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第一部 婚約破棄されました
幕間5:短編集
しおりを挟む◇次長と叶恵さんの屋上会話◇
箸を置いて、弁当を重ねて、風呂敷を畳んで結び直して、俯きながら自分の感情を整理。
迷う、いや、自分の初めから出ていた答えを見つめ直していただけで迷いではない
次長がもう時間だねと声を掛ける頃、苺・ワシにストローを入れて潰した私はその背に声を掛けた。
「次長すみません」
「ん? 何だい?」
先を促す様な優し気な声音に、私も一つ吐息を零してから覚悟を決める。
「もう終わったことなら仕方ないです。でももし次長の周囲で彼等に過剰な正義を振るおうとしていた人がいたら、止めて頂いてもいいでしょうか」
そう告げると、次長は綺麗な顔を少し困った風にさせ緩く首を振った。
「小林くん、失礼を承知で言わせて貰うけれど、君の優しさは美徳だが被害者である君がそこまで彼等に気を遣う必要があるとは私には思えないよ。むしろ君が手を出せない分、君の周囲が代わりに罰を与えているとも、または彼等自身の自業自得とも言えるのだから」
その言葉に今度は私の方が苦笑してしまった。私が優しいとは、次長も買い被り過ぎだ。そうではない、だってこれは
「次長違いますよ」
「ん?」
「これは私とアイツと彼女との問題でそれ以上でも以下でもないんです。私がケリを付けなければならない問題で、私が不甲斐ないからと周囲に制裁を頼むのも、周囲が鉄槌を下すのもまた違うと思うんです」
そう、これはただ自分が臆病で不甲斐ないだけだ。
ぱちくりと瞬きする次長を見て、変なことを勢いで言ったかと何だか所在無くなって苺・ワシをぺこぺこと潰す。既にハーフサイズとまでなってしまっている。すまんな苺・ワシよ
ストローから逆流した桃色の液体をティッシュで拭きながら、次長の目を見てへにゃりと笑った。
「勿論お気持ちは嬉しいのですし、彼等自身の仕事に対する姿勢から招いた自業自得なら私も何も言いません。ただ、正義の理由に私を使われるのは嫌というだけで。自分のケリは不甲斐ないことも含めて自分のものというか、自分で付けなきゃなぁって…って、次長に何言ってるんでしょうね! 急にすみません!」
ケリを自分で付けれてないから心配されたというのに、何を言っているのか自分は!しかも次長様に!やばいっ、これは黒歴史入りだぞっと、言ってて段々恥ずかしくなってきて、慌てて立ち上がる。
こりゃあ次長に呆れられても仕方ないっ、次長にそんな目で見られたら……レアなのでちょっと気になりはするがダメージがっっ
わたわたと棒読みでもう時間でしたねっと声をあげた瞬間、名前を呼ばれる。
おそるおそる次長を見上げた先で
「やっぱり小林くんは強いと思うよ」
笑われるかと思った答えに、次長は優しくそう返した。
◇狸から見た居残りする二人◇
カタカタカタ
カチカチカチ
タンタン…タ…
ふむ、と狸は目の前で黙々とパソコンへと向かい仕事をする二人を見る。既に夜はとっぷり暮れており、クリスマスということもあって残っている者は独身がほとんどだ。
片や急遽仕事が入った分を肩代わりした女性で、もう片方は仕事を割り振った部下ではあるのだが。
自分の報告書の休憩がてら二人の様子を見ていると、小林くんが背伸びして肩を回した。どうやらもう少しで終わるようだ。この動作をするとあと三十分でラストスパートを掛けるぞという合図である。本人は無意識なようであるが。
思っていたら、対面に座って作業していた男性が席を立ち、程なくしてココアと緑茶とコーヒーをお盆に乗せ戻ってくる。どうやら小林くんにはココア、僕にはコーヒーだったようだ。
コーヒーを一口啜って肘を付きながら見やれば、ココアに驚いてお礼を言う小林くんとそれを無表情で受け止める田中くんが少し雑談している。雑談とはいえ、小林くんが軽く投げ掛けた話に、田中くんの方がぽつりぽつりと、されど一つ一つ丁寧に回答している感じではあるが。
そういえば引っ越してお隣同士になったのだったかと情報を思い返す。どこか楽し気に報告してきた佐伯くんだが、色恋方面の発展は正直どちらでもいい。されど、彼等の課題点がそれで改善されるならそれは応援すべき事項であろう。
気配りが出来、采配や調和上手だが私事を抱え込みがちな小林くん。
迅速丁寧、真面目で礼儀正しいが他人とは一線を引き踏み込ませない田中くん。
どちらも仕事に関して誠実で真摯であり、育て甲斐のある部下である。だが、もう一つ階段を上がっていくにはその点を変えていく必要がある。上に行けば大勢の部下を率いる立場になるのだ。その際に弱みを見せれる人間の方が信頼されやすく上に行きやすいのは世知辛いながら事実である。
これが剛田くんの様な黙っていても背中を追わせたくなる剛毅なタイプだったらまた違ったんだけどねぇ。まぁ部下の育成方法は伸び代含めて千差万別だからこそ愉快でやり甲斐があるんだけど。
それに、小林くんの方は普段婚約者に吐き出していた分受け皿がないとこの先余計に潰れそうだしねぇ。
ブラックコーヒーの苦みを楽しみながら時計を二人して確認し合う姿を見守る。
色恋沙汰に興味はない。だが、禁止しているわけでもないのだから、マイナスにならずプラスになり合うのであれば関係変化も有用であろう。
少なくとも無表情で読み辛い田中くんではあるが、小林くんの一挙手一投足に気を配っているあたり、佐伯くんの予想もあながち外れではなさそうだしねぇ。割り振った仕事量は、田中くんの実力と速さを思えばとっくに終わっている筈なのだから。
おや、サボって観察していたのがバレてしまったようだ。
可愛らしく投げキッスを送ってみたが叩き落とされてしまった残念。
その後、叶恵さんに反撃され涙目になりながら結局遅くまで仕事する羽目になる課長であった。
◇佐藤さんと受付嬢◇
「明穂…! 来てくれたのか…」
「ばかね、私は行かないって言ったじゃない」
「それでも君は来てくれた。そうだろう?」
「っ、明日のニュースで凍死体が出たら迷惑だっただけよっ」
「秋穂は優しいな」
「私は貴方のそういう計算づくめなところが嫌いだわ」
「知ってるさ。それでも来てくれる君だから好きなんだ」
「っ! ばかじゃないの! 私は貴方に釣り合わない! そんなこと前に嫌という程思い知らされたでしょう!」
「そんなもの明穂は気にしなくていい、俺が黙らせる。今回のプロジェクトが成功すればそれだけの力が持てるようになるんだ。だから―――」
~叶恵さん発見の抱き合うシーン~
「あの時は守れなくて悪かった。もう一度だけ俺にチャンスをくれないか」
「…痛いわ」
「っ、すまない」
「身体、冷え切ってるじゃない」
「こんなの大したことじゃないさ」
「ばかね。ねぇ、…私は―――」
残念。たなカー発車しまーす☆
~to be continued~
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