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第11話:ブリッジ強襲、巨星墜つ
しおりを挟むオダ・ノブナガは、アツタ・フレームのコックピットで、眼前の戦術マップに全神経を集中させていた。
ヒデヨシのサイバー攻撃によって開かれた活路を、モウリ・シンスケとハットリ・コヘイタを中心とする突入部隊が、怒涛の勢いで駆け抜けていく。
青い光点が、赤い敵性反応を蹴散らしながら、オケハザマ・フォートレスの中枢メインブリッジへと、一直線に迫っていた。
「モウリより入電 ! ブリッジ直前の最終防衛ラインに到達 ! 敵親衛隊、熾烈な抵抗 !」
通信士の声が、緊迫したコックピットに響く。
マップ上でも、ブリッジを示す区画の手前で、青と赤の光点が激しく明滅を繰り返していた。
「ハットリからも !『邪魔する奴は斬り捨てるまで !』とのこと !……敵装甲兵数名を撃破した模様 !」
その報告と共に、ヘルメットカメラからの断片的な映像がスクリーンに映し出された。
狭い通路で火花を散らすエネルギーブレード、炸裂するプラズマ弾、そして強化兵たちの雄叫び。 それは、まさに死闘と呼ぶにふさわしい光景だった。
ノブナガは、黙ってその映像を見つめていた。
彼の指は、コンソールの縁を無意識に叩いている。 この局面で、彼が直接介入できることは少ない。 信じて待つしかないのだ、己が選び、鍛え上げた者たちの力を。
(行け… !お前たちなら、必ずやれるはずだ !)
心の中で、彼は部下たちに檄を飛ばしていた。
やがて、モウリ・シンスケからの、やや息の弾んだ通信が入った。
「殿… ! 最終装甲扉、爆破成功 ! …これより、メインブリッジへ突入いたします !」
「うむ。油断するな、モウリ」
ノブナガは短く応えた。
マップ上の青い光点が、ついにブリッジ内部を示す区画へと侵入する。 そこには、イマガワ・ヨシモトがいるはずだった。
ブリッジ内部からの音声が、ノイズ混じりにコックピットへと流れ込んでくる。
『何奴だ!下がれ、下がれーっ!』
『陛下をお守りしろ ! 一人たりとも通すな !』
スルガ兵たちの悲鳴に近い怒号。そして、それに答えるかのような、クラン・ノブナガの兵士たちの力強い喊声。
「オカベ・モトノブらしき老将が、ヨシモトを庇って抵抗しています !」
ヒデヨシが、敵の通信パターンと、過去のデータから敵将を特定し報告する。
「…ふん、忠臣もいたものだな、イマガワにも」
ノブナガは呟いた。
だが、その感傷も一瞬だった。戦場に情けは無用。特に、この乾坤一擲の奇襲においては。
数分後、激しい戦闘音がやや遠のき、代わりにモウリの声がクリアに響いた。
「……殿 ! 目標、イマガワ・ヨシモトを発見 !
ブリッジの最奥、司令官席にしがみついております !」
その声には、抑えきれない興奮と、わずかな侮蔑の色が混じっていた。
「…見苦しく命乞いを…いえ、今は虚勢を張り、何やら喚いておりますが、もはや時間の問題かと !」
「…そうか」
ノブナガは静かに目を閉じた。
銀河中央に覇を唱え、傲慢の限りを尽くした男の最期が、命乞いか虚勢か。
どちらにせよ、彼我の器の違いを示すには十分だった。
(もはや、これまでだ、ヨシモト)
再び目を開けたノブナガの瞳には、何の感情も浮かんでいなかった。
ただ、歴史の必然が、今まさに成就されようとしているのを見届けるかのような、冷徹な光があるだけだった。
ノブナガは通信回線を開き、ブリッジで戦う者たちへ、最後の命令とも言える言葉を送った。
「…首を刎ねよ」
その言葉が届いたかのように、ブリッジからの音声が一瞬途絶え、そして……
ひときわ大きな金属音と短い絶叫……そして沈黙。
息詰まるような数秒が経過した。
ノブナガは、指の動きを止め、ただ一点、戦術マップ上のブリッジ区画を見つめていた。
やがて、通信回線から、万感の思いを込めたような、それでいて確かな勝利の響きを帯びた声が、キヨス・ベースから数万光年離れたこのアツタ・フレームのコックピットに、はっきりと届いた。
「モウリ・シンスケよりご報告! た
だいま…イマガワ・ヨシモト、このモウリが…討ち取り申した !!」
続いて、ハットリ・コヘイタのやや甲高い声も響いた。
「やりましたぞ、殿 !御首、確かに頂戴つかまつった !」
その言葉を聞いた瞬間、ノブナガの全身から、張り詰めていた糸がふっと緩むのを感じた。ノブナガはゆっくりと息を吐き出し、そして、誰にも気づかれぬほど微かに、口元に笑みを浮かべた。
それは、勝利の笑みであり、安堵の笑みであり、そして何よりも、新たな時代の扉を自らの手でこじ開けた者の静かな達成感に満ちた笑みだった。
巨星、墜つ……
銀河の片隅、オケハザマと呼ばれる宙域で、歴史は確かに動いたのだ。
オダ・ノブナガという、新たな星の強烈な光によって。
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