異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ

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第二十二話 究極のハンバーグ

「王宮での御前試合……。美里様、本当にあのアロガントなバスティアンと競うのですか?」

陛下が去った後の厨房で、エレンさんが不安げに私の顔を覗き込んだ。 
無理もない。相手はこの国で最高の設備と食材を自由に使える公爵家の料理長だ。対する私は、森の奥で古民家を改装してカフェを開いているだけの、自称・元OL。

「ええ、逃げるわけにはいかないわ。ここで引いたら、おばあちゃんの料理が『呪術』だって認めちゃうことになるもの」

私は作業台に拳をトン、と置いた。 
「それにね、エレンさん。高級な食材だけが人を幸せにするわけじゃないってことを、あの料理長さんに教えてあげたいの」

私は二階の書斎から、おばあちゃんが遺した別の「秘密のノート」を持ち出してきた。そこには、異世界の食材を代用して作る「デミグラスソース」のレシピが記されていた。

 
対決のテーマは「この世界の食材を使った最高の一皿」。 
バスティアンは間違いなく、希少な魔獣の肉をそのまま焼く「ステーキ」で来るはずだ。ならば私は、手間暇をかけて肉の旨味を凝縮させる「洋食」で勝負する。

「エレンさん、手伝って。まずはこのオークの骨と端切れ肉を、オーブンで焼き色がつくまでじっくり焼くわよ」

私たちはまず、ソースのベースとなる「フォンドボー」作りから始めた。 
焼いた骨、香味野菜、そしておばあちゃんの裏庭で採れたハーブを大きな鍋に入れ、ひたすら煮込む。

「美里様、表面に浮いてくるこの脂とアクを……」 
「そう、一滴も逃さず、丁寧に。これがソースの透明感と深みになるの」

一日中、鍋につきっきりでアクを取り続ける。 
二日目には、煮詰まった汁にさらに焼き色をつけた小麦粉と、例の「お砂糖」で作ったキャラメル、そして「お味噌」を加えた。

「お味噌を入れるのですか!?」 
「そう。お醤油がない今、コクと深みを出せるのはこれしかないわ。味噌の塩気と発酵の旨味が、デミグラスソースをより重厚にしてくれるのよ」

 
そして、メインとなる肉。 
私が選んだのは、ステーキ用の高級部位ではなく、安価で手に入るオークの「赤身」と「脂身」だった。

私はそれらを、おばあちゃんの調理場にある手回し式のミンサーで「挽き肉」にした。

「美里様……。王宮の試合で、そんな『肉の屑』を使うおつもりですか? 貴族の方々は、塊の肉こそが至高だと信じて疑いませんわ」

エレンさんが驚愕の声を上げる。 
確かに、この世界に「挽き肉料理」はほとんど存在しない。肉は切って焼くか、煮るかの二択なのだ。

「いいの。挽くことで、硬いオークの肉も柔らかく、ジューシーになる。そこに飴色に炒めた玉ねぎと、パン粉、そして魔鳥の卵を混ぜて……」

私はボウルの中で、肉を力強く捏ね始めた。 
冷たい肉が手の熱でだれないよう、素早く、けれど入念に。 
そして、手のひらで「ペチ、ペチ」と音を立てて空気を抜いていく。

「こうして空気を抜くことで、焼いた時に割れず、中に肉汁が閉じ込められるの。これが、日本の家庭の味、『ハンバーグ』よ」

 
仕込みの最中、ガルスさんやエリックさんも様子を見に来てくれた。

「嬢ちゃん、王宮へ行くんだってな。……俺たちがついてる。もしあの料理長が卑怯な真似をしたら、俺がその場でひっ捕まえてやるぜ」

ガルスさんが胸を叩く。 
エリックさんも「陛下が立ち会う以上、表立った妨害はできないはずだが……。店主、あんたの『料理の魔法』を信じているよ」と、眼鏡の奥の目を優しく細めた。

私は二階へ上がり、売上金を保管している隠し棚の隣にある、おばあちゃんの古いトランクを開けた。そこには、ここ一番の時に着るための、真っ白なコックコートが入っていた。

おばあちゃん、力を貸してね。 
お砂糖とお味噌。そして、おばあちゃんが教えてくれた「誰かを思う気持ち」。 
それさえあれば、私はどこでだって戦える。

「よし。エレンさん、ミナちゃん。出発の準備をしましょう!」

私たちは、ハンスさんが用意してくれた最高級の馬車に、三日三晩かけて作り上げた「魔法のソース」を積み込んだ。 
行き先は、ローゼリア王宮。 私の新しい人生を賭けた、最大のおもてなしが始まろうとしていた。
 
次回予告
王宮の広場に集まった、数千人の観衆! バスティアンが披露する「ドラゴン・サーロインの炎焼き」に、貴族たちは大喝采! 一方、美里が取り出したのは、見たこともない「肉の塊(ハンバーグ)」と、真っ黒なソース……。 「なんだその泥のような料理は! 陛下に毒を盛る気か!」 黙って見てなさい。一口食べれば、あなたの常識は肉汁と共に溶けてなくなるわ!
次回、「王宮対決!肉汁の魔法と誇りの行方」。 陛下、ソースの最後の一滴まで、パンで拭って食べちゃっていいですよ!
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