知ってんねぇ、そんなに俺に興味ある?」
「ばっか、一般常識だっつの。さっきご飯喰ったばっかの癖に、雑魚扱いしてる奴にこんなに夢中になりやがって恥ずかしくねーの?」
「─へぇ?」
挑発したら返答がムカついたので、つい更に煽っていると吸血鬼が動きを止めた。
何故か満面の笑みが向けられる。つい捕まってる左手首を外そうとする。
び、びびってるわけじゃねーからな?
全力で手を引くと逆に強く引っ張られた。
ぐへ、胸板で鼻打ったひでぇ
「あにすんだきゅうへつき! もう終わったろーが!」
「トカゲあんま舐めないでよねぇ? 俺言葉攻めの趣味はないんだよね~」
「そ、そんな気なんかねぇわ! はーなーせー! 器ちっせーぞ!!」
自分を棚に上げつつじたばた足掻くが、掴まれた左手首はびくともしない。というか、態勢は腕を吊り上げられて「はい先生」状態だ。こいつに惚れる女の気持ちがマジで分かんねぇ!
「悪い子にはお仕置きだ」
「ちょ、ま…!」
静止のため咄嗟に捕まれてない方の右手で吸血鬼の顔を押さえるが、びりっとした感触がした瞬間体が動かなくなる。
――こいつ、捕縛術使いやがった!! 大人気ねぇー!!
動けなくなってしまい、はくはくと口元で文句を言っていると、やけに艶めいた微笑で吸血鬼が囁いた。
「俺攻める方が好きだから。はいお仕置き続行」
こんの野郎…!
左手首から止め処なく流れる血が腕を伝い、ぽたぽたと自分の胸元や首に垂れる。
手首をゆったりとねぶるよう舐めていた吸血鬼の紅い舌が、腕を這い、肘を辿る。二の腕の近くまで来たところで、首元に飛んで垂れていた赤い雫が舐めとられた気配がした。
くすぐったさよりも、首元という弱点を無防備に触れられている恐怖や屈辱が悪寒となる。
「こわいの?」
クスりと口元で優越と微笑ましさに満ちた微笑を湛えた吸血鬼に、自分の中でぶつりという音がした。
こんな野郎にいい様にされる無力な自分と、元凶の吸血鬼への怒りで体が震える。
見上げてきた吸血鬼と目が合った瞬間、何故か吸血鬼がそのルビーの様な目を見開いた。
赤く濡れた口元に、ペッと噛み千切った舌先吐き出してやる。あとついでに顔面頭突きもな!!
音? 堪忍袋と舌が千切れた音だよ畜生!
「見当ちがひ抜かしてんじゃへー! ペっ、クッソ舌で催眠解くの二度目とかマジやめろばーか!」
「…っ、いって、トカゲひどいなぁもう」
「お前のが大人げねーんだよばーかばーか! これ以上ならマジ絶交だかんな!?」
「わーったわかった、はいはい」
降参ポーズでへらへら笑う吸血鬼に殺意ポイントがフル加点されていると、吸血鬼が真っ赤な口元を拭う。すると手馴れているのか水の魔術で口紅があっさり消えてしまう。便利で羨ましい野郎である。こちとらまた服の洗濯からだぞおい。
ジト目で見てたら何を思ったか吸血鬼がまた近付いてきた。
思わず戦闘ポーズをとる。ああん? やる気かおらー!
