36 / 49
高校生編
掌小話3 ねこ
しおりを挟むぶにゃー
「ん? ふおおおお! 大神! ちょっと待ってこっちこっち」
りこが目を輝かせて茂みの傍に座ったので、何でこんな時だけ気付くんだと嫌々振り返る。
手招きするりこは、完全に意識をそちらに持っていかれているようだ。
「…行かねぇから」
「ええ? もう、気付いてたなら教えてくれてもいいじゃんかー」
ガサゴソと頭を突っ込んで、両腕に抱えられて出て来たのはふてぶてしい顔の太った白猫。
人慣れして餌をせしめているのか、愛想よく喉を鳴らしている。
「くわぁぁいい。やばい、かわいいぞこんにゃろめぇ」
「流石に鬱陶しそうだぞ」
太ったお腹の触り心地が良いのか、相好を崩して伸ばしたり揉んだりしている。愛想の良い猫といえど、流石に鬱陶しいようで髭がピクピクと動いていた。
「はっ。翔馬にも暑苦しいって言われてたんだった! 危ない、自重しないと」
「お前、弟にも同じ対応か」
「うう、そうなんだよ。最近反抗期で」
「そりゃそうなるだろ」
「えええ、翔馬ああ」
嘆くりこだが、その手は癒しを求める様にマッサージを止めない。白猫は早々に諦めた様で、だらしなく尻尾を振っている。
ブラコンぶりも此処に極まれりといった様子だが、案外弟も反抗期ではあれどシスコンが入っているのは言わぬが花か。
長々と嘆いていたりこだが、何を思ったか急に両手で猫を正面に持ち上げる。七キロ以上ありそうな猫なので重いのだろう。若干腕を震わせながらも、でれでれとした表情で何の躊躇いもなくちょんとその鼻先に口付けた。
「ぐふふふ、猫ちゃんまた会おうぞ」
「ぶにゃー………ニャッ!!?」
「えええっっ、ね、ねこちゃーん!!?」
突然暴れ出した白猫に手の甲を引っ掛かれ、思わず手放すりこ。白猫はその太った体に見合わず身軽に着地すると、毛を逆立てながら全速力で背を向け逃亡していった。
その様子に思わず舌打ちが零れる。
するとそれが聞こえたのか、りこが俺の方をみた。
「大神、何かした?」
「お前が何かしたんだろ」
「ええー、嘘だぁ。……え、私のせい?」
「知るか」
猫ちゃあーんと未だに未練がましく消えた猫の方ばかり向くので、余計苛立ちが募ってりこの手を引く。
引っ掛かれた手を態と握れば、少し痛んだのかりこは悲しそうに繋がれた手の甲を見た。
「花子に凄い似てたのになぁ」
「……お前の猫か?」
「うん。今はもういないけど、凄くいい子だったの」
りこの家が猫を飼ったと聞いたことは無かったので不思議に思うも、同じ野良の話だろうかと推測する。
手を握りながら引っ張って歩くのだが、りこの視線は俺が握る手を越えてどこか遠くへと思いをはせている様に見えた。ぼんやりとした眼差しは、何処か意思や存在感まで薄くさせて見える。
何故かそれが癪に障り、此処を思い出させる様に強く手を握った。途端に夢から覚めた様にりこが数回目を瞬いた後悲鳴を上げる。
「いーたいっての! 放せ馬鹿力大神! 怪我してんだって!」
「そうか。じゃあ」
無理矢理手を引いて持ち上げ、その少し日に焼けた丸爪の指先を噛む。そのまま目を見開いて硬直するりこの前でべろりと三本線の上を舐めた。態と悪役染みた表情で口を開く。
「消毒」
「しょっ…、バッ、はぁっ!? も、もうあんたは野に帰れ! 余計雑菌入るの知ってて態とかあほう!」
青くなったり赤くなったりする様を思わず声を出して笑っていると、憤慨したりこに折角の匂い付けが服で拭われる。まぁでも猫の臭い塗れよりもマシだと肩を竦めた。
昔から大抵の動物には警戒されたり怯えられたりで距離を取られていた為、そもそも動物に対して愛着等はない。敵対するほど興味も関心もなかった筈なのだが、目の前で俺よりも先にりこからキスされてるのを見ると反射で威嚇していた。むしろ、自分でも余裕の無さに気付いて恥ずかしいくらいだ
「もう。今度見つけても大神には教えてあげないからね」
「そうか。別に、動物には懐かれねぇからいい」
「そうなの?」
「まぁ昔からだな」
ふーんと呟いたりこは、俺を見たあと何を思ったか外した筈の手を絡めてくる。
驚いて見下ろすと、仕方ないなぁと言いたげな顔でりこが腕を揺らした。
「ぼっちは可哀そうだからちょっと間繋いでいてあげるよ」
「別に悲しくもねえけど」
「はいはい、そうでちゅねー」
「おい」
やれやれと言いたげに更に腕を大きく振られるので流石に腹が立つも、離さぬ様に強く握られれば怒りはしぼんで悪い気はしない。
ふと振り向けば、二つの影は重なり合って一つに見えた。
何処からか聞こえる猫の声を背に静かに手を引かれる。
「あはは、急に大人しくなってんじゃん」
「気のせいだろ」
「はいはい、仕方ないでちゅねー」
りこがくすくすと楽しそうに笑うので、今は勘違いを正さなくていいかと大人しく手を引かれて歩いた。
あとがき
前の世界の花子ちゃんは、りこちゃんが拾ってあげた子ですね~。そんなに太ってなかったんですけど、ふてぶてしくて甘え上手な感じは似てたんです。あと真っ白(笑)
次話「よんで」
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた
桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。
どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。
「もういい。愛されたいなんて、くだらない」
そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。
第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。
そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。
愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる