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彼氏はいないけど妄想彼氏はいる

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福岡にある神崎工務店で6ヶ月間インテリアプランナーとして勤め、契約期間を終えて次の勤務地の東京にやってきた。

大学を卒業して3年間は馬島建設でマンションやオフィス、美術館などの公共施設の内装設計に携わってた私。

多忙すぎる仕事とセクハラに耐えきれなくなり、思い切って仕事を辞め、大手派遣会社数社に登録し、インテリアプランナーの仕事があれば、全国各地、田舎から都会まで、どこでも行くアドレスホッパーになり、期間限定の仕事を請け負うようになった。

「ーー 彼女、かわうぃ~ねぇーー!!俺と遊ばない!?

「……スミマセン。私、(妄想)彼氏がいるので遊べません!!」

4月の初めの日曜日。
東京に引っ越しきてから3日目の午前中に大好きなファッションブランドのレッセパッセの新作のワンピースを購入するために新宿へ出てきた。

繁華街を1人で歩いてるとチャラい系の男に声をかけられるから面倒臭い。

「そんな事言わずに、カラオケにでも行こうよーー !!」

「お断りします!!」

あまりにしつこいから流しのタクシーに乗り込み、すぐそこまでだけど、レッセパッセのショップまで連れて行って貰った。
そして、試着して気に入った服を大人買いし、ついつい買い過ぎたからタクシーで新居まで向かった。


古巣の馬島建設から指名で半年間勤務する事になり、品川駅側の単身向けのオートロック付きの賃貸マンションに引っ越した私。
レオパレスみたいな家具家電などの生活必需品が全て揃っていて水道光熱費を含む月額制のアドレスホッパー向けの住居を転々としてる。

何もかもが揃ってるからインテリアプランナーの仕事の毎月の給料よりも家賃が高く、デイトレーダーの副業があるからなんとか生活ができてる。

「……東京って人が多くて苦手。歩くのも速いし、通勤ラッシュは満員電車でお触りされ放題だから怖くて乗れない」 

凛花ちゃんと銀座にあるイタリアンレストランで久しぶりにランチをした。

痴漢の格好の餌食になってしまう私。
通勤ラッシュが過ぎてからJRに乗ったのに、気持ちが悪いサラリーマンにお尻を掴まれ、気持ちが悪くて堪らなかた。

「彩葉、都市部に住むなら痴漢なんて慣れるしかないよ。車掌に突き出したら次の駅で下ろされて警察沙汰にされて仕事に遅刻するしさ。スカートを捲られて指入れたりブツを入れられない限り諦めるしかない」

ランチタイムの終わりに入店したからお客さんは少ない。
海老とほうれん草のトマトクリームパスタをフォークで巻き巻きしながら真顔でそんな事をいう凛花ちゃん。
痴漢慣れしてるビッチには日常茶飯かもしれないけど、私はおっさんが半径1メーター以内にいるのも嫌だ。
JRに乗ってて『ハーハー』という気持ち悪い息遣いが背後から聞こえると、恐怖で次の駅で電車から降りてしまう。
通勤ラッシュが嫌で家賃が高くついても、勤務先まで歩いていける距離の賃貸マンションを借りた。

「彩葉、男嫌い治さないと仕事にならないよ。30歳過ぎたら若さが無くなるから今以上にセクハラされるから」

インテリアプランナーとしての仕事より、デイトレーダーとしてスマホをちょこちょこっと弄って錬金術みたいに黄金を大金に替えるギャンブルで生計を立ててる私は、最悪、デイトレーダーを本職にすればいい。
痴漢とセクハラの被害に遭うぐらいなら、家に引きこもって稼ぐ道を探す。

「……セクハラや痴漢になれるなんて無理。男って……気持ち悪い」

「……彩葉、その発言ここでするの辞めて、レズだと思われそうだから……」

凛花ちゃんの通勤ラッシュの痴漢に耐えろ発言の方が問題な気がする気がするけど、私の男嫌いが理解できない凛花ちゃんはいい男と付き合えと私に勧めてくるけど、何度かBARについて行って凛花ちゃんのハントを横で見ていて私もお持ち帰りされそうになるけど、手を触れるだけで鳥肌が立ち、逃げ出した。

凛花ちゃんは夜な夜な会員制のBARで男狩はしてるけど、お父さんは業界最大手の宮坂不動産の御令嬢で一応丸の内にある本社で秘書を勤めてるらしい……。
代休で平日休みが取れ、私とランチしてるけど、毎日多忙な生活を送っていて、ストレスで夜遊びが悲惨。