「ちょ、トカゲそれだと余計零れるって」
「ああ?」
「もう、トカゲは痛くないし普段なら速攻治ってるけど、今は俺の牙の効果で血が止まりにくくなってるからそろそろ塞いだ方がよくない?」
「んあ? それもそうか」
確かに言われてみれば、我が左腕から血の川が出来ている。スプラッシュリバーや~とか言ってたら普通に貧血でぶっ倒れそうなので大人しく嫌々ながら腕を差し出して治してもらった。
治すのは舐めるだけとはいえ、舐め終わった後にリップ音立てんじゃねーよなマジで。つくづく気障な野郎である。
普段なら秒で治ると体感で計算してたので気にも止まらなかったのが若干悔しい。喰われ慣れっつーのも困りもんである
「んで、この分の情報はあるんだろうな? しょぼかったら寝起き気を付けろよ? 真昼間に禁書爆弾で襲撃するからな? ああ?」
「横暴だな~。まぁいいや、蜥蜴族が発情期の時にいるのはねぇ」
「いるのは?」
「は虫族を祖先に持つ種族、まぁいわば蜥蜴族はもとより蛇族とか鰐族とかの鱗だってさ」
「…ふむ、城下町で通りすがりがてら転んだフリして剥ぎ取ればいけるか」
よし余裕だな!と笑顔でガッツポーズを決めていると吸血鬼に爆笑された。うっせぇ、生憎と同族の友達とかいねぇんだよ! ぼっちとか言うなし!!
クズ?命の前では些末事よ! というか、は虫族自体を探せとかなら無茶ぶりだが、系統分岐した種族ならさっき吸血鬼が言った種族以外にも何種族かあるので、城下町に一日居れば普通に見っけれるレベルである。ミッションポッシブルと喜んでいると、腹を抱えていた吸血鬼が涙を拭いながら呼んできた。
なんだ吸血鬼、前から薄々思ってたがお前笑い上戸だろ
「トカゲ浮かれすぎ、まだ途中だってば」
「ああ? というと」
「まぁ睦言で聞いただけだから真実かは知らないけど、蜥蜴族って相手が決まってから発情期が来るんだったよね?」
「情報源睦言かよ。まーそうだな、鳥なんかとは真逆で、相手が決まってからその年の夏季終盤に対象者一斉に来るって読んだぞ。任意っちゃあ任意だな」
「龍族然り、は虫族系って重い奴多いよねー。絶対祖先はもっとヤバそう」
「言うな。そんなの皆思ってる…」
身近な筆頭が頭に浮かんで思わずこめかみを押さえた。よし、面倒だから考えるのはやめとこう
ちなみに、よく放置して後で痛い目を毎度見るトカゲである。懲りない奴である。
「まぁつまり何が言いたいかっていうと、好きな相手がいてから発情期が通常でしょ? その相手から普通鱗貰うそうなんだけど、トカゲの場合逆だから―――」
「…、つまり何だ? あれか? 貰った相手を好きになって発情する可能性もあるってか? それじゃあ通り過がりの奴狙うのとかかなりリスキーじゃねぇか…!」
「おおー、トカゲえらいえらいよくできましたー。まぁお守り代わりだから、確か発情期の効果を和らげるとからしいから、無かったらストッパーが無い程度の考えでいいんじゃないかな? 初めては特にあった方がいいらしいけど、まぁどんまいどんまい?」
「馬鹿にしやがって畜生!!」
現実のままならなさと、おちょくってくる吸血鬼にイラついて上段回し蹴りを繰り出す。
避けられて転んだ。踏んだり蹴ったり過ぎる。癒しが欲しい…!切実に
色々とやる気がなくなって地面にへばりく。
…んあ?そういえば同族婚以外も一応多くはないが居るんだし、相手が鱗持ちじゃない夫婦もいるくね?
閃いた自分天才!と寝ころんだまま手を挙げる。
へい、吸血鬼!
