秘密の二足の草鞋

鳴宮鶉子

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「【知念日和】からメッセージが来たってマネージャーから連絡があった」
蓮翔のマンションに着くと2日酔いでぼうっとしてると思ってたのに、iPhoneにマネージャーからメールが来た直後なのか大興奮していた。
手招きされ、スタジオに入りパソコンの電源を入れ、マネージャーからの転送メールを開くとキャラクターアニメーションの【知念日和】からのメッセージ動画と、【知念日和】のパート部分だけ吹き込まれたPDの動画が添付されていた。
先程自分が送って物だから、内容はわかってる。
嬉しそうに観ている蓮翔は、わたしより3歳年上の26歳のはずなのに、少年のようにはしゃいでる。
メッセージ動画、
『はじめまして、天月晴太さん。知念日和です。このたび、宮浦英夫監督最新作の映画【海辺で約束した一生の恋】のオープニングソングをデュエットで歌わせて頂く事になりました。7月21日に放映開始との事で6月24日までにジプリに出来上がった曲を提出しないといけません。ご多忙だと思いますがよろしくお願いします』
必要事項のみを伝えるメッセージ、PDの字幕に【知念日和】パートは赤で、【雨月晴太】パートは青、ハモリは両方の色を入れてカラオケのようにわかりやすく加工した。
レコーディングする時にわたしが蓮翔のアシスタントをするはずだから、合いの手入れて仕上げればいいと必要最低限しか添付しなかった。

「イメージ通りだ。デュエットで曲を作るとしても【知念日和】はデュエットパートナーの前にも出てこないと思ってた。業界人でもジプリの宮浦社長とポリープロダクションの堀江社長と、出版社の幹部にしか直接会ってないという徹底ぶりと聞いてる。」
メッセージ動画と吹き込み用PDを見終わると蓮翔がぼそりと呟いた。
【知念日和】本人のわたしとしては、たんに創作活動に専念したいから無意味に人と会う時間を使いたくないだけで、メールを使えばものの5分もかからない事をわざわざ移動時間をかけて世間話を挟みながらの対談が面倒くさいだけなんだけどと思った。
テレビ等に顔出しをしないのは、出生が原因もあるけど、自分自身の姿をポスター等にされ商品化されるのが気持ち悪く感じるからもある。
ハーフだから色素が薄く、顔の彫りが深いから整ってると今は言われていても、子供の頃はイジメられる差別される要素にしかなかった

「俺さ、凛花と入社式で初めて会った時に、【知念日和】のイメージと重なる子だなと思ったんだ。あっ、キャラクターアニメーションでなくて、本人の本質な」

キャラクターアニメーションの【知念日和】はあどけないヒマワリが似合う華奢な女の子をイメージしてデザインした。
見た目に関しては、社内で地味なわたしとメガネを外した素顔のわたしはハーフ独特の派手さがある。
キャラクターアニメーションの【知念日和】とはかけ離れている。

「凛花って情報系の学部出じゃないのに、夜間の専門学校へ行って情報系の資格を何個もとっていて、独学で学校では習わないような事も勉強してるだろ。凛花の技量に驚かされたよ。それに【知念日和】の才能部分と重なる。それに、そこらへんの女子社員よりも顔もスタイルもいいのに、隠すように控えめな格好にダサメガネ。メガネを外して髪を下ろしたら社内で1番きれいなのに、無意識に隠してる。【知念日和】のミステリアスさと重なる」

(こじつけのように思うけど、本人だからね。わかる人にはわかるよね。)
と、蓮翔の話を聞きながら思った。

「俺、【知念日和】の事を知って、自分の力に自信がなくなったんだ。小説執筆にアニメーションが描けて、それだけでなく作曲して歌唱力もずば抜けてる。動画サイトからデビューしたのは同じでも能力の差を知り、ちょうど大学卒業前の時期で教授からハーバードの大学院に進学の打診を受けて、アーティストを辞めて映像やCG、アプリ開発の方面で活躍しようと留学した。
でも、日本に帰ってきて、いざ就職して働いていても物足りないんだよな。
で、結局、アーティストの世界に戻ってきた。
そして、初の仕事が、【知念日和】の原作のジプリ映画のオープニングと挿入歌。
オープニングはまさかのデュエット。曲提供は【知念日和】で、勝てないなと思い知らされる。
このPD見ちゃうとまだまだ修行が足りないと力の差を思い知らされる」

蓮翔が1度アーティストを休止した原因が自分だと知り、ショックを受ける。
蓮翔が音響機器に曲のデータをとばし、レコーディングの準備にとりかかった。

「あっ、酔っ払って記憶が曖昧なんだけど、あいつらが【知念日和】と会ったら俺が惚れてしまう…的な事を言ってたけど、俺には凛花しか考えられないから」
蓮翔が声を録音するマイクの前で、イヤホンを耳に当て、音響機器を操作するリモコンを持ってわたしの方を見た。
「凛花への想いを込めて、この曲を歌う」
にやっと笑みを浮かべ、その日は何度も何度も歌い込んでいた。
【知念日和】ことわたしの声と【雨月晴太】こと蓮翔のハモリは、溶け込むように共鳴し合い、叫び合うパートも切ない気持ちと愛しさが伝わる感じに仕上がっていた。
日曜日、バンドメンバーとマネージャーが蓮翔のマンションへ来て、レコーディングは無事終了。
マネージャーからわたしのパソコンにメールが来てジプリにすぐに転送した。
ポリープロダクションの堀江社長にも曲のPDは届いてるはず。
堀江社長は【知念日和】がキャラクターアニメーションでなく実物でメディアに出る事を企んでいる。
だから、今回の蓮翔こと【雨月晴太】とのデュエットを打診してきたと思われる。
曲とPDを提供しないと強気で断っても問題はなかったけれど、蓮翔が活躍する場の1つになればと思い引き受けた。
蓮翔に流されてずるずる同棲してる生活の中、自宅に帰らないから、アニメーションを作ったり新曲を作る事は難しい。
でも、小説は順調に執筆できている。
蓮翔との生活の中で、インスピネーションが働き、いまだに寝室は別で暮らしているから寝る前に書き溜めてる。


ポリープロダクションから、新曲を出して欲しいというメールが度々くる。
年に3曲までと多忙を理由にお断りをしていても、ドラマのオープニングやCMソングで先方からの依頼としてくる。
無視はせずに丁重にお断りをしても、何度も来て、アーティストとしては休止を考えつつある。
蓮翔の曲作りに寄り添い、それで音楽は満足してる。
蓮翔と付き合い始めてもうすぐ3ヶ月。
でも、付き合っていても、いまだに同居人な清きお付き合いをしてる。
それで満足している関係に、LOVEより同士に近い関係な気がしてきた。

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