ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第13話 園遊会の罠、しかし

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王宮庭園。抜けるような青空の下、華やかな園遊会が幕を開けていた。
色とりどりのドレスが咲き誇る会場は、まさに「虚飾のマーケット」そのものだ。 
貴族たちが優雅に談笑する中、その中心部ではマリアちゃんがワイングラスを手に、虎視眈々と獲物を狙う投資家のような鋭い視線を走らせていた。

(……よし、リゼット様が来たわ! あとは「偶然」を装ってぶつかるだけ!)
マリアの脳内では、リゼットが華麗にワインをかわすか、あるいは優しく自分を抱きとめる「バズり確定シーン」が再生されていた。
(さあ、リゼット様! あなたの聖女っぷりを、このSNS……じゃなくて、全世界に拡散(リツイート)してあげるわ!)



一方、ターゲットである私は、既に会場の「中心」という名の高リスクエリアを脱出していた。
(……暑い。そして、人が多い。不快指数が私の許容ポートフォリオを超えたわ)
私は「微笑みの聖女」の仮面を維持しながらも、足取りは極めて迅速だった。 
目指すは、庭園の隅にある大きな樫の木の下。誰も来ない、完璧な「オフライン・スポット」だ。

(よし、人混みからの離脱(ログアウト)に成功。ここなら無料のサンドイッチをゆっくり堪能できるわ。これこそが真の裁定取引(アービトラージ)ね)
私は木陰のベンチに深く腰を下ろし、静かにクロワッサンを口に運んだ。 
遠くで鳴る楽団の演奏も、ここでは心地よい環境音(BGM)に過ぎない。



その頃、噴水広場ではマリアが作戦を決行しようとしていた。
(あと三歩……二歩……一歩……今だ!)
マリアは「きゃっ!」という、前世の三流アイドル並みの悲鳴を上げて、リゼットがいるはずの方向へと倒れ込んだ。 
手に持った特級赤ワインが、放物線を描いて宙を舞う。

しかし。
そこにいるはずのリゼットは、既に木陰で優雅にパンを食べていた。
「……えっ?」
マリアの視界に入ったのは、自分を助けてくれるはずの聖女ではなく、ただの空っぽの空間だった。

「うわあああ!?」
勢い余ったマリアは、そのまま盛大に自分の足をもつれさせ、スライディング。 
そして、宙を舞った赤ワインは――。
バシャッ!!

「な、なんだって……!?」
運悪くそこを通りかかった、黄金の王子アルフォンスの真っ白なシャツに、鮮やかな「含み損」の赤が広がった。



「あ、アルフォンス殿下!? 申し訳ございません!」
マリアはパニックになりながらも、当初の計画通り(?)に叫んだ。
「これは……これはリゼット様が仕組んだ罠なんです! 私はリゼット様に突き飛ばされて……!」
(そうだわ、これで『実は冤罪でした』っていう逆転劇に持ち込めば、リゼット様の慈悲深さがもっと際立つはず……!)

だが、周囲の反応は冷淡だった。
「……リゼット様? あの方なら、さっきからあっちの木陰で一人で休んでいらっしゃるが」
「ええ、一五分は動いていらっしゃらないわね。お昼寝でもされているのかしら」
「マリア嬢……。嘘をつくにしても、あまりにもボロが出すぎていないか?」
貴族たちの冷ややかな声が、マリアに突き刺さる。 
彼女の「バズり計画」は、リゼットが「めんどくさくて現場にいなかった」という一点において、完全に瓦解した。



木陰でサンドイッチを完食した私は、遠くの騒ぎにようやく気づいた。
(……ん? 何か騒がしいわね。あー、マリアちゃん、王子にワインぶっかけたのか)
私は溜息をつき、腰を上げた。 
放置しておきたいが、ここでマリアが「虚言癖」として完全に格下げ(デフレ)されると、私の婚約破棄計画(エグジット)に支障が出る。

(……めんどくさいけど、少しだけメンテナンス(フォロー)しとくか)
私はゆっくりと騒ぎの中心へ歩み寄った。 
そして、顔面蒼白で震えるマリアの肩に、そっと手を置いた。
「マリア様。……きっと、初めての園遊会で緊張されていたのでしょう? 立ちくらみでもなさったのかもしれませんわね」

「リ、リゼット様……」
「殿下、彼女を責めないであげてください。この暑さですもの、魔力が乱れることもありますわ。……ソフィ、予備のシャツを殿下へ。マリア様には、冷たいお水を」
私は完璧な慈愛の微笑みを浮かべ、その場をスマートに収拾した。

(よし、これでマリアちゃんのメンツは保った。騒ぎも収まった。……さあ、私は帰るわよ)

だが、私の背後でアルフォンスが、絞り出すような声で呟いた。
「リゼット……。君は、自分に罠を仕掛けようとした相手さえ、その懐の深さで包み込むというのか……。……ああ、やはり君は、この国の太陽だ」
(……違う。早く帰って寝たいだけ。お前のシャツの汚れなんて、クリーニング代の経費精算すれば済む話でしょ)
周囲の貴族たちからも、感極まったような拍手が沸き起こる。 
「聖女リゼット」の評価(レイティング)は、ついに人知を超えた領域へと突入した。

一方のマリア。
(リゼット様……。私を庇ってくれるなんて。……ああ、私、なんて愚かだったのかしら。あの方は、私の浅はかな計画なんて、全てお見通しだったんだわ!)
マリアの瞳に、新たな、そして重すぎる「崇拝」の火が灯った。

【解析:リゼットの現状】 
・園遊会での評価:ストップ高(救世主扱い) 
・マリア:重度の信者へジョブチェンジ 
・自由時間:絶望(王子からの拘束時間が激増)

(……計算ミス。またしても、致命的な計算ミスよ……。だれか、このバブル経済(過剰評価)を弾けさせて……!!)
隠居を夢見る投資家令嬢、リゼット。 
逃げた先で勝手に評価が高騰し、もはや国全体が「リゼット様ファンクラブ」と化していた。
 
次回予告
「皆様、聞いてください! 私は予言を……あ、予言じゃなくて、リゼット様の素晴らしさを語ります!」 
「(……マリアちゃん、お願いだから静かにして。これ以上私の株価を上げないで)」 
「隣国との戦争が起きます! でもリゼット様なら防げますわ!」 
「(……戦争!? マジで!? 資産が半分になる前に、徹夜で外交(ブラック労働)するしかないじゃない!!)」

次回、第14話「ヒロインの最終兵器」
私の資産と自由を、これ以上脅かさないでいただけます!?
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