「はいはいトカゲどうしたのー?」
「今時鱗ない奴と結婚する奴もいるだろ? そういう奴等と同じ対応したらいいじゃねぇか!」
「お、トカゲ考えたねー」
「ふはは、褒めろ褒めろ」
「バカな子程かわいいよねー」
「褒め…てないな!?」
気のせい気のせいと言われるが誤魔化されるか!?というかその言い方的に…
嫌な予想がついて手がぱたりと地面に落ちる。
顔?とっくに笑顔は引き攣ってますがナニカ
「顔が生き生きしてんぞ吸血鬼こんにゃろー。さっさと言えよちくしょー」
「やべ、やっぱトカゲ虐めるの愉しいわぁ。ま、想像通りオチがあって、異種族婚の時は大抵親や親族の異性の鱗貰うんだとー。無い状態の時は流石に聞いてないなぁ。んで、トカゲの回答は?」
「ぼっちだよばっきゃろー」
「くはっ、こりゃ結果が楽しみだねぇ」
「どいつもこいつも後で覚えてやがれ…!」
屍状態で負け惜しみを言っていると、ふとうつ伏せていた地面がより暗くなった。
目だけで上を見ると、吸血鬼が横に座って見下ろしている。
いつの間にかおさげを取られて毛先を遊ばれていた。あ、枝毛あんな
「トカゲが望むなら適当な奴見繕ってきてやるよ? 何なら解呪も手伝ってあげるし、発情期の間中籠れるように俺の屋敷も貸してあげる。飯は使用人が用意するし、仕事も俺の権限で有給出来るだけ取ってあげる」
悪魔が人間を誘い込む様に甘い囁きが落とされる。訝し気に吸血鬼を見れば、読めない表情でこちらを見ている。
ふん、と鼻で笑ってやった。
「罠に乗るかよ。何が望みだ?」
「えー、疑り深いなぁ。こんなに女に優しくしてるのトカゲだけなのに」
「どっかで聞いた様なセリフだな。それ使うなら逢引きは今度から別の場所でやれよ? それに、どうせ屋敷も女から巻き上げたもんだろ」
「貰えるもんは貰ってるだけだよ。それに、俺がトカゲに言ってることは本当だし」
毛先を弄んでいた指先が戯れに首元を撫で上げる。
「――ねぇ、もし発情相手が俺なら、運命って言葉信じる?」
ぷつりと吸血鬼の鋭い爪先が首元を刺し、いつもより静かに問われた。
皮膚から滲み出ていたのか、指先の血を吸血鬼が口元へと運ぶ。
その手を追いかけ手を掴んだ。
されるがままの吸血鬼
「いいや? 運命なんて言葉に流されてたまるか」
産まれもこれまでの育ちもクソみてな魔生だがな、運命なんて言葉で簡単に纏められて諦めて流されるなんざ冗談じゃねぇ。
「自分の魔生くれぇ自分で決める」
がぶりと吸血鬼の指先に噛み付く。
返せよ?
「やる約束は手首のだけだぜ? 好き勝手されるのは嫌ぇなんだよ。特に餌扱いなんざ真っ平ごめんだ」
んべ、やっぱ不味ぃと口元を拭って眉を顰めると、吸血鬼が動いた。
紅い舌が踊れば、これみよがしに先程噛み付いた指先を吸われる。
うえ、この変態め、嫌がらせかよ。精神的に虐めてきやがって…
「ふーん…、トカゲ自身も禁書の呪いに負けると分かってるのに威勢いいねぇ。ほんと、いっそその目を抉って口縫って傀儡にしてやりたい」
「はぁ? 意味わかんねぇ! 栄養タンクは嫌だっつってんだろ!」
「俺が考慮する必要ある? 別に、冗談だってば」
「ほんとかよ」
「ほんとほんと」
疑いの目を向けるがすっとぼけた顔を返される。こいつマジで腹パンしてやろうか
「でもさ、もし俺に発情したら大人しく喰われてよね?」
「あー? 誰がお前にするかよ、それぐらいなら司書長襲うわ」
「燃やされそうだね」
「本望よ」
「バツー、誤魔化されません」
「チッ」
ちっちと人差し指が振られる。めんどくせぇな
「お前になったら全力で知られないよう耐えるわ」
