【完結】ナノハザード・レガシー ~叡智の城塞と虚飾の救世主~

月影 流詩亜

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第15章:鋼鉄の胎動、帝国の異変

第55話 静謐を破るノイズ

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 北の大地、北海道での新ソビエト連邦国との激闘から数ヶ月が過ぎた。
 エリュシオン・アカデミーには、焦土と化した戦場が嘘であったかのような、初夏の穏やかな日差しが降り注いでいた。
 アビス・コア襲撃の爪痕も、北海道での戦いで負った仲間たちの傷も、完全ではないにしろ、少しずつ癒え始めている。

 アカデミーの広大な訓練フィールドでは、茨城恭介と能美奏太が、互いの能力をぶつけ合うことなく、精密制御を中心とした基礎訓練に汗を流していた。

「恭介、今の動き、少しタイミングがズレてたぜ ? 
 北での戦いの疲れ、まだ残ってんのか ?」

 奏太が、エネルギーガンの銃口から立ち昇る陽炎を見つめながら、冗談めかして言った。
 その顔には、かつてのトラウマを乗り越えた自信と仲間への信頼が浮かんでいる。

「お前こそ、集中力が散漫だぞ、奏太。
新しい恋の悩みか?」

 俺も軽口で返す。
 北海道での死線は、俺たちの絆をより強固なものにしていた。
 詩乃や優希、そして恭介を巡る乙女たちとの関係も、微妙な変化を見せながらも、どこか温かい空気が流れている。

 訓練を終え、学生寮のリビングルームでくつろいでいると、タブレット端末とにらめっこしていた春香姉さんが、難しい顔でため息をついた。

「どうしたんだ、姉さん。
 また世界の株価でもハッキングして、お小遣い稼ぎか ?」

「弟くん、私が何時、そんなあからさまなことしたって言うのよ。 でも……ちょっと気になる情報があってね」

 春香姉さんが見せてきたのは、海外のマイナーなニュースサイトや、匿名掲示板の断片的な書き込みだった。
 それらは全て、中華大帝国『秦』国内で発生しているという、奇妙な事件を示唆していた。

「『秦』国内で……アンドロイドの暴走? それに、原因不明の研究施設での爆発事故……これは、人間と機械が衝突したっていう目撃情報かしら……」

 春香姉さんの指が、次々と情報を手繰り寄せていく。
 どれも公式発表ではなく、噂レベルの話ばかりだったが、その数と内容は、無視できない不気味さを孕んでいた。

「中華大帝国『秦』……あの国は、以前から不穏な動きが多いと聞いていたが」

 俺は眉をひそめる。(第三部での)北海道侵攻の際も、彼らは静観を貫いていたが、その水面下では何を考えていたのか。

 その時、ふとリビングの隅で紅茶を飲んでいた冬香が、カップを持つ手を微かに震わせ、蒼白な顔で一点を見つめているのに気づいた。

「冬香? 大丈夫か?」

 俺が声をかけると、冬香はハッと我に返り、しかし不安げな瞳で俺を見上げた。

「兄さん……また……視えるのです……」

 彼女の声は、か細く震えていた。北海道の戦いの前にも、彼女の予知は俺たちに警告を与えてくれた。

「どんな未来だ……?」
 俺はゴクリと喉を鳴らす。

「……鋼の意思を持つ、無数の瞳……赤い光を宿した、冷たい瞳が、世界を覆い尽くそうとしている……そして……大地から、空から、まるで終わりのない、機械の波が押し寄せてくるような……そんな、冷たい感触が……」

 冬香は、自分の肩を抱きしめるようにして、身震いした。
 その言葉は、ただの映像ではなく、肌で感じる恐怖を伴っているようだった。

「鋼の意思を持つ瞳……機械の波……」

 春香姉さんが、冬香の言葉と、集めた『秦』の情報を重ね合わせ、息を呑む。

「まさか……『秦』で起きているという不審な事件と、何か関係があるの……?」

 リビングルームに、重苦しい沈黙が落ちる。
 北海道での戦いは終わったはずだった。
 だが、世界は依然として不安定で、新たな脅威が、俺たちの知らないところで、静かに、しかし確実に、その胎動を始めているのかもしれない。
 
 窓の外では、エリュシオン・アカデミーの生徒たちの、屈託のない笑い声が聞こえてくる。

 この束の間の平穏が、いつまで続くのか。

 俺は、胸騒ぎを覚えながら、遠く西の空を睨みつけた。

 そこには、まだ何も見えない。
 だが、確かに、何かが動き出そうとしている、そんな予感が、俺のナノマシンを微かにざわめかせていた。
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