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高校生編
掌小話9 いいおんな
しおりを挟む*時系列は付き合い始め直後
「大神様失礼しますわ。お猿、ちょっといいこと。ついてきなさい」
自慢の金の巻き毛をかきあげながら机に寝そべるお猿を見下ろせば、私と後ろを見て少し驚いた様に目が大きくなった後、すぐさま軽やかに席を立った。今回は二人を連れて居ない為、私一人。
こういう察しがよいところがほんと気に入らないですわ
身を翻す直前、お猿の前の席に座る大神様をそっと伺う。
「っ!」
一瞬だけ重なった見定める様な赤い眼光に身体が緊張するも、すぐに視線が逸れてしまった。ばくばくと高鳴る心臓に反して、胸がツキりと痛む。彫刻の様に美しい横顔は、もう私への興味など失せている。
お猿を数秒見た後、大神様は静かに手元へ視線を落とした。カサリと乾いた紙の音が鳴る。
二人して教室から出ようとした時、一人同じく人目を引く雄アルファとすれ違った。教室の好機の目をものともせず、いつもの様に気持ちの悪い微笑みを浮かべている。あくまでも物腰柔らかに、その実面白そうにすれ違い様に呟いては、大神様の方へと歩いて行った。
「お手柔らかにね」
「余計なお世話ですわ」
腹立たしさのまま苛烈に睨み付けるが、演技らしく肩を小さく竦めるだけだった。
◇
「盗み聞きしなくていいの」
「そんな趣味はねぇ」
「僕なら怒れる雌アルファにそのまま差し出すとか無理だけど」
壁に背を預けながら告げると、視線は手元から動かぬまま、また乾いた音を立ててペラリと紙が捲られる。
「見知らぬ雌アルファでなくエリスだろ」
「…意外。もう認めてるんだ」
「良くも悪くも典型的なアルファだからこそな」
「確かに、プライド高いけど影で弱いものいじめはしなさそうだね」
納得した様に小さく頷く聖也を横目に、大神は一つため息を吐いて気怠げに聖也を見た。真剣な表情で一人で来た話合いに首を突っ込む程野暮ではないが、りこにまで視線で制されれば付いて行く選択肢などない。
「あいつ曰く、自分が怪我しても誰かを優先出来る人間は信用できるんだと」
「へぇ、まぁ言いそうだね」
「その理論が自分に適用されねぇ辺りが馬鹿だと思うが」
「セリフと合わせてくれる? 君の惚気顔見てると胸焼けしそう」
無意識なのか、先程までの淡い微笑を消して心外なと片眉を上げる大神を横目に、聖也は遠くの声を聴こうと耳を澄ます。かなり小さいとはいえ、微かに二人の少女の声は聴こえる。
「モテる男はつらいねぇ」
「お前こそ、心にもないセリフを言うんじゃねぇ」
自分を棚に上げた少しも羨ましく思っていない揶揄う様な声音に、思わず鼻を鳴らす。例え有象無象や誰からも好かれようと、本命から好かれないのでは話にならない。
少しして何かを聞き取ったのか、小さな口笛が響く。
「……、へぇ、こりゃ格好いい」
小さく称賛する聖也は、珍しく素直に感心している。
「大神君、フラれちゃったね」
「ふん」
面白がる声音に何も言わず鼻を鳴らす大神だったが、次のセリフで当然だと言わんばかりに目を細めて唇を歪めた。
「僕もバレて怒られちゃった」
「盗み聞くからだろ」
教室の興味津々な様子とは裏腹に、話題は後腐れなく次へと移る。
二人が戻るまで、会話は聖也の無限番自慢が続くのだった。
◇
校舎裏までお猿を連れて歩いた後、振り向く。
「さぁ、会談場まで来ましたわ! 私、お猿に言っておきたいことがあってよ!」
腕を組みながら胸を張ってキッとお猿を見れば、何故かお猿は何とも言えないといった顔をしていた。
不思議に思っていると、お猿が恐る恐るといった体で片手を挙げる。
「エリスちゃん、質問なんだけど」
「あら、何でして」
視線で促せば、お猿は周囲を見回した。私も見るけれど、別段薄暗くて下草の手入れもない、きちんと人通りの少ない条件の合った場所である。
「校舎裏って会談場として流行ってるの…? ここでもまさか私の常識との違いが…!」
「え…? 当然でないですの? 私、きちんと二人に言われましたわよ。”校舎裏こそ定番であり基本ですわ! 大事な話し合いには必要不可欠ですわ!”と」