「多分匂いで分かるから覗きに来るね~」
「プライバシーまじクッソ!! あーもう、わーったよ、もしお前に発情したらだろ?」
「うんうん、逃げるトカゲ追いかけて喰うのとっても愉快そう」
くふふと愉快気に頬を緩める吸血鬼。考えたくねぇ、マジ想像したくもねぇが
玩具を見るみてーな顔がムカつくからその襟元に手を伸ばし、握って引き寄せる。
ごんっと額同士がぶつかって音がした。思わず目を瞑っている吸血鬼に言ってやる。
石頭の癖にかよ、ばーか
「石頭の癖にお前の頭は中身ばりに軽いのか? こちとら餌扱いも流されるのも嫌いだっつってんだろ?」
「っ」
「しつけぇ男は嫌われるぜ? もしてめぇにそれでも発情したらなぁ―――その時はこっちから襲ってやるから覚悟しやがれ」
ぽかんとしたツラにふんっと鼻息荒く宣戦してから放り出す。そっちのがまだマシだからな、ひっじょうに、ひっじょーうに不本意な二択だからなって欲しくはねぇがな。ギリのギリギリまで耐えてそれでも無理な場合だからな
そろそろこの態勢辛ぇと起き上がって服の埃を払っていると、少しして爆笑しながら吸血鬼が起き上がった。こいつやっぱマジで笑い上戸だろ。というか、頭突きされて襲うぞ発言で心なしか嬉しそうに笑える辺り変態臭しかしねぇ
うえ、やっぱ引くわー
「くは、トカゲ分かった。愉しみにしてる」
「やっぱ変態め、近寄んじゃねぇ。そんな時など来んがな」
「それでも、愉しみにしてる」
「お、おう? まぁ好きにすりゃいーけどよ」
よく分かんねぇが理解をさっさと放棄して返答していると、吸血鬼が「あ」と耳を澄ませた。
んあ、どうした?
「トカゲ、羊ちゃんが来たみたいだから俺は帰るねー」
「めー子がか!? あ、ちょい待ち、せめて癒しちゃんも連れて行け!」
「はいはい、んじゃあ頑張ってね~」
「お、おう?」
目的を果たしたからか、煙と化してやけにあっさりと去る吸血鬼。
まぁめー子の前に現れるなっつー約束だから助かるけどよ。それに吸血鬼も種族柄よっぽどじゃねーと約束は破らねえからなぁ
そういうもんかなと納得していると、ギィと扉が開く。めー子が会いに来るってどーかしたんかな?あ、替えの制服ちょっと借りれねーか相談しよっと
「めー子ちょうどよかった。実は血が付いちまってよ。良ければ制服の予備借りれねぇか?」
「メぇ、と、トカちゃん実は……」
やけにオロオロとした声のめー子に疑問に思いつつ背を向けたまま身だしなみを整える。
「どうしたんだよめー……」
「トカゲ―、何で血の臭いがすんだー?」
響いた声に振り向こうとした体が固まった。
は?今めー子の可愛い声以外に何か……
いやいやいやいや、まさか、いや幻聴に違いね―――
「トカちゃん実はさっきそこでワニさんと会って」
「羊ー、悪いがトカゲ貰うぞー?」
「メッ、け、喧嘩はだメですよ…」
「おー」
いやいやいや、貰うとか何言って…、うええ頼むめー子行かないでくれぇぇと思うが、振り向かずとも分かるワニの威圧
そりゃ無理だよな…
恐る恐る離れていくぽくぽくという可愛らしい音に心で涙する。
あの吸血鬼め、何で別れ際がんばれとか言ったのか疑問に思ってたがそういうことかクッソ!
というか何で今居るんだよ!
ぜってぇ逃げ切りたくてワニのことなるべく考えねぇようにしてたのに何で今なんだよくっそ!
こんなん何かあったって言ってるようなもんだが、意図せぬ登場に棒立ちで両手を握り締めたまま固まる。
「トカゲ」
低く名前を呼ばれた。
目を合わせてなるものかとぎゅっと目を瞑る。
不機嫌そうに尾が床を叩く音が木霊する。
うええ、吸血鬼マジ許さんッッ
理不尽? 知るか…!
