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第12話:潰走、オケハザマの終焉
しおりを挟む「イマガワ・ヨシモト、討ち取ったり!」
モウリ・シンスケとハットリ・コヘイタからの勝利の報告は、オダ・ノブナガが座乗するアツタ・フレームのコックピットに、しばしの静寂をもたらした。
長きに渡る緊張の糸が緩み、深い安堵感が彼の全身を包む。
だが、それはほんの一瞬のことだった。ノブナガはすぐに表情を引き締め、次の指示を飛ばした。
「ヒデヨシ、鹵獲した『オケハザマ・フォートレス』の通信システムを掌握しろ。
そして、全スルガ艦隊に向けて、イマガワ・ヨシモトの戦死を伝えよ。 一言一句違えず、事実のみをだ !」
「はっ、ただちに ! ですが殿、それは敵にさらなる混乱を… ?」
ヒデヨシの問いかけに、ノブナガは冷ややかに答えた。
「それこそが狙いだ。 指導者を失った烏合の衆が、どうなるか。見せてやろうではないか」
ヒデヨシのサイバー部隊が、フォートレスのシステムを掌握するのに時間はかからなかった。
やがて、イマガワ・ヨシモトの戦死という衝撃的な報は、未だ磁気嵐の影響で混乱の極みにあるオケハザマ宙域のスルガ艦隊全域へと、無慈悲に伝播していった。
その効果は、劇的というほかなかった。
ノブナガがアツタ・フレームのメインスクリーンで監視している戦術マップ上は、まさに阿鼻叫喚の様相を呈し始めた。それまで何とか統制を保とうと散発的な抵抗を試みていたスルガの艦艇が、その報を受けた途端、完全に指揮系統を失い、個々の生存本能だけで動き始めたのだ。
赤い光点が、パニックに陥った虫の大群のように、無秩序に四方八方へと逃げ惑う。
ある者は我先にと戦域からのワープアウトを試み、その結果、味方艦同士で衝突を起こし、轟沈していく。
またある者は、磁気嵐で方向感覚を失い、アステロイドに激突して火柱を上げた。
「…見ろ、ヒデヨシ。 あれが、絶対的な権力と恐怖だけで結ばれた組織の末路だ」
ノブナガは、眼下に広がる崩壊の光景を静かに見下ろしながら呟いた。彼の声には、勝利の喜びよりも、むしろ冷徹な観察者のような響きがあった。
「彼らは、ヨシモトという名の偶像を失った瞬間、戦う意味も、帰る場所すらも見失ったのだ」
クラン・ノブナガの艦隊は、この混乱に乗じて追撃を開始しようとする血気盛んな者もいたが、ノブナガはそれを厳しく制した。
「深追いは無用だ。 潰走する敵をいたぶる趣味はない。 ただし、抵抗を試みる者がいれば、容赦はするな。 徹底的に殲滅し、我らの力を骨の髄まで思い知らせよ」
彼の命令は、合理的かつ冷徹だった。目的は、敵の戦意を完全に砕き、この勝利を決定的なものにすること。無駄な消耗を避け、次なる戦いに備えるという、彼の戦略家としての一面がそこにはあった。
ノブナガ艦隊は、逃げ惑う敵には目もくれず、なおも反撃の意思を見せる一部の頑迷なスルガ艦に対してのみ、的確かつ破壊的な攻撃を加えて沈黙させていった。
やがて、磁気嵐がその猛威を収め始めると共に、スルガ艦隊の潰走も終わりを迎えようとしていた。
オケハザマ宙域には、大破し、あるいは放棄された無数の艦艇の残骸が、まるで巨大な墓標のように静かに漂っている。
かつて銀河最強と謳われた大艦隊の威容は、もはやどこにもなかった。
戦闘は、事実上終結したのだ。
ノブナガは、アツタ・フレームをゆっくりと戦場上空へと浮上させた。
彼のコックピットからは、静寂を取り戻した宇宙空間に広がる、壮絶な戦いの爪痕が一望できた。
エネルギー兵器の閃光も、爆発の轟音も、今はもうない。ただ、無数の星々の冷たい光が、破壊された艦船の残骸を静かに照らし出しているだけだった。
「……終わったか」
ノブナガは誰に言うともなく呟いた。
その表情には、万感の思いが交錯していた。
絶望的な戦力差を覆して掴んだ、奇跡的な勝利。その達成感は確かにある。
だが同時に、この勝利が、これから始まるであろうさらに長く、さらに困難な戦いの序章に過ぎないことも、彼は痛いほど理解していた。
(イマガワ・ヨシモトは倒した。 だが、銀河にはまだ数多の強敵がいる。
そして、俺の目指すものは、こんな小さな勝利では決してない)
ノブナガの視線は、オケハザマの残骸の向こう、遥か銀河の中心へと向けられていた。そこには、彼が目指すべき「天下」が広がっている。
「銀河布武……」
その言葉が、彼の口から無意識に漏れた。
「殿、お見事でした。 まさに、歴史に残る大勝利ですな」
ヒデヨシからの称賛の声が、通信回線を通じて届く。他の家臣たちからも、次々と勝利を祝う言葉が寄せられた。
ノブナガは、それらに短く応えながらも、心の奥底では既に次の手を考えていた。
この勝利をどう活かし、次なる覇道へと繋げていくか。
オケハザマの戦いは終わった。
だが、オダ・ノブナガという稀代の英雄の物語は、今、まさにその幕を開けたばかりだったのだ。
ノブナガの瞳は、夜明け前の最も暗い空の向こうに、新たな時代の光を見据えていた。
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