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第一部 婚約破棄されました
幕間4:叶恵さんと、コンビニ
しおりを挟むいらっしゃっせー
というやる気のなさそうな声を背に店内を物色する。茶髪を首元でツインテールにしたちょっとやんちゃそうな女性だ。
「へぇ、これも美味しそうねぇ」
田中さんと別れてからつい好奇心に駆られて近場のコンビニの「シカクーソン」に寄ったのだが、やはり種類も豊富で感心する。ちなみに実家の周辺を遠くはあったがシカクーソンが占拠してたので「家族マート」や「7・11」よりもこっちにフラフラと寄ってしまう。占拠というよりも、あんな田舎に進出してきた猛者がシカクーソンだけだったのだと思うが…。田舎あるあるである。つらたん。まぁ家族チキも他の店のデザートも勿論好きなんだけどね。幼少期の味覚洗脳おそるべしである。
ノリで入ったが、どうやら季節限定イベントをやってたようだ。冬はチョココラボを沢山してくれてて嬉しい。そこ!だから太るとか言わな…
内なる幻聴と格闘しつつ、にまにまと「ナーガ」とコラボしている定番人気商品「トップ」やら「メルティチュー」をカゴへとインしていると、ふと衝撃的なものを発見して固まった。
なん…だと
「唐辛子…塩辛…チョコ…!?」
目にも痛い真っ赤な四角いパッケージに、これでもかと言わんばかりに蛍光ピンク色のイカ?らしきキャラが乗っている。イカの手にフォークとナイフがあるが、これは逆にキャラが襲ってくるレベルの衝撃ということなのだろうか。真っ黒ギザギザ歯から大口を開けて火を噴いている時点で、帽子みたいにチョコを頭に被せても可愛らしさより狂気を感じるんだが制作会社様よ!!
動揺していると、意外とつぶらな瞳と目が合ってごくりと唾を飲み込む。
『俺を買うだろ姉ちゃん?』
『いや、ちょっとタンマで』
女、叶恵、ここは勢いでなく冷静に判断しよう。
確かにちょっと冒険したの買ってみようかなーとか思って何でも揃ってると信仰しているコンビニ様に寄ったが、これは流石にいきなり上級者過ぎやしないだろうか
まず何故単品ごとだと美味しい塩辛とチョコを混ぜてしまったのか。あまじょっぱいのも確かに売れるが、塩辛の時点で既にそれイカと明太子混ぜられてる一品だから! そして何故更に唐辛子を混ぜてしまったのだ。チョコが2-1で負けてるから。バランスゲーム既に崩壊してるから!
思う存分ツッコんだ後、もう一度「唐辛子塩辛チョコ」のキャラを見る。
よく見るとメルティ―チューとトップという超人気商品棚からは外れ、隅の方でひと箱も売れておらず、どの商品にも埃が積もっている。何だか火を噴きナイフとフォークを振り回すキャラが涙目なような気がした。
うーん、思ったより美味しそうなの多くて予算いっぱいだけど、本来の目的は田中さんみたいに味覚の冒険をしに来たんだし、買ってあげてもいいかなぁ
迷いつつ命名イカくんへと手を伸ばそうとして、ピクリと手が止まった。
「756円……地味に高いな!」
絶対無駄に挑んだコラボしたからだよね!そんな高級路線だから売れないんだよ!
手を伸ばしたまま、この手を引っ込めるか迷っていると後ろから声がした。
慌てて場所が邪魔だったかと姿勢を正す。
「お客さん、それ買う予定ですかー?」
「え? ええ…、気になってるのだけどでも思ったより高いから迷ってて」
振り向けば先程いらっしゃっせーと独特なお出迎えをしてくれた茶髪の店員さんであった。半眼で何だか眠たそうである。レジの方は大丈夫かと視線をやると、お客がいないのかもう一人の店員さんも欠伸をしていた。
「あーそうですかー。実はそれ新人が間違って発注しちゃったやつだから、高いし一個も売れないしで在庫処分困ってたんですよー」
「そうなのね」
何だかどんどんイカくんが不憫になってくる。この話を聞いただけでも、全部は無理でも一個くらいなら買ってあげてもいい気になる不思議である。
「それ、店長には言っとくんで半額で買ってくれませんかねー」
「いいの?」
「ぜひぜひ」
拒否られる前にと思ったのか、ぺいっとカゴに入れられるイカくん。どうやらこの子をお持ち帰りすることになったようだ。
さあさあと押されるがままにレジでチャリンと購入。店長に言っとくの辺りでこの子偉い子かなぁと思ったら、やはり副店長だったようだ。お箸入れときますー?あっためときますねーと仕事が早い。
感心している間に「ありがざっしたー」と店内を出ていた。見送り時も独特な掛け声だが、今度もまた来てもいいかもしれない。
少し重たい袋を片手にのんびり家路を辿る。
◇
その後、満を持してイカくんの顔を引き裂いて箱を開けた叶恵さんは、「唐辛子塩辛チョコ」の洗礼を受けて涙目で悶絶し、もう絶対買わないと心に決めたそうであった。
イカくんは罪悪感と攻撃力を秤に掛けた結果、泣く泣く闇世界にお帰り頂いたそうです。
あーめん☆
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