趣味だったオメガバースの世界に転生したようだが、何か違うので布教しようとしたら変態扱いされる件

トネリコ

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高校生編

掌小話3 ねこ

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 ぶにゃー

「ん? ふおおおお! 大神! ちょっと待ってこっちこっち」

 りこが目を輝かせて茂みの傍に座ったので、何でこんな時だけ気付くんだと嫌々振り返る。
 手招きするりこは、完全に意識をそちらに持っていかれているようだ。

「…行かねぇから」
「ええ? もう、気付いてたなら教えてくれてもいいじゃんかー」

 ガサゴソと頭を突っ込んで、両腕に抱えられて出て来たのはふてぶてしい顔の太った白猫。
 人慣れして餌をせしめているのか、愛想よく喉を鳴らしている。

「くわぁぁいい。やばい、かわいいぞこんにゃろめぇ」
「流石に鬱陶しそうだぞ」

 太ったお腹の触り心地が良いのか、相好を崩して伸ばしたり揉んだりしている。愛想の良い猫といえど、流石に鬱陶しいようで髭がピクピクと動いていた。

「はっ。翔馬にも暑苦しいって言われてたんだった! 危ない、自重しないと」
「お前、弟にも同じ対応か」
「うう、そうなんだよ。最近反抗期で」
「そりゃそうなるだろ」
「えええ、翔馬ああ」

 嘆くりこだが、その手は癒しを求める様にマッサージを止めない。白猫は早々に諦めた様で、だらしなく尻尾を振っている。
 ブラコンぶりも此処に極まれりといった様子だが、案外弟も反抗期ではあれどシスコンが入っているのは言わぬが花か。

 長々と嘆いていたりこだが、何を思ったか急に両手で猫を正面に持ち上げる。七キロ以上ありそうな猫なので重いのだろう。若干腕を震わせながらも、でれでれとした表情で何の躊躇いもなくちょんとその鼻先に口付けた。

「ぐふふふ、猫ちゃんまた会おうぞ」
「ぶにゃー………ニャッ!!?」
「えええっっ、ね、ねこちゃーん!!?」

 突然暴れ出した白猫に手の甲を引っ掛かれ、思わず手放すりこ。白猫はその太った体に見合わず身軽に着地すると、毛を逆立てながら全速力で背を向け逃亡していった。

 その様子に思わず舌打ちが零れる。

 するとそれが聞こえたのか、りこが俺の方をみた。

「大神、何かした?」
「お前が何かしたんだろ」
「ええー、嘘だぁ。……え、私のせい?」
「知るか」

 猫ちゃあーんと未だに未練がましく消えた猫の方ばかり向くので、余計苛立ちが募ってりこの手を引く。
 引っ掛かれた手を態と握れば、少し痛んだのかりこは悲しそうに繋がれた手の甲を見た。

「花子に凄い似てたのになぁ」
「……お前の猫か?」
「うん。今はもういないけど、凄くいい子だったの」

 りこの家が猫を飼ったと聞いたことは無かったので不思議に思うも、同じ野良の話だろうかと推測する。
 手を握りながら引っ張って歩くのだが、りこの視線は俺が握る手を越えてどこか遠くへと思いをはせている様に見えた。ぼんやりとした眼差しは、何処か意思や存在感まで薄くさせて見える。
 
 何故かそれが癪に障り、此処を思い出させる様に強く手を握った。途端に夢から覚めた様にりこが数回目を瞬いた後悲鳴を上げる。

「いーたいっての! 放せ馬鹿力大神! 怪我してんだって!」
「そうか。じゃあ」

 無理矢理手を引いて持ち上げ、その少し日に焼けた丸爪の指先を噛む。そのまま目を見開いて硬直するりこの前でべろりと三本線の上を舐めた。態と悪役染みた表情で口を開く。

「消毒」
「しょっ…、バッ、はぁっ!? も、もうあんたは野に帰れ! 余計雑菌入るの知ってて態とかあほう!」

 青くなったり赤くなったりする様を思わず声を出して笑っていると、憤慨したりこに折角の匂い付けが服で拭われる。まぁでも猫の臭い塗れよりもマシだと肩を竦めた。

 昔から大抵の動物には警戒されたり怯えられたりで距離を取られていた為、そもそも動物に対して愛着等はない。敵対するほど興味も関心もなかった筈なのだが、目の前で俺よりも先にりこからキスされてるのを見ると反射で威嚇していた。むしろ、自分でも余裕の無さに気付いて恥ずかしいくらいだ

「もう。今度見つけても大神には教えてあげないからね」
「そうか。別に、動物には懐かれねぇからいい」
「そうなの?」
「まぁ昔からだな」

 ふーんと呟いたりこは、俺を見たあと何を思ったか外した筈の手を絡めてくる。
 驚いて見下ろすと、仕方ないなぁと言いたげな顔でりこが腕を揺らした。

「ぼっちは可哀そうだからちょっと間繋いでいてあげるよ」
「別に悲しくもねえけど」
「はいはい、そうでちゅねー」
「おい」

 やれやれと言いたげに更に腕を大きく振られるので流石に腹が立つも、離さぬ様に強く握られれば怒りはしぼんで悪い気はしない。
 ふと振り向けば、二つの影は重なり合って一つに見えた。

 何処からか聞こえる猫の声を背に静かに手を引かれる。

「あはは、急に大人しくなってんじゃん」
「気のせいだろ」
「はいはい、仕方ないでちゅねー」

 りこがくすくすと楽しそうに笑うので、今は勘違いを正さなくていいかと大人しく手を引かれて歩いた。
 






 





あとがき 
 
 前の世界の花子ちゃんは、りこちゃんが拾ってあげた子ですね~。そんなに太ってなかったんですけど、ふてぶてしくて甘え上手な感じは似てたんです。あと真っ白(笑)

 次話「よんで」
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