異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ

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第十八話 嫉妬の炎

カフェ『みさと』の快進撃は止まらない。 
今や、朝はガッツリ食べたい冒険者たち、昼は「映え」と「健康」を求める街の貴婦人たち、そして夕方はプリンを求める城の文官たちで、森の静かな古民家はかつてない賑わいを見せていた。

「美里様、今日の分のプリンも完売ですわ。……それにしても、あの方々、馬車を飛ばしてまでいらっしゃるとは」

エレンさんが感心したように、空になった冷やし箱を片付ける。 
今の私たちの最強武器は、間違いなく「白砂糖」だ。 
この世界では茶色くて雑味のある砂糖が一般的だが、私が精製した純白の砂糖が生み出す繊細な甘みは、一度口にすれば忘れられない魔力を持っていた。

しかし、その「魔力」が、ある人物のプライドを激しく逆撫でしていた。

 
城下町・オルロフ公爵邸
「……なんだ、この泥臭い菓子は!」

ガシャン! 
という音とともに、美しい銀皿に盛られた繊細なムースが床にぶちまけられた。 
怒鳴り声を上げたのは、この国の有力貴族、オルロフ公爵。 
そして、その前で青ざめて震えているのは、公爵家お抱えの料理長、バスティアンだった。

「も、申し訳ございません、公爵閣下……! しかし、これは最高級の南方産砂糖をふんだんに使い……」

「黙れ! 先日、城の文官がこっそり食べていたあの『プリン』という菓子に比べれば、貴様の作るものはただの砂糖の塊だ! あの滑らかさ、あの芳醇な香りはどうした!?」

バスティアンは屈辱に顔を歪めた。 
彼は王宮料理人候補とも目される、この国でも指折りの腕利きだ。それが、どこの誰とも知れぬ「森の娘」が作る菓子に劣ると言われたのだ。

「……森のカフェ、と言いましたな」

バスティアンは公爵の部屋を下がると、自身の厨房で調理台を拳で叩いた。

「家畜の餌にするような『サトウダイコン』を使い、平民を相手に商売をしている小娘だと……? そんな奴に、私の料理が、私の誇りが汚されてたまるか!」

彼の瞳には、どす黒い嫉妬の炎が宿っていた。

 
カフェ『みさと』の裏庭
そんな不穏な動きなど露知らず、私はミナちゃんと一緒に「サトウダイコン」の収穫に励んでいた。

「お姉ちゃん、これ、おっきいね!」

「本当だね! これでまた美味しいお砂糖が作れるよ」

泥だらけになりながら笑い合う。 
ふと、背筋に冷たいものが走った。

(……え?)

私は手を止め、周囲の森を見渡した。 
おばあちゃんの結界があるから、魔獣や悪意のある者は簡単には近づけないはず。 
けれど、木々の影に、こちらをじっと観察している「誰か」の視線を感じた気がした。

「……気のせいかな」

「美里様、どうされました?」

エレンさんが心配そうに声をかけてくれる。 
彼女の鋭い察知能力でも何も感じていないのなら、本当に気のせいかもしれない。 
でも、私は現代日本で「ネットの噂の拡散力」を身を以て知っている。 
良い噂が広がれば、必ずそれを引きずり下ろそうとする者も現れるのだ。

 
その日の夜。 
エレンさんとミナちゃんが眠りにつき、私は一人、売上金を持って二階へ上がった。 
書斎の窓から夜の森を眺める。

(……もし、誰かがこのお店を壊そうとしたら。私はどうすればいいんだろう)

おばあちゃんが遺してくれた、この大切な居場所。 
エレンさんとミナちゃんがようやく見つけた、温かい家。

私は二階の隠し棚に金貨を仕舞いながら、自分の中に「守るべきもの」ができたことを改めて実感していた。 
私はただのOLだったけれど、この世界では「店主」なのだ。

翌朝。 
屋敷の入り口に、一通の封筒が置かれていた。 
おばあちゃんの筆跡ではない。 
重厚な紋章の封蝋が押された、傲慢なまでの「果たし状」のような招待状だった。

『森の料理人へ。貴殿の技術が本物か、公爵邸の厨房にて鑑定してやろう』

「……これって、いわゆる『料理対決』のフラグ?」

私は苦笑いしながら、その手紙を握りしめた。 
どうやら、のんびりスローライフを楽しんでいる暇はなさそうだ。
 
次回予告
公爵家の料理長から届いた、挑戦状!? 「平民の小娘に何ができる!」と息巻くバスティアンさんに、私は『日本の洋食の極み』で対抗よ! でも、相手は魔法を使った調理器具まで持ってるみたい……。 絶体絶命のピンチに、あのお忍びのおじいちゃんが「審判」として乱入!?
次回、「盗まれた調味料」。 ちょっと、私の大事な『お醤油』に手を出すのは反則ですよ!
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