趣味だったオメガバースの世界に転生したようだが、何か違うので布教しようとしたら変態扱いされる件

トネリコ

文字の大きさ
43 / 49
高校生編

掌小話9 いいおんな

しおりを挟む

 *時系列は付き合い始め直後






「大神様失礼しますわ。お猿、ちょっといいこと。ついてきなさい」

 自慢の金の巻き毛をかきあげながら机に寝そべるお猿を見下ろせば、わたくしと後ろを見て少し驚いた様に目が大きくなった後、すぐさま軽やかに席を立った。今回は二人を連れて居ない為、わたくし一人。
 こういう察しがよいところがほんと気に入らないですわ

 身を翻す直前、お猿の前の席に座る大神様をそっと伺う。

「っ!」

 一瞬だけ重なった見定める様な赤い眼光に身体が緊張するも、すぐに視線が逸れてしまった。ばくばくと高鳴る心臓に反して、胸がツキりと痛む。彫刻の様に美しい横顔は、もう私への興味など失せている。

 お猿を数秒見た後、大神様は静かに手元へ視線を落とした。カサリと乾いた紙の音が鳴る。

 二人して教室から出ようとした時、一人同じく人目を引く雄アルファとすれ違った。教室の好機の目をものともせず、いつもの様に気持ちの悪い微笑みを浮かべている。あくまでも物腰柔らかに、その実面白そうにすれ違い様に呟いては、大神様の方へと歩いて行った。

「お手柔らかにね」
「余計なお世話ですわ」

 腹立たしさのまま苛烈に睨み付けるが、演技らしく肩を小さく竦めるだけだった。







「盗み聞きしなくていいの」
「そんな趣味はねぇ」
「僕なら怒れる雌アルファにそのまま差し出すとか無理だけど」

 壁に背を預けながら告げると、視線は手元から動かぬまま、また乾いた音を立ててペラリと紙が捲られる。

「見知らぬ雌アルファでなくエリスだろ」
「…意外。もう認めてるんだ」
「良くも悪くも典型的なアルファだからこそな」
「確かに、プライド高いけど影で弱いものいじめはしなさそうだね」

 納得した様に小さく頷く聖也を横目に、大神は一つため息を吐いて気怠げに聖也を見た。真剣な表情で一人で来た話合いに首を突っ込む程野暮ではないが、りこにまで視線で制されれば付いて行く選択肢などない。

「あいつ曰く、自分が怪我しても誰かを優先出来る人間は信用できるんだと」
「へぇ、まぁ言いそうだね」
「その理論が自分に適用されねぇ辺りが馬鹿だと思うが」
「セリフと合わせてくれる? 君の惚気顔見てると胸焼けしそう」

 無意識なのか、先程までの淡い微笑を消して心外なと片眉を上げる大神を横目に、聖也は遠くの声を聴こうと耳を澄ます。かなり小さいとはいえ、微かに二人の少女の声は聴こえる。 

「モテる男はつらいねぇ」
「お前こそ、心にもないセリフを言うんじゃねぇ」

 自分を棚に上げた少しも羨ましく思っていない揶揄う様な声音に、思わず鼻を鳴らす。例え有象無象や誰からも好かれようと、本命から好かれないのでは話にならない。

 少しして何かを聞き取ったのか、小さな口笛が響く。

「……、へぇ、こりゃ格好いい」

 小さく称賛する聖也は、珍しく素直に感心している。

「大神君、フラれちゃったね」
「ふん」

 面白がる声音に何も言わず鼻を鳴らす大神だったが、次のセリフで当然だと言わんばかりに目を細めて唇を歪めた。

「僕もバレて怒られちゃった」
「盗み聞くからだろ」

 教室の興味津々な様子とは裏腹に、話題は後腐れなく次へと移る。
 二人が戻るまで、会話は聖也の無限番自慢が続くのだった。
 




 校舎裏までお猿を連れて歩いた後、振り向く。

「さぁ、会談場まで来ましたわ! わたくし、お猿に言っておきたいことがあってよ!」

 腕を組みながら胸を張ってキッとお猿を見れば、何故かお猿は何とも言えないといった顔をしていた。
 不思議に思っていると、お猿が恐る恐るといった体で片手を挙げる。

「エリスちゃん、質問なんだけど」
「あら、何でして」

 視線で促せば、お猿は周囲を見回した。私も見るけれど、別段薄暗くて下草の手入れもない、きちんと人通りの少ない条件の合った場所である。

「校舎裏って会談場として流行ってるの…? ここでもまさか私の常識との違いが…!」
「え…? 当然でないですの? 私、きちんと二人に言われましたわよ。”校舎裏こそ定番であり基本ですわ! 大事な話し合いには必要不可欠ですわ!”と」