記憶力はよいのでその時の日時まで思い返していると、お猿は何故か俯いて肩を震わせた。
当然のことを知らなくて恥ずかしかったのかしらと、お猿の様子を伺い見る。
「うん。その通り。私が悪かったよ…。流石プロの鏡ッ。あと絶対二人とは同志になれるッ」
「ま、まぁ私が凄いのは当然ですけれど、あなたも今後からは覚えておくとよいのですわ」
「いやいや、私なんかじゃ使いこなせないから…」
視線が二人の様に妙に優しかったのが気になるが、その後ひたすら頷いて私を持ち上げるのでつい聞きそびれてしまった。
しかし、いつまでもこうしてはいられないと気を引き締める。
流石女堕とし。お猿はこうやって相手の気を挫いて来たに違いない。私まで絆されては駄目よともう一度キッと睨みつける。
大神様のことを思い出せば、視線に力が篭もった。
「お猿、私、あなたと大神様が交際を始めたと聞きましたわ。直接確認しますけれど本当ですの?」
「う、うん……」
何かを言おうとして結局は呑み込む様に頷く曖昧な態度に視線が鋭くなった。困った様に、珍しくへにゃりと眉が下がって苦笑いしている。
私自身は大神様が直接そう言っていたという場所に居た訳ではない。なので、自身で確認するまで鵜呑みにはしていなかった。噂話ではなくお猿からも直接認められて、やはりそうなのかと胸がツキリと痛む。
けれどと私は目を逸らさなかった。
「そうですの。私、大神様に告白しましたわ」
「えっ」
驚いた様に目を丸くするお猿を見て、ふんと顔をそらす。
横取りするという気持ちはなかった。ただ、何処か結果は分かってもいた。
けじめを付ける為の告白であった。
「フラれましたの。私みたいな美しくて気高くて賢い最高のアルファをフって、ちんくしゃお猿がいいだなんて大神様は見る目がないですわ」
「そ…うだね、ほんと」
また困った様にへにゃりと笑うお猿に腹が立ってまたキツく睨み付ける。
何故怒らず同意するのかと叱りたくなった。
優しい大神様は私をフる時も「付き合ってるから」という理由でなく「もう心に決めた奴がいるから」とフッたのに。だから私も別れさせても無駄だとすぐ理解したのに。
それにあの教室での緊急事態を前にして信頼し合った阿吽の様子が、誰から見ても一目瞭然でしょうに。
どちらも大馬鹿者ですわと思う。馬鹿どうしお似合いなのですわと。
だから、胸を張って強がる様に顎をそらした。
「お猿って本当お馬鹿ですわ!」
「何故みんないきなりけなすんだ…。私が一体何をした」
頭を抱えるお猿を鼻で笑い、私は自分が美しく見える様に姿勢を正す。
すると、お猿がまるで食い入る様に私を見た。
大神様が必死に追うお猿は、どうやらまだ振り向いておらず、今こうして私に夢中である。
「私、追うよりも追われる方が性に合いますの。宣言しますわ! 私、より美しく気高くなって大神様が例え乞うてもフってやる位いい雌になりますの。大神様は見る目がなかったと誰からも思わせるくらいに」
私を見るお猿の目を見て、自分が少し誇らしくなる。
意識して嫣然と微笑んだ。
「それが嫌なら精々励むことね、お猿。うかうかとして私に靡いても恨みっこなしですわよ」
交際して困った様子となる事情は知らないが、大神様に見る目がないと思わせたくなければ頑張りなさいという発破。そして純粋にお猿に私の方がいい雌になるという宣言。
どちらも込めて見れば、お猿は頬を染めて心から朗らかに笑った。
どこか大人びた素の様で、子供染みた無邪気な笑みだ。
「うん。エリスちゃんはもう立派で素敵な女性だよ。ねぇ、改めて友達になってくれないかな」
差し出された手に目を落とす。
私は唇を開こうとして、ついっと目を斜め上へと向けた。
お猿がきょとんと私を見る中、回答を出す前に眦を吊り上げて私は一言だけ言うのだった。
「盗み聞きとは男の風上にも置けませんわよ?」
以下、回答がどうだったかはご想像にお任せしよう
あとがき
ふうー↑↑エリスちゃん可愛恰好いい!ふうー↑↑
とテンション上げながら投稿。
答えがどうであれ、態度は変わってないよ~☆
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