ーービッチには処女の私の気持ちはわからない。


ランチの後、凛花ちゃんの行きつけのスポーツジムへ行き、その後にエステを受けて至福のひと時を過ごす。

レズではないけど、エステシャンに美容液を身体に塗り込まれ、身体のラインを補正されるのが気持ちよく、それを凛花ちゃんに話したらレズ疑惑を持たれてしまった私。

ーーレズではないです。ノーマルです。


****

「辻井さん、半年間宜しく頼む」

元上司のセクハラ狸の部署に派遣され、派遣社員だから違法な残業はさせられたいし接待も断れるから安堵はしてるけど、このおっさんの顔を毎日拝め笑顔を振りまかないといけないのが苦痛でならない。

「辻井さん、彼氏とまだ続いてるんだ!!あれっ、寿退社するって言ってたけどまだ独身って、ならうちの正社員として戻っておいでよ。上に掛け合うよ!!」

正社員は不当に扱われるから絶対に嫌だ。仕事を辞めるために、架空の婚約者を作り、予定もないのに結婚を理由に会社を退社した。

セクハラ狸の部署に派遣され、半年間だけど勤めないといけないのが苦痛で胃が痛くなる。

「辻井さんが引き受けてくれてよかった!!ヒルトン・ホテルズ&リゾートがオリンピック開催に向けて日本に5件ホテル建設を決めて、うちがその仕事を受注したけど、指名された設計士が癖ある奴だからインテリアプランナーつける事ができなくて困ってたんだ。辻井さんみたいな美女で仕事ができるアシスタントなら、アイツも文句は言うまい!!」

セクハラ狸部長にペコペコしているひ弱もやし課長がそんな事をいうから、馬島建設の仕事を引き受けた事に後悔した。

ーー契約更新はしない。半年間勤めたら絶対にすぐに去る。

私がアシスタントする意匠設計士は渡米していていなくて、建築予定のハリウッドホテルの外装デザインは出来上がってるから、それに合う内装デザインの予算内でおさまるプランを立て、設計図書を作成する。

それ以外の仕事も顔見知りの意匠設計士に押しつけられ、派遣社員なのに多忙極まる業務請負をし、好きな仕事だから楽しいけど、割りに合わなくてストレスになってた。

「……ハッ…ハ、…ひ、大翔。気持ち。大っきいので奥を突いて」

2時間残業申請をし働かされマンションに戻ると、鍵を閉めてからベッドルームに入り、壁に伸ばして貼った大翔の写真を見ながら、自分で自分を慰める。

神崎工務店の派遣勤務で四国エリアのインテリアプランナーを任されていた時に、出来心で四国から去る時に愛媛県にあるドンピホーテで大人の玩具を購入してしまった。

かなり恥ずかしいから黒いグラサンに、ツバが広い顔が隠れる黒のサファリハットをかけ、外出時には絶対着て歩かないトレーナーとチノパンで、知ってる人に会う事ないけど変装をし、客が少ない時間帯を選び、女性スタッフがレジをしてる時にレジに並んだ。

「……大翔に抱かれたい」

10分ほどで自己処理で満足し、直ぐに食べられるよう切ってタッパー入れて冷蔵庫の中に入れてるサラダと手作りの鶏ハムとゆで卵を取り出し、鍋に大量に作ったデトックススープも温め、遅い夕食をとる。

仕事に対するストレスが溜まると私の心の中にずっといる大翔にすがってた。

『辻井さん、派遣社員で各地を転々としてるって婚約してた彼と別れたからだろ?ならさ、俺と付き合ってよ』

ナルシストな営業と設計士から、仕事で絡むたびに告白され、密室のミーティング室で壁に追い込まれて壁ドンされたり、インテリア関連の打ち合わせで同行したら助手席を倒されるわで、それ以上の事は現時点ではされてないけど気持ち悪くて怖くて堪らない。

それに、私が男性社員からアプローチされる事に嫉妬する女性社員からもシカトや陰口、時に嫌がらせをされ、勤務3日目で辞めたくなる。

馬島建設に短期間だからと派遣社員として勤める事を決めたのを後悔してる。

『(妄想)彼氏はいます!!』
左薬指にはめたティファニーのプラチナリングは大翔が高校時代に応募した建築デザインのコンクールで選ばれた賞金で買ってくれたペアリング。
大翔が居なくなってからも、私はずっとはめていて、それを水戸黄門の印籠のように見せつけ、迫ってくる男達を追い払ってた。

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