 記憶力はよいのでその時の日時まで思い返していると、お猿は何故か俯いて肩を震わせた。
 当然のことを知らなくて恥ずかしかったのかしらと、お猿の様子を伺い見る。

「うん。その通り。私が悪かったよ…。流石プロの鏡ッ。あと絶対二人とは同志になれるッ」
「ま、まぁ私が凄いのは当然ですけれど、あなたも今後からは覚えておくとよいのですわ」
「いやいや、私なんかじゃ使いこなせないから…」

 視線が二人の様に妙に優しかったのが気になるが、その後ひたすら頷いて私を持ち上げるのでつい聞きそびれてしまった。

 しかし、いつまでもこうしてはいられないと気を引き締める。
 流石女堕とし。お猿はこうやって相手の気を挫いて来たに違いない。私まで絆されては駄目よともう一度キッと睨みつける。

 大神様のことを思い出せば、視線に力が篭もった。

「お猿、私、あなたと大神様が交際を始めたと聞きましたわ。直接確認しますけれど本当ですの?」
「う、うん……」

 何かを言おうとして結局は呑み込む様に頷く曖昧な態度に視線が鋭くなった。困った様に、珍しくへにゃりと眉が下がって苦笑いしている。
 私自身は大神様が直接そう言っていたという場所に居た訳ではない。なので、自身で確認するまで鵜呑みにはしていなかった。噂話ではなくお猿からも直接認められて、やはりそうなのかと胸がツキリと痛む。

 けれどと私は目を逸らさなかった。

「そうですの。私、大神様に告白しましたわ」
「えっ」

 驚いた様に目を丸くするお猿を見て、ふんと顔をそらす。
 横取りするという気持ちはなかった。ただ、何処か結果は分かってもいた。
 けじめを付ける為の告白であった。

「フラれましたの。私みたいな美しくて気高くて賢い最高のアルファをフって、ちんくしゃお猿がいいだなんて大神様は見る目がないですわ」
「そ…うだね、ほんと」

 また困った様にへにゃりと笑うお猿に腹が立ってまたキツく睨み付ける。
 何故怒らず同意するのかと叱りたくなった。

 優しい大神様は私をフる時も「付き合ってるから」という理由でなく「もう心に決めた奴がいるから」とフッたのに。だから私も別れさせても無駄だとすぐ理解したのに。
 それにあの教室での緊急事態を前にして信頼し合った阿吽の様子が、誰から見ても一目瞭然でしょうに。

 どちらも大馬鹿者ですわと思う。馬鹿どうしお似合いなのですわと。

 だから、胸を張って強がる様に顎をそらした。

「お猿って本当お馬鹿ですわ!」
「何故みんないきなりけなすんだ…。私が一体何をした」

 頭を抱えるお猿を鼻で笑い、私は自分が美しく見える様に姿勢を正す。
 すると、お猿がまるで食い入る様に私を見た。
 大神様が必死に追うお猿は、どうやらまだ振り向いておらず、今こうして私に夢中である。

「私、追うよりも追われる方が性に合いますの。宣言しますわ! 私、より美しく気高くなって大神様が例え乞うてもフってやる位いい雌になりますの。大神様は見る目がなかったと誰からも思わせるくらいに」

 私を見るお猿の目を見て、自分が少し誇らしくなる。
 意識して嫣然と微笑んだ。

「それが嫌なら精々励むことね、お猿。うかうかとして私に靡いても恨みっこなしですわよ」
 
 交際して困った様子となる事情は知らないが、大神様に見る目がないと思わせたくなければ頑張りなさいという発破。そして純粋にお猿に私の方がいい雌になるという宣言。
 
 どちらも込めて見れば、お猿は頬を染めて心から朗らかに笑った。
 どこか大人びた素の様で、子供染みた無邪気な笑みだ。

「うん。エリスちゃんはもう立派で素敵な女性だよ。ねぇ、改めて友達になってくれないかな」

 差し出された手に目を落とす。
 私は唇を開こうとして、ついっと目を斜め上へと向けた。
 お猿がきょとんと私を見る中、回答を出す前に眦を吊り上げて私は一言だけ言うのだった。


「盗み聞きとは男の風上にも置けませんわよ?」


 以下、回答がどうだったかはご想像にお任せしよう







 







あとがき


 ふうー↑↑エリスちゃん可愛恰好いい!ふうー↑↑
 とテンション上げながら投稿。

 答えがどうであれ、態度は変わってないよ~☆

 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。 どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。 「もういい。愛されたいなんて、くだらない」 そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。 第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。 そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。 愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...