趣味だったオメガバースの世界に転生したようだが、何か違うので布教しようとしたら変態扱いされる件

トネリコ

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高校生編

掌小話10 まかしてやる

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 それは二人で歩いていた帰り道でのことだった。

「へー。大神ゲーセン半額キャンペーンだって。寄ってみる?」
「別に構わねぇけど」
「よっし決まりい!」

 ひらひらと揺れるのぼりの文字が目に留まったのか、まんまと商売戦略に釣られる様である。
 入口前に普段より多数ある自転車も、同じ様な子供が多いからだろうか。

 商店街にある有名ゲームセンターの蛍光文字が目に眩しく瞬く。りこはもう既に店内に興味がいっているようで、早く早くと瞳で俺を急かした。

「大神はゲーセン行ったことあんの?」
「ねぇな。興味もなかったし」
「今時珍しい気もするねぇ」

 そう言いながら入口前まで二人で行けば、自動ドアが横開く。瞬間辺り構わず響く雑音と騒音、それから人の濃い体臭と煙草の臭いが強烈に襲って来た。思わず眉間に皺が寄る。
 どうやら自動ドアはかなり優秀な防音防臭効果があったようだ。

 隣を見れば、りこが店内を見回して目を輝かせている。
 水を差す気になれず、すぐに平静を取り繕った。感覚の違いというものは、中々平素で共有や理解しづらいものだ。

「うわー! 懐かしい!! 変わらないもんなんだねぇ。あ、太鼓やろ大神! 太鼓!」
「来たことあるのか?」
「えっ…。あ、うん、そうそう。昔にね、昔」

 はしゃぐ様子を見てそのまま浮かんだ疑問だったのだが、問えば何処か歯切れの悪い回答であった。しかし追及する程でもない。
 翔馬とでも来たのだろうかと思っていると、りこがこっちこっちと手で呼んだ。どうやら両替機を見付けたらしい。

「ふふふ、初心者大神くんにこの私がレクチャーしてあげましょう」
「何で教師ヅラだ」
「問答無用! まず千円を崩します。お金の使い過ぎを防ぎたい場合は五百円玉一枚と百円玉五枚にしましょう」
「やけに手馴れてるな」

 思わず胡乱な目になっていると、両替もそこそこに店内の物色に回り始める。どうやら本当に慣れてはいるようだ。その割には機械の配置やゲーム一つ一つに新鮮な反応を見せるので、遊んだのは大分昔であるのかとは思うが。

 俺自身は欲がない方なので、もっぱらりこが解説するのを聞いたり偶に一緒に遊ぶくらいだ。運動神経がいい方ではない癖に、銃ゲーや太鼓を叩くリズムゲームが得意なのは変な話である。
 りこがゲーセン好きだったと知らなかったので、新しい一面の発見を楽しんでいると不意にりこが歓声をあげた。

「うわ! 大神、カンカンゲームあんじゃん! やろ!」
「何だその変な名前」
「正式名称は知らないけど、平べったい球を相手陣地ど真ん中の穴に入れたら点がもらえるってやつ」

 訝し気な俺が可笑しいのか、一つ笑うとあんな感じと示される。どうやら先客がいるようだ。
 見ていれば、中央のスコアボード兼ボール排出も兼ねた機械から平べったい丸い球が出て来る。それを手の平程のカーリングストーンの様なものでお互いに弾くようだ。盤面の広さはネットのない卓球台より少し小さい位か。

 両手を伸ばして弾きあい、身体全体を使うからいい運動にはなるだろう。ゲーム内容自体は単純である。どちらかというとゲームの内容よりも、あの球の速度を維持する為の摩擦係数を減らす工夫が気になる。磁石か空気で浮かしているのだろうか。

「おっしゃ次私たちだね。ハンデいる?」
「お前の方がいるだろ?」

 挑発的な様子に、初心者だからと舐められる気はないと鼻で笑う。身体能力や反射神経での勝負なら勝つ自信しかない。

「へぇ。じゃあ有難く貰おうかな。私の穴の範囲狭めの大神片手で」
「遠慮ない奴め」
「ずる賢く勝ちにいきますとも」

 楽し気に笑ったりこは、中央の機械裏に回ってポチポチと画面を弄ると開始ボタンを押した。『ゲームスタート!』と軽快な機械音声が流れる。どうやら盤面には空気を流してあるらしい。
 
「ふふふ、我が必殺拳法を見せて…」

 両手を広げて何故か隙だらけの構えを見せているので、まだまだ余裕で目で追える速さの球をまずは軽く弾いてみた。盤面には最新の映像技術が搭載されているのか、軌跡が光の残像となって残る。

 まっすぐ進んだ白い球は、りこの真正面へとそのまま向かっていく。最初の一打目なのでどういった様子で返って来るのかと、ちょっとした興奮と期待のまま感覚を研ぎ澄ました。

