学園Z隔離記録 ～禁忌の村、田を覗くなかれ ～

第一章：蠢動

閑話 第6話：枷夜 ～脆弱な女王～

 鎖木枷夜くさりぎ かやは、常に人々の中心にいることを望んだ。
 幼い頃から彼女は美貌と口達者な要領の良さで、簡単に周囲の注目を集めることができた。
 しかし、その華やかな外面の裏には、人知れず抱え込む深い不安と劣等感があった。

 彼女の家庭環境は、常に不安定だった。
 両親は常に言い争い、彼女は幼いながらに誰かに支配されることの苦痛を知った。
 だからこそ、彼女は誰にも支配されない、むしろ自らが支配する側に回ることを強く望むようになったのだ。

 他者をコントロールし、自分の意のままに動かすこと。それが、彼女が自身を守り傷つかないための唯一の防御策だと信じて疑わなかった。

 学校では、彼女はすぐに自分の取り巻きを作り、女子生徒間のカーストの頂点に君臨した。
 優位に立つためには、誰かを蹴落とすことも厭いとわなかった。
 陰湿な言葉で精神的に追い詰めたり、巧妙な手口で孤立させたり。
 彼女は、そうすることで自身の絶対的な地位を確固たるものにしようとした。

 完璧な自分を演じ、常に自信に満ちた女王のように振る舞う。
 それが、彼女の弱さを隠すための仮面であり、彼女なりの生存戦略だったのだ。

 彼女の罪状は支配欲と欺瞞性。
 他人を道具のように扱い、精神的に追い詰めることで自らの優位性を保とうとするその姿勢が社会から問題視され、地方学園Zへの強制入学へと繋がった。

 護送バスの中、鎖木枷夜は隣に座る我妻亞夢の過剰な反応を鬱陶うっとうしそうに一蹴いっしゅうした。

  この見知らぬ学園でも彼女の行動原理は変わらない。
 いち早く周囲の力関係を見抜き、新たな女王の座を築くこと。
 それが、この閉鎖空間で生き残るための彼女なりの方法だった。

 しかし、極限状況は、その完璧な仮面を容赦なく剥がしていく。

 そして、彼女の内に秘められた脆弱性が最も醜い形で露呈することになることを、この時の彼女はまだ知らなかった。