突発的な事態に思わず心の中で吸血鬼をぼこ殴りにするイメージで現実逃避するトカゲであった。
後書き
わぁ、誤魔化せそうにないワニさんと出会ってトカゲ絶体絶命のピンチ!(え?よく絶命しかけてる?何のことかな?)さてトカゲは一体どうなっちゃうのかな!?次回「トカゲ死す!?」デュエルスタンバイ…
はい、ネタは黙ります
6500字までは1日やったんや…、吸血鬼の最後らへんがあ奴ボイコットしやがって出てこんかったんや…←
お陰でめー子が全然出せんかった泣 はい、というわけで次はようやくワニさんのターンだぜうっほーい。楽しもうぜうっほーi(はい黙ります
は虫族のイメージが付きにくかったら、恐竜みたいなイメージでOK.絶滅というより、系統分岐してます~
(∩´∀`)∩(なお魔界基準の恐竜だお
トカゲもは虫族の単語を聞いた時に、「まさか集落で暮らしてる前提で、どっかで保管されてる鱗とかに触ってこい、とかじゃねーよな?」とか考えたそうです。(しかし無策の癖に吸血鬼の案を蹴ったのでどっちにしろ未だゲットの目途すらなしでした☆←
異種族婚は多くはないがありますね~。でも例えば鱗持ちからしたら人族ってモテポイントの鱗のきめ細かさとか色艶とかエトセトラの魅力ないですし、こう、人間がハダカデバネズミ見た時のような感じに見えるイメージですね。別段きもーとか、きもかわーは思ったりはしないですし、ハダカデバネズミが歩いてるように見えるわけではないのですが、まぁ恋愛的に見えるかと言うとかなりレアですよねという話(笑)
( ´∀` )
毛皮持ちから見たら鱗持ちとか人族は、こいつ毛無しかよ…って感じなのですが、カルチャーショック具合って書くのムズイですね(笑)まぁ逸れるのと長くなるのとで割愛←
とりま、そんな事情なのでトカゲはワニがトカゲに「一目惚れした」と言ったのも信じてませんね~。まぁまた本文にここら辺も盛り込んどきます~
別段よく言えば自由フリーダムだぜイエイな魔界なので、集落や種族の掟とかはそれぞれですが魔王様自体は禁じてないので異種族婚も本人たちOKならできまっせ~という話
ちなみに吸血鬼が睦言で情報を貰った時は、まだトカゲに出会ってない頃ですね~。当時吸血鬼に入れ上げてた蜥蜴族のお嬢さんが、アプローチの一環で色々懇切丁寧に説明した模様。へ~と流し聞いてた吸血鬼ですが、元の地頭が良いので所々忘れつつも覚えていたようで
あー、お嬢さん?今は近くにいないですよ
吸血鬼曰く「引き取ってもらった」そうです☆ え?誰にじゃくて何処にか? さぁ…?
吸血鬼は種族柄「約束」には敏感ですね~。なので破るのはよっぽど☆色恋系は口八丁手八丁ですね~。例えば「つきあって♡」「いいよ」とかでは別段約束は働いてないですし、双方合意の上で約束というフレーズを入れてないと、「私を愛して♡」「いいよ」「私を愛してくれるって言ったじゃない!」「(餌として)ちゃんと君を可愛がってるでしょ? それにお腹は空くし他にも可愛い子いるし?」みたいな感じになります。まぁ「付き合う約束でしょ!? 彼女相手にそんな配慮くらい当たり前でしょ!?」「いやそんな約束してんし?」という状態だったとして、わざわざ付き合う際に「約束ね♡」と縛るのは知ってないと中々ないでしょうし、更に言うならもし吸血鬼の約束事情を知ってる系の賢い知識人の女性相手なら吸血鬼は苦手でしょうし、催眠かけてごはん貰うだけならわざわざ「約束」なんてしないですしね~(クズい
まぁ「約束」と書いてますが、「簡易の契約」みたいなイメージでさ~。お互いに対価を出し合う感じですね~。なのでご利用時は用法容量をお守りくだせぇ☆という。
基本お互いに対価を出し合うので色恋系では働かんことが多いでさ~。対等な関係上に成り立つことが多いイメージかな? 今回のトカゲのはちゃんと交渉してますね~
あと、吸血鬼さんが中々クズめなだけで、もう少しまともな奴等もおりますw 奥さん一筋な吸血鬼もいるくらいなので、そこら辺も個人差でさ~。
以上☆
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「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
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