 りこが息を吸い、タイミングを合わせて今だ!とばかりに勢いよく右腕を振る。

 瞬間、がこん…と良い音が穴から鳴った。

「……」
「……」

 思わず無言で見つめ合い空白の時間が流れた中を、軽快な『10点ゲット~!』という音声が過ぎる。

「……俺の穴の方を広げとくか?」
「か、勘が鈍ってただけだし」

 若干震え声である。
 だが確かに宣言通り2球目は横の壁反射も使いかなりの鋭角で打って来るので、大人しく最初の一打は何も見なかったことにした。

 かん、かんと響き合う電子音が不規則に聞こえる。途中から増えた2球目の片方を俺がゆるく打てば、りこが若干必死に打ち返す。何だかんだで同点に近い点差だ。普段あまり身体を動かさないとはいえ、こういうモノを追うゲームは本能的にも嫌いじゃないので楽しい。

 何より、りこが大げさな動作とセリフのまま俺に振り回されているのは少し面白い。

「緩急の付け方がお前はプロか! くっそう!」
「りここそ、さっきから両手で穴ガードはせこいだろ。隙間一個分しかねぇじゃねーか」
「チート野郎に小手先で勝つのが庶民派プロよ。勝てば官軍。むしろその隙間を余裕で縫うあんたのがずるい」
「何だそりゃ」

 相変わらず分からない理論に呆れて苦笑していると、不意に球を排出していた掲示板が調子はずれな音と共に光る。

 『エクストラモードぉ~!』

 意識がそちらに逸れた瞬間、ざらぁ!っとバケツをひっくり返したかの様に通常の半分サイズの球が大量に排出される。その数、およそ20弱。

「なっ。さっきは無かった筈」
「ふっふっふ、勝負は始まる前から始まっているのよ。設定を敵に任すなど言語道断! 隙ありぃ!」
「お前、本気出すからな」

 かこんかこんと軽い音を響かせ、5点を加算させていくりこに対抗心が燃える。

 ケラケラと笑いながら容赦なく打ってくるりこに、離された点差分を本気で追撃していると、いつの間にかすぐゲームは終わってしまった。ゲームセットが流れる頃にはギャラリーが出来、何故か拍手が沸いている。
 そしてりこが負けているのに、何故かいい試合だったよ姉ちゃんと声を掛けられて片手を挙げている。
 写真まで撮られそうな勢いだったので、急いでその首襟を掴んで場を立ち去った。
 
 そそくさと場を離れたのだが、本人は良い汗掻いたと言わんばかりなので腹立たしい。
 りこに胡乱な目を向けていると、目が合ったりこはニヤりと楽しそうに笑った。上手く引っ掛け問題を引っ掛けた時の、子憎たらしくて挑発的で、憎めない魅力的な表情だ。

「何だよ」
「本気でやったら楽しかったっしょ?」
「…気付いてたのか」
「そりゃまぁ、あんなハンデであんたと接戦な訳ないじゃん。でも、折角のゲームなら全力で楽しめるだけ楽しまなきゃ損だよおーがみ」

 手を抜いているのがバレていたのかと驚いて瞬きしていると、にししと笑いながら「ゲーセン初心者の大神に、このプロりこちゃんが更に布教してしんぜよう!」と張り切って肩を回している。
 すぐに次のゲーム物色の為にか、りこは辺りを見回すのに夢中だ。

 本人の興味はもう次へ移ってしまっているのに、横顔を見ながら思わず口元が緩んでしまった。健太といい、りこといい、俺は周囲に恵まれている。ゲームに限らず、純然たる差があると知りながら本気を出すことを相手に望み、対等どころか隙あらば条件を自ら整えてでも本気で勝ちに来ようと挑んで来るなど稀有な存在だ。

 それは、何モノにも代え難い。その癖、俺が楽しめるように本気を出せる環境を作ることが、本人にとっては無自覚に当たり前なのだから、始末にも手にも負えない。根本が”俺を負かしたい”でなく”俺の為に本気を出させてやりたい”のだから、無性にそのお姉さん風を掻き乱してやりたくなる。

 本当、どうしてくれようか

 思わず何も考えずにその頬へと指が伸びようとして、「あ!」というりこの声にすぐ引き戻した。
 目を丸くしたりこが、振り返って唇をわななかせる。

「どうした」
「やばい、やばいよ大神…」
「何だ?」

 尋常でない様子を怪訝に思い、一歩近付いた瞬間りこが一つのクレーンゲームの下へと走り寄った。
 意識が完全にその中身へ向いている。誰も、それが店内の一番奥の端に設置してある古びたクレーンゲーム機だとは思わない食い付きっぷりだ。

 肩透かしの気分で後を追うと、りこが一点を凝視しながら震える声で言った。

「まさか生産停止になった限定カラー探偵モードおじクマがこんな辺鄙な場所にあるだと…!?」
「……変な顔のあれ、まだ売ってたのか」
「今でも一部マニアに大人気だよ!! むしろ可愛いだろ!!」

 ネットだと一万円クラスだぞ!!と必死で言い募られるも、正直眉毛の太い変な不細工クマという認識でしかない。むしろ、そのクマの限定カラーが俺と似た色なのが若干不本意なくらいだ。それに、別色のクマが奥の壁一面に並んでいる様は、恐怖映画のワンシーンに近い威圧感がある。

 だがそんなことなど気にせず、りこは血気盛んにぬいぐるみの捕獲へと挑戦していった。

 しかし熱意はあるものの、10分経っても残念ながらころんころんとクマを右に左に転がしてばかりである。運よく持ち上げても、アームの力が弱くすぐ落としていた。

 気前よく五百円を投入しても全て不発で終わってしまったので、しまいには肩を落として打ちひしがれている。

「うう…。こうなったら明日以降も毎日通うかいっそプロクレーンゲーマーを雇って…」
「落ち着け」

 また千円を取り出すべきか真剣に悩み過ぎて思考が明後日に飛んでしまっているので、大人しくさせておく。これ以上はりこの財布が痩せ細りそうなので、そろそろいいかと俺は見ていた動画を消して携帯を仕舞った。

「大神はさっきから何見てたのさ? ごめん。そろそろ帰る?」
「別に。プロの動画見てただけだ」
「へ?」
 
 きょとんとしてるりこの前で百円を入れ、動画の通りに動きを真似る。流石に一回目はアームを下ろす位置がずれる。りこの動きを何度か見ていたとはいえ、やはり脳内でのシミュレーションと現実との差異は難しい。
 故に二回目は対象物の位置調整に重きを置き、三回目もより近付けることに専念する。

 俺が失敗しているように見える度にりこがハラハラとしている姿が鏡越しに見えたので、思わず愉快になり喉奥から笑いが漏れた。

 四回目で狙い通りにひょいっと対象物の首紐にアームの先端が引っ掛かる。これならアームの力が弱くとも関係ない。

 ぷらぷらと吊るされて揺れる変なクマを眺めながら、想定の範囲内の回数でいけたことに満足して一つ息を吐く。トライ&エラーの工程が楽しいのは性分みたいなものだろう。
 
「やる」

 軽い音を立てて落ちたクマを拾ってりこの前に差し出すと、目を丸くしたりこが俺と差し出したぬいぐるみを見比べた。
 次いで、口元がむにむにと動いて、堪らないと言いたげに破顔する。

「ありがとう大神!! 本当大事にする!!」

 頬を染めて幸せそうにぬいぐるみを抱き締めている様は、例え変なクマだろうがりこが可愛くみえる。こんなに喜んで貰えるのは嬉しいが、俺ばかりが心臓を煩くさせていて悔しい気もする。

 なのでつい逸らしていた視線を戻して、態とらしくにやりと笑った。

「見た目は不本意だが、俺だと思って大事に抱いて寝とけよ?」
「だっ!? セクハラ親父か!! 誰が寝るか!! あとクマはかわいいでーすー!」
「可愛いならいけるよな」
「可愛いけど可愛くねぇ!」

 憤慨か、耐性がないからか、真っ赤な顔はクマや俺と同じ色だ。

 そのことに機嫌良く喉が鳴った。見る度に俺を思い出せばいい。
 怒りつつもクマに罪はないと言わんばかりに、クマは大切そうにりこの両腕で抱かれている。
 布が寄ってより不細工な表情になりながらも何処か満足そうな顔だ。

 どうせならりこをこの腕に抱く方がいいが、今は身代わりのクマにその役目を任してやるかと、不細工な鼻先を指で弾いてやったのだった。
 
 






 














あとがき

 
裏話
 タイトルで「まかしてやる」に”任す”と”負かす”を掛けて遊んでたんですけど、気付かれましたかね(笑)作ってる時、作者がニマニマと一人楽しんでるの図
 普段は任せるって使う方が多いのですが、調べていて任してやるも間違いではないそうなのでガッツポーズと共に使用
 他のタイトル案で『げっと』にしておじクマゲットと大神くんにご褒美の心掴まれる胸きゅんシーンでも掛けて書いてあげるパターンもあったんですけど、没に(おい
 
 本当は太鼓シーンも書きたかったし他のゲームも書いて3ラウンド決着予定だったんですが、カンカンゲームだけで5000字いった時点で諦めました(真顔
 そして正式名称を書き終わった後に教えてもらったという…ね?←ぇ

 ちなみに、太鼓は譜面を覚えていたりこちゃんに対して、反射神経だけで食い付く大神がいい接戦で、ギリりこちゃんがポイント的には勝つんですが、メンタル的には初心者に負けかけたとぼろ負けしてたそうですよ(笑顔←鬼
 
 さーて、次話からはようやく高校二年生入りますねぇ~。
 最後にちょろっとオマケ



 
 
 電気を消そうとして、今日から我が家に加わった綺麗な赤色が目に入った。
 触り心地のいい毛並みを撫でようとして、不意に揶揄う様な低い声音と笑みが頭を過ぎる。

「可愛いのに可愛くない。くそぅ」

 頭を撫でようとした指先は、躊躇った後にぴんとその鼻先を弾くにとどまるのだった。




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